小川 洋平

本当にあったお金のコワい話① 消えた60万円

こんにちは、お金の怖い話を伝える、FP業界の稲川淳二(?)こと、ファイナンシャルプランナーの小川です。

もう夏も終わりに近づいてますが、シリーズでお金に纏わるコワ~いはなしシリーズをお伝えしていきます。

さて、今日のお話は「消えた60万円」です。

Sさん(40代女性)のケース

主人公:Sさん

年代:40代後半

性別:女性

職業:パートから個人事業を開業したばかり

業種:カウンセリング

地域:新潟県

将来のお金を上手に貯めたかったが、FPからはSさんに合わない保険商品を提案され、60万円のお金が消えてしまったケース。

Sさんは子育てもひと段落し、以前よりやりたかった仕事を個人事業で始めた女性起業家です。

Sさんは同じ立場の女性起業家が集まる異業種交流会で出会った、自称ファイナンシャルプランナー(以下FP)の女性Aさんと仲良くなり、ちょうど老後のことを意識し始めていたためセミナーに参加したのでした。

そこで、その女性FPから現在のような低金利の時代は預金や個人年金商品等はあまり使わない方が良いこと、そして投資を使うことで将来のお金を大きく増やせることについて教わりました。

そして、セミナーが終わると最後に講師のAさんに無料で相談できる個別相談の案内がありました。

Sさん「プロに無料で相談できるなんて!」

老後に向けて何か始めたいと思っていたSさんはAさんに相談に行くことにしました。

無料相談で紹介されたのは?

老後に向けて積み立てを始めたいとSさんはAさんに伝えると、Aさん変額保険(有期型)という保険商品をSさんに紹介しました。

FP(?)Aさん「この間セミナーでお話した方法を使うとこんなに増えるんですよ~。それに、変額保険は途中で死亡したら運用がマイナスでも保険金のこの金額は最低でももらえるので損をし難く安心です。円建ての商品では増えないので、最近では老後のお金はドル建ての保険か、この変額保険を使っている人がほとんどですよ。」

Sさん「そうなんですね!じゃあそれでお願いします♪」

子育てもひと段落し、家計に余裕が出てきたSさんは毎月5万円を変額保険(有期型)を使い将来の資金を貯めることに決めました。

FP(?)Aさん「Sさん、長期の運用の方がたくさん増やせますし、長期の方がリスクが小さいんですよ。満期金もらえるの80歳にしておきますね」

Sさん「そうなんですか?え、でも80歳まで毎月5万円も払っていけるかな・・・」

FP(?)Aさん「大丈夫ですよ、途中でもし支払いが大変になったら「払い済み」って言って、保険料をそれ以上払わなくてもいいようにできるんですよ。続けられそうなら続ければいいですし、そうでなければ払い済みにすればいいんですよ」

Sさん「そうなんですね、それなら安心です。それに決めます♪」

FP(?)Aさん「ありがとうございます♪では、申し込みの手続きをお願いしますね。」

Sさんは後日この変額保険(有期型)に申し込みした。

消えた60万円

契約を済ませたSさん、しばらくしてから契約した変額保険(有期型)の保険証券が送られてきた。

証券にサっと目を通して、Sさんはそのままファイルに綴じました。

そして、それから数カ月が経った後、部屋の配置換えをしていたSさんは、保険証券のファイルのある棚を動かしました。

その時、ふとファイルの中身が気になって手に取って開いてみました。

そこで気になったのが「解約返戻金」という言葉です。

その解約返戻金の欄を見ると、1年後には運用実績に拘わらず0円と記載され、10年、20年後の金額を見ても毎月5万円払っているのにほとんど増えていない、むしろ払った金額に対してマイナスしていることに疑問を持ったのです。

え?もうすぐ1年になるけど、私が払った60万円って一円も返ってこないってこと??

不安になった、SさんはAさんに聞いてみました。

Sさん「Aさん、変額保険の証券を見てたんですけど・・・、解約返戻金って解約したときに返してもらえるお金のことですよね?私、毎月5万円保険料払ってるんですけど、20年くらいたってやっと払ったお金よりプラスになるって書いてあるように見えるんですけど、間違ってますか??」

FP(?)Aさん「そうですね、それでいいんですよ。」

Sさん「え、でも投資って、運用が悪いときに売ればマイナスするけど、良いときに売ったらプラスになるんじゃないんですか?? この保険、20年くらいずっとマイナスってこと??」

FP(?)Aさん「そうですね、保険は途中解約のペナルティみたいなのがあるので途中解約すると損しやすくなるんです。でも、運用実績が良ければ10年ちょっとくらいでプラスになることもありますよ。」

Sさん「え?そうなんですね・・・。でも、運用ってそんなに上手くいくものなんでしょうか?私まだあまりよく理解してなくて」

FP(?)Aさん「セミナーでもお話したんですけどね(苦笑)大丈夫ですよ、みなさん大体7%くらいで運用できてるので、まず10年くらい待っててください。」

よく聞かなかった自分が悪いけど、解約返戻金やペナルティの説明も無かったし、運用が良くても10年続けないとプラスにならないのって、本当に良いの・・・?

