前回は、今年6月に公表された報告書「高齢社会における資産形成・管理」の「目次」を見てみました。
今回は、目次には載っていない「はじめに」の部分を見ていくことにします。
ここは報告書本文への導入部にあたりますが、現状と問題意識などについて、コンパクトにまとめられています。
現状分析と問題意識
「はじめに」では、まず、金融を巡る環境変化について、次のように述べています。(『』内は報告書から抜粋、太字・下線部は筆者)
『金融・非金融の垣根を越えて、顧客にとって利便性の高いサービスを提供する者(中略)の出現や低金利環境の長期化等の状況と相まって、金融機関は既存のビジネスモデルの変革を強く求められている状況にある』
ここではまず、銀行や証券会社は既存のビジネスモデルを変革する必要があるとした上で、金融を巡る背景の大きな変化として、
『人口減少と高齢化の進展』を挙げ、
『この構造変化に対応して、経済社会システムも変化していくことが求められ、(中略)金融サービスも例外ではなく、変化すべきシステムの一つ』としています。
そして、『高齢社会の金融サービスとはどうあるべきか、真剣な議論が必要な状況であり、個々人においては「人生100年時代」に備えた資産形成や管理に取り組んでいくこと、金融サービス提供者においてはこうした社会的変化に適切に対応していくとともに、それに沿った金融商品・金融サービスを提供することがかつてないほど要請されている。』としています。
そして、『本報告書の公表をきっかけに金融サービスの利用者である個々人及び金融サービス提供者をはじめ幅広い関係者の意識が高まり、令和の時代における具体的な行動につながっていくことを期待する。』としています。
この報告書がきっかけとなって、「老後2,000万円不足問題」として国会をも巻き込んだ議論につながり、国全体で年金や資産形成に関する意識が高まりました。
そう考えると、論点は少しずれてしまった感はあるものの、結果として、この報告書が「はじめに」で表明していた状況を作り出したことになると言えるでしょう。
今後への期待
今後については環境面における『前提条件も急速に変化していくことが見込まれるところ、本報告書は金融面でのこうした対応の始まりと位置付けられるもの』であるとして、
『今後とも、金融サービス提供者や高齢化に対応する企業、行政機関等の幅広い主体が、(中略)
国民に本報告書の問題意識を訴え続け、国民間での議論を喚起することにより、中長期的に本テーマにかかる国民の認識がさらに深まっていくことを期待する。』
と結んでいます。
「ナナメ読み」的な見方をすれば、「老後2,000万円不足問題」を契機に、老後に向けての資産形成セミナーや年金に関するセミナーが軒並み盛況になっていることを考えると、あえて「老後に2,000万円不足する」という一例を挙げ、議論を促したのでは、とも思えてしまいます。
まさかそういうことはないと思いますが、『国民間で議論を喚起』し、『本テーマにかかる国民の認識がさらに深まっていくこと』になったのですから、本報告書の「はじめに」で期待していたことは、図らずも達成できたと言えるのではないでしょうか。
次回は「おわりに」を見ていきたいと思います。