こんにちは、確定拠出年金相談ねっと 認定FP
アイマーク株式会社 代表の村松です。
マクロ経済スライドという言葉を聞いたことがありますか?とても難しそうな言葉に聞こえますが、実は私たちの将来の公的年金額に大きく影響を与える制度なのです。この記事では、マクロ経済スライドとは何か?また、マクロ経済スライドが年金額にどのような影響を与えるのかについて解説しています。
マクロ経済スライドとは?
年金受給者が受け取る年金額は、物価や賃金の変動率に応じて、毎年改定されています。年金額の増加を抑えるために、改定率を調整する仕組みのことを「マクロ経済スライド」といいます。
マクロ経済スライドはなぜ行われるのか?
物価や賃金が上昇するとともに、年金額も上昇しなければ、実質年金の価値は目減りすることになります。年金を年間200万円受け取れるとした場合に、世の中の物価が今よりも10%上昇したらどうなるでしょうか?物価上昇した場合、受け取れる年金額も10%増加しなければ、お金の価値が下がってしまいます。
そのため公的年金にも、物価や賃金が上昇するインフレ局面では、物価上昇率に応じて公的年金額も上昇していく仕組みがあります。しかし、マクロ経済スライドが発動されると、インフレ局面でも物価上昇率ほど公的年金額は上昇しません。
マクロ経済スライドで公的年金の上昇を抑制するのは、日本の年金制度が、今、年金を受け取っている高齢者の年金の原資は、今、働いている現役世代の年金保険料とする「世代間扶養」という仕組みを採用しているためです。
インフレ局面で、日本の公的年金額を物価上昇率と同じくらいに増加させてしまうと、過度に現役世代から多くの年金保険料をもらわなければならず、家計を圧迫してしまう可能性があります。そのため、物価上昇率が高くても、公的年金額の上昇を抑えるマクロ経済スライドという仕組みが存在しているのです。
マクロ経済スライドの仕組み
以下の事例は物価上昇率が1.5%であった時の例です。物価上昇率が1.5%であっても、スライド調整率※1)0.9%が反映し、公的年金額の改定率は+0.6%に抑えられてしまいます。
※1)…スライド調整率=公的年金全体の被保険者の減少率+平均余命の伸びを勘案した一定率(0.3%)
また、以下の事例は、物価上昇率がさほど大きくなく、スライド調整率を適用してしまうと、従来の年金額を下回ってしまうケースです。この場合は、公的年金額は調整されず、据え置きとなります。
また、以下は物価が下落したケースです。年金の改定率は物価下落率が下限となり、それ以上の公的年金額の引き下げはありません。
過去に発動したのは3回
マクロ経済スライドが導入されたのは2004年です。以来、日本では長年にわたる経済の停滞から、賃金や物価が下落傾向で、年金額の改定率もマイナス傾向が続きました。そのため、過去にマクロ経済スライドが発動されたのは、2015年、2019年、2020年の3回だけです。
物価・賃金が上昇しても年金はあまり増えない
しかし2018年4月から、キャリーオーバーという制度が導入となりました。キャリーオーバーとは、スライド調整率によって年金額が前年度を下回ってしまう場合、翌年度以降に未調整の分を繰り越し、賃金と物価が上昇した年度に調整するというものです。
2021年と2022年度はすでにキャリーオーバーが決まっています。つまり、将来的に物価や賃金が上昇しても、公的年金の改定率と、過去2回分のキャリーオーバーが残っているため、ほとんど年金額は増加しないことが予想されます。
資産運用を活用して、年金の不足を補いましょう
日本の年金制度は、物価や賃金の上昇にともなって本来は公的年金額も上昇する仕組みになっています。しかし、マクロ経済スライドとキャリーオーバーによって、公的年金の上昇率が抑制されている仕組みがあることをしっていましたか?
マクロ経済スライド、キャリーオーバーという言葉は大変かっこいい言葉に聞こえるかもしれません。そして、実態が大変わかりにくい制度ですが、要するに物価や賃金の上昇があっても、公的年金はそれほど増やしませんよ、という制度なのです。戦後、官僚が発明した最高の言葉が「マクロ経済スライド」だという意見もあります。言葉のニュアンスとは裏腹に、国民の年金はインフレが来ると減りますよという意味の言葉であることを十分理解する必要があります。
このように、一般の人が気づかないうちに、公的年金を取り巻く状況は悪化の一途をたどっています。そのため、資産運用を活用して合理的に老後の資産形成をなるべく早く行う必要があるのです。
まとめ
日本の公的年金制度は、本来、公的年金額の価値が物価に対して目減りしないよう、物価上昇率に追随して公的年金額も増加する仕組みを採用しています。しかし、マクロ経済スライドという仕組みによって、物価上昇率ほど公的年金は増加しない仕組みになっているのです。
こうした仕組みは一般の人はほとんど知りませんし、知ろうとしても非常にわかりにくい内容になっています。
少子高齢化によって年金財政が将来的に厳しくなる昨今、こうしたわかりにくい年金制度の改定は今後も行われる可能性があります。日頃から資産運用を活用して、合理的にお金を増やす方法を身に着けて備えておく必要があるでしょう。
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