こんにちは。秋晴れのさわやかな気持ちの良い日が続きますね。夏に汗だくになるからとできなかった部屋の掃除をしなければと思いつつ、外にウキウキと出かけてしまいます。本来あるべき選択肢と違う行動をとってしまうワタシ。しかしこんな行動にも学術的証明ができるとは!!
今こそ学ぼう!お金と未来設計プランナー
確定拠出年金ねっと認定FP高野具子(たかのともこ)です。
2017年ノーベル経済学賞受賞されたリチャード・セイラー氏の講演に参加してきました。
思えばノーベル賞受賞者のお話を生でお聞きするのは人生初!!!右耳で和訳、左耳で生の英語でのお話しと非常に忙しい1時間でしたが、とても有意義な時間でした。
セイラー氏は「あいだみつを」のファンだそう。日本向けのリップサービスかな?と思いきや、実は行動経済学に結びついているんです!
目次 演題「ひとつずつのナッジで世界をより良い場所にする」
「Making the world a better place one nudge at a time」(原文)
■ 行動経済学Nudge(ナッジ)とは? 経済学×心理学
・市場とは全く関係のないところで稼ぐことが最も稼げる
・「The Efficient Market Hypothesis」(EMH)について
・適正価格は適正なようで適正ではない!
・「Choice Architecture」を整えてから行動する
・老後資金準備においての「Choice Architecture」とは
■ 良いNudgeと悪いNudgeとは
■ 講演を聞き、私が思った3つのこと
行動経済学Nudge(ナッジ)とは? 経済学×心理学
心理学を合わせて考えるのは、人によってできる行動とできない行動が違うためです。たとえば、人は全員息をすることはできる。ケーキを食べることもできる。だけど、最後に残していた大トロを誰かにあげること、できますか?ガンジーにならそれはできるかもしれないが、ボクにはできないとおっしゃっていました。もちろんワタシも(笑)
市場とは全く関係のないところで稼ぐことが最も稼げるという話
アダム・スミスの「見えざる手」の事例より
・配偶者を間違えた
・仕事の選択を誤った
・定年後の貯蓄ゼロ
・返せないほどの住宅ローンを組んでしまった
善悪は別として、例えばこのような人の弱みに対し、ビジネスチャンスが広がっていると考えられ、効率的に稼げる方法として仮説を立てることができるものです。
そういえば実際、こんなダイエット広告がいい例ですよね。
「今から10キロ痩せたいアナタ」
「運動しなくてもラクに痩せられる」
「○○をキレイにすれば、10キロ減も夢じゃない!」
運動しなくてもいい?○○をキレイに?○○って何だろう…?と思わずクリックしてしまう訳です。よくあるマーケティングの手法の1つで、悪いものではありません。いわば戦略です。これをEMHと呼びます。
「The Efficient Market Hypothesis」(EMH)について
(日本語訳すると「効率的な市場についての仮説」)
ちょっと分かりにくいのですが、これは、
・タダ飯なしで稼げる。
・適正価格がある。
さらに適正価格について考えていきます。
適正価格は適正なようで適正ではない!
たとえば株価がいい例です。その例をセイラー氏は以下で挙げられています。
Cubaファンド。そもそもキューバへの投資は国交がなく違法です。そのためこのファンドはキューバとは全く関係ありません。しかし本来の価値に比べ価格が上がるケースがありました。その要因となったのは、当時オバマ大統領がキューバとの国交正常化に向けて交渉を始めたことを発表したことによります。Cubaファンド≠キューバ国であるにもかかわらず価格変動が起こり、このファンドの価格が70%以上高騰したという事例です。つまり「価格」とは、本質的価値とは逸脱したものであると言えます。
適正価格を客観的に判断することは難しく、Nudge(行動経済学)を考えていく必要があります。
「Choice Architecture」を整えてから行動する
無関係なことだと思っていた行動も、すべて関連づいて行動していることがNudgeで証明できます。行動するにはまず「Choice Architecture」を整える必要があります。
Choiceは選択。Architectureは建築。うまく訳せないのですが、私は「選択するための構造」と解釈しています。
人の行動例として、以下のようなものがあります。
・当たり前の行動:物が値上げされていたらできるだけ安く買おうとする行動
・矛盾した行動:ディナーを食べて既にお腹いっぱいになっているにも関わらず、デザートをもう頼んでしまっているので、デザートを食べてしまうこと(Sunk Costs埋没費用)
・違うように見せているが言っていることはすべて同じ
死亡率10%以下 10%の死亡率 90%生きる(Framing(the wording of a problem)
このように行動が分かれてしまうため、正しい選択をするための4つのポイントが挙げられます。
①default 何もしない
②Expect Error 必ずミスを起こすことを認識し避けておく。「ポカヨケ」しておく。
③Give Feedback 必ずフィードバックする
④Understand Mappings 自分がその選択を行ったら、その先どうなるかを理解する。
ここからさらに正しい選択ができるようにするため「Choice Architecture」を整えていく必要があるのです。
たとえば壁の色を選択する時に、色の名前がアルファベット順に並べてあると、どうでしょうか?Apricot(アプリコット)Blue(青)Coral(オレンジ)というような感じです。とても選択しづらいですよね。ここで正しく選択しやすくするためには、同じ色調で並べると分かりやすくなります。これが「Choice Architecture」を整えるということです。
老後資金準備においての「Choice Architecture」とは
①障壁を取り除く
②定年後の選択をどうするか?を考えておく…自動的に準備しておくか?自分で手続きをするか?
