大地 恒一郎

「つみたてNISA」の要件について考えてみました(後編)

信託報酬(続き)

ファンドオブファンズの場合

ファンドオブファンズは、投資信託協会の用語集では、次のように説明されています。

「主に投資信託や投資法人に投資する投資信託のこと。ファミリーファンドとの違いとして、ファミリーファンドはマザーファンドが信託報酬を取らないが、ファンドオブファンズの場合、投資先のファンドも信託報酬を取る。このため、ファンドオブファンズの販売用資料や目論見書では投資先のファンドの信託報酬も加味して実質的な信託報酬を表示することが多い。」

他の投資信託を組入れる投資信託のことですが、投資する投資信託でも信託報酬がかかっています。そのため投資信託協会のガイドラインでも、その分を含めた実質的な信託報酬の額を表示することが求められています。

「つみたてNISA」の場合、このファンドオブファンズの形式をとるファンドがいくつかあります。そして、この実質的な信託報酬の額が上限以内かどうかで、対象商品の要件として判断されています。

その他の費用

お客様にとってコストと言えるものは、上記の信託報酬以外にもいくつかあります。

監査報酬

内閣府告示に出てくる監査報酬は、1998年の金融システム改革法の施行に伴って、新たに発生することになったコストです。それは、投資信託の受益証券というものが、証券取引法のディスクロージャー制度の対象とされたことで、投資信託の監査が新たに必要となったためです。

委託会社は、監査法人等と個別に契約を結び、投資信託の監査報酬(監査法人に支払う監査費用)を決定しています。そして、その料率は投資信託の商品分類や純資産規模等で変わってくる場合があります。ただ受益者(投資家)の負担額は、総じてかなり低くなっています。

保管費用

また、外貨建て資産に投資する投資信託の場合、カストディアンと呼ばれる保管銀行に支払う口座管理料がかかってきます。保管費用などと呼ばれます。意外にコストがかかっている場合もありますので、外貨建て資産を組入れる投資信託では、運用報告書にて開示されている費用の明細をチェックしてみるといいでしょう。

気になっていること

実は、少し気になっていることがあります。
それは「委託者報酬」と「その他の費用」に関連することです。

どういうことかというと、「投資信託説明書(交付目論見書)」の「信託報酬」とは別の欄にある「その他の費用」のところに、「法定書類の作成・印刷・交付にかかる費用」や「計理業務およびこれに付随する表むにかかる費用」と記載されているファンドがあることです。

なぜ、それが気になるのか。

それは、「委託者報酬」の説明にも「法定書面等の作成」、「目論見書等各種書類の作成」と記載されていて、そのの会社ではそれらのコストを「委託者報酬」で負担していると思われるからです。

先に述べたように1998年の金融システム改革法の施行に伴って、投資信託の受益証券が証券取引法のディスクロージャー制度の対象となりました。それにより、有価証券届出書の作成・提出、目論見書の作成等が必要とされ、投資信託の監査も必要となったわけです。

そして、この目論見書制度が導入されることにより、委託会社では法定書類作成コストの増加が見込まれたため、委託会社は、信託報酬の引上げ(委託者報酬の0.02%引上げ)を当局に申請しました。

当時はまだ、投資信託の約款(投資信託の詳しい内容を定めたもの)を変更する際は、金融当局の承認が必要でした。そして、信託報酬引上げのような、受益者(投資家)にとっての約款の不利益変更は、通常認められていませんでした。しかしこのときは、法令改正に伴うものとして、委託者報酬の0.02%の引上げが認められたのです。そして、監査報酬についても、新たに発生するコストとして、信託報酬とは別に約款に定めることが認められました。

何が言いたいかというと、当時の委託会社は、委託者報酬をわざわざ引き上げたことから分かるように、目論見書など法定書類の作成費用を委託者報酬で負担するコストと認識していたということです。

ところが今では、従来通り法定書類の作成費用を委託者報酬の内訳にしている委託会社と、その他費用として委託者報酬とは別のコストとして受益者(投資家)に負担を求めている委託会社があるという状況になっています。

このような状況で、「つみたてNISA」の対象商品である投資信託が、はたして同じ要件、同じ基準で指定されていることになるのか、はっきり分からなくなった、という点が気になっていることです。

また、最近は、「計理業務およびこれに付随する業務にかかる費用」を「その他費用」として、受益者(投資家)にコスト負担を求めている委託会社もあります。

この「計理業務」は、主に基準価額の算出にかかる業務にあたるのではないかと、推測しています。以前は、基準価額の算出などの計理業務は、委託会社の主要な業務の1つでした。しかし最近は、この部分を外部委託している会社も多くなってきました。その外部委託に係る費用を「その他費用」としている、という可能性もあるのかなあ、と考えています。

そしてこの費用も、「その他費用」ではなく、「委託者報酬」の中で「基準価額の算出等」として、内訳にしている委託会社がいまだに多くあります。

つまり、「法定書面等の作成費用」や「計理業務にかかる費用」を、「信託報酬」の内枠と捉え、「委託者報酬」で負担している会社と、「信託報酬」の外枠として考え、受益者(投資家)に負担を求めている会社がある、ということになります。(実は、「指定インデックス投資信託」の中には、監査報酬を「委託者報酬」で負担している投資信託も含まれています。)

コストの要件は信託報酬だけで大丈夫?

確かに投資信託協会のガイドラインには、「委託者報酬」の説明として、「委託された資金の運用等の対価」と記載されていて、その中に、法定書類の作成費用や計理業務にかかる費用が含まれるのかどうかは明確ではありません。
ただ、少なくとも20年前は「委託者報酬」でそれらの費用を賄っていましたし、現在もそうしている委託会社が多いということも事実です。

時代とともに、法律も制度も変わっていくのは当然のことですし、委託会社の業務内容が変わっていくことも決して驚くことではありません。

しかし現在、「つみたてNISA」の対象商品の要件の1つに、「信託報酬」があり、それには上限が設けられています。そうであるなら、「信託報酬」に含まれるコストと「その他の費用」に含まれるコストの区別の基準が明確でないことは、受益者(投資家)目線で考えた場合、少し不親切なのではないかと思うのです。

これらは、どこの委託会社でも発生するコストなのですから、「信託報酬」に含めるにしろ、「その他費用」にするにしろ、要件となっている「信託報酬」の上限の意味自体が、あいまいにならないようにするべきではないかと思います。

「その他の費用」として負担する率は、年0.10%程度のものかもしれませんし、「信託報酬」と合計した水準が、他の投資信託の「信託報酬」の水準より低いレベルのものがあるかもしれません。

しかしながら、これからも対象商品が拡大する可能性のある「つみたてNISA」において、その要件として信託報酬の上限を設けているのであれば、こういう「その他費用」との関係も明確にしてほしいと思います。細かい問題かもしれませんが、「つみたてNISA」の更なる発展を願っている者として、どうしても気になってしまいました。

なお、運用報告書には、「1万口当たりの費用明細」が記載されていますので、参考にしてみましょう。但し、その「費用明細」には、ファンドオブファンズで投資しているファンドのコストは含まれていないということはお忘れなく。