パートで社会保険に入るメリットはありますか?

ご相談者データ

山田涼子さん(仮名)
【年齢】36歳
【職業】総合スーパー勤務
【性別】女性
【家族構成】夫、子ども2名(小2・年中)

相談しようと思ったきっかけ

今は食品スーパーで働いています。

下の子供が小学校に上がるまでは今の働き方で行く予定でしたが、一緒に働いていたベテランパートさんが退職することになり、思いがけずに会社から勤務時間を増やさないかという話がありました。

働くことにも慣れてきたのでもう少し働いて収入が増えたら嬉しいと思うのですが、時間を増やすと社会保険に加入することになるようです106万円の壁、働き損などの言葉は聞いたことがありますがよくわかりません。

いざ自分でインターネットなどで調べても、パートは社会保険には入らないほうがいい、逆に損をするなどの話もあって結局どうしたらいいかわからなくなってしまいました。

会社に返事をしないといけないので、ここはもう専門の人に聞いたほうが早いと思い相談先を探していたところ、いろいろなメディアで主婦の働き方についてコメントをされている塚越FPさんのサイトを見つけました。
個人相談もうけていらっしゃるとのことで、思い切って相談しました。

ご相談内容

今は10時~14時まで週に4日働いていました(週16時間)

どのくらいの時間数に増やすかはご相談者様の希望をかなり聞いてくれるとのことですが、子どものことを考えると一日6時間が限界とのこと。
そのパターンで社会保険に入ったケースを会社が計算してくれたそうですが、思ったより手取りは増えなかったようです。

それでも社会保険に入るメリットがあるかどうかご相談にいらっしゃいました。

ご相談にお越しになるにあたって、ねんきん定期便をご持参いただきました。
ねんきん定期便の内容はこのように記載されています。

このねんきん定期便に記載されている年金額は「現時点」での年金額であり、将来受け取れる額ではありません。

今後の働き方次第で年金は「作れる」ので、併せてご説明します。

ご相談でお話しした内容

ベテランパートさんの抜けた穴を埋めるために会社からお声がかかったとのこと、普段の働き方からとても信頼されていることが分かります。

ご自身も働く意欲があるとのことですので、ぜひ社会保険に加入していただきたいところです。
とはいえ、やはり拘束時間が増えたのに収入が増えないと「意味があるのかな?」と思ってしまうのも無理がありません。

パートの社会保険の基本と、加入した場合のメリット・デメリットを整理しながらお話しさせていただきました。

パートが社会保険に加入する条件

社会保険はそもそも「入りたい・入りたくない」で決められるものではありません。勤める会社の状況と、自分の働き方によって決まるものです。

106万円の壁

パートの場合は原則として「正社員の3/4以上の日数・時数」を超えて働くことが社会保険に加入する条件です。

ただし、会社に501人以上社員がいるような大きな会社だと「パートなどの働く時間の短い人も社会保険に入る」というルール変更が行われました。これがいわゆる106万円の壁です。 ① 週の所定労働時間が20時間以上
② 雇用期間が1年以上見込まれる
③ 賃金の月額が 8.8 万円以上
④ 学生でない

簡単に言うと、この4つに当てはまる場合は社会保険に加入になります。

山田さんのお勤めのスーパーは501人以上社員のいる大きな会社のため、このルールが適用されます。山田さん自身が社会保険に加入すると夫の社会保険の扶養からは外れることになります(税制上の扶養はまた別ルールですので注意が必要です)

130万円の壁

もうひとつ、130万円の壁という言葉もよく見かけます。
これは「夫の社会保険の扶養内(被扶養者)でいられる金額」の目安です。この金額を超えて働くと夫の社会保険の扶養を外れてしまいます。
注意したいのは、「扶養を外れた=(必ずしも)自分が社会保険に入れる」わけではないということ。

106万円のルールがないパート先の会社で130万円以上働き扶養を外れてしまっても、正社員の3/4という条件を満たしていなければ、自分で国民健康保険と国民年金に加入することになっています。

