新型コロナウイルスによる緊急経済対策として、収入が減った場合に現金が支給されるなどの報道が出ています。
詳細の内容や手続きについてはまだ不確かではありますが、支給されるかどうかの基準として「住民税非課税世帯を対象」などという言葉を見かけることも増えてきました。
今回の件に限らず、公立学校での就学支援や保育料の軽減、大学無償化、給付型の奨学金利用や高額療養費の上限、その他公的な支援や支払いの免除などの基準にこの「住民税が非課税である」ことが採用されています。
では、住民税非課税世帯というのはどういう状態なのか、いったいいくらまでの収入が住民税非課税世帯になるのかを計算してみようと思います。
図説:住民税は大きく分けて2段階
細かな仕組みはさておき、住民税は大きく分けて「均等割(きんとうわり)」と「所得割(しょとくわり)」の二つに分けられています。
均等割というのは、その自治体に住んでいる”場所代”のようなものです。市町村のサービスを使うための会費みたいなイメージをしてもらえるといいと思います。
それに対し所得割というのは収入に応じて負担する住民税です。収入が増えれば増えていくのがこの住民税の所得割。
本来は収入が低くても「均等割」つまり場所代の方は払うものなのですが、時にはそれすらを支払うことが厳しい人もいます。そういう人はその”場所代”も免除され「住民税非課税」の状態になります。
専業主婦の方などはそもそも所得が0なので「住民税非課税」ですね。そういう意味では住民税が非課税というのは珍しいことではありません。
ただし「住民税非課税世帯」というのは世帯の”全員”が住民税非課税になっている状態を指しますので、生活が厳しいことがほとんどだと思います。
そのため、「住民税非課税世帯」には様々な優遇措置がなされているのです。
住民税の非課税ラインは地域や家族構成次第
では、いくらの収入を下回ると「住民税非課税」になるのかというと、実はその数字は一律ではありません。
お住まいの自治体によって「非課税金額のライン」は違っています。
- 生活保護の基準である「1級地・2級地・3級地」という3つの分類に合わせた地域設定
- 「単身の場合」「扶養者がいる場合」のどちらに該当するか
この2つの組み合わせにより「住民税非課税」の基準が決まっているのです。
自分のお住まいの自治体が生活保護の何級地にあたるのか調べたい場合はこちらを参照してみてください。
なお、
- 生活保護を受けている人
- 障害者、未成年者、シングルマザー・ファザーで前年の合計所得が125万円以下(年収で約204万円)
は住民税は非課税です。
非課税の判定は収入ではなく「所得」
非課税の計算式を見てみると書かれている数字は「所得」です。
年収(収入)とは違う数字であることに注意が必要。
1か所の会社からの給与をもらっている人は源泉徴収票を見れば「所得」はわかります。
源泉徴収票の数字の前から2番目「給与所得控除後の金額」この数字が「所得」です。
複数からの収入がある、あるいは給与以外の収入がある場合は確定申告書の所得金額の合計欄を見てください。多くの場合はここの金額です。
ただし、山林所得や退職所得、譲渡所得の特例、赤字の繰越などを利用している場合はその金額ではないこともありますので、所轄の税務署や税理士にご確認ください。
それではここからは給与収入のみある家族の実例で計算してみます。
会社員・専業主婦・子ども二人の世帯
4人家族で夫のみが働き、妻は専業主婦、小学生の子どもが二人いるケースを見てみましょう。
住んでいる地域によって非課税の限度額が違いますから、お住まいの地域の計算方法を見ていく必要があります。
所得税の計算をするときは16歳未満の子供は控除の対象にはなりませんが、住民税の非課税ラインを判定するときの「扶養親族」には16歳未満の子供もカウントすることに注意しましょう。
神奈川県横浜市(1級地)に住んでいる場合
神奈川県横浜市は生活保護の区分で言うと1級地です。
均等割が非課税となる計算式はこの通りです。
35万円×(本人+同一生計配偶者+扶養親族数)+21万円
=35万円×4人+21万円=161万円
このご家庭は収入があるのは会社員の夫のみですから、夫の所得が161万円を下回れば「住民税非課税世帯」に該当します。
所得161万円というのは給与収入に当てはめると約255万円です。
1級地である横浜市に住む専業主婦の妻と子ども2人がいる世帯で、年収が255万円以下の場合は「住民税非課税世帯」となります。
神奈川県中郡二宮町(2級地)に住んでいる場合
同じ神奈川県でも2級地である二宮町の場合はどうでしょうか。
均等割が非課税となる計算式はこうなっています。
32万円×(本人+控除対象配偶者+扶養親族)+19万円
=32万円×4人×19万円=147万円
(同一生計配偶者と控除対象配偶者は厳密にいうと違いますが今回は説明を省きます)
同じ家族構成でも2級地の二宮町に住んでいる場合は所得147万円を下回った場合が非課税です。
所得147万円は給与収入に当てはめると約235万円です。
神奈川県足柄上郡中井町(3級地)に住んでいる場合
こちらも同じ神奈川県ですが、3級地の中井町に住んでいるケースです。
均等割が非課税となる計算式はこの通りです。
28万円×(扶養人数+1)+17万円
=28×4人+17万円=129万円
妻も子も「扶養人数」でまとめられて、+1(本人)という書かれ方をしていますね。
3級地の中井町に住んでいる場合は所得129万円を下回ると住民税が非課税です。
所得129万円は給与収入に当てはめると約209万円です。
同じ家族構成でも住んでいる地域によって違いがありますね!