②について。スウェーデンの事例があります。
例1)日本で言う老齢年金を自動加入にした場合と、自分で手続きしなければ加入できないものと両方用意した場合
所得が高い人も低い人も自動加入にしたときにデータはほぼ同じとなり、加入率がどちらも高いものでした。しかし自ら手続きをしなければならない場合、所得が高い人も自動加入に比べると加入者が減り、低い人においては自動加入者に比べ、3分の1しか加入しないという結果になりました。
例2)毎月、給料の5%を貯蓄しようという試みは失敗したが、貯蓄額を3%に減らし昇給したときだけ増額して積み増しするという「Save More Tomorrow」というプログラムを実施したところ、実施者が増え、貯蓄額も増額したという結果が出ています。
例3)ファンドの選択について。
以下2つの方法が取られています。
①default fund:勝手に決められたファンド
②DIYで選ぶfund:自分で選ぶファンド
導入初めの頃、CMを打つなどし広く知らしめたことにより、②の「自分で選ぶファンド」を推奨しようとCMを打ったとき、市民の3分の2が②を選びました。特にこれから働く若手が多く②を採用しました。しかし、近年では①の「勝手に決められたファンド」が多くなっています。
加入率は上がったものの、残念な事例は①の「勝手に決められたファンド」には、良いファンドもあれば、悪いファンドも存在しました。悪いファンドについて解約を勧奨するため、新聞に載せたり、ファンド自体のアカウントをストップしたにもかかわらず、解約する人は少なかったのです。
良いNudgeと悪いNudgeとは
Nudgeそのものは長期的な効果を及ぼすものです。
良いNudgeは
・透明性がなければならない
・参加可否が自由
・利己的(homo economicus「Econs」)ではならない
・選択肢の構成(Choice Architecture)を使うこと。
一方で、悪いNudgeをSludge(ヘドロ)と呼んでいます。
■良いNudgeの例
・日本の遊歩道:自然の景色を楽しませるためにジグザグに作られる。
・ストックホルムの階段:エスカレーターを使わずに階段を歩かせるための仕組み。
人を楽しませることで66%の人が階段を使った事例
https://www.youtube.com/watch?v=2lXh2n0aPyw
■悪いNudge(Sludge)の例
・1か月無料お試しといいつつ、30日後には自動更新の上、解約する手間がかかるもの。
2週間前に顧客側からTELしなければいけない。事実上2週間しか無料ではない。
・旅行保険:重要な免責事項が小さな字で書いてある。
ここまでが講演の内容です。
講演を聞き、私が思った3つのこと
①「知らない人」ほどバカをみる
②自分が日々の生活を蝕むことない範囲の金額で、積立できるオートシステムを作ること
③実はiDeCoも強制加入にしたほうが良いのでは?
①「知らない人」ほどバカをみる
悪いNudge(Sludge)の例より、同じようなことでお客様から相談がありました。
その方は持病があり、持病が再発したら怖いからと、15年前に医療保険に加入されました。そして先日入院したので、保険会社に請求したところ「今回の案件ではおりません」と言われました。10年更新の保険で、5年前に自動更新手続きをなさったときに、保険会社から約款が送られてきました。そこには小さい文字で、既往症については保障いたしません。と記載されていたのです。その約款に基づき今回は保障が下りないという結果に。
言い換えれば、結局本来の目的には役に立たないものに5年間保険料を支払い続けたとも言えます。当然その他の病気は保障されていたということになりますので、顧客の自己責任と言われればそれまでですが、小さな文字で大切なことを書くのはまさに「Sludge」に他ならず、「知らない人」がバカを見るのです。
②自分が日々の生活を蝕むことない範囲の金額で、積立できるオートシステムを作ること
株で一儲け!と行きたいところですが、上記のCubaファンドがいい例であるように、○○大統領の一言や事故、天災、あらゆる要因にて株価はすぐ変動し、適正価格も本質的ではありません。であれば、毎月定額を積立てることで、価格が安いときには多く買い、価格が高いときには少なめに買う、これこそ適正価格を自分で作っていくことができる方法だと改めて感じます。
③実はiDeCoも強制加入にしたほうが良いのでは?
働き始めると厚生年金に強制加入させられますが、ある意味強制も悪いものではないなとスウェーデンの例から想定されます。自動加入にした方が年収の高低にかかわらず実施率が高いこと、そして確実に自分の資金が増えていること。つまり成功しているわけです。
ただし選択するファンドにはやはり注意が必要だということも分かります。勝手に決められたファンドで内容を把握せず継続した場合、そのファンドが悪い運用に転じても気づかず放置してしまうことが上記で出ています。
iDeCoが強制加入になると加入の手引きを教える私のFPの仕事がちょっと減る気がするので、商売あがったり?(笑)ですがね。しかし多くの人の幸せを考えると、これも1つかなと感じた次第です。
注意点は選択するファンドで、放置はNGです。あくまでもファンドは生き物です。プロの手によってチェックはされているものの、いざ「危ない」となったときに電話が掛かってきたりするわけではありません。そのため自分できちんとチェックする習慣をつけておく必要があります。とはいえ毎日は不要です。せいぜい年1回くらいは自分がどんなものにお金を掛けているのかを確認する意味でもチェックしてみましょう。
さいごに
株価やファンドの動きに適正価格がないから不安、運用なんてもっての外!お金は大事だから確実に取っておきたい!という方もいらっしゃると思います。確かにその考え方も一理あります。しかし人間に置き換えてみるとどうでしょう?変化のない人に成長はあるでしょうか?
時には病気になって一歩も動けないということもあるかもしれませんが、通常は外に出て稼いできたりおいしいものを食べたり、忘れものをして失敗したり、上司に叱られたり、勉強して自己成長を果たしたり…と、一歩ずつ成長していくのが人間。
株やファンドも同じことが言えると思います。なぜならそれを動かしているのは人だから。だから増えたり減ったりするのは当たり前。だけど成長していくものなんですよね。
そう私たちは「にんげんだもの」