退職金の上乗せがあり早期退職。企業年金と企業型DC(企業型確定拠出年金)の最適な受取方法は?

相談者様DATA

【お名前】香山李生(仮名)

【年齢】 58歳

【職業】 会社員

【性別】 男性

【家族構成】 妻(57歳・パート)・子(子どもは社会人)

(住宅ローンが残っているが、60歳で完済の予定。)

相談しようと思ったきっかけ(アンケート抜粋)

(奥様からの相談です)

夫が突然、早期退職をすると言い出しました。定年まであと1年と半年ありますが、早期退職すると何割か退職金を多めに貰えるという条件があり、ちょうど早期退職者を募集していたので決めたそうです。年金を貰うまでは定年後も働き続けると言っていたのに、寝耳に水です。

ただ、退職後は失業手当を貰いながら求職活動をするようです。

企業年金は全額退職一時金で受け取ると言っていましたので、家計は切羽詰まった状態ではありませんが、もしこのまま年金生活になるようなことになると心配です。また退職金に税金がかかってしまったと言っていました。

他に会社で企業型DC(企業型確定拠出年金)に13年加入しています。60歳になったら分割で受け取ると言っていました。こちらの方が得だと会社の人に聞いてきたようですが、何故でしょうか。

運用は企業型DCだけで、あとは何もやっていません。

回答

再就職の時に考える事。退職一時金は優遇されているが・・・

企業年金を退職一時金として受け取る場合、退職所得控除が使えます。

例えば勤続35年で2,000万円を受け取る場合、800+70×(35-20)=1,850万円の退職所得控除が使えるので、2,000-1,850=150万円。さらにその半分の75万円が課税対象になり、国税庁の速算表より75万円×5%×102.1%=382,875円の所得税と復興特別所得税が源泉徴収されます。他に住民税が75万の10%かかりますが、それで課税関係は終了します。分離課税のため他の所得と合算されませんし、社会保険も掛かりません。

ところで、退職一時金に税金がかかったと言われたのは、企業年金の退職一時金が退職所得控除額を上回ったということ、即ち、退職所得控除の非課税枠を使い切ったと言うことです。

確定拠出年金(DC)の老齢給付は60歳以降の受け取りですが、ここで一括受取をすることも可能で、その際は退職所得控除を使うことが出来ます。しかし、前述のとおり、今回退職所得控除を使いきってしまったため、企業型DCで使えるのはこれから60歳までの加入期間のみとなります。このようにDCの加入期間が企業年金に丸かぶりの状態でDCの老齢給付を一時金で受け取ると、企業年金と重なっている分の加入期間が企業年金に使われてしまいDC受取時にはその期間分の退職所得控除はなくなっています。実は一度使った退職所得控除は後から受け取る退職金(DCもその一つ)を一定の期間開けて受け取ると再度使えるようになるルールがあるのですが、DCを後で受け取る場合先の退職金受け取り方15年空けないと再度利用することが出来ないのです。(2022年4月以降はこの開けるべき期間が20年となります。)つまりご主人の場合DCを60歳で一括受取をするのはメリットが少ないと言えます。

しかし、DCは分割で受け取ると、毎年の受け取り額から公的年金控除を差し引くことができます。この金額は65歳未満とそれ以上とでは異なるのですが、会社の方が得だとおっしゃったのは、ここに理由がありと考えます。また、ご主人様は再就職される予定とのことですが、60歳以降も厚生年金に加入しながら働いていると、在職老齢年金の制度により給与の額によっては老齢厚生年金が一部あるいは全部カットされてしまうこともありますが、DCの年金受取は公的年金ではないので、年金カットの対象にはなりません。



再就職が決まっていないなら、企業型DCをiDeCoに移換

香山さんが加入している企業型DCですが、退職により企業型DCの加入者資格が無くなってから6ヶ月後、何もしないでおくと国民年金基金連合会という国の機関に自動移換されてしまいます。自動移換されてしまうと現金のままで管理され、運用指図が出来ません。

さらに、自動移換されるときに特定運営管理機関手数料3,300円、連合会手数料1,048円、そして自動移換されてから4ヶ月経過すると自動移換されている間中ずっと月に57円の手数料が掛かってしまいます。資産が減っていく一方になります。

それだけでなく、60歳になって受け取る場合も、自動移換のままでは受け取れません。結局の所、自動移換から企業型DCやiDeCoに資産を移さなければなりません。その場合に、特定運営管理機関に1,100円の手数料が必要です。(さらに放置すると、強制裁定で4,180円かかります。)

一方、iDeCo口座を開設する場合、開設手数料が2,829円+運営管理機関の手数料、毎月の口座管理手数料が171円+運営管理機関の手数料(積立を行わない場合は66円+運営管理機関手数料が掛かります。(運営管理機関が手数料を取らなくても、国民基金連合会や事務委託先金融機関の手数料がかかります。)

