塚越 菜々子

退職金を投資して失敗する3つのパターンと防ぎ方

会社を退職してまとまったお金が手元に来た。すぐに使うあてはないのでできれば手を付けずにとっておきたいけれど、このままにしておいてはもったいないのではないか。退職金の一部を投資に回すと定期預金の金利があがるプランもあるし、使うあてのないまとまったお金があるのなら、この機会に投資を始めてみてはどうだろうと思っていませんか?

とはいえ、今後は今まで通りまとまった給与がもらえる確約がない今、この退職金を投資していいものか悩んでいるかもしれません。

退職金を投資してうまくいくパターンと、失敗するパターン。どんな例があるのか見てみましょう。

そもそも退職金って投資をするものなの?

けっして少なくない給与をコンスタントにもらい続けてきたとはいえ、退職金というまとまった金額を受け取るのは、嬉しくともプレッシャーを感じているかもしれません。何処に預けようか調べてみれば、退職金専用プランがずらっと並び、もしかしたら各種金融機関や証券会社から「うちに預けませんか」「こんな特典をつけます」と一見魅力的なお誘いがあったかもしれませんね。
定期預金が増えないとわかっている今、急に元手が増えたからには、巷で騒がれている「投資」をして増やすことを考えたほうが良いと気になっているかもしれません。

そもそも退職金を投資したほうが良いですか?というご質問に対しては「イエス」とお答えします。
定期預金が7%の利息が付いた時代ははるかかなた。いまやどこに預けても増えないというのをご存じだからこそ「投資」という選択肢をお調べなのだと思います。

退職から平均寿命といわれる一種の目安まではまだまだ相当の期間があるはずです。公的年金が「目減り」していく今、この先もお金に困らず暮らしていくためには、ここまでコツコツと働いて積み上げてきた退職金というまとまったお金に一緒に働いてもらうことで「財産を守る」必要があるからです。

では、今すぐ手を付けたほうが良いのかというと、決してそんなことはありません。
退職金で投資を行い、取り返しのつかない失敗をしてしまったら目も当てられませんから、まずはよくある失敗パターンに当てはまらないように確認してみてください。

 

失敗パターン1:退職金で一発逆転を狙って詐欺にあったAさん

Aさんは、退職金は1680万円とそれなりの額となりました。しかし、住宅ローンを払いながら教育費を捻出していた期間が長く、自分たちの老後費用は退職金を除いては500万円ほどしかありません。今の生活のペースでは退職金が70代でなくなってしまいそうです。

そこでAさんは退職金を元手にして投資を行い増やすことを検討しました。
どこで投資を始めようかと迷っていた時に、知人に声をかけられたのです。「年間10%の高配当で、元本は保証されている。有名人の〇〇さんもやっているし、自分も配当を受け取っている」
Aさんははじめ疑っていましたが、少額なら・・・とまずは50万円ほどを出しました。すると確かに配当金を受け取ることができたのです。数回にわたり確実に配当金が振り込まれることに安心したAさんは、100万円、また100万円と追加していきました。しかしこの手口が「ポンジスキーム」と呼ばれる典型的な投資詐欺だとと気づいたときには手遅れだったのです。

投資や運用について少しでも学んでいれば「元本保証、年率10%」などという商品が存在しないことはわかるはずです。老後資金が退職金頼みで、一発逆転を狙いたくなる気持ちが冷静な判断力を失わせていしまったのかもしれません。

 

失敗パターン2:ビギナーズラック直後の下落で焦って損失を出したBさん

Bさんの退職金は2000万円弱でした。投資経験はありませんでしたが、会社に勤めている間も経済ニュースをチェックしたり、業界の動きなどを気にする機会があったため、始めればできるだろうと漠然と思っていました。2000万円という額もかなりの金額に思えたので、全部を費やすのではなく一部を投資するところから始めれば大丈夫だろうと思っていたのです。

初めのうちはうまくいっていたため退職金の多くを投資に回しました、しかし、その後すぐ株式市場が全体的に下がったときに、持っている株すべてが値下がりしました。すると今度はその損失をどうにかして取り戻さないといけないと思うようになってしまいました。下がった額を取り戻すためにまた大きな金額を投資し、何とか回収しようと焦るあまり、結果として2年で退職金の3割近くを失ってしまったのです。

これまで経済の状況を見てきた実績があったとしても、それだけで投資がうまくいくわけではありません。プロですら明日の相場がどうなるかはわからない以上、経験の少ない人が株式投資だけで短期的な成績を出すのはたやすいことではありません。値下がりにすぐ焦ってしまうような投資の仕方は、初心者には向いていないといってよいでしょう。

