54歳、資産は1億あります。来年早期退職できますか?

この記事を書いた人
前田 菜緒

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ご相談者様データ

(年齢)54歳  中田久典様(仮名) 東京都在住
(職業)会社員
(家族構成)妻54歳(会社員)、長男22歳

相談しようと思ったきっかけ

自分の健康寿命を考えた時「あと20年くらいかもしれない。」「この20年を悔いのないように過ごすために、これからは仕事優先ではなく自分のやりたいことを優先して生きていきたい」と思うようになりました。

「資産も1億あるし早期退職が実現できるかもしれない」と思うものの「本当に1億で足りるのか、お金が足りなくなっては、やりたいこともできないどころか、生活もできない」という不安が常にあり、退職に踏み切れずにいます。

そこで、前田さんに相談をお願いすることにしました。前田さんのことは、同じ会社の北野さんからの紹介です。北野さんは、以前、老後のための資産形成について前田さんに相談したようで、北野さんから前田さんをお勧めされました。

現在の資産1億円あれば、来年、早期退職は可能でしょうか。プロの目で判断してもらいたいので、よろしくお願いします。

ご相談の内容

中田様、この度はFP相談にお申し込みいただきましてありがとうございます。北野様からの紹介とのこと、とても光栄です。

中田様は、54歳という年齢で早期退職をご検討されているとのこと、そのための資金として8,000万円の投資信託と2,000万円の預貯金、合計1億円の資産を築かれたのですね。素晴らしいですね。長年、地道にコツコツ積み上げてきたことが想像できます。

それでは、早期退職が可能かどうか確認していきましょう。

来年退職は不可能だが3年後なら可能性あり

結論から言うと、来年の退職は生活コストの観点からリスクが高くおすすめできません。

現在、生活水準が高く、この生活を維持したまま、かつ長生きに備えることを考えると、来年の退職では資金がショートする可能性が高いです。しかし、3年間、仕事を継続し、その間、積み立て投資により資産を増やすことによって早期退職の可能性が高まります。以下、詳細なシミュレーションです。

1. 来年(55歳)退職した場合の今後の収支予測

① 55歳〜64歳までの収支(10年間)

55歳で退職する場合、年金を受給する65歳までの生活費をどう補うのかが課題です。幸い、奥様は少なくとも60歳までは働く予定です。奥様の現在の年収は300万円、60歳まではこの年収をキープできます。また、中田様は年収100万円程度でアルバイトすることも考えています。

よって、毎月の収入は下記の通りとなります。
妻:手取り20万円
夫:手取り8万円  世帯合計:28万円

一方、現在の毎月の生活費は45万円のため、17万円不足することになります。生活費も含めて、現時点で予想できる不足額は以下の通りでした。

<不足額>
生活費 17万×12ヶ月×10年=2,040万円
住居費(固定資産税・火災保険) 18万円×10年=180万円
車購入 380万円
自動車維持費 自動車税・車検・保険料・駐車場代 40万円×10年=400万円
旅行費用 年間20万×10年=200万円
キッチン・浴室リフォーム 500万円
合計:3,700万円

この10年間だけで、資産1億円のうち約3,700万円を取り崩す可能性があることがわかりました。

② 65歳〜95歳までの収支(30年間)

65歳から年金を受け取ることができますが、ここで、早期退職による年金への影響が出ます。中田様のねんきん定期便によると、65歳から基礎年金79万円、厚生年金141万円、合計年間220万円の見込額となっています。

中田様のねんきん定期便

定期便に記載された見込み額は現在の年収が60歳まで続いた場合の金額です。早期退職をすると厚生年金の金額が減るため、記載の金額より減ることが予想されます。55歳で会社員を辞めた場合、60歳まで働く場合に比べて厚生年金の加入期間が5年短くなります。減額となる年金額を計算したところ、年収1,000万円の中田さんは定期便の金額より年間約27万円減るとわかりました。

したがって65歳以降の毎月の収支と不足額は以下の通りとなります。

想定年金額(手取り)
夫:14万円
妻:13万円 夫婦合計:27万円

<不足額
(生活費40万―年金27万)×12ヶ月×30年=4,680万円
住居費(固定資産税・火災保険) 18万円×30年=540万円
自動車維持費:40万円×10年=400万円(75歳まで保有するとする)
旅行費用 年間20万×10年=200万円
臨時費用 500万円

