こんにちは(^^)
経営者のキャッシュを増やし、資産を増やす社外CFO、ファイナンシャルプランナーの小川です。
随分お久しぶりの投稿になってしまいましたが、お休みしている間に石破茂氏が自民党総裁、総理を辞任され、高市早苗新総裁、新総理が誕生しました。
高市総裁が選ばれた辺りから株価も大きく上昇していますが、同時に気になるのは再び為替が円安に振れてきていることですね。
そして、インフレが進み、プラザ合意以後では例に無い歴史的な円安な状況で、高市政権が20兆円規模の積極財政を行うという経済政策に対して疑問を持っているという方も多いものです。
今回はそんな高市政権の積極財政についてとインフレについて、国債・金利・金融緩和・為替のつながりをわかりやすく整理してみます。
そして、今後私達はどのように行動していけば良いかを考えていただくきっかけになれば幸いです。
1.『積極財政』とは?
積極財政とは、「政府が発行する国債の規模を増やし、より多くの資金を民間に投じる政策」のことです。
政府が道路や防衛、教育などに大きく支出すれば、当然その財源として国債を発行します。
今回高市政権では、安倍政権からの継承する『国土強靭化(防災、減災、災害発生時のハード、ソフト面での対策)』に加え、昨年から国民民主党等が強く求めてきた税金の基礎控除の引き上げ等による可処分所得を増やすための政策、ガソリンの暫定税率の廃止による家計の負担減、そしてデジタル・サイバーセキュリティや、防災・国土強靭化、AI・半導体などの17分野を重点投資対象とした成長分野への投資を掲げています。
これにより、私達の可処分所得を増やすことにより国民、特に子育て世代がお金を使い易い状況を創ることで少子化の歯止め、国民生活の負担率の軽減を目指し、また日本経済の新たな強みとなる成長分野への投資を拡大することによる中長期的な経済成長を狙っています。
2.積極財政による金利と経済への影響は?
では、その財源となる国債を増やすことでどのような影響が起きるでしょうか?
国債を増発すると、一般論としては金利(=利回り)が上昇します。
まず、ここで弊害として考えられるのが、金利が上昇することにより景気にはネガティブな影響が出てしまいます。
例えば、金利が上がることで住宅ローンの返済負担が増え、変動金利で住宅ローンを返済している人は毎月の返済額が上がってしまい結果家計の負担になってしまいますし、企業の設備投資や住宅ローンの新規の借入も減ってしまうという影響が出ます。
そうなると、せっかく積極財政で景気を良くしようとしても、家計も借入を控え、消費が落ちてしまうことで積極財政の効果が“相殺”されてしまいます。
このことを経済学では『クラウディングアウト』と呼びます。
また、同時に、国債金利が上昇することで、国債への投資が増えることで円高になり、輸出企業の利益が減少することで積極財政の効果がキャンセルされるという理論もあります。これを『マンデルフレミングモデル』と言います。
3.積極財政とセットで行われるのが金融緩和
積極財政だけではせっかく景気を刺激しても金利上昇の影響によりその効果が薄れてしまうため、政府と中央銀行はしばしば「セット」で政策を行います。
金融緩和とは、日銀や各国の中央銀行(アメリカならFRB)が銀行が保有する国債を引き受け、預金を増やす政策です。銀行はこれにより低利で資金を貸すことができるようになり、お金を回すことができるようになります。
そのため、『景気が良い時=金融の引き締め』、「景気が悪い時=金融緩和』

といった経済政策が行われます。
実際、リーマンショックのときにはアメリカがまず過去に例を見ない規模で金融政策、及び財政政策を行い、未曽有の経済危機からいち早く立ち上がるべく対策していました。
政府:国債を増発して財政出動
日銀:支中の国債を買い取り、金利上昇を抑える(=金融緩和)
これにより、金利の上昇を抑制しながら政府が民間に投資することができ、景気拡大の効果を得ることができます。
世界では固定相場制・金本位制から大転換し、変動相場制・管理通貨制度へと移行した1971年以降、似た構図が繰り返されてきました。
その副作用として、アメリカを始め、日本も含めた世界各国で国債発行+金融緩和が行われ、世界中のマネーが過剰に供給されていることが大きく影響し現在のようにS&P500をはじめとした世界の株式インデックスが高騰してきました。
ただし、ここで生じる”副作用”が通貨安(円安)です。
4.為替とマネタリーベースの関係
金融緩和とは 「通貨供給量(マネタリーベース)を増やす」 ということです。
マネタリーベースでは中央銀行が直接供給するお金の量のことで、マネタリーベースを増やすと基本的には通貨価値が下がりやすくなります。
このマネタリーベースは基本的には日銀にある銀行の預金である「日銀当座預金」のことを言います。発行されている紙幣や1万円札も含まれてはいますが、金融緩和をすることで日銀が国債を銀行から買い入れても、増えるのは銀行の預金であって国民の預金ではありません。
お金は民間に渡って使わなければ世の中には出回らないのでここが注意が必要なポイントです。
そして、このマネタリーベースが為替に大きな影響を与えてきたことは過去の為替の関係を見ると一目瞭然です。こちらのグラフは3年ほど前に私が作成したものになります。

2000年の1月1日を1とした場合のマネタリーベースの推移をグラフ化しています。
これを見ると金融政策によって相対的なマネタリベースが変化してきたことで為替が大きく影響してきたことがわかりますね。
ちなみに、急速に円安へと舵を切り始めたのが2022年の3月11日からですが、それまでは1ドル=115円程度で、それまでの相場では少し円安気味という状況で、マネタリーベースの推移とほとんど一致しているんです。
大きく円安に振れた原因としては、アメリカではコロナ禍での積極財政によっていち早く景気が回復したと同時に、失業者給付が過剰に行われてしまったことなどでインフレが加速し、利上げを発表しました。
ところが、日本ではまだコロナ禍の真っ最中で飲食店などへの自粛要請も行っている最中、ゼロ金利を解除することができなかったのです。現在ではコロナ禍から脱し、経済は回復しているものの、「景気が良い」かは疑問が残るところです。なので政府、日銀は利上げには慎重になっています。
一方で、アメリカは利上げ、日本は低金利を維持という方針を受け、急速にドルへとお金が流れ、金利差が大きく開いたことにより過去類をみない円安ドル高となっています。
また、ロシアとウクライナの戦争により資源価格が高騰し、日本の貿易収支赤字が懸念されたことも原因の一つです。
このような理由で日本は現在のような円安となっています。そして、「国債を刷ったら円安になる」という論説は結果的に正解でもありますが、厳密には国債発行のみであれば金利が上昇しやすく“円高要因”と考えるのが経済学的には正しい考え方で、「積極財政=円安」というのは必ずしも正しいとは言えません。
国債を発行し、金利上昇を防ぐために金融緩和をセットで行うことでマネタリベースが増えて円安傾向になると考えるのが正しい理屈です。
“国債の増発=円安”ではなく、この誤解は非常によく見かけますので要注意ですね。
5.高市政権の経済政策で考えられることは?
