最近、SNSなどで「NISA貧乏」という言葉が話題になりました。
将来のために投資を始めたはずなのに、節約ばかりで今の生活を楽しめない…。そんな状態を揶揄する言葉です。
NISA制度自体は、資産形成のための優れた制度です。しかし、その使い方を間違えると「人生を豊かにするためのお金」が「人生を縛るお金」になってしまうこともあります。
今回は、この「NISA貧乏」という言葉の背景を通して、本来の金融リテラシーとは何かを考えてみたいと思います。
1.「NISA貧乏」とは?
「NISA貧乏」という言葉は、NISAで投資するために生活を極端に節約し、今の生活が苦しくなってしまう状態を指します。
先日、衆議院財務金融委員会において、国民民主党の田中健議員から片山さつき大臣への質問がきっかけで話題になりました。
2024年から新NISAが始まり、
・非課税枠の拡大
・恒久化
・年間投資枠の増加
などにより、多くの人が投資を始めました。
本来これはとても良いことです。日本では長い間、「貯蓄中心の家計」が続いてきましたが、資産形成の観点からは投資を活用することは大変有利です。
しかしSNS等では、
「早いうちに投資枠の満額使った方が良い」
「若いうちに節約して投資に回した方が時間を味方につけられて資産を増やせる」
といった極端な情報も多く見られるようになりました。
その結果、
・友人との食事を控える
・趣味を我慢する
・旅行を諦める
など、「将来の資産形成」のために今の生活を削りすぎてしまう人も出てきています。
それを皮肉って生まれた言葉が「NISA貧乏」です。
しかし、ここで誤解してはいけないのは、「NISAの制度が悪いわけではない」ということです。
問題なのは制度ではなく、お金との向き合い方がわかっていないことなのです。
2.「NISA貧乏」の弊害
NISAの制度が悪いわけではありませんし、若いうちから投資を始めることも、とても良いことでしょう。
しかし、問題なのは「支出に罪悪感を持ってしまうこと」です。
人生には、「今しかできない経験」がありますし、「稼ぐ力」を早期に形成することの方が無理してNISAで積立額を1万円、2万円増やすよりもはるかに重要です。
早く始めれば将来お金が増えると言っても、可処分所得を月1万円増やせれば毎月の積立額も1万円増やせますから、別に投資によるリターンでなくても資産を増やすことはできます。
若い時にしかできないこと、その年代だからこそ意味があることがあります。
旅行、趣味、友人関係、恋愛、仕事や様々な挑戦。
それらはすべて、人生の経験値になり、自分という人格、人的資本を形成する重要なものです。
成功体験も、失敗体験も、すべてが自分のコアを形作る材料になり、人生の軸を創るための気づきがあるのです。
こういた軸があると
・人生で何度も訪れる問題に直面しても解決方法を考えられる
・自分が満足感を感じられ、長く続けられる仕事を選べる
・自分に合う人脈を形成できる
こんな力が身に着きます。
そして、その結果として自分にとって幸せな働き方や収入を実現できる可能性が格段に高くなり、組織に依存した生き方や、誰かに依存した関係ではなく、自分自身で人生のコントロールすることができるようになります。
逆に、経験が少ないまま年齢を重ねると、自己理解が低いままになり、仕事選びや人間関係の構築、パートナー選び等の人生の重要な局面に影響します。
若いうちに小銭を積み上げても、重要な選択を誤ると失ってしまうのは一瞬です。
逆に、私の主な顧客は個人事業主の方や社員さん数名の企業の経営者さん達です。中には自己破産を経験し、「資産」と呼ばれるものを全て失ったような人もいますが、その後に再び何かしらの形で事業を再起させたり、他の会社で役員となり富を築いている人も多いものです。
彼らが持っているのは、「人的資本」です。
「経験(失敗も成功も)」「知識」「人脈」「判断力」「自ら考えて行動する力」
これらは数字には現れない定性的なものですが、目に見える資産以上の価値を持ちます。
お金を使うことは、そういった人的資本を形成するための大事な経験を買うことでもあるのです。若いうちからNISAで資産形成を始めることは良いことですし、何かあっても対応できるお金を持つことは大事なことです。
しかし、本当はやりたいことがあるのに「将来のため」と我慢してしまうことや、今の自分の可能性を自分自身で制限し、他人と話をして視野を広げる機会が無い、挑戦できる機会を失ってしまうことは大きな損失です。
経験から何を感じ、何を学び、今後の自分自身を形成していくか、これが重要です。
3.真の「金融リテラシー」とは?