106万円の壁と130万円の壁、一見数字の違いだけのようですが全く意味が違うことに注意が必要ですね。
社会保険に加入して保険料を負担するのと、国民健康保険&国民年金の保険料を払うのでは出ていく金額が違いますので、家計に入れられるお金がどう変わるかはしっかりと検討したいところです。

さて、それでは本題の「パートが社会保険に加入」するメリットとデメリットを見ていきましょう。

社会保険に加入するメリット

社会保険に加入するメリットを大きく5つに分けてご紹介します。

1:将来受け取る年金が増える

ひとつは何より「老後に受け取る年金を増やすことができる」ということです。
ずっと扶養内の場合は国民年金からの老後の年金(老齢基礎年金)のみ受け取ることになりますがこの部分は働いても受給額は変わりません。しかし社会保険に加入することで厚生年金の部分を増やすことができます。(老齢厚生年金)

仮に山田さんが36歳から60歳まで扶養内の働き方をした場合、老後に受けとる年金は92万円程度です。
これが厚生年金に加入し年収120万円で働いた場合、老後に受け取る年金が年間約16万円増える計算になります。

つまり、ねんきん定期便にある現在の「453,000円」は扶養内でいると「921,000円」になり、社会保険に加入すると「1,081,000円」へ増やすことができます。65歳から90歳まで生存すると扶養内でい続けた場合と比べ、生涯受け取る年金を400万円増やすことができます。

人生100年時代、長く生きる可能性はどんどん増えていますから、「終身(生きている限り)」受け取ることができる公的年金を増やせるのは大きなメリットですね。

「長く生きることでお金が足りなくなるリスク」に備えることができる年金は保険でもあるのです。

2:公的保障が手厚くなる

手厚くなるのは老後の年金だけではありません。
年金制度は老後に受け取る「老齢年金」以外にも、万が一死亡してしまった場合に残された家族の経済的負担を軽減するための「遺族年金」
障害を負ってしまった場合の「障害年金」の機能もあります。

万が一のこと(死亡・障害)を負った時点で、厚生年金に加入していたかどうかで保障の手厚さが変わってきます。(障害の場合は「初診日」が基準となります)

縁起でもない話ですが、今の山田さんに万が一のことがあり、子供を残してお亡くなりになってしまうと、遺族が受けられる給付は子どものための「遺族基礎年金」のみで、年間約123万円です(18歳未満の子供が2人)

社会保険に加入しているときにお亡くなりになると、「遺族厚生年金」も支給され、残された家族の受取額は年間約163万円となります。
(厳密にはご主人の年収などによって出ない場合もあります)
同様に障害年金も社会保険に加入していると「障害厚生年金」の上乗せがあり保障が手厚くなります。

障害や死亡以外にも、ケガや病気で3日以上連続で休み給与が出ないなどの条件を満たすと「傷病手当金」を受給することができたり、条件を満たせば「出産手当金」が受給できるなど、公的保障の手厚さも社会保険に加入するメリットの一つと言えるでしょう。

3:国民健康保険より支払う保険料が安い

もし山田さんがご主人様の扶養を外れても社会保険に入ることができない場合、国民年金と国民健康保険に加入することになります。概算で計算してみたところ、月に11万円ほどの給与の場合「国民健康保険は月6500円程度」「国民年金は月16500円」合わせると23000円の支払いが必要になります。
これに対して社会保険の場合は、“労使折半”と言われ、保険料の半分を会社が負担することになっているため、山田さんが負担する金額は健康保険料と厚生年金保険料を併せても15500円程度でした。

こうしてみてみると、会社が半分負担してくれて加入できるというのは大きなメリットですね。

4:時間や収入の上限を考えずにキャリアアップが望める

さらに、こちらは金銭的なメリットとは少し違いますが、扶養を外れることによって勤務時間や収入の上限を気にする必要がなくなることも大きいです。
年末にかけてシフト調整をして働きを減らすなどを考える必要はなく、チャンスがあればつかめる可能性が増えるともいえるかもしれません。
今はまだ扶養内でいたとしても、子どもが大きくなったり、ご主人様の収入が急に減るようなことがあったとき、急に働きを増やすチャンスが来るかどうかはわかりません。
チャンスを逃さないという意味では、社会保険に加入して扶養を外れるというのもメリットかもしれませんね。

