塚越 菜々子

学生時代に払わなかった年金、いまからでも払った方がいい?

老後資金のご相談を受けるときは、ねんきん定期便をもとに状況を確認します。そこで「あれ?年齢と金額があわないみたいですね」ということが実はよくあります。その多くは「学生時代の年金の未納」です。
未納になってしまった学生時代の年金はどうするべきか一緒に考えてみましょう。

学生時代の国民年金どうなっている?

こんなやりとりがよくあります。

学生納付特例は「猶予」の分類に入ります。出世払いだと思ってください。

学生納付特例制度を使って猶予した期間は年金制度に「加入」したこととなりますが、老後に受け取る年金金額を計算するときは、この期間は計算に入りません(払ったことにはなりません)

どうなっているか覚えていない。どうやって確認したらいい?

学生時代のことはもう遠い昔で、猶予をかけたのかそれとも親が納付したのか、もしかして放置しちゃってるのか全く覚えがない。夫はどうかと聞いたけど、ましてやはっきりしない回答!これってどこをみたらわかるの?とと思うかもしれませんね。

一番手っ取り早いのは「ねんきんネット」です。

毎年誕生月に送られてくる『ねんきん定期便』には直近一年の状況と、これまでの「加入月数」などは書かれています。でもこれだと詳細まではわかりません。20歳から今の年齢までの月数からおおよそ察することはできますが、ねんきん定期便自体が少し前の時点の記録で送られてきているので、少しわかりにくいかもしれません。
その点、ねんきんネットには全部の期間の状況が書かれています。

もう一つは35歳・45歳などの節目年齢に届くねんきん定期便です。

こちらはハガキではなく封書でこれまでの加入記録が細かく記されています。もし保管してあるようでしたらそちらで確認もできますね。

ねんきんネットは登録無料で、一度登録してしまえばいつでも見れますので、ぜひ夫婦で登録して確認してみてください。

未納分はどうやって確認?いまから追納できる?

次は、学生納付特例制度を使って猶予にしてあるか・その分を今から追納できるか確認しましょう。

自分が追納できるかはねんきんネットにログインすると確認することができます。もちろんお近くの年金事務所で調べてもらうことも可能です。

学生納付特例で支払いを猶予してもらったものは、10年以内の分は遡って追納することができます。
(2020年なら2010年の分まで)

猶予してから3年以降は加算がつくので当時の支払額より高くなります。利息が付いているイメージですね。追納するときは古い方から支払っていくことになります。

「国民年金保険料追納申込書」という用紙に記入して、年金事務所に提出(郵送OK)すれば納付書が送られてきます。ウェブから申込書をダウンロードすることもできるので、わざわざ年金事務所に出向かなくとも手続きは完了します。書き方で困ったら電話して聞けばいいだけですので、難しいことはありません。

今から追納した方がいいの?

今から追納した方がいいですか?とよく聞かれます。
答えは人それぞれかもしれませんが、経済的に支払えるなら追納もアリだと思います。

その理由は、

  1. 終身の年金を増やすため

  2. 社会保険料控除で節税できるため

です。

1:老後の年金を増やすため

まず、公的年金は生きている限り受け取ることのできる「終身年金」ということを再確認しましょう。

貯めたお金は長生きをして使ってしまえばそれまでですが、年金はどれだけ長生きしても生きている限り受給することができます。
どこまで生きるかわからない「長生きリスク」に備えることのできる頼もしい”保険”です。

では仮に24か月分を追納したとき、老後の年金はどう増えるでしょうか。

国民年金は480カ月(20~60歳までの40年間)払うと「満額」という決まりです。満額の額はその年によって違ってきますが、ここでは令和2年度の満額「781,700円/年」で計算します。

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781,700円÷480カ月=1か月あたり約1628円。
1,628円×24カ月=39,072円
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24か月分を納付すると、老後の年金が年間約39,000円増える計算です。

令和元年の簡易生命表では
男の平均寿命は 81.41 年(65歳から16年)
女の平均寿命は 87.45 年(65歳から22年)
です。

ということは、平均寿命まで生きたとして
男性は62.4万円
女性は85.8万円
年金が増える計算です。もっと長く生きればさらに増えていきます。

早く死にたい、そんなに長生きしたくないと言ったところで、それを自分でコントロールすることはできません。

よく「何年もらったらモトが取れる」なんて言いますが、そもそもモトを取るという発想自体が年金にはそぐわないものです。

「長生きしてしまったら」というリスクに備えるから”保険”なのだということをお忘れなく。
(とはいえ、気持ちはわかるので上記で計算した次第です)

