ご相談者様データ
(お名前)高田 和美さん(仮名)50代
(職業)専業主婦
(家族構成) 夫、息子(高校生)
母(70代)別居 父はすでに他界 一人暮らし
相談しようと思ったきっかけ
70代後半の母親は一人暮らしをしています。父親はすでに他界しており、母親は自分の年金で生活しています。
母親は「今のところ、お金に困っていないから大丈夫」と言いますが、私は年金をいくら貰っているのか分かりませんし、預貯金がいくらあるのか、毎月どのくらいお金を使っているのか、詳しいことは分かりません。
最近、母親の友人が介護施設に入居したと聞き、費用がどのくらいかかるのか気になり始めました。母親にもいずれ介護が必要になるかもしれません。今の貯蓄で足りるのか、もし足りなければ自分が援助しなければならないのかと不安です。
私は専業主婦なので、自分自身の貯金もあまりありませんし、夫に母の支援をしてくれなどとも言えません。
母は母でなんとかして欲しいと思いつつ、母親にお金の話を切り出すと、嫌がられそうで聞けずにいます。今から何をしておけばよいのでしょうか。
お母様を支える気持ちを前面に
親のお金が足りるのか、将来の介護費用をまかなえるのか。親の老後を考え始めたとき、多くの子どもが抱く不安ではないでしょうか。
ただ、漠然と「いくら必要なのだろう」「貯蓄が足りなかったらどうしよう」と考えていても、不安はなかなか解消されません。まずは、お母さまが現在どのような収支で生活しているのかを知ることから始めてみましょう。
毎月の収入と支出を確認する
老後の生活費を考えるとき、預貯金の残高だけに注目しがちですが、毎月の収支も大切です。
例えば、公的年金で日常生活費をまかなえていて、預貯金をほとんど取り崩さずに暮らせているのであれば、今後の資金計画も立てやすくなります。一方、毎月の生活費が年金収入を上回り、少しずつ貯蓄を取り崩している場合は、そのペースを把握しておく必要があります。
確認したいのは、年金の受取額、生活費、住まいの維持費、医療費などです。持ち家か賃貸かによっても、将来必要になるお金は変わります。
とはいえ、いきなり預貯金の額を尋ねる必要はありません。「これからも安心して暮らしてもらいたいから、年金で生活できているか一緒に確認してみない?」など、日々の暮らしを気遣う会話から始めてみてはいかがでしょうか。
公的年金は、原則として偶数月の15日に、前々月と前月の2か月分がまとめて支給されます。15日が土曜日・日曜日・祝日の場合は、その直前の平日に前倒しで支払われます。
例えば、年金受給日にお茶菓子を持ってお母さんを訪ねられたらいかがでしょう?散歩を兼ねて、年金受取をしている銀行に行って記帳や、引き出しをしてみるというのも良いかも知れません。年金のお話のきっかけになるのではないでしょうか?
あるいは、毎年6月には、年金額改定通知書・年金振込通知書が発行されます。これは、その歳の年金額を知らせる大切なはがきです。年金額は、物価にある程度連動できるように毎年見直しが行われています。これはそれをお知らせする通知です。
通知書を見ると、お母様が受け取っている年金の種類も分かります。遺族年金は非課税ですが、老齢年金は課税です。これらはご本人もあまり理解せず「とりあえず保管」している書類かも知れませんが、必要に応じて確定申告なども行うケースもありますから重要な書類です。
結構高齢の方にとって、役所からのお知らせは重荷だったりします。書いてあることが難解だったり、手続きに手間取ったり。もしかしたら、そういうタイミングで和美さんが訪問されたりすると、自然にお母様から「お金」にからむ相談が聞き出せるかも知れません。
公的年金は、老後の生活を支える大切な基盤
お母様のこれからの暮らしを考えるうえで、ぜひ知っておきたいのが公的年金の特徴です。
公的年金は、原則として亡くなるまで受け取れる終身給付です。自分で準備した預貯金は、使えばその分だけ減っていきますが、老齢年金は長生きした場合にも継続して受け取れるため、老後の生活を支える大きな柱になります。
また、公的年金には、物価や賃金の変動に応じて年金額を改定する仕組みがあります。インフレによって物価が上がったときも、年金額の改定を通じて対応する仕組みがあるのです。これが先ほどお伝えした、年金額改定通知書で年に1回お知らせされます。
ただし、物価が上がった分だけ年金額が必ず増えるわけではありません。現役世代の人口や平均余命の伸びなどを反映して給付水準を調整する仕組みもあるため、物価上昇に年金額の伸びが追いつかないこともあります。