5:制度の支え手の一人としての誇りが持てる

もう一つ、これもまた金銭的なメリットとは違いますが、「社会保険などの制度の支え手となる誇り」これも実は大きな要素です。
扶養内でいることも個々の選択ですが、税金を納めたり、社会保険の保険料を払ったり、自立し経済の支え手であるという姿を子供に見せていけるのは誇らしいもの。
限られた時間や金額の範囲だけではなく、社会との接点を広く持ちやすくなるのもメリットと言えるかもしれません。

社会保険に加入するデメリット

メリットもたくさんあるパートの社会保険ですが、気を付けるべきデメリットもあります。

1:目先の手取りは減る可能性がある

働く時間を十分に増やすことができれば手取りは増えることが多いですが、そこまでの金額を増やすことにならない場合は社会保険に入ることで自分の手取りが減る可能性はあります。
例えば、今までより2時間多く働くことにしたのに、振り込まれる額はほとんど変わらないということも起こりえます。
家族の状況や自分の働き方・時給などから、どこまで増やせる可能性があるか。社会保険に加入するとどれくらい手取りが増えるのか確認しておきたいですね。

2:夫の扶養手当が減る可能性がある

もう一つ注意してほしいのは、自分だけではなく夫の収入に影響が出る可能性があることです。

夫の会社の「扶養手当」が支給される条件が「社会保険の扶養に入っている妻がいること」の場合、妻自身が社会保険に加入し、夫の扶養から外れることで、扶養手当の支給がなくなることがあります。
扶養手当の支給条件などは会社によって違いますので、よく規定を調べて、『世帯単位』での収入をチェックしたいところです。
税金の扶養の範囲を超えて働くことになると、夫の所得税や住民税が少し増え手取りが減ることもあります。(夫の社会保険料には変化は起きません)
たまに、夫に内緒で扶養を外れたいという相談もありますが、それはトラブルの元ですのでしっかりと夫婦で話し合いを行ってくださいね。

長い目で考慮して働き方を考えましょう

パートで社会保険に入るのは、目先だけで見ると負担に感じることはあります。
ですが、長い目で見たときのことを考えたり、目先の金額ではわからないメリットも大きいもの。
「今」の一点で判断するのではなく、長い目で見たメリット・デメリットを考慮して、これからの働き方を考えられるといいですね。

ご相談の後・・・

ご相談に来たときは、どちらかというと社会保険に加入することに消極的だった山田さん。
「家事をする時間も減るし、夕方忙しくなりそう」「手取りが増えないと家族に理解してもらえないかも」
理由はやはり働く時間の割に手取りが増えないことでした。

私も働く母の一人として、夕方の慌ただしさはとってもよくわかります。
慣れない間はお惣菜に頼ったり、外食が増えたりして「これって働く時間を増やした意味があるの?」と思うような日があることも、実体験からお伝えしました。

家事の大変さなど金銭で評価できないデメリット部分もお話ししつつ、同じように目先の金銭だけでは評価できないメリットも丁寧にお伝えすることができました。

3か月後、山田さんがご報告とお礼のメールをくださいました。

将来の年金が増えることや、ゆくゆくは自立して働く姿を見せたいという思いが強くなり、社会保険に加入することにしたそうです。

金額の制限がなくなったことで昼間の時間帯のリーダーを任され、繁忙期には土曜日なども協力することで時給が上がったの事。
今では社会保険に入る前よりも手取りも増え、自分のためのお金も少ないながら罪悪感なく使えるようになるなど嬉しい誤算もあったそうです。

『手取りがあまり増えないことで主人と衝突しそうになりましたが、塚越さんが丁寧に説明してくれたお金だけじゃない部分も主人に伝えました。今では土曜に仕事に行くときも協力してくれて、下の子が小学校に入ったらフルタイムも視野に入れることができそうです』

ご夫婦で力を合わせて、二人の家計を支えていけるのはとても心強いですね。
お役に立ててよかったです。ご相談ありがとうございました。

この記事を書いた人
塚越 菜々子

不安な人を、選べる人に。 家計簿なしで貯まる仕組みで、 人と比べず、未来が選べるようになる。

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