妊娠が分かったけれど、これからの働き方をどうしよう。通勤時間や夫の働き方を考えても一度やめて様子を見て再就職したほうがいいかな・・・と考えている女性(Tさん・36歳)からのご相談がありました。「そりゃ、働き続けたほうがいいのはわかってるけど・・・」とおっしゃるTさん。
勤続14年の会社で産休・育休を取ってこのまま働き続けるのと、子どもが1歳ぐらいになってから再就職するのとでは360万円以上の違いがでました。
具体的に何がどう違うのか試算してみましたのでご覧ください。
出産・産休・育休のメリットと試算例
働く女性が出産・育児をする場合に使える有利な制度があります。例えば、
- 出産育児一時金
- 出産手当金
- 育児休業給付金
- 社会保険料の免除
- 時短勤務の社会保険料の優遇措置
- 有給休暇の発生
などです。
1~3は受け取ることのできるお金(手元に入るお金) 4~5は払わなくて済む・優遇されるお金です。
これらの制度が使えるかどうかが出産退職と産休育休では違ってきます。
ここでは、現在315,000円で働くTさんが出産後に時短勤務で月収20万円で復帰した場合と、月収20万円で再就職した場合の違いを具体的に見ていきます。
産休・育児休業を取得した場合
それではまず、産前産後休暇・育児休業を取得し、子どもが1歳で復帰したTさんの例を見てみましょう。
①出産育児一時金
お金の出元は「健康保険」です。(※保険証を発行しているところ) 原則として42万円が出ます。
出産している病院に直接振り込んでもらうように手配することができるので、産院などの窓口で高額を支払わなくても差額のみ支払いで済むことがほとんどです。
②出産手当金
お金の出元は「健康保険」です。(※保険証を発行しているところ)
出産手当金は、出産のために会社を休み給料が出ない場合に支給されるものです。
出産予定日より42日前~出産後56日間が支給されます。 直近1年間の給料の平均(標準報酬日額)の2/3が支給されます。 この例の場合は、ひと月当たり315,000円の2/3が支給されます。一日あたり7,000円ですので、予定通りに出産した場合約68万円です。
③育児休業給付金
お金の出元は「雇用保険」です。(※ハローワーク)
産後休暇が終わった後からが育児休業です。保育園に入れない場合などは最長2歳まで伸ばすことができますが、今回は1歳まで育児休業を取ったケースで試算します。
産後8週~6か月間は賃金の67%、その後は賃金の50%が支給されます。そのため、今回の例では約190万円の育児休業給付金を受け取ることができます。
④社会保険料の免除
産休・育休中も会社の社会保険に加入しています。しかし、その期間の保険料は免除されることになっています。
この期間に払わなくてよくなる社会保険料は約63万円です。
保険料は払いませんが、将来自分が受け取るための年金は産休に入る前の給与(315,000円の給与ランク)で計算されていきます。
⑤養育期間の社会保険料の優遇
時短で復帰して給料が下がっていても、社会保険は産休前の給料ランクで計算されてしまいます。そうなると給料の割に社会保険料の負担が大きく手取りが減ってしまいます。そこで、時短の給料に合わせて再計算してもらうことができます。
本来の金額より下げてもらうことで、その差額約40万円の社会保険料負担が減ります。
それでも、将来受け取るための年金は産休に入る前の給料ランクで計算されていきます。
⑥有給休暇の継続&発生
産休・育休を取っている期間は「出勤したものとみなす」というルールになっています。仮に産休前に有給を使ってしまっていても、この期間でまた有給が発生します。もちろん残っていた部分はそのままです。働き出してすぐに有給がつかえる状態で復帰できるのは非常に重要ポイントですね。
退職し子どもが1歳で再就職した場合
では、出産を機に会社を退職して、子どもが1歳の時点で月収20万円で再就職した場合はどうでしょうか。
では、出産を機に会社を退職して、子どもが1歳の時点で月収20万円で再就職した場合はどうでしょうか。
①出産育児一時金
出産育児一時金は、退職した場合でも受け取ることができます。
お金の出元は退職日・出産時の健康保険の状況によって違いますが、金額は同様に42万円です。
②出産手当金
産休を取らずに退職した場合は受け取ることができません。
③育児休業給付金
退職した場合は受け取ることができません。
④⑤⑥その他の制度
再就職の場合(入社してから1年たっていない場合)は原則として時短勤務は使えません(認めている会社もあります)。そのため社会保険料の優遇措置などはありません。有給休暇も入社してすぐは原則として発生しません。
経済的メリットも踏まえて総合的な判断を
ここまで計算したように、お休みして復帰した場合と辞めて再就職した場合では、受け取れる金額・払わなくてよくなる金額を合わせると「約361万円」の差があります。
この試算結果の数字には反映していませんが、将来年金として受け取ることができる金額も違ってきます。
子育てに専念するために仕事から1年間離れるとしても、一度退職するのと産休・育休を取って復帰するのとではこれほどの金額の差がでます。
自分の問題や家族の問題で、退職せざるを得ないこともあるかもしれません。また、働き続けることだけにこだわる必要はありません。
ただ、女性が働き続けることを後押しする制度は徐々に整備されつつあります。
これらの制度を理解し上手に利用し、一時の大変さを乗り越えることができれば、得られる経済的メリットはとても大きいことが分かるはずです。
それを踏まえて自分が選んだ選択肢なら、育児に専念することを選んだとしても「知らなかった、損した!」「こんなはずじゃなかった!」と思うことはなくなるはずです。
今後もできれば働き続けたいという思いがあるのなら、このような経済的メリットも踏まえて家族とよく話し合い、判断できるといいですね。
今回ご相談いただいたTさんはこれほどの差が出ることに驚いていました。まずは家族で話し合いながら、働き続けるためにどんなことができるか検討したいとのことでした。
同じテーマでこちらの動画でも解説しています。
合わせてごらんください。
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