大地 恒一郎

2000万円問題報告書『ナナメ読み』(1)

今さらですが、今年6月3日に公表された「高齢社会における資産形成・管理」という、金融庁の金融審議会市場ワーキング・グループ報告書を、一読されたことはありますか。

既にあちこちで、「老後2,000万円不足」問題として取り上げられていますので、読まれた方もいらっしゃると思います。いや、まだ読んでいないという方も多いと思いますので、サイトオープンの初投稿として、そういう方のためにこの報告書をご紹介したいと思います。

お役所の報告書と聞くと、それだけで遠ざけてしまいそうですが、今回の報告書そのものはとても判りやすく書かれていて、読むのにさほど時間はかからないものです。ただ、それでも本文は30ページに及ぶボリュームとなっています。

そこで今回は、報告書を読む際に飛ばしてしまいがちな、「目次」、「はじめに」、「おわりに」の3つに絞り、「ナナメ読み」的にご紹介させていただきます。

時間がなくて、まだ目を通していないという方にも、金融庁の報告書が伝えたいことを少しでもお届けできればと思います。

目次の構成

まず、報告書の目次の構成を見てみましょう。

一般のビジネス書などでも、目次を見るだけで内容をイメージできる場合がありますね。

  1.現状整理(高齢社会を取り巻く環境変化)  .................................3

   (1)人口動態等 .............................................3

      ア.長寿化 .............................................3

      イ.単身世帯等の増加 ........................................4

      ウ.認知症の人の増加 ........................................6

   (2)収入・支出の状況 ..........................................8

      ア.平均的収入・支出 ........................................8

      イ.就労状況 ............................................10

      ウ.退職金給付の状況 ........................................13

   (3)金融資産の保有状況 .........................................15

   (4)金融環境に対する意識 ........................................18

  2.基本的な視点及び考え方 .........................................21

   (1)長寿化に伴い、資産寿命を伸ばすことが必要 ..............................21

   (2)ライフスタイル等の多様化により個々人のニーズは様々 .........................23

   (3)公的年金の受給に加えた生活水準を上げるための行動 ..........................24

   (4)認知・判断能力の低下は誰にでも起こりうる ..............................24

  3.考えられる対応 .............................................25

   (1)個々人にとっての資産の形成・管理での心構え .............................25

   (2)金融サービスのあり方 ........................................26

   (3)環境整備 ..............................................29

      ア.資産形成・資産承継制度の充実 ..................................29

      イ.金融リテラシーの向上 ......................................32

      ウ.アドバイザーの充実 .......................................33

      エ.高齢顧客保護のあり方 ......................................34

  おわりに ..................................................35

 

以上となります。

 

いかがでしょうか。

まず現状分析からスタートし、その上で論点を明確にして、その論点に対する考え方を説明し、最後に今後の対応として考えられるものを列挙しています。とても判りやすい構成だと思いました。

特に、全体で32ページに及ぶ報告書の中で、「1.現状整理(高齢社会を取り巻く環境変化)」の部分にはおよそ6割近くのページを割いていて、現状分析に力を入れていることが伺えます。しかも中を見てみると、それらは各種統計データに基づいて分析されており、中立的な見方で現状整理がされています。中でも、「(1)人口動態等」と「(2)収入・支出の状況」のところでは、高齢社会の進展とライフスタイルの変化などについて豊富な図表を提示して分析整理されています。

その上で、「2.基本的な視点及び考え方」では、(1)から(4)を見て判る通り、私たち個人が認識しておいた方が望ましい事項、論点が端的にまとめられています。またこの中では、金融サービス提供者が認識すべき事項、論点も述べられていました。

最後の結論部分、「3.考えられる対応」では、個人の人生における3つのステージ(現役期、リタイヤ期前後、高齢期)で考えられる心構えや金融サービスのあり方が紹介されています。そして、そのための環境整備を、ア~エの4つの観点でどうしていくべきか、ということが書かれていました。(「金融リテラシー」とは、お金やお金の流れについての知識や判断力のことです。)

この結論部分では、今後の対応について前向きな取組み方が紹介されていると思いますので、「3.考えられる対応」の「(1)個々人にとっての資産の形成・管理での心構え」だけでも、時間のある時に目を通しておかれると良いのではないでしょうか。

www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf

次回は、「はじめに」の部分を見ていきたいと思います。