ねんきん定期便に書いてある「標準報酬月額」ってなんですか?

ご相談者様DATA

【年齢】ご主人:32歳 奥様:36歳

【職業】ご主人:医薬品メーカー勤務  奥様:看護士(育休中)

【家族構成】お子様(0歳7ヶ月)

【お住まい】静岡県三島市

相談しようと思ったきっかけ(アンケート抜粋)

3月の(ご主人の)誕生日にねんきん定期便が届きました。子どもが生まれ、資金計画について考え始めていたところだったので、初めてじっくり見てみました。
すると標準報酬月額というところに目が留まりました。月と数字が入っているので、おそらく給料なのかなとも思いましたが、実際の給料額と差がありすぎることに気がつきました。保険料納付額というところも、結構な額が引かれていることが分かり、間違いではないかとも不安になってきました。

相談できるFPを探していたところ、前田さんが小さい子どもがいる家庭向けにオンライン相談をされていることを知りました。子どものことを考えると、家で相談できるほうが気楽なため、今回、前田さんに相談をお願いしました。

ご相談内容

ねんきん定期便に記載されている標準報酬月額が給料とは全く異なる金額です。厚生年金保険料を払いすぎているということでしょうか。間違っているのではないかと思います。また、これによる老後への影響はあるのでしょうか。

次に、子どもが生まれたので教育費など子供のためのお金をどう準備すれば良いか教えてください。

ご相談でお話しした内容

ご相談いただいたのは7ヶ月の女のお子様がいらっしゃるご夫婦。対面相談だとお子様がぐずった時に大変なので、オンラインでの相談をご希望されました。パソコンの画面の向こう側で、ママに抱っこされている可愛らしいお子様の姿が見えました。

標準報酬月額とは

さて、ねんきん定期便に記載されている標準報酬月額が給料と全く違う金額とのこと。
まずは、ねんきん定期便を見せていただきました。見せていただいた定期便は下記のようなものでした(数字は変更してあります)

見るべき箇所は①標準報酬月額欄の②平成29年8月から9月の部分です。

  • 平成29年8月 標準報酬月額:34万円 保険料納付額:30,909円
  • 平成29年9月 標準報酬月額:44万円 保険料納付額:30,909円

9月の標準報酬月額が8月より10万円アップしており、その影響で10月からの保険料が40,260円に改定されています。(保険料は標準報酬月額改定の翌月より変更となるのが一般的です。)

相談者様によると、給料は44万円もなく、むしろ34万円のほうが近い金額であるとおっしゃっています。どういうことでしょうか。

原因を調べるためには、まずは標準報酬月額についての理解が必要です。そのためには、下記の保険料額表を見ていただくのが分かりやすいと思います。

これは静岡県の平成29年9月分からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表です。
(協会けんぽの保険料は都道府県ごとに異なります。
全国健康保険協会 URL https://www.kyoukaikenpo.or.jp/home/g3/cat330)

表の見方について説明をすると、

①標準報酬月額・・・健康保険料と厚生年金保険料を決定する基準値です。

②報酬月額・・・4、5、6月の平均給料を報酬月額の区分にあてはめます。

③健康保険料・・・介護保険第2号被保険者とは40歳から64歳までの方で、健康保険料に介護保険料が加算されます。加入している人、していない人で負担する保険料が異なります。

④厚生年金保険料

⑤全額・折半額・・・健康保険、厚生年金とも労使折半ですから、支払っている保険料は「折半額」になります。

つまり、標準報酬月額とは、4、5、6月の平均給料を報酬月額の区分にあてはめることで割り出される、社会保険料算定基準となる数値なのです。標準報酬月額によって決定された社会保険料は、その年の9月から翌年8月分まで適用されます。

相談者様の場合、平成29年8月までは標準報酬月額34万円、9月からは44万円ですから、青枠⑥から⑦に標準報酬月額が上がったという状況です。⑦の44万円の厚生年金保険料折半額の欄を見ると、保険料は40,260円ですから、定期便に記載されている平成29年10月分の金額と一致します。