合計:▲6,320万円

65歳以降の人生を30年と考えると、現在の1億の資産は下記のような推移になると予想できます。

年齢期間収支(不足額)資産残高(運用益含まず)状態
現在(55歳)10,000万円スタート
65歳時点▲3,700万円6,300万円
95歳時点▲6,320万円▲20万円資金ショート

このように、今の生活水準を維持する場合、人生100年時代と言われる現代において、95歳前に資金が尽きる計算となります。これを防ぐには支出を減らすか収入を増やすしかありません。しかし、生活水準を下げることは、簡単ではありませんし、中田さん自身も支出を減らせる自信がないと言います。

2. 退職時期を3年後(57歳)にした場合の今後の収支予測

そこで、筆者は、あと3年、現在の会社で勤務を継続した場合のシミュレーションを行いました。すると、退職時期を3年後に延長することで95歳時点でも資産を約2,000万円残すことが可能であるとわかりました。あと3年働くことで、資産の取り崩し開始時期を遅らせることができるだけでなく、その間の給与収入で資産をさらに積み増すことができます。また、厚生年金の加入期間が延びるため、将来の年金受給額の減少を食い止めることもできます。

以下が、収支改善の効果の計算結果です

① 57歳〜64歳までの収支(8年間)

<不足額>
生活費 17万×12ヶ月×8年=1,632万円
住居費(固定資産税・火災保険) 18万円×8年=144万円
車購入 380万円
自動車維持費 自動車税・車検・保険料・駐車場代 40万円×8年=320万円
旅行費用 年間20万×8年=160万円
キッチン・浴室リフォーム 500万円
合計:▲3,200万円

2年働くことによって、不足額は3,700万円から3,200万円に減りました。さらに、この間は中田さんの収入だけで生活ができるため、奥様の稼ぎは全額貯蓄することができます。

2年働くことによる収入増:妻手取り240万円×2年=480万円

② 65歳〜95歳までの収支(30年間)

2年長く厚生年金に加入することで、年金減少幅は年間27万円から17万円程度抑えられます。これにより、65歳以降の年間収支が10万×30年=300万円改善します。つまり、65歳以降の不足額が約6,300万円から約6,000万円に300万円減ることになります。

【2年後退職時の資産推移予測】

年齢期間収支(不足額)資産残高(運用益含まず)状態
退職時(57歳)+480万円(妻収入分)10,480万円妻手取り分を資産増とする
65歳時点▲3,200万円7,280万円
95歳時点▲6,000万円1,280万円黒字

退職時期を3年後に延長をすることにより、95歳時点で資産残高に約1,000万円の余裕が生まれることがわかりました。また、現在保有している8,000万円の投資信託の運用を続けることにより、さらに余裕のある老後資金計画になる可能性があります。健康寿命をあと20年と考えていらっしゃるので、運用期間も20年あるかもしれませんね。

ご相談を終えて

今回のご相談を通じて明確になったのは、早期退職が可能かどうかを決める最大の要素は、単純な資産額の大きさではなく、日々の生活費の水準であるという点です。中田様は1億円という十分大きな金融資産をお持ちですが、現在の生活コストを維持したまま退職時期を早めると、長い期間の老後の家計に大きな負担がかかることが分かりました。

一方で、今回のように将来の収支を具体的な数字に落とし込んで確認したことで、「なんとなく不安」という状態から、「あと何年働けば退職が現実的になるのか」がはっきり見えるようになりました。中田様も「漠然と大丈夫かな。と、思っていましたが、数字が出ると明確になるので不安がなくなりました。来年の退職は難しいこと、とはいえ、3年働けば今の生活を維持したままでも、早期退職が現実になる可能性があることがわかり納得できました。相談して良かったです。」と、おっしゃっていました。

あと3年は就業を継続するという方針で進めるのが安心できる選択です。そして3年後、実際の資産残高や年金見込み額、生活費の変化をあらためて確認したうえで、最終的な退職時期を判断していきましょう。その際には、ぜひまたご相談ください。中田様が安心して次の人生のステージへ進めるよう、引き続きしっかりサポートさせていただきます。

この記事を書いた人
前田 菜緒

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