 

失敗パターン3:勧められた投資信託の乱高下に夜も眠れないCさん

Cさんがお勤めの会社はサービス業で、退職金は600万ほどとさほど多くありませんでした。しかし現役時代から堅実だったBさんは退職金が多くないことを予測して、コツコツと定額積み立てなどを利用して貯金を増やしていました。退職金が振り込まれることが決まったときも、金利が高いところを探したのです。
そんなCさんが見つけたのは、地方銀行の「退職金専用プラン」でした。退職金で指定の投資信託を買うと、定期預金の利息が高くなるプランです。定期預金の利息は高めでしたが、一方で窓口で勧められて購入した投資信託手数料も含めると利益が出にくいものでした。

勧められて購入した株式に投資する投資信託は、基準価格は短い期間で見れば上がったり下がったりするものですが、投資経験のないCさんは、ニュースで株の値下がりなどが報じられるたび、自分の資産がどうなっているか気になってしまいました。退職金が減ってはいかないかいつも心配ばかりするようになってしまったのです。

「短い期間での価格の上下を気にしない」そんな教科書通りのことはCさんもわかっているはずです。ですが、自分の財産が赤字になっているというのはやはり不安になるものです。「一時的に下がっても長期的に見ればプラスになる」というのは、実際に経験して初めて感覚として理解できるものなのです。

こうやって付き合えば大丈夫!

このように失敗事例などを並べると「やっぱり退職金で投資なんてしないほうが良い」と思ってしまったかもしれませんね。ですが、これからは「守るためにも投資が必要」なことは初めに申し上げた通りです。

ここで、もう一人ご紹介します。

60歳で退職したDさんの退職金は1200万円ほどでした。
退職金を受け取った後も仕事を辞めず契約社員として会社に残ることになっていました。給与は減りましたが、それでも65歳まではおおむね働き続けることができるだろうと考え、完全に労働の収入がなくなる前に、と資産運用の勉強を始めたのです。

働き方が変わるタイミングで、まずは家計の状況を整理しました。それにより、働き続けている期間はすぐに貯金を取り崩す必要がないことや、65歳からは数年間加入していた個人年金保険からの収入があることがはっきりし「退職金は10年は手をつけなくて済む」と分かったのです。

とはいえ、やはり投資経験のないDさんには資産が減ってしまう不安があったので、一度にすべてを投資せず初めの1年間は少額から積み立てで投資信託を買いました。商品選びにもそれほど自信があったわけではありませんが、手数料が安く理解しやすい投資信託を分散して買い付けていくと、緩やかですが増えていく実感を得ることができました。

そこで、徐々に運用に回す金額を増やし、必要な現預金を確保したうえで65歳までには退職金として受け取った金額のほぼすべてをいくつかの投資信託に割り当てることができました。その5年間では退職金を大きく増やすことはできませんでしたが、投資に感じていた恐怖を取り除くことができたと同時に、運用しながら取り崩すことで、「退職金の寿命」を延ばすことができました。預貯金だけにしていた場合86歳で無くなる予定だった退職金は、98歳まで残せる計算になったのです。

Dさんは市場の相場や株の値動きを細かく見るようなことはしていませんが、投資商品をどのタイミングで現金化するかについてや、リスクを下げた商品を自分で見ていく経験がついたため、予定よりもさらに緩やかに取り崩すことができそうです。

このように、退職金を受け取ってから初めて投資をしようと思っても、十分に上手に付き合っていくことはできるのです。

 

退職金を投資しようと思ったらすること

退職金を受け取ってからもこの先20年は十分に時間があることを思ったら、慌てて投資行動を行うのは時期尚早。
一発逆転を狙うのではなく、投資詐欺に引っかかるのではなく、夜も眠れないような怖い思いをせず資産運用をするために、Dさんのように必要な知識を身に着け、準備する時間と費用を少しだけ取ってください。

・まずは家計全体の財産や収入・支出を見直してください
(お金を「使うお金」「貯めるお金」「増やすお金」に分別します)

・どうして資産運用の必要があるかを知っておいてください。
(知っておくことで、むやみに失敗する可能性を減らすことができます)

・ギャンブルではない、資産運用の基本の知識を身に着けてください
(お金の出元が退職金であろうとなかろうと、考え方は一緒です)

・商品を売るためではない説明をしてくれる専門家を頼ってください
(どこにどんなお金を払うべきか、納得して選んでください)

どんな投資の仕方が自分に適しているのかは、それぞれの状況で違います。金融機関の窓口で勧められたものに自分を合わせるのではなく「自分に合った投資の仕方」をすればいいのです。

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