2:社会保険料控除で節税できるため

増える年金は上記の通りですが、これに対して追納する年金の保険料は(いつの分にもよりますが)2年分で約40万円弱です。

国民年金保険料は支払った全額が「社会保険料控除」の対象となります。つまり、支払った分は税金を計算するモトからまるまる差し引くことができるものです。

所得税が10%+住民税が10%だとしたら、40万円の20%の8万円が節税になります。
この控除は「支払った人」が受けることができるので、妻の分を夫が払ったら夫が年末調整や確定申告で控除を受けることができます。
学生の時は所得が0で節税にはならなくても、今なら節税メリットがあるかもしれません。

もちろんそもそも税金を支払っていない、所得(収入)がそこまで高くないときは、このメリットは生かせませんのでご注意を。
追納期限に問題がないのなら、2年に分けるなどしてもいいかもしれませんね。

追納すると控除証明書(ハガキ)が届きますので、年末調整や確定申告まで必ず保管してください。10~12月など年末近くの納付は証明書が間に合わないことが多いので、納付済みの領収書をつけて年末調整をしてください。

追納期限切れ!もうダメ?

年金が追納できるのは10年と、長いようで短いです。
20歳の分に35歳で気づいたらもう追納できなかった・・・ということもよく相談の現場ではあります。

老後資金が減るのが確定か・・・・と思ってしまいがちですが、実は敗者復活戦があります。
このような3つの対策を検討してみましょう。

  1. 国民年金に任意加入する
  2. 厚生年金に加入して働く
  3. 運用して自分で老後資金を作る

です。

1:国民年金の「任意加入制度」を利用する

国民年金の満額は480カ月と書きましたが、この480カ月に足りない分がある人は、60~65歳までの間で国民年金に任意加入して穴を埋めていくことができます。
任意加入の保険料は過去の追納ではないため、加入する年の国民年金保険料を納めることになります。

追納できる10年ギリギリの時期(30歳前後)は、子供を産んだばかりだったり収入がまだ少なかったり、住宅ローン負担が大きいことも考えられます。
そのころは払うのが経済的に難しかったけれど、60歳のころには十分に資産も作られ、支出に対して収入も十分にあるようなら、60歳を過ぎてからの納付も案外悪いものではないかもしれません。

ただし、今カツカツの暮らしでも60歳になったらゆとりを持てるようになるためには、しっかりとした資金計画が必要です。
無計画で今もギリギリな人は、たいてい老後もギリギリですから(^_^;)

2:厚生年金に加入して働く

もう一つは厚生年金に加入して働くことです。
60歳になっても会社で働いているのなら社会保険料を支払います。

年金は1階が国民年金。2階が厚生年金。
会社で働いていれば1・2階の両方の分を給料から引かれて支払います。
60歳になったからと言って1階の部分だけ支払いがなくなるわけではありません。

詳しい仕組みはややこしいので書きませんが、厚生年金を払っていれば国民年金の足りない穴の部分が埋まっていくとイメージしておきましょう。

これからの時代は60歳で完全リタイアということは減ってきて、65歳まで働くことがほぼ当たり前のようになってくるはず。
会社員をやめずに厚生年金に加入していれば、未納分を埋めていくことができるのです。

ずーっと扶養内パートでいる人に比べて、現役時代の収入も多く、老後の自分の厚生年金も多く、年金の不足額も埋まり・・・・やはり有利なことが多いかもしれませんね。

3:資産運用で老後資金を作る

追納できなくても、そのお金を自分で老後に向けて積み立てて作って行くというのも一つの対策です。
例えば30歳から60歳まで30年という期間があれば、リスクをとってお金を増やしていくことが十分に可能です。

2年分の保険料約40万円をただ3%の複利で運用しても、30年後(60歳)には約97万円。40年後(70歳)には約130万円です。
一般的に若いうちはとれるリスクも大きいですから、5%で運用すれば30年後130万円に、40年後に280万円の老後資金になります。

「年金」自体は確かに満額の時より減ってしまいますが、納める予定だった保険料を運用することで自分で老後資金を作ることができます。

さらに、これをきっかけに、もし年金の保険料ぐらいの15000円を30年積立運用したら874万円です(笑)
追納できなかったからと言ってがっかりせず、むしろ運用で有利に老後資金を作って行くチャンスだと考えてもいいかもしれません。

60歳過ぎてから任意加入できるなら、その時に保険料を納めることもできますしね。

公的年金以外の対策も

年金はどうせ破綻するから払わない方がいい、というのはそもそも論点がずれているのでここでは話しませんが、ひとことだけ言うなら「年金制度は破綻しません」

ただ、年金の受給額は相対的に下がっていくことは考えられます。
そして年金だけでは長生き時代を支えることが難しいのもほぼ間違いないでしょう。

だからこそ、まずはそれぞれの年金を知ったうえで、老後対策は「自助」も必要。
年金ではできない機能はiDeCo・つみたてNISAなどを通じて老後資金を作って行くのも大事なことですね。

公的年金のこと、資産運用のこと、そもそもの家計のこと。
ひとつではなくそれぞれに適した答えがあります。

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