Sさんは自分が選んだ商品がこれで良かったのか不安になったのでした。

不安に思ったSさんは、地元でセミナーを開いていた私小川のセミナーに参加、その後の個別相談を受けることにしました。

間違いだらけの変額保険(有期型)の説明

面談の際、Sさんは今契約している変額保険について疑問に思っていたことを質問したのでした。

小川「まず、変額保険というのはあくまで保険商品なんですね。死亡保障と、将来の資金創りが一体になったものなんです。この商品の仕組み上、死亡保障がついている分保障のための費用がSさんが支払う保険料の中から引かれるわけなので、Sさんが支払う保険料の一部しか投資には回ってないのです」

Sさん「そうだったんだですね、だから20年くらいしないとプラスにならなかったんですね・・・」

小川「そうなんです。ただ、だからといってこの商品が悪いわけではないんです。死亡保障と将来の資金創りを一緒に同じ商品で行いたいという場合は、通常通り投資信託を買うより保険の方が税金面では有利ですし、証券口座開設して、死亡保障を別で備えるのが面倒というのでしたらこの商品を選んでも良いかもしれませんね。でも、Sさんこんな高額な死亡保障って必要なんでしょうか?」

Sさん「私が先に死んじゃっても旦那はお金には困らないですね・・・」

小川「なるほど。老後までに仮にSさんが早く亡くなって、Sさんの分の年金がもらえなくても旦那さんが困らないくらいのお金を準備しておければ確かに要らないかもしれませんね。必要だとしても、この金額必要かどうかとっても疑問ですよね」

Sさん「間違いなく要らないと思います。この保険、10年くらい解約待ってれば損しないで解約できるかもしれないって言われたんですけど、どうでしょうか?」

小川「なかなか迷うところなんですけどね、Sさんの場合はまだ1年程度ですので、まだ傷が浅いうちに解約して、今から時間を掛けて増やすことを意識した方が良いと思います。今は損をしますが、結果将来残せるお金は数百万円差がついています。」

Sさん「なんだか勿体ない気がしますね・・・。でも、その方が増えるんですよね。」

小川「同じ運用実績だったら確実にその方が良いです。仮に運用が上手くいかなくても、保障のコストが引かれないので。あと、Sさんの場合早期に解約した方が良い理由がもう一つあります。その理由は、80歳までの期間で組んでいることです。」

Sさん「はい、長く運用した方がリスクが小さくなって、増やしやすいって言ってたので・・・」

小川「あ、そういう説明だったんですね。長期投資というのは確かに投資の基本なんですけどね、毎月5万円を80歳まで払うのって、現実問題無理ではありませんか? あと、リスクが小さくなるというのは違ってまして、長期になればなるほど逆にリスクって大きくなるんですよ。」

Sさん「ん?どういうこと??でも、途中で保険料の支払いストップすることもできるって言われて・・・。」

小川「途中で保険料の支払いがストップできるのは払い済みのことですね。払い済みっていうのは、一度解約すると同じことなんです。それで、解約したときには本当なら解約返戻金がもらえるんですけど、その時受け取らずに、満期金を受け取れる時期まで保険会社で運用されて受け取ることができるって仕組みなんです。だから保険料の支払いを単純にストップするんじゃなくて、解約したお金が返ってくるか、運用されて後で返してもらえるかの違いでしかないんですよ。だから、80歳まで保障が必要で、そこまで無理せずに保険料を払い続けられるようでなければこのプランはSさんの求めるものに合っていないということになりますね。」

Sさん「え~~~、全然思ってたのと違いました・・・。一緒にお茶飲んだりして良い人だと思ってたんですけど、なんだか残念です・・・」

小川「そうですよね、大きな金額でもありますしね・・・。でも、早い段階で気が付くことができたのは運が良かったと思います。ここで気が付かなければ後々数百万円の差になったわけですから。」

Sさん「はい、そうですね・・・。勉強料だと思って諦めます。私はこれからどうしたらいいですか?他に良い商品ありますか?」

最も有利な方法は?

