ご相談者様 DATA
【年齢】 23歳
【職業】 大学生
【性別】 男性
【家族構成】 両親、妹
相談しようと思ったきっかけ
母が参加したiDeCoセミナーの話をききました。とてもお得にお金が貯められる仕組みだと言っていましたが、母は56歳なので、貯められる時間があまりなく残念がっていました。母は、若い人ほど自分でお金を運用したりしていかなければならないのだから、僕にもiDeCoに加入したら、と言ってきました。確かに将来の不安を考えたらやってみても良いかも知れないと思いネットでも少し調べてみましたが、詳しいところがよくわからなかったので、セミナー講師の寺田さんに相談しました。
ご相談内容
iDeCoは20歳から始められるようですが、僕のような大学生でも始められますか?
現在、大学3年生、塾講師のバイトをして月4万ほどの収入があります。自宅から通っており、家へは特にお金は入れていないので、月1万円くらいの貯金はできそうです。
ご相談でお話しした内容
学生でもiDeCoはできます。
平成29年1月から、基本的に20歳以上60歳未満のすべての方が加入できる制度に改定されました。しかし、20歳以上の学生は改定に関係なく、以前から加入することができました。加入金額は下表の「自営業者等」と同様第1号被保険者に該当し、月額68,000円が上限になります。
(SBI証券サイトより URLはこちら)
但し、そもそもiDeCoは将来の公的年金の上乗せとして、皆さんに自分年金を育てていただくため、国が提供している制度ですので、iDeCoを始めるには「毎月国民年金を納めていること」「国民年金の免除制度を受けていないこと」の2つの要件が必要です。
学生でも20歳以上の場合、第1号被保険者として、国民年金を納める義務があります。ご相談者様の状況を伺うと、ご自身で国民年金は納めていらっしゃらないようですので、ご両親に納付状況はどうなっているか確かめることが必要です。または、お誕生月にご本人宛へ送られている「ねんきん定期便」をみてみましょう。
毎月ご両親が納めてくださっているのであれば、「国民年金納付状況」の欄に「納付済」と書かれていますので、iDeCoを始める要件を満たしています。
納めていなければ「未納」と書かれていますので要件を満たしていません。
「学特」と書かれている場合は、20歳以上の学生に認められている「学生納付特例制度」を申請し、在学中の国民年金保険料納付を猶予させている表示ですので、免除制度を受けていることになり、iDeCoの要件を満たしていないのでできません。
要件を満たしていれば始めた方がいいのか?
仮に、国民年金を納めていた場合、お小遣いとして寄せている1万円で「iDeCo」を始めた方がいいのでしょうか?
お話を伺うと、iDeCoは運用商品を自分で決めるという点にも興味があるようですので、「資産運用の勉強」という意味ではよいかもしれませんね。
おっしゃるとおり投資の勉強をiDeCoの仕組みを使ってやってみたいというお考えは素晴らしいと思いますが、FPとして個人の資産形成のお手伝いをしている身としては、iDeCoを始めるのは経済的に自立してからでも良いのではないかとも考えます。
ご相談内容から、定期的な収入があり、1万円は積み立てできる範囲とお考えのようですが、経済的に自立している訳ではありません。生活するうえで必要な食費、水道光熱費、国民年金保険料、また、大学の学費も安くはありませんね。親御さんが国民年金保険料を払ってくださっているのであれば、「iDeCo」を始めるより、まず、大人の義務として、ご自身で国民年金保険料を払うことが先決と考えます。
また、塾講師として年間48万円の所得がありますが、所得税の支払いはしていないので、iDeCoの大きなメリット掛金全額所得控除を受けることができません。
「iDeCo」は60歳まで積み立てていくことができます。就職し安定収入を得るようになってからでも十分積み立てることができるのではないでしょうか?
職業によってどの位積立額が違うのか?
就職し安定収入を得られるようになり、30歳から60歳まで各職業の上限額で「iDeCo」を運用された場合、「自分年金」をどの位作れるか、また、どの位節税できるか試算してみましょう。
1.民間のサラリーマンの場合
年金区分は、第2号被保険者となり厚生年金加入者となります。企業により確定給付型の年金(企業年金)を採用していることもありますが、制度がないと仮定します。厚生年金加入者の場合、公的年金が1階国民年金部分、2階厚生年金部分と手厚くなりますので、自営業者の第1号被保険者に比べ、上乗せ部分の上限額が低く設定され、23,000円です。
2.公務員の場合
平成27年10月に共済年金から厚生年金へ統合され第2号被保険者となりました。それに伴い、3階部分の職域年金相当分が廃止され、新たに退職等年金給付に変わりました。民間企業の企業年金等に変わる部分となりますが、統合前に比べると年金受給額が減ってしまったため、平成29年1月から公務員にも「iDeCo」の枠が設けられました。
上限額は12,000円です。
3.自営業の場合
第1号被保険者となり、国民年金、1階部分のみの加入になります。国民年金は厚生年金保険料の計算方法と違い、所得によって保険料や将来受け取る年金額が変わるわけではありません。今年度の保険料は月額16,490円 年金受給額は20歳から60歳まで満額納めた場合 779,300円です。月にすると約65,000円です。老後暮らしていくのには、とても足りない年金額ですね。ですので、自営業者の場合、上乗せの上限額が他に比べて大きくなっており、上限額は68,000円です。
それぞれの上限額を毎月30年間積立し3%の運用益を見込んだ場合
民間サラリーマン | 公務員 | 自営業者 | |
投資元本 | 828万円 | 432万円 | 2,448万円 |
運用益 | 506万円 | 264万円 | 1,497万円 |
合計 | 1,334万円 | 696万円 | 3,945万円 |
年収400万円 所得税率10%の場合 30年間の節税額
民間サラリーマン | 公務員 | 自営業者 | |
節税額 | 165万円 | 86万円 | 489万円 |
お仕事により上限額は違いますが、「iDeCo」を使うと、 掛金全額控除 運用益非課税 をフルに使うことで、将来の自分への仕送りが大きく膨らみます。さらに、60歳以降の受取時に退職所得控除、公的年金等控除を受けることができるので、膨らんだまま受取ることができます。安定収入を得るようになったら、目標額を設定し一日も早く「iDeCo」を始めましょう。
まとめ
今回のご相談はiDeCoをすぐにでも始めたい!というとても前向きなご相談でした。
ですが、「自分年金」と言われているように、自分のお金を自分で積立て自分で運用するのがiDeCoです。ご自身の生活を自分で支えられるようになってから始められることが賢明ではというアドバイスに納得していただきました。これから大学院へ進むことも考えており、就職はもう少し先。就職の際には、会社に企業型確定拠出年金の制度があることも、選択の目安にしてみるそうです。中小・零細企業ではまだまだ企業に制度があるとは限りませんので、その時は「iDeCo」加入についてご相談いただくことになりました。
ただし、資産形成の大切さや経済的に自立すること、公的年金の問題点等についてはとてもしっかり考えられているので、まずはご両親がiDeCoをするべき!と次回はご両親と面談させていただくことになりました。頼もしい若者です。