竹内 美土璃

遺留分制度の改正-事業承継・相続対策における影響とは

はじめに

2018年7月に相続法が改正されました。約40年ぶりの大きな改正です。
配偶者居住権、自筆証書遺言の要件緩和、自筆証書遺言の保管制度、相続人以外の貢献の考慮が注目されましたが、遺留分のルールが大きく変わったことはあまり紹介されていません。
しかし、遺留分制度の改正は事業承継・相続対策に大きな影響がありますので、今回ご紹介します。

遺留分とは

遺留分は、兄弟姉妹以外の法定相続人が相続財産について最低限主張できる権利のことを言います。
例えば、被相続人が全財産をある人に遺贈するとの遺言を残しても、相続人は遺留分を遺贈を受けた人から取り戻すことができます。

遺留分を算定する基礎となる相続財産には、相続人に対する生前贈与などの特別受益が含まれます。
改正前は何年前の贈与でも特別受益に当たりました。受益額の計算は相続開始時を基準とします。
したがって、会社オーナーの父親が後継者である長男に自社株を贈与して死亡すると、贈与が何十年前であっても遺留分の算定に含まれてしまっていました。
長男が株の贈与を受けてから経営努力をして株価を上げると、遺留分額が増えてしまいます。

また、遺留分が行使されると減殺請求対象となる財産は遺留分割合で共有となっていました。
二男が遺留分を行使すると、長男の保有する自社株は二男との準共有となり、長男は株を売却したり、担保を設定したりすることができなくなるおそれがありました。

改正内容

2018年の相続法改正で、遺留分算定で基礎財産に含まれる特別受益は相続開始前10年間の贈与に限定されました。
したがって、長男に自社株を贈与してから10年以上経過した後に父親が死亡した場合には、原則として特別受益として自社株の贈与が問題となることはなくなりました。

また、この相続法改正で、遺留分が行使された場合には遺留分権利者は遺留分侵害者に金銭を要求できるだけで(遺留分侵害額請求)、対象財産が共有となることはなくなりました。
したがって、長男が経営会社のM&Aをする際に、二男の同意がなくても自社株を売却することができることになりました。

注意点

遺留分に関する改正法は2019年7月1日に施行されました。

相続対策や事業承継対策では、遺留分の問題をどのように解決するかが大きな課題であり、経営承継円滑化法では遺留分に関する民法の特例(除外合意、固定合意)が設けられていましたが、経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可が必要で、あまり利用されていませんでした。
今回の遺留分に関する相続法の改正は、相続対策・事業承継対策に大きな影響を与えることになります。

注意しなければならないのは、相続開始前10年の贈与は特別受益の対象となりますので、贈与から10年以内に贈与者が亡くなった場合に備えておく必要があります。
また、相続開始の10年より前の贈与でも遺留分権利者に損害を与えることを知ってした贈与は遺留分算定の基礎になります。

一方、遺留分侵害額を請求するときには、特別受益は10年より前のものも含めて差し引かれるので注意が必要です。

事業承継対策、相続対策を既に対策をした方も、改正相続法の元でも対策が有効か専門家に相談することをお勧めします。

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