大地 恒一郎

投信協会のアンケート結果にみる「つみたてNISA]と「iDeCo」(後編)

前回に続き、2020年3月に公表された投資信託協会の投資信託に関するアンケート調査の結果を見ていきましょう。前回は、「NISA」の口座未開設の理由まで見てきました。
今回はまず「つみたてNISA」です。

「つみたてNISA」に明るい兆し?

「つみたてNISA」の口座を開設している方は、「知っている」と回答した方、12,136人のうち11.2%にとどまっています。そして約87%の方が、「今までに口座を開設したことがない」と回答されていました。
では、「つみたてNISA」の口座を開設しない理由は何なのでしょうか。
「特に理由がない」を除くと、「投資自体に関心がない」(18.4%)、「投資に回すお金がない」(15.2%)、「投資の知識がない」(14.5%)という順になっていました。
ここでも、「投資に無関心」が大きな理由となっています。

また、「つみたてNISA」の口座を開設している方で、口座は開設したのに金融商品を未購入である理由は、何でしょうか。
その一番大きな理由は、「どの商品を購入してよいかわからない」というものでした。
実はこれ、「NISA」においても同じでした。その次は、「経済状況など商品購入のタイミングを見定めている」、「投資に回すお金がないから」が続きます。
そして、金融商品を購入するきっかけとなるのは、「金融や投資を勉強して理解できたら」、「貯蓄が一定額に到達したら」、「手取り収入が増えたら」が上位を占めていました。

この結果をみると、ここもFPとして貢献できることが満載のようです。
「つみたてNISA」は、少ない金額から始めることのできる長期運用のための仕組みです。そのことを丁寧に説明し、どちらかと言えば、お金が貯まってから始めるものではなく、(場合によっては貯蓄と並行して)少額からスタートし、徐々に資産を形成していく仕組みであることを、粘り強く伝えていかなければならないと思うのです。

投資の王道は、長期投資・積立投資・分散投資と言われます。
それが全部詰め込まれている「つみたてNISA」は、資産形成のための一つの有力な手段ではないでしょうか。

そして、「つみたてNISA」を今後利用したい、引続き利用したいと考えている方は、2018年の9.2%から14.1%に増えています。これは「NISA」が14.8%から23.2%に増えているのに比べると、少し寂しい気がします。

ただ、明るい兆しもあるようです。このアンケート調査は昨年実施されましたが、3月24日付の日本経済新聞朝刊の記事は、2月18日以降の1か月間で大きな資金流入が「つみたてNISA」対象ファンドにあったことを伝えていました。そして直近では、モーニングスター社の5月7日付けの「アナリストの視点」によると、2020年2月~4月の「つみたてNISA」対象ファンドへの資金流入額は過去最高に迫っているとのことです。

そして、それは追加型株式投信全体の資金流入額(国内公募)の80%超となっていて、資金フローのけん引役となっていると、伝えています。投資について、徐々に「時間を味方に」(日本経済新聞より)する考え方が浸透してきたのではないでしょうか。

iDeCo(個人型確定拠出年金)はまだ道半ば?

最後に、「iDeCo(個人型確定拠出年金)」をみてみましょう。

実は、「iDeCo」口座を開設している方は、「iDeCo」を知っている方で60歳未満の方、7,550人の回答者のうち11.9%、897人にとどまっていました。
そして、投資性商品(定期預金や保険商品を除く)を未購入の理由は、「投資に回すお金がない」、「投資は元本が保証されない」、「制度の内容を知らないから」、「投資の知識がないから/知識がないと難しそうだから」、というものが上位に挙がっていました。

また、金融商品購入やiDeCo口座開設のきっかけになるものとしては、「投資に回すお金ができたから」、「手取り収入が増えたから」という理由が多いのですが、一方で「金融や投資を勉強して理解できたから」や「初心者向けセミナーなど、仕組みをわかりやすく説明してもらえる機会があったから」という理由も上位に入っていました。
そうです。ここでもFPの役割が明確になってきます。
金融リテラシー(お金やお金の流れに関する知識や判断力)の向上に貢献するべきFPとして、「つみたてNISA」や「iDeCo」などの仕組みをきちんと伝えていくことは、とても重要な役割なのだと思います。

そしてアンケートでは、「iDeCo」の特徴として最も知られているものは、「掛金が全額所得控除される」ことであり、それが、iDeCoの魅力点としても一番であるということが明らかにされていました。
これは、「iDeCo」加入者の約85%が、厚生年金加入者である会社員や公務員の方(第2号加入者)である(令和2年3月末現在)、という現状からは当然かもしれません。年末調整や確定申告の際に、そのメリットを実感しているからでしょう

ただ、「iDeCo」に加入する自営業やフリーランスの方、いわゆる第1号加入者の数は、17.7万人(2020年3月末)にとどまり、国民年金の第1号被保険者数(免除・猶予者等を除き)800万人超(2019年3月末)と比べると、とても少ないと感じます。
また、会社員や公務員に扶養されている配偶者(専業主婦(夫))、いわゆる第3号加入者の数も、5.3万人(2020年3月末)と、第3号被保険者800万人超(2019年3月末)に対し、1%未満にとどまっています。

「iDeCo」は、第1号加入者向けの上限額(68,000円)は高く設定されていること、また2017年には第3号加入者も加入できるようになったこと、など制度設立の趣旨や最近の制度改正の方向性を考えた場合、まだまだ十分な普及状況ではないと感じています。
老後に備えた制度は「iDeCo」以外にもあることは理解できます。しかし、FPとしては、金融や投資に関する啓蒙を通じ金融リテラシーの向上に努めながら、月々5,000円という比較的少額から始めることができること、税制優遇制度があることなど、「iDeCo」の仕組みをよりわかりやすく伝えていくことが求められているのだろうと思います。

「やってみようかな」が、始めどき

株式市場をはじめとする世界の各種マーケットは、新型コロナウィルス感染拡大の影響から、2月から3月にかけて大きく下落するなど波乱の様相を呈していました。現在、マーケットは少し落ち着きを取り戻しているように見えますが、方向性はまだはっきりしない状況ではないかと思います。

しかし、こういう状況だからこそ、身近な資産運用の手段である投資信託を活用した、「つみたてNISA」や「iDeCo」に注目してみてもいいのではないでしょうか。

「つみたてNISA」や「iDeCo」は積立投資です。積立投資は、スポット投資とか一括投資と呼ばれる投資法に比べ、始めるタイミングはさほど重要ではありません。

少額でも始められる「つみたてNISA]や「iDeCo」で、投資の王道である長期投資・分散投資・積立投資を実践してみてはいかがでしょうか。