基本的には「級地」で計算式が分かれていますが、自治体ごとに端数の切り上げなど若干の違いがあります。
詳しくは自分のお住まいの市町村に必ずご確認ください。
妻がパートをしていたら?
もし夫の年収が255万円以下で、妻と子供2人を養っているとしたら、生活は相当苦しいことが想像できます。
色々なご家庭があるとは思いますが、このような状態になったら妻がパートに出るという選択肢もあるはずです。
では、妻がパートに出て年収255万円(※1級地の場合)を超えたら住民税非課税世帯ではなくなるのかというと、そうではありません。
妻が働きに出たとしても住民税非課税の枠内で働いていれば、世帯の全員が住民税非課税=住民税非課税世帯です。
妻の住民税非課税の計算
子どもの扶養は夫の方で計算した場合、妻は扶養親族なし(単身者と同様)で非課税ラインの判定をします。
先ほどの例でいくと、扶養親族がない場合の非課税ラインの計算はこのようになります。
横浜市(1級地)
前年の合計所得金額が35万円以下の人・・・パート収入100万円
二宮町(2級地)
前年合計所得金額が32万円以下・・・パート収入97万円
中井町(3級地)
前年所得が28万円以下・・・パート年収93万円
つまり
横浜市の場合 夫255万円+妻100万円=355万円
二宮町の場合 夫235万円+妻97万円=332万円
中井町の場合 夫209万円+妻93万円=302万円
の場合、住民税非課税世帯になります。
※それぞれが非課税であることが条件なので、合算の年収で判断することはできません。
扶養家族がいて世帯収入がずっと250万円程となるとあまり該当しないと思いがちかもしれませんが、2人で働いて350万円ぐらい(月の収入が30万弱)の世帯収入というご家庭はあるかもしれませんね。
住民税非課税世帯の様々な優遇措置
住民税が非課税になる世帯はやはり収入が少ないなど厳しい状況のことが多いです。
そのため、様々な優遇支援措置が設けられています。
◆0歳~2歳の保育料無償
◆高額療養費の限度額の優遇
◆就学援助
↑こちらは住民税非課税世帯ではなく、所得割が非課税になると対象になるようです。
◆高等教育の修学支援制度・給付型奨学金
後払い・給与天引きの住民税は気づきにくい
「住民税は後払い」という性質があります。
1年間の所得を計算したうえで翌年の5月ごろからその所得に対する住民税を支払うため、実際に稼いだ年と半年近いタイムラグがあります。
また、多くの人が給与天引きのみで支払っているため自分の住民税の金額を意識していないことがあります。
それまではずっと住民税を払っていたとしても、たまたま転職や産休・育休などで住民税非課税世帯になることもあるかもしれません。
住民税非課税世帯(や、それに準ずる状態)に対する支援は自己申告制のものも多いため、収入や働き方が変わるなどの場合は一度自分の住民税についてもどうなっているか確認しておきたいですね。
新型コロナウイルスの30万円給付の条件(20204月8日現在)
新型コロナウイルスによる30万円の給付の条件は
- 年収ベースで住民税非課税の水準
- 収入半減以上で住民税非課税水準の2倍以下
という情報もあります。
まだはっきりしていない部分が多いようですが、「住民税が非課税」という状態を知っておくことで、今回以外も優遇措置が使えることがあるかもしれません。ぜひご自身の状況を整理していただけたらと思います。