さて、ここまで国債の金利、為替、マネタリーベースとの関係性を解説してきました。
では、高市政権の『責任ある積極財政』はどうなのでしょう?よく言われるように「インフレ時に積極財政はNG」なのでしょうか??
まず、高市政権の財政政策は、『国の稼ぐ力を強くする』という点がありますね。
「国の稼ぐ力が強くなる=通貨が強くなる」というのは世界共通の法則です。
アメリカでもGAFAMが急成長した背景には、政府の積極的な投資がありました。国防総省(ペンタゴン)やNASAを通じて、インターネット、半導体、GPS、クラウドなど基盤技術に巨額の研究開発費を投じ、民間企業がリスクを負わずに革新的技術へアクセスできる環境を整えてきたことが背景としてあります。また、大学への研究助成やベンチャー投資(DARPA等)が新産業の種を育て、規制よりも成長を優先する政策が大企業の台頭を後押し、その結果として世界の大企業のトップをほとんどアメリカが占めているほどに成長してきたのです。
仮に日本で高市政権の経済政策により、重点17分野の産業が強くなり、成長して大きな利益を出せるようになれば、賃金が上がり、そしてその結果消費が増えることで国内の経済が豊かになっていくというシナリオも考えられます。
もしそうなれば、海外から日本へ投資資金が入り、これは“円高要因”となります。
つまり、現在一時的な円安にはなっていますが、これは片山さつき大臣の答弁にもあるように想定の範囲内で、経済政策が上手くいけば中長期的には為替は元の相場に戻ることも予想されます。
また、税収の上振れも考えられますので、税収が増えることにより財政収支は均衡に向かい、現在国債を増発していても、後々はそれを抑えることができるでしょう。
また、 「インフレなのに積極財政は間違い」というのは表面的にはたしかに正しいように思えますが、今の日本のインフレは、海外からの輸入品の価格の上昇による“コストプッシュ型インフレ”で、円安も相まって資材の高騰に繋がっています。国内の景気が良くなり、需要がけん引して起きる“デマンドプル型インフレ”とは異なります。
このような場合、国民の生活負担が増え、企業もコストが増えることで経営が圧迫されてしまいますので、景気を抑制しなければならないような状態ではありませんから、景気の冷え込みを防ぐために減税や給付金等の経済政策は必要と言えます。
ただし、積極財政+金融緩和により為替が中長期的に円安に向かってしまえば結果更に負担を増やしてしまうことにもなってしまいます。ですので、今の円安が中長期的に続くものなのか、経済政策が上手くいき、国力を強くすることで投資を呼び込み是正できるものなのかが論点となるポイントであることと、金融政策、財政政策をいかに他国の政策とのバランスを取りながら、状況を見て調整していくかも重要な視点と言えます。
6.私達が考えるべきことは
結論として、高市政権の狙いは一時的な円安を容認しながら、中長期的な経済政策で日本の経済成長を目指し、国力を強くすることで為替の安定、それに伴う税収増で財政収支を適正化することです。
積極財政は“インフレの時はNG”という単純な話ではなく、今の日本のコストプッシュ型のインフレを考えれば一定の合理性があります。
そして、目論見通りに政策が成功すれば、長年続いた日本の低迷から復活し、デマンドプル型の「良いインフレ」が起こる可能性すらあります。
私個人は、高市政権の掲げる「責任ある積極財政」 に期待しており、日本経済が再び力を取り戻すことを願っています。
ただし、失敗すれば経済は活性化せずに通貨安により私達の生活や経営が圧迫されてしまうというリスクもあります。
高市政権の経済政策については賛否両論ありますが、どちらが正解かは何年か後になってみないとわからないというところでしょう。
いずれにしても言えることは、どちらに転んでもインフレが予想されることで、私達が考えるべきことは将来的なインフレからどう資産を守るかを考えることです。
そのために、長期分散投資の考え方で『守りの投資』を実践し、インフレによるお金の価値の下落から私達の資産を守っていきましょう。
そして、その方法として、最近ではNISA口座でS&P500やオルカンのインデックス投資が主流ですが、実はこれも注意が必要です。
過去の米国株の値動きを見ると米国株一択で良いという意見もありますが、次回はそんな米国株一択のリスクについて解説していきたいと思いますのでお楽しみに。
最後までご覧いただきありがとうございました。