井内 義典

夫婦共働きの場合、加給年金過払いにご注意!

ご覧の皆さま、こんにちは。

年金というフィールドで、相談業務、教育研修、制作(執筆・編集等)、調査研究という4領域で活動中、年金のポリバレント・井内です(※ポリバレントとは、サッカーで複数のポジションをこなせる選手を指す言葉として使われています。)。

さて、今日は年金について少し嫌なお話をさせていただきます。

老齢厚生年金に加算される配偶者加給年金がありますが、夫婦共働き世帯の場合は、その配偶者加給年金の過払と返還が発生する可能性があって要注意、というお話です。

そもそも配偶者加給年金は、生計を維持する配偶者がいる場合に、年間390,900円(2020年度)加算される年金です。加算される本人が65歳で老齢厚生年金を受け始めてから、その配偶者が65歳になるまで加算されます。つまり年の差分の期間加算されます。本人の厚生年金加入が20年以上、加算対象となる配偶者の厚生年金加入が20年未満であることが加算の条件です。

例えば、年上の夫は会社員生活が長くて厚生年金加入が20年以上あり、年下の妻は専業主婦期間が長く厚生年金加入が20年未満であれば、夫の65歳から妻の65歳まで加算されることになります。妻が65歳になって老齢基礎年金と老齢厚生年金(厚生年金加入期間がある場合)を受け始めるまで、家族手当として夫に加算されることになります。

しかし、夫婦共働きで夫も妻も厚生年金加入が20年以上ある場合は気をつける必要があります。年下の妻も20年あり年金が受けられるならば、原則、夫に加給年金は加算されません。

にもかかわらず、本来受け取れない加給年金が支給されてしまうことがあり、もしこの過払分が発生すると、その分は後で返さないといけなくなります。

以下の要件をすべての満たした場合は過払とその返還が発生する可能性があります。

夫婦共に厚生年金20年以上加入している。

②年上の夫(妻)が65歳を迎え加給年金の加算が始まっている。

③年下の妻(夫)が60歳台前半の年金支給開始年齢を過ぎてまだ年金の請求手続きをしていない。

例えば現在、夫が66歳、妻が63歳でちょうど3歳差だった場合だとします。

そして、夫も妻も60歳前から既に厚生年金加入が20年以上で夫は年金を受給中、妻は60歳から年金を受けられる世代で60歳に年金の請求ができるにもかかわらず、今もその手続きをしていなかったとします。

夫65歳時点では、妻は既に62歳。請求をしていないだけで、60歳を既に過ぎて年金を受けられる状態です。妻も厚生年金20年以上あり、本来、夫に加給年金は加算されないことになります。

しかし、妻が自身の年金を請求しないと妻の受給状況まで把握ができないため、夫が65歳時点で、65歳からの年金の受給の際、合わせて妻についての生計維持を申立てると、65歳から加給年金が加算され始めてしまいます。そして、その分の過払が発生してしまうのです。その夫の加給年金は本来加算されないものですので、当然返す必要があります。

妻が63歳で年金の請求手続きするとこの時点で過払が発覚します。

この場合、夫の65歳から66歳までの1年分の加給年金は返す必要があります。

もし、妻の手続きがこれより後になると、さらに後にも過払が発生することになります。

例えば妻が65歳過ぎでようやく手続きをした場合、妻62歳から65歳(夫65歳から68歳)までの3年分の過払が発覚することとなります。

その合計額、何と、117万円!

夫婦共に厚生年金加入が20年以上でも、妻自身が働いていて60歳台前半の年金が全額カットされている場合は、夫の加給年金は加算されていてもよいことになります。しかし、実際、働いていても妻の年金が出る場合もあり、この場合は夫の加給年金が過払となります。

「働いているとどうせ年金は出ないから・・・」

といって手続きをしていないとこのような過払返還という事態も起こりえます。

いきなり「過払分を返せ」と言われても驚くことでしょう。過払分は、今後支給される年金からの控除等により返すことになりますが、夫婦の年齢差次第、年下の妻の手続きの時期次第では過払が複数年分あって合計100万円を超える場合もあります。

考えただけでも恐ろしいことです・・・。

しかし、早めに年金の請求手続きをすれば、過払は防げます。共働きの場合、60歳台前半で年金の支給開始年齢が来たら、早めに手続きをしたほうが無難でしょう。

本日は以上です。ご覧いただきありがとうございました。

【これまでの実績】——————-●年金相談は3500件以上経験、●教育研修は地方自治体職員向け、年金事務担当者向け、社会人1年生向けなど、●執筆は通算200本以上!『週刊社会保障』の「スキルアップ年金相談」(法研様)、「東洋経済オンライン」(東洋経済新報社様)、「ファイナンシャル・フィールド」(ブレイクメディア様)、月刊『企業年金』の「知って得!公的年金&マネープラン」(企業年金連合会様)。●調査研究活動は研究論文「老齢年金の繰下げ受給の在り方ー遺族厚生年金の受給権がある場合ー」(日本年金学会編『日本年金学会誌第39号』)など。

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