それでも、終身で受け取れる公的年金があることは、老後の資金計画を立てるうえで大きな安心材料です。まずは年金収入で日常生活費をどの程度まかなえているのかを確認し、そのうえで貯蓄をどのように活用するか考えていきましょう。
通帳は何冊くらいありそうですか?可能であれば、できるだけ1冊、せいぜい2冊くらいに絞り混みしたいです。
高齢者宅には、親切に金融機関の担当者が訪問したりすることもあるようです。タイミングがあえば、顔合わせもしておきたいですね。変な金融商品を保有していないとはおもいますが、本当に必要なものなのかどうか、確認はしておきたいですし、家族の目が届いていることをお知らせしておくことは、むしろ関係性向上につながるでしょう。
お母様の普段の生活を知ることで、お金の使い方も見えてくるかと思います。
介護費用は、必要になったときの暮らし方も含めて考える
将来の介護費用についても、今の段階で必要額を一つに決めることはできません。在宅介護を続けるのか、介護サービスを利用するのか、施設への入居を希望するのかによって、必要なお金は変わってきます。
介護保険では、所得などに応じて、介護サービスの利用者負担は原則1割、一定以上の所得がある人は2割または3割となります。例えば、単身で年金収入のみの場合、年収280万円以上などの条件に該当すると2割負担、年収340万円以上などの条件に該当すると3割負担となります。これらは合計所得金額などの条件もあるため、年収だけで決まるわけではありません。
また、75歳以上の人が加入する後期高齢者医療制度では、医療機関の窓口負担は原則1割ですが、一定以上の所得がある人は2割、現役並みの所得がある人は3割です。単身で公的年金収入のみの場合、年収200万円以上などの条件に該当すると2割負担となることがあります。こちらも住民税の課税所得などによって判定されます。
ただし、介護保険の自己負担割合が1割でも、介護費用全体が1割で済むわけではありません。施設に入居する場合は、介護サービス費のほかに居住費や食費、日常生活費なども必要です。
大切なのは、費用だけを心配するのではなく、お母さまがどのような暮らしを望んでいるのかを知っておくことです。「もし一人で暮らすのが難しくなったら、どうしたいと思っている?」といった会話を通じて、本人の希望を聞いておけるとよいでしょう。
介護保険サービスや地域包括支援センターなど、利用できる支援についても知っておくと、いざというときに慌てずに済みます。また、親の資金だけで十分にまかなえるか分からないからといって、子どもがすべて負担しなければならないと、今から考える必要はありません。まずは親自身の収入や資産、利用できる制度を整理し、必要に応じて家族で話し合うことが大切です。
親のお金を知ることは、親の暮らしを守ること
親が元気なうちは、お金の話をする機会がないかもしれません。しかし、認知機能の低下や病気などによって、本人が自分のお金について説明したり、必要な手続きをしたりすることが難しくなる可能性もあります。
年金の受取口座や預貯金の管理方法、保険の契約、毎月の支払いなど、分かる範囲で少しずつ情報を共有しておくと安心です。
なお、公的年金についても、亡くなった後には手続きが必要になる場合があります。受給者が亡くなったときは、年金事務所などへの死亡の届出が原則必要ですが、日本年金機構にマイナンバーが登録されている場合は、原則として死亡届を省略できます。また、亡くなった月分までの年金で、まだ受け取っていないものがあれば、生計を同じくしていた遺族などが未支給年金を請求できる場合があります。こうした手続きも、いざというときに慌てないために知っておきたいことの一つです。
親のお金について話す目的は、財産を把握したり、相続の準備をしたりすることだけではありません。親がこれからも自分らしく暮らしていくために、どのような準備が必要なのかを一緒に考えることです。
まずは日々の暮らしや年金の話から、少しずつ会話を始めてみてはいかがでしょうか。
親のお金と暮らしを考えるFP研究会より
親の老後は自分のお金で賄って欲しい。援助が必要なら早めに言って貰わないと困る。
現役の「子」世代からよく聞かれる言葉です。
多少乱暴に聞こえてしまいそうな発言ですが、ご自身の家計もありますから、切なる言葉だと思います。
同時に、親にお金の話は切り出しにくいともおっしゃいます。
でも、切り出し方に特別良い方法は見当たらず、親の暮らしに寄り添いながら言葉を集めて少しずつ必要な情報を集めていくしかないのかも知れません。
ぜひご自身なりの「きっかけ」探しの参考に、相談事例を活用してみてください。
執筆:親のお金と暮らしを考えるFP研究会 代表 山中伸枝
事例提供:FP相談ねっと 山中伸枝FP