「金融リテラシー」という言葉を近年耳にする機会も多くなってきたでしょう。
多くの人は、
・投資の知識
・税制の知識
・お金の管理
などを思い浮かべます。
決して間違いではありませんが、本当の金融リテラシーとは「人生の経営計画」を実現するための「お金の戦略」を考える力を得ることです。
つまり、自分らしい人生を、自分でコントロールしながら生きるためにお金をどう使うかです。なので、まずは「自分らしい人生」とは何かに気が付くことが大事です。
この「自分らしい人生」とは、企業経営でいうところの「経営理念」と同じものです。経営理念が無い会社、形骸化してしまっている会社は、事業の内容も採用~育成もブレたものになり、ムダ、ムラが多く発生してしまい、資本を適正に活用できずに成長が限定的になってしまいます。
そして、これは仕事選びや、人生のパートナー選び、人間関係、あらゆる面でも同じです。
若いうちにすべきことは、少ない収入の中から無理してお金を捻出して積立をするのではなく、毎月1万円でも2万円でも、毎月無理せず積立できる収入を増やしたり、自分の軸で自律的に自分の人生をコントロールするための学びや経験です。
資産形成は若いうちから始めることで将来大きなリターンを得やすいと考えられていますが、自分の人生を自分でコントロールすることができ、毎月1万円、2万円でも積立できる余力を増やせば将来の資産を準備することは十分可能なのです。
我々ファイナンシャルプランナーが提案するライフプランとは、そういった経験値から見えている将来の姿を実現するための「人生の経営計画」つまりは「自分らしい人生設計」です。
この自分らしい人生設計とは何か、それに早く気が付くことで適正な家計管理と資金準備の計画を立てることができます。
本当の金融リテラシーとは、自分にとっての本当の幸せを実現するために、自分自身でどう収入や支出をコントロールし、その中からどんな方法で将来のお金を準備し、リスクに対処するかということを考える力のことです。
これは経済的に困窮するような状況が訪れても、悲観し立ち止まってしまうのではなく、自分が置かれた状況から自分に与えられた手札を使い、どう自分が望む未来を実現していくか、戦略を考える力でもあります。
その本質に気づかぬまま、資産形成を行ったり節税をして小銭を持っても、何かのきっかけでそれを一瞬にして失ってしまうこともあるのです。
4.おわりに
今回は「NISA貧乏」という言葉をテーマに、金融リテラシーの本質を解説しました。
・NISA貧乏とは、将来のために今の生活を過度に犠牲にする状態
・制度が悪いのではなく、お金との向き合い方が問題
・若いうちは貯金よりも人的資本を形成するための経験を重ね、学びを得ることが重要
・経験によって自分の本質に気が付き、それが人生の選択肢の正答率を各段に向上させる
・金融リテラシーとは人生の経営計画を考える力であり、自律的に自分らしい生き方を送るための力
お金は確かに大切ですし、若いうちからお金を貯めておけばいずれ使いたいことがあるときにお金を使えるということもあるでしょう。
しかし、それ以上に若いうちにお金を使って得られる経験や学びには大きな価値があります。
人生は金融資産をたくさん残した人が勝つゲームではありません。自分にとっての理想の姿をできるだけ早いうちに解像度を上げることができ、それを最大限実現できた人こそが真の勝者であり、お金はそのための道具です。
お金をどう使うかというのも、金融リテラシーの重要な一部分なのです。
もちろん、今の自分が満足できる程度にお金を使うことができているのであれば、余剰資金として将来のためにNISAやiDeCoなどを活用し、将来使いたいことのために投資をすることも良いでしょうし、手元資金があることで未来が広がるのも事実です。
「NISA貧乏」という言葉から、本当の意味での金融リテラシーについてを改めて考えてみていただけると幸いです。
NISA制度自体はとても有利で良い制度ですので、せっかくの良い制度を自分らしい人生のために活用していきましょう。