年金の繰上げ請求をした母、損をしたのではないかと心配です

ご相談者様DATA

(年齢)48歳  

(職業)保育園勤務

(性別)女性

(家族構成)夫(50歳)長女(中学2年)次女(小学5年)

相談しようと思ったきっかけ(アンケート抜粋)

実家の母は、夫婦で自営業だったため国民年金のみです。兄から、「年金は早くもらった方が得じゃない!」という安易なアドバイスを受けて私の知らないうちに、62歳の時に繰上げ請求をしていました。今は65歳になっていますが、仕事を辞めた後の両親は国民年金だけで生活していくことになります。調べてみたら、繰上げ請求をすると年金額が減ってしまうとのこと。母は一体早く受け取ったことでどれくらい年金が減ってしまったのか知りたいです。それから、私たち夫婦も子供たちの学費のことを考えると自分たちの老後資金まで貯める余裕がありません。母の年金のことを調べて感じたのは知識がないと損をしてしまうということでした。私たちが受け取り方で失敗しないよう相談してみようと思いました。

ご相談内容

ご相談者の美香さん(仮称)は、お母様の通帳に振り込まれている年金が少ないように感じて、お兄様から勧められ繰上げ請求をしていることを知りました。国民年金が少ないことは知っていました。だからこそ、これからの両親の生活のことを考えると65歳まで待って受け取った方が良かったはずと感じています。3年早く受け取り始めたことでどれくらい減額になっているかを知りたいとのことでした。そして、美香さんご自身の問題として自分の年金と自営業の夫の年金で将来の老後の生活にも不安を感じています。年金の受け取り方で遅らせると増えると聞いて、どれくらい効果があるのか知りたいこと。そして、夫婦の年金で生活していけるかどうか確認しておきたいとのことでした。

ご相談でお話した内容

繰上げ、繰下げ教えてください!

長寿時代に一生涯もらえる公的年金の受け取り方は大きく影響します。

3つの内容についてお答えしました。

1.繰り上げ請求のメリット・デメリット

2.繰り下げ請求の効果はどれくらい

3.長寿時代に備える年金の受け取り方

1.繰り上げ受給のメリット・デメリット

美香さんはお母様にもっと早くから年金の事を調べてアドバイスできなかったことを後悔していました。繰上げ請求したことで、どんな事がおきていたのかを知りたいとのことでした。メリットとデメリットそして、お母様の金額の変化についてご説明しました。

繰上げ受給のメリットとデメリットについて考えてみましょう。

お母様は、自営業ということもあり国民年金は40年間もれなく掛けていました。65歳になった現在の年金額を基準として計算をしてみました。

メリットは

仕事を辞め収入が無くなったときに、65歳まで待たずに60歳まで年金を早く受け取り生活費にあてることができることです。また、国民年金の遺族年金は18歳に達する年度末までのお子様がいる方にしかありませんし、死亡一時金も420月以上掛けても32万円ほどですから、病気などにより長生きはできないと感じている方など、早く受け取ったほうがよい場合もあります。

デメリットは

繰上げ受給によって早く受け取れるので、美香さんのお兄さんのように有利に感じる人も多いのですが、たくさんのデメリットがあるのでよく考えて選ぶ必要があります。美香さんのように後からやっぱり繰上げ請求しない方が良かったと思っても、もう取り消しは一切できなくなります。まず1か月につき受給額が0.5%減額されますので、3年間分では18%少なくなります。60歳まで5年間早く受け取るとなんと30%少なくなり、つまり7割に減ってしまいます。

6つの注意点

*一生減額された年金を受け取ることになります(減額率は固定)。

*裁定請求(年金受給の請求)の取り消しはできません。

*寡婦年金の請求資格がなくなります(国民年金に加入していた夫が亡くなった時に妻が受け取る年金)。

*障害基礎年金や遺族年金が受けられなくなります。これは、65歳前の年金は1人1年金と限られ、老齢年金を繰上げしていると他の年金が受給できないのです。

*年金額を増やしたいと思っても国民年金の任意加入はできません。

メリット・デメリットを考慮して繰上げ請求は慎重に!

美香さんのお母様は、早く受け取った方がよいという意見を聞いてその通りにしてしまったわけですが、その時はまだ自営業で働いていました。自営業のため、仕事量は減らしても美香さんのお父様とまだ元気で働いている状況です。すぐに年金がないと生活していけないわけではありませんでした。今になって美香さんのお母様も年金が少ないことに気付いた訳です。もう取り返しがつきません。美香さんは、自営業の夫のこともあるので、どれくらい減ってしまったのか知りたいとのことでした。

支給率は下記の図をご参照ください。

厚生労働省ホームページ 老齢年金ガイドより

https://www.nenkin.go.jp/pamphlet/kyufu.files/LK03.pdf

美香さんのお母様のケース 年金額 40年掛けた場合  ◆65歳から受け取れたはずの金額  779,300円です。 (平成29年度年金額)  ◆62歳から受給した現在の金額と3年間の総額は?   779,300円×82%=639,026円 です。   早く受け取った3年間の金額(現在の金額で試算)   639,026円×3年=1,917,078円   ※ 年金額の変更は考慮していません。  ◆減額された金額は140,274円。その結果は!   1,917,078÷140,274=13.6   お母様が79歳を超えて受け取るころから、総額では65歳から   受給した場合の方が多くなっていきます。

美香さんは繰上げ受給をすることで、お母様が長生きするほど、国民年金の減額の影響を受けてしまうことを改めて認識しました。そして、この一覧表を見ていて美香さんも別のあることに気付いたようです。

