ご相談者様データ
(お名前)田中 健一さん(仮名)40代
(職業)会社員
(家族構成)妻、子ども1人(小学生)
両親、兄(別居)
相談しようと思ったきっかけ
私は両親とあまり仲がよくありません。兄が一人いますが、兄とも疎遠です。
特に兄は気性が激しく、父親とよくぶつかっています。私自身はおとなしい性格なので、両親も、いずれ自分たちの老後の世話は私がしてくれるものと思っているのではないかと感じています。
しかし、私にも妻と小学生の子どもがいます。もともと両親との関係が深くないこともあり、妻も子どもも、私の両親と積極的に関わりたいとは思っていません。
親が年を取れば、いつか介護が必要になるかもしれません。何かあったときに自分が動かなければならないのだろうとは思いますが、どこまで対応すればよいのか分かりません。
親の老後を考えると気が重くなります。今から何か準備しておくべきでしょうか。
親の老後を一人で背負い込まない
健一さん、ご相談ありがとうございます。
親との関係が良好でない場合、親の老後について考えること自体が負担になることもあるでしょう。
親が高齢になれば、通院の付き添いや日常生活の支援、介護などが必要になる可能性があります。兄弟がいれば協力できると思いたいところですが、兄弟間の関係もよくないとなると、誰が対応するのかという問題も出てきます。
健一さんはご自身の家族も大切にしながら、親の老後について考えていらっしゃるのですね。
まずお伝えしたいのは、親の老後を、健一さん一人がすべて引き受けなければならないわけではないということです。
親のことが心配だからといって、必ずしも同居したり、日常的な介護を担ったりする必要はありません。健一さんには健一さんの生活があり、妻やお子さんとの暮らしを守ることも大切です。
もちろん、親子である以上、困ったときにできる範囲で支え合うことはあるでしょう。しかし、それは自分の家庭を犠牲にしてまで、すべてを引き受けるということではありません。
また、親との関係がよくないからといって、無理に関係を修復しなければならないわけでもありません。まずは、今の自分にできることと、できないことを整理するところから始めてみましょう。
兄弟で話し合うことが難しい場合は?
親の老後について考えるとき、兄弟間での役割分担は気になるところです。
ただ、健一さんのお話では、お兄さんとお父さんの関係もよくなく、兄弟同士も疎遠とのこと。いきなり兄弟で話し合おうとしても、かえって関係が悪化してしまう可能性もあります。
まずは、健一さん自身が、親の老後についてどこまで関われるのかを考えてみてはいかがでしょうか。
例えば、緊急時の連絡先になることはできるのか、必要な情報を確認することはできるのか、介護が必要になった際に相談窓口につなぐことはできるのか。できることを具体的に考えると、少し整理しやすくなります。
そのうえで、必要があれば、お兄さんにも親の状況を伝え、できることを確認していく方法があります。
ここで大切なのは、兄弟で同じだけの負担を引き受けることを目指すのではなく、それぞれができることを考えることです。
例えば、直接の介護は難しくても、費用の確認や必要な手続きについて協力できる人もいるでしょう。反対に、関わること自体が難しい場合もあります。
無理に役割を決めようとする必要はありませんが、健一さん一人が当然のようにすべてを担う前提にしないことが大切です。
介護が必要になったら、専門家や介護サービスを頼る
今後、両親に介護が必要になったときのことも、少しずつ考えておきましょう。
「介護の社会化」という言葉があります。これは介護を社会全体で支えましょうという考え方です。
介護というと、家族が身の回りの世話をするイメージがあるかもしれません。しかし、現在は介護保険制度があり、要介護認定などを受けることで、訪問介護やデイサービス、福祉用具の利用など、さまざまなサービスを活用できます。
介護が必要になったからといって、家族がすべてを担わなければならないわけではありません。
まず相談したいのが、地域包括支援センターです。高齢者の暮らしや介護に関する総合相談窓口で、介護保険の利用方法や必要な支援について相談できます。
親がまだ元気なうちでも、将来の介護について心配があれば相談してかまいません。親の住んでいる地域を担当する地域包括支援センターを調べておくと、いざというときに慌てずに済みます。
ただし、介護サービスを利用するためには、本人の状態や希望を確認しながら、必要な手続きを進めることになります。親が支援を望まない場合や、家族からの働きかけを拒む場合には、すぐに解決できないこともあるでしょう。
そのような場合も、家族だけで何とかしようとせず、まずは専門職に相談し、どのような対応が可能なのかを一緒に考えてもらうことが大切です。
