大地 恒一郎

「つみたてNISA」の簡単レシピ(商品選びの1つのアイデア)

こんにちは。FP相談ねっと認定FPの大地恒一郎です。

新型コロナウィルス感染拡大に伴い、3月の株式市場は大きく値下がりし、その後やや戻り基調となっています。そんな中、日本経済新聞は先週、「インターネット証券大手で少額投資非課税制度(NISA)口座の開設が急増している」と伝えていました。また3月には、投資信託協会の「NISA」や「iDeCo」に関するアンケート調査の結果が発表され、それについてはこちらのコラムにも書かせていただきました。

投資信託を活用した、このような制度が普及していくことは、長年投資信託と向き合ってきた自分にとって、とても喜ばしいことです。そして自分も、「つみたてNISA」や「iDeCo」、もっと広く言えば、投資信託の普及・発展に、何らかの形で貢献できないかなあ、と考える今日この頃です。

料理に興味はあるものの…

さて、突然ですが、私はほとんど「料理」をしたことがありません。この外出自粛が続く中でもです。全くの料理の素人です。そんな人間が、「さあ、キッチンを用意しました。調理器具は全て揃っています。食材はどこで何を購入してきてもいいので、何か料理を作ってみてください。」と言われたとしましょう。

料理好きな方や料理が得意な方にとっては、まさに最高の舞台が用意されたと言えるのかもしれませんが、自分の場合はおそらく、ただ途方に暮れるだけでしょう。

「何をどこで買ってきて何を作ればいいのだろう。」という感じです。

しかし、目の前に「素人でも美味しく作れる簡単なレシピ」が用意されていたら、どうでしょうか。「おっ、これなら簡単にできそうだ。ちょっと作ってみようかな。」という気になるのではないでしょうか。

「つみたてNISA」口座は開設したものの…

実は、先の投資信託協会のアンケート結果の中で、気になったことがありました。それは、「つみたてNISA」口座は開設したけど、まだ金融商品を購入していない、という方がとても多いこと。そして購入していない理由で最も多かったのが、「どの商品を購入してよいかわからない」というものだったことです。

それはまるで、キッチンにいきなり連れてこられた私のような気がしたのです。

それなら、FPとして伝えることのできる範囲で、商品はこのように選んでみてはいかがですか、というアドバイスができるのではないかと思ったのです。

そこで、今回は、『「つみたてNISA」の簡単レシピ』と題して、「つみたてNISA」において、投資初心者はどのように商品を選べばいいか、という視点から、1つの例をお伝えしたいと思います。もちろん、「つみたてNISA」における商品の選び方は1つではなく、お一人お一人の経験や目的など様々な要素で、それこそいくつでも考えられます。ただ、今回は、せっかく開設した口座を有効利用していただきたい、と思い、アイデアとなる考え方を「簡単レシピ」としてご紹介してみたいと思います。

「つみたてNISA」の商品数は多い?少ない?

さて、「つみたてNISA」口座を開設されている方は、資産形成に興味がある方だと思いますので、既に「つみたてNISA」の特徴はお分かりかと思いますが、もう一度確認しておきましょう。

「つみたてNISA」は、文字通り、積立専用のNISA(少額投資非課税制度)です。年間40万円までの投資額(その年の累計投資額(分配金の再投資額を含む))について、20年間運用益が非課税となります。つまり、通常は運用益に対してかかってくる約20%の税金が非課税となる、お得な制度です。

そして、「つみたてNISA」で投資できる商品は、2020年4月1日現在、181本の投資信託(ETF含む)が指定されています。そしてこれは、金融庁が「つみたてNISA」のために定めた要件を満たしている投資信託(ETF含む)なのです。

日本には、ETFも含めた公募投資信託と呼ばれるもので、2020年3月末現在、なんと6,068本(投資信託協会HPより)もの投資信託が存在しています。その中から181本の投資信託が「つみたてNISA」用の投資信託として指定されているということになります。

料理の場合、素人の私は、どこでどういう食材を手に入れればいいか悩むと思います。

しかし「つみたてNISA」では、口座を開設した金融機関で商品を購入する、ということが既に決まっています。そして、その金融機関で取り扱う「つみたてNISA」の対象商品も、決まっています。そうすると、話は早そうに見えますが、ことはそう簡単ではありません。

というのも、取り扱う商品の数が多い金融機関の場合、その数は150本以上も用意されているからです。これでは、まだまだ、どれを選べばいいのか、迷ってしまいますね。

「つみたてNISA」の商品を分類してみると?

