さくら総合法律事務所の代表弁護士竹内裕詞が、数回にわたり新型コロナウイルス感染症に関するコラムを掲載しております。事業者・経営者の方の、新型コロナウイルスに関するお悩みのご相談に対応させていただくとともに、認定経営革新等支援機関を務めておりますので、経営改善等に関するご相談もうけたまわります。
ご相談内容
工場設備整備を行っている会社の役員の方から「顧客の工場で作業させるために、従業員を出張させなければならないが、仮に新型コロナウイルスに感染したら、会社は責任を負うことになるのでしょうか」というご相談を受けました。
弁護士の回答
会社は、従業員が仕事をする場所、仕事に使用する設備・器具、会社が従業員に指示をして仕事をする過程で、従業員の生命・身体を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っています(労働契約法 第五条 参照)。
具体的にどのような配慮をする義務があるかは、職種、仕事の内容、仕事をする場所など、具体的状況によって異なるとされています(川義事件・最判S59.4.10民集38-6-557)。
会社の経営陣は、従業員に対する安全配慮義務を負っていますが、同時に会社に対する善管注意義務(民法644条)により、会社を存続させる義務を負っています。
事業を止めて全従業員を休業させれば、従業員が業務をする中で新型コロナウイルスに感染するリスクをゼロにすることができますが、安易に事業を停止して会社が破綻すれば、従業員、取引先、株主その他多くの利害関係者に損害を与えることになり、経営陣が責任を問われる恐れもあります。
経営陣としては、安全配慮義務を果たしつつ、事業を継続させる方策を探ることになります。
会社が従業員に対する安全配慮義務を果たしたといえるかを考えるためには、新型コロナウイルス感染症が蔓延し、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が発出されている現時点で、会社がどのような対応をすべきかを具体的に検討する必要があります。
検討する前提として、新型コロナウイルス感染症についての現時点の科学的知見を把握する必要があります。
SNS等では誤情報が出回ることもあるので、厚生労働省の提供する情報等を参照してください。
新型コロナウイルス感染症は、飛沫感染と接触感染で感染します。
飛沫感染は、感染者の咳、くしゃみや会話の際につば等の飛沫に含まれたウイルスが放出され、他の人がウイルスを鼻や口から吸い込んで感染することです。
接触感染は、ウイルスが付着したドアノブなどを触った手で口や鼻を触ることで、粘膜からウイルスが侵入して感染することです。
したがって、例えば、従業員に対する安全配慮義務を果たすために、以下のような対応をすることが考えられます。
- 緊急事態宣言により外出、移動回避の協力が要請されていることから、顧客との間で、顧客の工場での作業を、緊急事態宣言解除後に延期することができないか協議する。
- 従業員に対して、新型コロナウイルス感染症がどのように感染し、どうすれば感染を予防できるか教育する。
- 他の人と十分に距離をとる
- こまめに換気する
- 会話は慎み、会話の際はマスクを着用する
- 手洗い、うがいを励行すること等を徹底させる
- 従業員にマスク、携行用アルコールスプレー等を与え、使用する理由や使用方法を説明したうえで正しく使用させる。
- 従業員を訪問させる顧客に、新型コロナウイルス感染者または感染が疑われる者がいないか確認する。いた場合には感染を避けるため消毒などの対策をさせ、日程の延期等も協議する。
新型コロナウイルス感染症は、当初、若年層・壮年層では重篤化しないのではないかとも言われていましたが、実際には、基礎疾患のない若年者が不幸にも命を落とす事例も報告されています。
大切な従業員の生命・健康を守るために、専門家の助言を得ながら、十分な対応をすることをお勧めします。
ご心配事がある方は、さくら総合法律事務所までご相談ください。
*この記事は令和2年4月30日現在の情報で作成しています。