親の老後に備えて、お金や暮らしの情報を確認しておく
介護のこととあわせて、できれば確認しておきたいのが、両親のお金と暮らしの状況です。
年金収入や預貯金、住まいの状況などが分かっていれば、将来、介護サービスを利用したり施設への入居を検討したりするときに、選択肢を考えやすくなります。
親のお金について詳しく聞くことは、関係がよくない場合には特に難しいかもしれません。無理にすべてを聞き出す必要はありませんが、少なくとも、親がどこで暮らしていて、緊急時に誰に連絡すればよいのか、かかりつけ医はどこなのかなど、必要最低限の情報を把握できると安心です。
また、親自身が自分の老後についてどのように考えているのかも、可能であれば確認しておきたいところです。
自宅で暮らし続けたいのか、介護が必要になったら施設も検討したいのか。費用は年金や預貯金でどこまで賄えそうなのか。
こうしたことを、元気なうちから少しずつ話せると理想的です。
ただし、親が話し合いに応じない場合もあるでしょう。そのときは、健一さんだけが責任を感じて、無理に準備を進めようとしなくてもよいのです。
親が元気なうちに、話し合える関係をつくっておく
親との関係がよくない場合、できるだけ距離を置いていたいと思うこともあるでしょう。しかし、親子である以上、将来、どうしても向き合わなければならない場面が出てくることもあります。
例えば、親の介護や生活の支援について兄弟で相談しなければならないこともあれば、親が亡くなった後には、法定相続人として遺産分割協議が必要になることもあります。兄弟間で意見が合わなければ、話し合いが難航する可能性もあります。
だからといって、今すぐ親や兄との関係を大きく変えようとする必要はありません。ただ、できれば親が元気なうちに、少しずつでも話ができる関係をつくっておけるとよいですね。
介護や相続といった話題をいきなり持ち出すのが難しければ、まずは親の暮らしや今後の希望について聞いてみるところからでもよいでしょう。親自身がどのような老後を望んでいるのかを知ることは、将来の備えにもつながります。
こうした話し合いは、実際に介護が必要になったり、相続が発生したりしてからでは、時間的にも気持ちの面でも余裕がなくなりがちです。選べる方法が限られてしまうこともあります。
切羽詰まってから対応するのではなく、まだ余裕のあるうちに、少しずつ話し合える土台をつくっておく。 それも、親の老後に向けた大切な準備の一つではないでしょうか。
例えば親御さんのお祝い事を企画するなどはいかがでしょうか? 日本の伝統的な慣習として以下のような長寿祝いがあります。お祝い事をきっかけに家族の関係性が良い方向に進むかも知れません。
| 古希(こき) | 70歳 | 紫 | 杜甫の詩「人生七十古来稀なり」 |
| 喜寿(きじゅ) | 77歳 | 紫 | 「喜」の草書体(㐂)が七十七に見えること |
| 傘寿(さんじゅ) | 80歳 | 黄・金茶 | 「傘」の略字が「八十」と読めること |
| 米寿(べいじゅ) | 88歳 | 黄・金茶 | 「米」の字を分解すると「八十八」になること |
| 卒寿(そつじゅ) | 90歳 | 紫・白 | 「卒」の略字(卆)が「九十」と読めること |
| 白寿(はくじゅ) | 99歳 | 白 | 「百」から一を取ると「白」になること(100に一歩手前) |
| 百寿(ひゃくじゅ) | 100歳 | 白・桃 | 100歳であること(別名:紀寿=一世紀) |
| 皇寿(こうじゅ) | 111歳 | ― | 「皇」を分解すると「白(九十一)+十+一」になること |
| 大還暦(だいかんれき) | 120歳 | ― | 2度目の還暦を迎えること |
親のお金と暮らしを考えるFP研究会より
親の老後は、いつ、どのような形で支援が必要になるか分かりません。
だからこそ、今からすべてを決めようとするよりも、困ったときに相談できる窓口を知り、利用できる制度を確認しておくことが現実的な備えになります。
健一さんには、妻と小学生のお子さんがいらっしゃいます。親の老後を心配するあまり、ご自身の家庭の時間やお金を大きく犠牲にしてしまっては、健一さんの家族にとっても負担になってしまいます。
親との関係がよくないことに罪悪感を持つ必要はありません。親の老後を考えることと、親の希望を何でもかなえることは別の問題です。
できることとできないことを整理し、必要なときには介護保険や地域の支援を活用する。そうした準備をしておくだけでも、漠然とした不安を少しずつ具体的な課題に変えていけるのではないでしょうか。
親を支えることだけでなく、自分自身と家族の暮らしを守ることも、同じように大切にしていただきたいと思います。
執筆:親のお金と暮らしを考えるFP研究会 代表 山中伸枝
事例提供:FP相談ねっと 山中伸枝FP