※実際にはこの他、雇用保険料の負担もしています。こちらは標準報酬月額からの算出ではなく、毎月の給与額に対して算出されます。

給料に含まれるものとは

では、標準報酬月額を決定する基となる給料には何が含まれるのでしょうか。

それは残業代や通勤費、各種手当等含む会社から支払われるすべての給料です。

通勤費については、6ヶ月分の定期代がまとめて支給されたとしても、1ヶ月分の金額のみを給料に加算します。大入り袋など臨時に支払われるもの、年3回以下の賞与は給料には含まれません。

ここまでお話しして、相談者様に思い当たる点はないか、うかがいました。すると昨年4月から東京勤務になり、現在、静岡県三島市から東京まで新幹線通勤をされているとのこと。定期代は1ヶ月あたり約9万円。お子様がこれから生まれるという頃だったため、単身赴任をせずに新幹線通勤を選択されたそうです。また、4月に若干のベースアップもあったようで、標準報酬月額が10万円アップしていることと、つじつまが合います。

これで標準報酬月額が給料とかけ離れている原因は、定期代であることがわかりました。

ただ、相談者様にしてみれば通勤費が原因で社会保険料が高くなることに納得がいきません。通勤費は自分が自由に使えるお金ではなく、定期代として消えるお金です。その通勤費が保険料算定の対象となることに納得がいかないのです。

確かにお気持ちはよくわかります。通勤費は税法上においては1ヶ月あたり15万円までなら非課税ですから、所得税や住民税の算定対象外です。しかし、社会保険料を計算する上では通勤費は算定対象となり、運賃が高い路線に住んでいる方や、相談者様のように遠方から通勤される方は保険料が高くなってしまうのです。

社会保険料アップによるメリット

しかし、社会保険料が高いという事は悪いことばかりではありません。支払う保険料が高くなるという事は、将来もらう年金も増えるということです。どの程度増えるのか気になる、とのことでしたので、計算してみました。年金受給額はねんきん定期便があれば簡単に計算できます。

<厚生年金の年金額計算式>
平均標準報酬額×5.481/1000×被保険者期間の月数

平均標準報酬額というのは、厚生年金加入期間の給与の平均という意味です。また5.481/1000は国が決めた係数ですが。今回は、標準報酬月額アップによる年金額への影響という点のみに着目するため、簡易的に「標準報酬月額×0.55%」の計算式で金額を算出しました。

その結果が下記の表です。

社会保険料は
・4,905円+9,150円=14,055円の増加

概算厚生年金受給額は
・550円の増加

1ヶ月あたり、社会保険料が14,055円増えるのに対し、年金受給額は550円しか増えないのです。つまり、支払った社会保険料を年金で回収するには、14,055 ÷ 550 = 25.5ですから、約26年必要。65歳から年金をもらい始めたとすると91歳でやっと回収できるというわけです。

将来の年金は増えますが、決して喜ばしい金額ではありませんでした。

遺族厚生年金と傷病手当金への影響

次に、遺族厚生年金と傷病手当金への影響についてお話しました。遺族厚生年金は、相談者様に万一のことがあった場合、奥様に対して支払われる年金です。また、傷病手当金とは、病気や怪我で会社を休み、給料をもらえない場合に支給される健康保険制度の給付金です。

この2つの制度に対する影響を下記の表にまとめました。前提条件や計算方法については、最下部に注釈をつけておきます。

遺族厚生年への影響

現時点で相談者様に万一のことがあった場合の遺族厚生年金の金額です。

年間8,250円の差額ですので、現在36歳の奥様が65歳まで遺族厚生年金を受け取るとすると、

8,250円×29年=239,250円

29年間受給する場合、差額は239,250円になるということです。

傷病手当金への影響

傷病手当金が支給される期間は最長1年半です。差額が66,700円ですから、もし1年半支給されたとすると、

66,700円×18ヵ月=120万円

120万円多く受け取れることになります。

遺族厚生年金にしろ、傷病手当金にしろ、支給されるような状況には、なってほしくないというのが家族の思いではありますが、標準報酬月額アップによって、どちらも支給額がアップすることが分かりました。ご相談者様も「国の保険」は結構手厚いのですね。とおっしゃっていました。

