DCビジネス10年目の想い

企業型DCビジネス十年目の決議・第1回「歴史編」

私、村松繁が経営するアイマーク株式会社が、確定拠出年金をビジネスとして取り入れて、10年になります。

10年のキャリアはありますが、ビジネスとして成立した、と言えるようになったのは、最近3か月のことです。このタイミングで、社内で一つの方針を固めました。

「確定拠出年金の提案そのもので顧客に役立ち、その提案だけで私たちもビジネスとして成立させる」——

これからはこの形一本で進める、という決め事です。

なぜ10年かかったのか。なぜ今なのか。答えは制度の歴史の中にあります。三回に分けて書きます。第1回は、歴史から始めます。

多くのFPが集まり、離脱していったDCビジネス

私の所属するFP相談ねっとは、はじめ「確定拠出年金相談ねっと」として生まれました。企業型DCを世に広めようと集まったFPの集団です。

しかし、導入支援という仕事は手間の割に収益が乗りませんでした。正確に言います。収益の入口そのものが、設計されていなかったのです。多くのFPが離脱していきました。代表の山中伸枝さんは、この集まりを相談FPを育成する場に変えていきました。賢明な判断だったと思います。

その一方で、私と同じようにDCビジネスの明日を模索するFPが数名いました。今もその方たちとは情報をやり取りしています。私たちはその間ずっと、一つの問いを手放せませんでした。

DCビジネスをサステナブルにしていくには、どうしたら良いのか?

はじまりは、法人保険につなげるための導入支援でした

10年前、このビジネスに参入するにあたり掲げたスローガンは

「中小企業の従業員にも、大企業並みの老後の安心を提供する」

とはいえ、思いはDCを切り口にして法人向けの生命保険を提案することが目的だったかもしれません。

理想は真っすぐでした。しかし、収益の設計なしでは経営は成り立ちません。提案から運用開始まで8か月かかり、その間のコンサルティング料は、当初無料でした。

手間のかかるDC導入手続きの8か月間は、事務手続きと社員さんへの説明作業を優先しました。ようやく導入が終わって生命保険の話をすると、「わが社には長くお付き合いがある担当者さんがいるので、生命保険については提案は必要ありません」と言われてしまう始末でした。

こうして分かったのは、DCの導入支援にはそれ自体の対価がなく、保険が売れないなら收入はゼロのままだ、ということでした。導入業務に要した半年間の労力は、どこからも支払われない。導入支援という仕事を、そのままの形では続けられない理由はここにありました。

継続投資教育を、収益の土台にする

1年目の終わり、これでは立ち行かないと考えを変えました。継続投資教育は、法律上、事業主が「努めなければならない」とされる努力義務の役割です。しかし、スローガンの「中小企業の従業員にも、大企業並みの老後の安心を提供する」を実現し続けるには、無料の導入支援と私たちの熱い想いだけでは支えられません。そのことを、導入先の企業に率直に訴えることにしました。

新しい導入先には、導入支援コンサルティング料をいただく。導入済みの企業には、継続投資教育の費用をお支払いください——そう説明して回りました。結果、ほとんどの導入企業が、継続教育の費用を受け入れてくれました。

売れなかった保険の代わりに、受け入れてくれた教育が、会社の収益の土台になりました。制度の充実のために必要とされる役割を、対価をいただいて担う。それが、DCに関わるFPが事業として成立する一つの形だと、このとき学びました。というよりも、このビジネスを永続するには、正当な対価を継続していただき続けるサービスの厚さが必要だと分かったということでしょうか。

私の10年は、選択制の時代と一致している

私が入口に立つ前から、制度はこう動いてきました。企業型DCは2001年、「掛金は会社だけ」ではじまりました。翌2002年、ユニクロが給与の一部を切り出して本人が積み立てる「選択制」を導入します。2012年、ようやくマッチング拠出が認められましたが、「社員の掛金は会社の掛金以下」という制限がついていました。

この間に、選択制は中小企業で大きく広がります。広がる手段となったのが、いわゆる「総合型DC」です。これは、複数の企業が共同で一つの企業型DCに加わる形の制度で、自社だけで規約をつくることなく、用意された制度に参加するだけで導入できました。いまでは約2万7千の事業所が利用しています。

広がった理由は、思惑の一致です。企業型確定拠出年金を広めたい厚生労働省と、会社の負担を増やさずに福利厚生を充実できるなら導入したいと考える企業——選択制は、会社は掛金を出さず、社員が給与の一部を積み立てる仕組みなので、双方の利害がそこで重なりました。

選択制が市場に広がり始めた2016年に私は入口に立ち、その選択制の提案が見直される2026年4月の改正に方針を固めました。私の10年(2016〜2026年)と、選択制の時代は、一致しているのです。

2026年——マッチング拠出の制限が外れ、選択制には向かい風が強くなった

そして2026年4月、マッチング拠出の「社員の掛金は会社の掛金以下」という制限が撤廃されました。同年12月には拠出限度額が月6.2万円になります。会社拠出が前提のDCが、ようやく本来の姿で語れるようになりました。

一方で選択制には、向かい風が強くなっています。アイマークが導入を支援した会社にも、銀行の担当者から「生涯設計手当は最低賃金の計算に含めません」との説明がありました。これは銀行側の誤解で、厚生労働省の公式資料を示して解消できました。ただし、この一件から学んだのは別のところです。選択制は法律に明記のない運用上の工夫であり、実務の中でどう判断されるかは、まだ安定していないということです。

選択制の企業年金をめぐっては、従業員への説明を事業主に求める流れも強まっています。求められているのは、マイナス面の説明です。掛金に回した分は社会保険の計算から外れるため、将来受け取る厚生年金が減るだけでなく、病気で休んだときの傷病手当金、出産で休んだときの出産手当金、失業したときの失業給付、育児休業中の育児休業給付まで、いずれも減ります。会社が支払う社会保険料も減ります。

さらに見落としやすいのが、書面上の年収そのものが減ることです。選択制の掛金は給与とみなされないため、源泉徴収票の給与収入に含まれません。毎月1万5千円を積み立てれば、年間18万円が書面上の年収から消えます。住宅ローンをはじめ借り入れの審査は、多くの場合この書面の年収を基準にするため、60歳まで引き出せない積み立てが、借りられる金額の上限を下げることにもなりかねません。

つまり、会社の保険料の節約と社員の積み立ては、社員の年金と、万一のときの給付と、書面上の信用力を原資にしている——これが、説明を求める流れが強まる理由です。

銀行の誤解も、説明を求める流れも、別々の出来事に見えて、根は同じです。選択制は、法律に明記がないからこそ自由に広がってきた制度であり、そのぶん、実務での判断はその都度、解釈に委ねられてきました。明記がない限り、この流れはどこまでも続きます。止めるには、法律として整備するしかありません。2026年4月のマッチング拠出の制限撤廃は、まさにその実例です。法律が枠組みを定めたマッチング拠出は、誰が読んでも同じ制度として語れます。選択制には、それがまだありません。

私自身の話に戻ります。2026年9月、導入企業から、提案と継続教育への対価を継続的にお支払いいただけるようになりました。顧客の役に立つ提案そのもので、私たちも事業として成立できる——冒頭に書いた方針を固めたのは、この時期です。私たちはこの姿を「まっとう」と呼んでいます。

スローガンは10年前から一字も変わっていません。「中小企業の従業員にも、大企業並みの老後の安心を提供する」。

変わったのは、提案の中身のほうです。

(第2回「選択制編」に続く)

カテゴリー

アーカイブ

サイト内検索