おそらく、取り扱っている商品をどう組み合わせればいいか、それとも組み合わせる必要はなく、1つの商品だけを購入すればいいのか、そういうところも悩ましいところかもしれません。

そこでまず、指定されている181本の投資信託をいくつかに分類してみましょう。
実は、金融庁が既にこの181本を種類別に公表しています。

それはまず3つに分かれています。用語が難しいかもしれませんが、次の通りです。

「指定インデックス投資信託」が156本、「アクティブ運用投資信託等」が18本、そして「ETF」(上場投資信託)が7本となっています。

このうち、「指定インデックス投資信託」の156本は、もう少し細かく分類されていますので、この後ご説明します。それより、「指定インデックス」、「アクティブ運用」、「ETF」の説明が本来は必要なのかもしれません。

ここまで読まれて、「うーん、やっぱり難しそうだ。」と思われるかもしれません。でも、もう少しだけお付き合いください。

先ほどの用語ですが、今回は「指定インデックス」をご説明しましょう。
まず「インデックス」ですが、これは「索引」を意味する単語です。ただ、金融や投資の世界では、「特定のマーケットの動向を表す指標のこと。市場全体の動きを数値化した株価指数や債券指数、不動産投資信託市場の動きを数値化したもの等」(投資信託協会ホームページの用語集より)のことを言います。
国内の株式市場で言えば、「TOPIX(東証株価指数)」や「日経平均株価」などのことです。

そして、「指定インデックス」とは、「つみたてNISA」用に金融庁が指定したインデックスのことを言います。現在、国内、海外の株式、債券など、36のインデックスが指定されています。

さて話を戻して、156本ある「指定インデックス投資信託」ですが、金融庁の分類はかなり細かく分かれているので、ここでは分かりやすくするためにもう少し大括りにしてみます。

まず「単一指数(株式型)」と呼ばれるものがあります。
これは、1つの株価指数等のインデックスに連動する投資信託で、4種類に分けることができます。「ETF」7本も、指定インデックスに連動する投資信託なので、ここでは含めてみます。

① 国内型:36本(ETFを含む)
② 海外型(全世界):11本(ETF含む)
③ 海外型(先進国・米国):27本(ETF含む)
④ 海外型(新興国):13本(ETF含む)

そして、もう一つは「複数指数(バランス型)」と呼ばれるものです。
これは、株式のインデックスと、それ以外の債券や不動産投資信託(REIT)などのインデックスを複数組み合わせた投資信託になります。

これは次の9種類に分かれるようです。
この「複数指数(バランス型)」では、「国内型」は国内の指数だけの組み合わせ、「海外型」は海外の指数が含まれている組合せのことです。

① 国内型(2指数):2本
② 国内型(3指数):2本
③ 海外型(2指数):5本
④ 海外型(3指数):3本
⑤ 海外型(4指数):17本
⑥ 海外型(5指数):2本
⑦ 海外型(6指数):13本
⑧ 海外型(7指数):2本
⑨ 海外型(8指数):30本

大括りにしたつもりなのですが、これでもまだ合計すると13種類に分かれています。

この段階で、「さあ、選んでください」と言われても、他にも「アクティブ運用投資信託等」が18本ありますし、分類してみたものの、やはりまだ前には進めない状況だと思います。
これでは、「口座を開設してみたけど、どれを選べばいいか分からない」のは、無理もないことと言えるでしょう。

「つみたてNISA」の簡単レシピって?