2.繰下げ受給の効果はどれくらい

美香さんはずっと自営業だった夫が国民年金だけということで、何とか増やす方法はないかと考えていました。そして、美香さんがお母様の年金の事を調べていた時に繰下げ受給って何だろうと思われたのです。繰り上げると年金は減額されます。それと反対に繰り下げると増えるの?気付いた事はそこでした。美香さんすごい。その通りなのです。今の低金利の中、安全性の高いもので増やせるものはありません。ところが、国民年金は、支給開始年齢を遅らせることで増額して受け取ることができるのです。美香さんは夫の年金を遅らせて受け取った場合、どれくらい増えるのか知りたくなりました。

美香さんのご主人様の繰り下げシミュレーションの内容です。

美香さんのご主人様のケース 年金額 40年掛けた場合  ◆65歳から受け取れるはずの金額  779,300円です。 68歳まで受け取りを遅らせたら、975,700円 もう少し待って70歳まで繰下げしたら、なんと1,106,600円に増やすことができます。

美香さんは自営業の夫は年金が少なく、夫のご両親のこともあり不安が広がっていました。

けれども、この繰下げ受給を使えばなんとかやっていけるのではないかと感じました。自営業なので定年はありません。5年間長く働いてもらって、国民年金を受け取ることで1年間に327,300円も使えるお金が増えることになります。それも夫の生存中はずっと受け取れます。美香さんは目の前がパッと明るくなったのです。

3.長寿時代に備える年金の受け取り方

美香さんは現在保育園の保母さんとして働いています。子供が大好きな美香さんは今の仕事をずっと続けていきたいと考えています。60歳以降も希望があれば働くことができるそうです。退職金はあまり期待できないとのことでした。現在の年収は350万円ほどです。

美香さんにねんきん定期便を確認していただくようにお話しました。

平成29年に受け取ったねんきん定期便のA欄に記載されている金額は438,480円でした。これはれまでの年金加入歴に応じた確定している年金額ですから、これから60歳まで働いた場合に加算できる受け取れる年金額を試算し、Aに足すと老後の年金収入をイメージすることができます。

美香さんの年金額の概算シミュレーション  今後給与 350万円として60歳まで働いて増やせる年金額の計算(老齢厚生年金試算の公式より)  3,500,000円÷12×5.481/1,000×144月=230,202円   年金定期便の金額(A)  438,480円とこれから60歳まで変わらずに働いた場合の年金見込額の合計は  438,480円+230,202円=668,682円  国民年金の金額          779,300円  60歳まで働いた場合の年金額  1,468,682円   ※国民年金の金額は、簡易計算をする場合は1年辺り2万円で計算すると簡単に試算出来ます。美香さんはこれまで国民年金の未納はなく今後も未納がないので平成29年度の40年間掛けた場合の満額の年金額で試算しています。

65歳受給の場合・繰下げ受給した場合のシミュレーション

上記の図のように繰下げ受給することで、月々の収入が20万円を超えて2人で生活するのには、今の生活レベルを維持していけることがわかりました。お二人はお子様の将来の学費のために積立をしており、生活費は1か月25万円ほどでやりくりしていました。そのため、夫婦だけなら、贅沢をしなければなんとかやっていけるように感じました。お子様二人を大学まで行かせてあげたい。そんな思いが強くご夫婦の将来のために積立する余裕がなかったのです。そうは言っても、老後の備えまで貯蓄がまわらないことがとても不安だったのですが、老後の年金の受け取り方を工夫することで、何とか生活していける見通しができました。つまり、貯蓄ができないことを心配するよりも、しっかり65歳まで働くことが老後の生活を支えることであり、頑張って収入が少しでも増えれば、それが年金額を増やすことにつながることが理解出来てこれから「やるべきこと」が明確になったのです。

老後のシミュレーションは心の安心を生みます!

美香さんは老後のシミュレーションにより心に安心感がもてるようになりました。夢を持っている子供たちの願いを叶えるためには、大学に行かせてあげることが必要です。夫の年金が国民年金のみということで、子供たちの教育費に全部使ってよいものか不安を感じていたのです。美香さんは夫に繰下げ受給の話をしてみると、長く頑張って働いていきたいと張り切ってくれました。老後の不安も軽くなり仕事に集中できるようになったと美香さんは嬉しそうでした。

まとめ

美香さんご夫婦が年金受給するまでには、まだ20年余りあります。少子高齢化の影響で、将来の年金受け取りについても見直しがある可能性もあります。受け取り年齢が遅くなったり、年金額が減少したりということが起きた時でも対応できるように2つのご提案をしました。1つは確定拠出年金iDeCoに加入する事、そして、もう1つがつみたてNISAです。どちらも国が老後資金づくりのために用意してくれた節税優遇が受けられる制度です。将来のお二人のための資金も準備しながら、お子様の応援をしていかれてどうかとお話をしました。

人生100年時代と言われるようになってきました。もし美香さんご夫婦が将来お金に困ることになったら、どうされますか?ずっと働くこともできません。お子様に頼りたいですか?お子様にすべて使ってしまうのではなく、お二人が老後も安心して生活していけるように準備しておくことも大切なのではないでしょうか?そんなことをお伝えしました。ご提案についてはまた後日ご相談いただくことになりました。素敵な家族関係を築いていらっしゃる美香さんご家族に幸せが訪れますように!

※文中に掲載されている「ねんきん定期便」の数字等は筆者が試算したものであり、特定の個人の情報ではありません。

この記事を書いた人
木田 美智子

「今と未来を幸せに」の老後資金計画を実現!あなたらしくの初めの一歩をデザインします。

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