遺言の有無で何が違うか
遺言がないと相続人が法定相続分を基準に遺産をどのように分けるか話し合って決める必要がありますが、遺言があれば被相続人(亡くなる方)が自分の遺産を誰にどのように残すのか決めることができ、相続人が話し合いをする必要がなくなります。
遺言を残すべき場合
相続人以外に遺産を残したい
相続人以外の人や団体に遺産を残したい方は遺言を残す必要があります。
例えば、相続権のない内縁の妻や事実上の養子、おじ・おばや従兄弟、世話になった近所の人や介護施設の職員、慈善団体や母校などに遺産を残したいならば、遺言を残す必要があります。
法定相続分と違う割合で遺産を残したい
相続人に法定相続分と違った割合で遺産を遺したい方も遺言を残す必要があります。
子どものいないご夫婦で、妻が夫の兄弟に相続分を支払うために自宅を売却するほかなかったという事案もあります。
夫が「遺産は全て妻に相続させる。」という遺言を残していれば避けられた悲劇です。
遺産で自宅土地建物の占める割合が大部分という方や、家業やオーナー会社を特定の跡取りに継がせたい方も、法定相続分で分けることはできませんので遺言を残す必要があります。
相続人に話し合いが難しい人がいる
相続人に話し合いができない人、難しい人がいる方も遺言を残す必要があります。
たとえば、認知症や精神障害で判断能力がない相続人や所在不明の人がいる場合には、家庭裁判所で成年後見人や不在者財産管理人を選任したうえで遺産分割協議をする必要があり、手間や費用や時間がかかりますし、法定相続分と異なる分割をすることが難しくなります。
相続人に失踪者がいる場合には、家庭裁判所に失踪宣告をして死亡と見なしてもらう必要があります。
宣告には災害や遭難など特別の場合でも1年、それ以外は7年の失踪期間が必要で、簡単ではありません。
相続人に未成年者がいる場合で、親権者である親も相続人だったり、親権者が共通の兄弟も相続人だったりすると、利益相反となるので特別代理人を選任してから遺産分割協議をする必要があります。
また、互いに疎遠だったり感情的に対立している相続人がいる場合(嫁と舅・姑。前妻の子と後妻の子。嫡出子と婚外子など)や、外国など遠方に相続人がいる場合などにも話し合いは困難です。
遺言で全ての財産を誰に渡すのか個別に決めてあれば、遺産分割の協議が不要になりますから相続手続を円滑に進めることができます。
遺言を作成するときの注意点
遺言を残しさえすれば円満・円滑な相続を実現することができるわけではありません。
遺言の内容が不適切であれば、かえって紛争の種になることさえあります。
遺言は相続人ができるだけ納得できるような内容であることが肝心です。
相続人が不公平感を持てば、感情的対立に発展したり、遺言無効などの訴訟になる場合もあります。
生前に相続人に説明したり、遺言の中やエンディングノートなどに自分の気持ちを書き残して相続人に理解を求めることも有効です。
また、相続人には遺言でも侵害できない「遺留分」という取り分があります。
遺留分を侵害する遺言を残せば、裁判沙汰になりかねませんので注意する必要があります。
遺言は法律の定める要件を守らなければ無効になってしまいます。
遺言を残すときには、遺言に詳しい専門家に相談して進めることをお勧めします。