そこで、私の考える「簡単レシピ」をご紹介したいと思います。
それは金融庁の資料からヒントを得たものです。以下のグラフをご覧ください。

(出所:金融庁ホームページより)

金融庁は「つみたてNISA」導入の際に、このグラフを使って、長期分散投資の有効性を説明していました。投資の対象は、(注)にあるように、国内株式、国内債券、海外株式、海外債券の4種類です。毎月同額ずつ投資した場合、5年保有より20年保有の方が、収益のぶれ幅(リスク)が小さくなる、という説明をしています。

今回の「簡単レシピ」は、この金融庁の資料と同じ組み合わせで商品を選んでみてはどうでしょうか、というものです。
グラフはあくまで過去の実績であり、今後について不確実ではありますが、傾向は同じようになることが想定されます。では、国内株式、国内債券、海外株式、海外債券の組み合わせをどうやって作ればいいか、先ほどの分類でみてみましょう。

分類を見ると、「単一指数(株式型)」の場合、①~④が4つのうち国内株式、海外株式に該当します。しかし、他の2つ、国内債券と海外債券という「単一指数」が見当たりません。

実は「つみたてNISA」の対象商品は、国内株式か海外株式の「単一指数(株式型)」と、それを国内債券や海外債券などと組み合わせた「複数指数(バランス型)」しかありません。
国内債券や海外債券の「単一指数(債券型)」というインデックス投資信託は指定されていないのです。

ではどうすればいいでしょうか。

「複数指数(バランス型)」から探すしかなさそうです。
見てみると、「複数指数(バランス型)」の中に、⑤「海外型(4指数)」17本というものがあります。この17本の投資信託の4指数が、金融庁のグラフで使われたものと同じ組み合わせなのか見てみましょう。

私が確認したところ、どの商品も、国内株式、国内債券、海外株式、海外債券の4資産で構成されていました。そして4資産の指定インデックスも全て同じものでした。違いがあったのは、4資産の組合せ比率でした。

この17本が選んでいた4指数は、次の通りでした。

国内株式:TOPIX
国内債券:NOMURA BPI総合
海外株式:MSCI KOKUSAI(MSCI Worldから日本を除く)
海外債券:FTSE 世界国債(旧シティ世界国債)

はたしてこの指数で問題ないでしょうか。
金融庁の先ほどのグラフが何の指数を元に作成されているかは分かりません。
しかし、投資信託の交付目論見書という説明書においては、この4指数が「代表的な資産クラス」を表す指数として、多く使われていました。そうしたことを考えると、この17本が選んでいる4指数で問題はなさそうです。

次に、組合せ比率の部分です。株式比率の多い方がいいのか、債券比率の多い方がいいのか、それとも均等がいいのか。この組合せ比率は、個々人の好みで違いがでてくるところだと思います。

もし、金融庁のグラフの元となっている比率と同じがいいということであれば、均等比率の商品を、少しリスクを高めにしてもいいという方は、株式比率の多い商品を選べばいいのではないでしょうか。そしてリスクを少し低くしたいという方は、債券比率の多いものを選びましょう。

そして、もう一つ言えることは、「つみたてNISA]の商品を選ぶ際は、できるだけ信託報酬の水準が低いものを選んだ方がいいだろうということです。そもそも、「つみたてNISA」の対象商品の要件として、金融庁は信託報酬に上限を設けています。しかし、信託報酬は最長20年という長期に亘り、毎日かかってくるコストです。また、信託報酬以外にもコストがかかりますので、それなら信託報酬は高いものより低いものを選んだ方が理に適っている、ということは言えると思います。

それでは最後に、おさらいです。今日の「簡単レシピ」は、「海外型(4指数)」に含まれる投資信託の中から、「つみたてNISA」の商品を選んでみてはいかがでしょうか、というものでした。
つまり、「つみたてNISA」導入時に金融庁が提示していた長期分散投資の例と同じように、4資産(国内外の株式と債券)に分散投資している投資信託を選んでみましょう、というものです。

「つみたてNISA」でどの投資信託を購入すればいいか。その答えは1つではありません。
今回は、選び方が分からないという方に向けて、1つのアイデアをご提供してみました。
皆さんの参考になれば幸いです。