小川「はい、もっと有利なものはたくさんありますよ。同じ保険商品でも、Sさんの場合は変額保険(有期型)ではなく、個人年金タイプの変額保険もあったりしますので、そちらの方がニーズに近かったと思います。もし将来のお葬式代とか、先にSさんが亡くなった場合の旦那さんに残してあげたい保障なら一生の死亡保障が必要でしたら変額保険(終身型)もあります。」

Sさん「そんな保険もあるんですね・・・。全然説明無かったです・・・。」

小川「扱っている会社も限られますしね。それに保険商品ではなく、積立NISAって方法もありますし、保険ではなく投資信託を買っても良いですよ。変額保険とは違い保障に掛かるコストや保険会社さんの事業の運営に掛かる費用が引かれることが無いのでSさんが積み立てたお金は全て積立されます。それから、旦那さんの会社で確定拠出年金やってますよね?」

Sさん「あ、たしかやってます!よくわからないんですけど、確定拠出年金って何なんですか?」

小川「確定拠出年金は、自分で自分の老後のお金を積み立てる制度なんです。会社で退職金の代わりに使われている場合が多く、掛け金は会社が退職金の代わりのような形で毎月出してくれています。これは変額保険と同じように毎月掛け金を自分で預金や投資信託選んで運用していただくんですけど、変額保険と違って保険会社さんに払う費用が引かれないので同じ運用実績ならずっと効率が良いですよ。そして、これを使うと旦那さんの場合、もっと大きなメリットを受けることができます。」

Sさん「何ですか?それ??どういうこと???」

小川「確定拠出年金って、旦那さんが勤務されている会社だとマッチング拠出っていうのができるんです。これどういうことかって言いますと、会社が掛け金を出してくれるだけじゃなく、自分もお給料から天引きして確定拠出年金で積立することができるんです。そして、その掛金って全額税金の控除対象になるんですよ。」

Sさん「そんな制度あるんですね!税金が安くなるんですか??」

小川「はい。旦那さんの年収だと、所得税が20%、住民税が10%ですので、もし毎月1万円掛け金を上乗せすれば3万6000円税金が安くなることになります。要するに、老後のお金を貯めてるだけで税金がこれだけお得になるんですよ。それから、運用で得られた利益に掛かる税金も要りませんから、お得ですよね。」

Sさん「へぇ~、そんなにお得な制度だったんですね。」

小川「ただ、この制度は会社の掛け金以上に自分で上乗せすることはできないので、会社から毎月どれくらい引かれているかを確認しましょう。あとは積立NISAを使うのも良いですよ。Sさん、ところでこの変額保険の商品は外国の株式一択になってますけど、どうやって決めたんですか?」

Sさん「これが一番増えるからって、FPさんに勧められたんです。」

小川「まぁ、私個人的にはその商品一択でも良いと思うんですけど、投資で大事なのはどのくらいのリスクまでSさんが耐えられるか、どのくらいのリターンを狙っていくか、このスタンスを決めることがまず大事なんです。Sさんの今のこの配分って一番ハイリスク・ハイリターンな配分なんですよ。だから高いリターンも狙っていけるんですけど、1年で40%値下がりすることもありますけど、それで大丈夫ですか??待ってれば回復することも多いんですが、一番まずいのはそこで怖くなってしまって、売っちゃいけないタイミングで売ってしまうことです。」

Sさん「たぶん不安になっちゃうと思います・・・。もっとリスクが小さい方法ってあるんですか?」

小川「勿論ありますよ。リスクっていうのは自分で色んな商品組み合わせながらコントロールできるものなんですよ。セミナーでお話したように、債券や他の資産と組み合わせることで自分で決められますよ。まずはもうちょっとその辺りしっかりお話しますね。」

ポイント

いかがでしたか?実は、こんなパターンで損をしてしまうケース多くあります。

こののケースを整理してみますと・・・

・Sさんはそもそも死亡保障を必要とせず、資産形成のみを目的としていたのに、提案されていたのが「資産形成+保障」の変額保険(有期型)だった。

・保障の分のコストもあり、払った保険料の中から引かれるため全額が実際に積立されて運用されていない。単純な資産形成を行うならば死亡保障が無い商品、もしくは投資信託(確定拠出年金、積立NISA等の制度をできるだけ利用して)を使うべきだった。

・60万円を失う結果になったが、早期に解約し別の有利な手段を使った方が損失を取り返すこともできるため解約に至った。

このケースから言えることは、自分の目的に対して商品がニーズに合っているのか、他にどんな選択肢があるのかを知り、その中から自分に最も適したものを選ぶことの重要さです。

それがたまたま変額保険なのならば今回のような目的と手段が合わないといったことは起きませんが、そもそもそのミスマッチが60万円を失う結果になった最大の原因です。

そして、投資に対する知識が不十分なまま、安易にハイリスクな配分を勧めていたのも問題ですね。

(本来ならばお客様のニーズをしっかり確認した上で契約し、適切なアドバイスをするのが高い手数料をもらう保険屋さんの当たり前の仕事なのですが・・・)

資産形成はまず基本的な知識をしっかり理解し、ご自分がどんな運用スタイルを望むのか、それをしっかり決めることが大事です。

それが決まらないうちに商品選びをすると今回のようなことになっていますので、よくわからないままで契約はしないようにしましょうね。

さもなくばあなたにも60万円どころか、場合によっては何千万円単位の損失で、取返しのつかないこともありますから・・・