よって、自動移換されてそのまま放置して受け取る場合、最低3,300円+1,048円+1,100円=5,448円を特定運用管理機関へ、iDeCo開設費用2,829円を国民基金連合会へ、合計8,277円を支払う必要があります。(iDeCoから払い出すときも費用は掛かります)

香山さんは退職後1年半で60歳の誕生日を迎えるとのことですが、6ヶ月後に自動移換され、さらに4ヶ月後から月々の手数料を取られます。

放っておくと費用はどうなるかですが、自動移換前にiDeCoに移換する場合と、自動移換されてから引き上げる場合を比較すると、iDeCoに加入した期間をxとすれば、自動移換で余計にかかる費用5,448+(x-4)57とiDeCoの加入期間の口座管理費用171x より、5,448+(x-4)57=171x (171-57)x=5,220  x=45.7 となり、46ヶ月からでないと自動移換の方の費用が安くなりません。

退職後、自動移換される前に企業型DCがある企業に転職が決まれれば、転職先で手続きをします。そうで無い場合は、iDeCo口座を開設し企業型DCの資産を移換しなければなりません。口座開設を申し込んでから開設までに2~3ヶ月みておきましょう。

iDeCoに移換した後に企業型DCにある会社に就職したら

もし再就職先に企業型DCがある場合、やはり手続きが必要です。仮に自動移換されてから新しい企業型DCにそれまでの資産も含め移換する場合は5,448円(4ヶ月以降は月々57円)かかります。一方iDeCoに移換した後でDCに移換する場合は口座開設2,829円の他、移換する場合に運営管理機関によって4,400円程掛かるところもあります。つまりケースによってはiDeCo後に移換する方が、自動移換後に移換するよりも高くなってしまう場合がありますので注意が必要です。ただし、iDeCoに移換した資産は、企業型DCの別途加入者となっても、運用指図者としてのiDeCoのまま保有し運用を継続することができますから、結論として無理に企業型DCに移換する必要はありません。

また、令和4年10月1日より、企業型DC加入者のiDeCo加入の要件が緩和されます。これまで、企業型DCが導入されているところは、規約でiDeCo併用が認められていないと加入が出来ませんでしたが、月額2万円を上限とし、5.5万円から事業主掛金を差し引いた残りの枠で、iDeCoに併用加入が出来るようになります。マッチング拠出を導入しているところも、マッチング拠出かiDeCo併用かを選べるようになります。

DCのメリットを利用しましょう

60歳を迎えられたときに分割で受け取る事を決められた香山さんですが、60歳からも再就職先が見つかれば働き続けられるとのこと。

確定拠出年金改正により、令和4年5月から、企業型DCの加入可能年齢が70歳(厚生年金被保険者)かつ規約で決められた年齢まで可能となりました。また、会社員(第2号被保険者)であれば65歳までiDeCoに加入する事が出来ます。

ただし、加入要件を満たしていても、企業型DCを受け取ってしまったら企業型DCに再加入が出来ません。同様にiDeCoを受け取ってしまったらiDeCoに再加入は出来ません。

香山さんは、企業型DCのあるところに転職すれば、企業型DC加入者となりますが、そうで無ければiDeCo加入者です。60歳の時点で必要ならば受け取るのも良いですが、収入がある間は大きな節税メリットがある確定拠出年金を利用してはいかがでしょうか。

他に投資はやっていないとのことなので、令和4年4月からは75歳まで非課税で運用が出来る制度を利用することも、選択肢の一つとされるのも良いかもしれません。

~相談を終えて~

香山さんは、ボケずに健康でいるためにも、出来るだけ働き続けたいとのことですが、体力的に今の職場では辛く、退職を決められたそうです。

奥様は扶養の範囲で働いていらっしゃるとのことで、香山さんの退職に伴い社会保険をどうするかについてもお話ししました。(これについては省略します。)

DCについては、受け取られるのも運用を続けられるのも、60歳になられた時の状態によります。今回は突然のことで奥様の混乱しているところもありましたので、まずは状況の整理にとどめました。結論としてご主人様には様々なオプションがありこれからじっくり考えることもできるので慌てずじっくり考えることが肝要です。とはいえ、これからの時間も長いので、後日あらためて、お話を伺うことになりました。香山様の幸せな人生100年プランのお手伝いをさせていただければ幸いです。

【出典】

厚生労働省HP 2020年の制度改正

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/kyoshutsu/2020kaisei.html

https://www.mhlw.go.jp/content/12500000/000823718.pdf

国税庁 退職手当等に対する源泉徴収

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2732.htm

厚生労働省HP 令和3年度 税制改正の概要 (厚生労働省関係)

https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000707146.pdf

国税庁 別紙 退職所得の源泉徴収税額の速算表

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2732_besshi.htm

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/kyoshutsu/2020kaisei.html

この記事を書いた人
林 智慮

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