大地 恒一郎

投信協会のアンケート結果にみる「つみたてNISA」と「iDeCo」(前編)

2020年3月、投資信託協会は毎年実施している投資信託に関するアンケート調査の2019年分を公表しました。アンケート調査は大きく三つに分かれていて、全国20,000人に対し実施された「投資信託全般に関する調査」と「NISA、iDeCo等制度に関する調査」、そしてもう一つは全国約5,000人に対し実施された「60歳代以上を対象にした調査」です。

この稿では、「つみたてNISA」や「iDeCo」に関する最近の傾向が分かる、「NISA、iDeCo等制度に関する調査」のアンケート結果を見ていくことにします。そして、ファイナンシャルプランナー(FP)として、この結果に対し、どのように貢献できるのかを考えてみたいと思います。

その前に、個人的にとても印象的なことが、「投資信託全般に関する調査」の結果の中にあったので触れておきたいと思います。

若年層にも広がりつつある投資信託

それは、「投資信託の保有状況」の結果です。2019年の調査で、「現在保有している」と回答した方は22.3%と、前年2018年の14.7%から7.6ポイントも増加していたのです。今まで高年齢層の投資信託の保有率は高い傾向にありました。

しかし、今回私が注目したのは、20代、30代、40代の保有率が大きく伸びていたことです。2018年に、20代は7.6%、30代は11.0%、40代は12.6%の保有率でした。それが2019年には、それぞれ、14.9%、20.3%、21.2%と大きく増加していたのです。

この要因は明らかにはされていません。ただ、「投資信託に特に魅力を感じる点」という問いに対する20代、30代の方の回答は、他の世代同様、「少額でも分散投資ができる」が一番く、特にその比率はそれぞれ36.8%、34.8%と突出していました。そして、「専門知識や時間がなくても投資ができる」、「少額でも投資の面白みがある」、「積立投資ができる」という理由を加えた4つの選択肢の合計は、20代が約69%、30代が約67%、と7割近くを占めていました。これは、この後に見ていく「つみたてNISA」や「iDeCo」の特徴と重なる部分もありますので、もしかすると関連しているのかもしれません。いずれにしろ、若年層で投資信託の保有率が高まっていることは、注目すべきことかと思います。

それでは早速、「NISA、iDeCo等制度に関する調査」の結果を見ていきましょう。

「つみたてNISA]や「iDeCo」を知ってますか?

この調査は、「NISA」、「つみたてNISA」、「ジュニアNISA」、「企業型確定拠出年金」、「個人型確定拠出年金(iDeCo)」という5つの制度の、それぞれ「浸透状況」や「今後の利用意向」などを確認したものです。また、この調査にはもう1つ、「ETF、Jリートの浸透状況、今後の購入意向」の結果も含まれていましたが、今回は省略します。

まず、この5つの制度の認知状況ですが、認知率(「名前も制度の内容も知っている」と「名前は知っているが制度の内容はよく分からない」の合計)は、各制度とも2018年より増えていました。中でも、「NISA」の認知率は76.4%と最も高く、2018年の61.8%から14.6ポイントも増加しています。これに続くのは「つみたてNISA」で60.7%、2018年の50.0%から10.7ポイントの増加です。三番目に認知率が高かったのは「個人型確定拠出年金(iDeCo)」で54.7%と、こちらは2018年の39.5%から15.2ポイントも増加していました。

ただ、「名前も制度の内容も知っている」という制度内容認知率でみると、「NISA」で27.5%、「つみたてNISA」で18.9%、「個人型確定拠出年金(iDeCo)」で14.7%と、制度内容の理解はまだまだ進んでいないという状況です。

多くの方がこれら制度の名前を知るようになり、認知率は上がっているのに、その半数以上の方は「制度の内容はよく分からない」ということなのです。この結果を見ると、私たちFPは、これら制度の内容を、もっと広く、もっとわかりやすく、伝えていく必要があると痛感しました。

次に各制度を知っている方の利用状況を見てみましょう。

「つみたてNISA」や「iDeCo」は知ってるけど…

各制度を「知っている」と答えた方で口座開設をされている方は、「NISA」が28.0%、「つみたてNISA」が11.2%、「iDeCo」は11.9%と、非常に少ない状況です。

逆に各制度を「知っている」のに、「今まで口座を開設したことはない」と答えた方は、「NISA」が69.6%、「つみたてNISA」は87.4%、「iDeCo」も85.3%と、とても多くなっています。

また、「NISA」と「つみたてNISA」の口座を開設された方で、3割前後の方は「口座は開設したけど金融商品未購入」という状況でした。

私は、制度を「知っている」けど「口座を開設したことがない」方の割合が、とてつもなく多いことに衝撃を受けました。きっと何か、口座開設に至らない理由があるのでしょう。それは何なのか、続きを見ていきます。

アンケート調査ではこのあと、各制度でどういう金融商品を保有しているかという調査結果の解説に続きますが、本稿では口座開設に至らない理由を探るため、その先の調査結果を見ていきたいと思います。つまり、各制度を「知っている」という方々が、今後どういうきっかけがあれば、口座を開設し金融商品を購入しようと思われるのか、また今後制度を利用する意向はあるのか、などです。

「投資に無関心」=「資産形成に無関心」??

初めに「NISA」の口座未開設の理由ですが、多かったのは、「投資自体に関心がない」(25.7%)、「投資の知識がない」(18.1%)、「投資に回すお金がない」(17.0%)というものでした。また、口座開設を検討するきっかけになることとして挙げていたのは、「手取り収入が増えたら」という理由でした。

個人的には、ここはFPの出番なのかな、と思っています。FPは、経済的な理由で口座開設や投資に踏み切れない方々にも、資産運用は大切であるというメッセージをきちんと届ける必要があると思っています。そして、家計や貯蓄、投資に関して、できることとできないことを明確にして、その上で、「投資信託の魅力と感じる点」にあげられていた、「少額でも分散投資ができる」ことや、「少額でも投資の面白みがある」ことなどを、丁寧に説明していく必要があるのではないかと考えます。

「投資自体に関心がない」という方が、果たして資産形成にも無関心なのでしょうか。
決して、そんなことはないはずだと思います。
私は、誰もが安心できる老後を実現するため、身の丈に合った投資というものは資産形成のための有力な選択肢の一つになると思っています。この「NISA」でも、実は1,000円から積立投資を始められるということは、FPとしてしっかり発信していきたいと思います。

次回は「つみたてNISA」と「iDeCo」を見ていきましょう。