育児休業給付金への影響

相談者様は男性なので産休を取得することはありませんが、パパママ育休プラス制度を利用すれば育児休業を取得することはできます。これは父母ともに育休を取得すると育休期間が、子が「1歳になるまで」から「1歳2ヶ月になるまで」に延長される制度。パパの育休期間中はパパも育児休業給付金が支給されます。

育児休業給付金は、標準報酬月額をもとに計算されるわけではありませんが、通勤手当や残業手当等含めた給料で計算されます。概算の金額は給料の7割です。ですから、パパが1ヶ月だけ育休を取得すると、

・44万円×70%=308,000円

支給されるということです。もし、給料が34万円なら

・34万円×70%=238,000円

ですから、通勤費アップによって、約7万円多く育児休業給付金が増えることになります。さらに育休期間中は社会保険料の支払いは免除されますし、一方、将来の年金額は支払ったものとして計算されますので、減ることはありません。

相談者様の会社で育休取得経験がある男性はいないので、育休を取得するには勇気が必要とおっしゃっていました。しかし、育休はお子様が1歳前の今しか取得できません。ぜひ制度を活用して、育児を楽しんでいただきたいと思います。

このように通勤費アップによる影響はマイナスな点ばかりではありません。勤務状況を変更できないのであれば、視点を変えてプラスの部分に目を向けると気持ちに変化が生まれるものです。

教育費の準備について

教育費についても相談したいとの事でしたが、ここでお子様が眠くなり、泣き出してしまったので、一旦オンライン相談を終了しました。まだ相談時間は残っていたため、後日、残りの時間でお話をさせていただきました。

教育費を準備する方法としては保険、ジュニアNISA、つみたてNISA等があること、またそれぞれの違いや、目標額の設定、および毎月の積立金額などについてお話をしました。様々な方法があるので、検討してみますとのことでした。

オンライン相談についてのご感想

途中でお子様が泣き出し一旦相談を中断しましたが、小さなお子様がいる家庭では柔軟な対応ができるオンライン相談は、利用しやすかったとおっしゃっていただきました。家にいながら相談ができるため、オムツ替えやミルクのタイミングを考えなくても良いので安心できたようです。

また「標準報酬月額」とは何?という疑問に対して、これほどの情報をもらえるとは思ってもみなかったとおっしゃって驚かれました。

毎月の給与、それも通勤手当が社会保険料に影響すること、そして払った保険料で将来の年金や万が一の給付が決まるということも始めて知ることで、とても熱心にお話を聞いてくださいました。「とても勉強になりました」とお言葉をいただきました。

最後に

子供はあっという間に大きくなります。ぜひ今のかわいい我が子とできるだけ長い時間一緒にいるために、相談者様も育休をとって、育休のメリットを味わっていただきたいと思います。

オンラインですと、30分からでも相談可能ですので、教育費について迷った時はまた連絡しますとおっしゃっていただき、今回は終了となりました。

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  • 遺族厚生年金の前提

<計算式>

平均標準報酬額①×0.55%×被保険者期間の月数②×3/4

  • 平成20年3月大学卒業に就職。

 ・標準報酬月額34万円のケースは①=34万円

 ・標準報酬月額44万円のケースは①=34万6600円

  (平成20年4月から平成29年8月まで標準報酬月額34万円、平成29年9月から平成30年4月まで44万円とした場合の平均標準報酬額)

  • 平成30年4月現在まで10年間厚生年金加入。300ヵ月未満であるため、300月とみなして計算
  • 傷病手当金への影響

支給金額は、「標準報酬月額×2/3」で簡易的に計算。

標準報酬月額34万円   340,000×2/3≒226,600円

標準報酬月額44万円   440,000×2/3≒293,300円

※文中に掲載されている「ねんきん定期便」の数字等は筆者が試算したものであり、特定の個人の情報ではありません。

この記事を書いた人
前田 菜緒

子どもが寝てからでも相談可能!子育て世代の家計のパートナーが希望ある未来づくりをお手伝いします。

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