ご相談者様データ
(お名前)佐藤 恵さん(仮名)40代
(職業)会社員
(家族構成)父70代・母(2年前に他界)
※恵さんは独身で、一人暮らしの父の家まで車で1時間ほどの距離に住んでいる。
相談しようと思ったきっかけ
2年前に母が亡くなり、父が一人暮らしをするようになりました。
父はもともと家事が得意な方ではありません。それでも、母が亡くなってからは、自分なりに何とか頑張って生活しているようです。
ただ、最近、実家の様子が気になって仕方ありません。
庭の手入れも行き届かず、家の中も少しずつ物が増えて、どんどん荒れていくように感じます。母がいた頃はきちんと片付いていた家なのに、今ではあちこちに物が置かれ、掃除も十分にできていない様子です。
私が「少し片付けたら?」「使わない物は処分したら?」と言っても、父はなかなか話を聞いてくれません。
「まだ使える」「捨てる必要はない」と言われてしまい、それ以上強く言うこともできません。
私も一人っ子なので、父のことは気になります。これから年齢を重ねていくことを考えると、今のうちに家の中を整理して、安全に暮らせるようにしておいてほしいと思っています。
でも、私が何か言うたびに父との関係がぎくしゃくしてしまうのもつらいです。
父にはできるだけ元気で、自分の家で暮らし続けてほしいと思っています。
父に無理なく片付けをしてもらうには、どうしたらいいのでしょうか?
断捨離ではなく、暮らしを「整える」ことを考える
恵さんは、お父様のことを心配されているのですね。
お母様が亡くなられてから、お父様は慣れない家事をこなしながら、一人で生活を続けてこられたのでしょう。
一方で、恵さんから見ると、家の中も庭も少しずつ手入れが行き届かなくなり、この先の生活が心配になるのも無理はありません。
特に、転倒の危険があるほど物が増えていたり、掃除ができず衛生面に問題が生じたりしている場合には、早めに対策を考えたいところです。
ただ、ここで少し考えてみたいのは、「片付けてほしい」という娘さんの思いと、お父様の思いが、必ずしも同じではないかもしれないということです。
お母様と長年暮らしてきた家には、たくさんの思い出があるはずです。家の中にある物にも、お父様なりの思い入れがあるのかもしれません。
ここは、「断捨離」を断行するのではなく、お父様の暮らしを「整える」ことを第一に考えて行きましょう。
「捨てる」よりも「暮らしやすくする」工夫を
娘さんから見れば使っていない物でも、お父様にとっては大切な物だったり、いつか使うつもりの物だったりすることもあるでしょう。
もちろん、すべてをそのままにしておけばよいということではありません。
でも、いきなり「捨てましょう」「片付けましょう」と言われると、お父様も自分の暮らし方を否定されたように感じてしまうのではないでしょうか。
まずは、物を捨てることを目的にするのではなく、お父様がこれからも快適に暮らせる家にするにはどうしたらよいかという視点から考えてみてはいかがでしょうか。
例えば、家の中の模様替えを考えてみるのも一つの方法です。
よく使う物を取り出しやすい場所に置く、通路に物を置かないようにする、掃除がしやすいように家具の配置を変えるなど、少し工夫するだけでも暮らしやすさは変わります。
お父様が日常的に使っている家電についても、操作が難しくなっていないか、もっと簡単に使える物に替えた方がよいものはないか、一緒に確認してみてもよいでしょう。
「この家電は使いにくくない?」「ここに物があると歩きにくくない?」など、日々の暮らしについて尋ねてみるのです。
そのうえで、お父様が困っていることや、不便に感じていることがあれば、一緒に改善していきます。
物を処分するかどうかは、その後に考えても遅くありません。
家の中を快適にするために家具の配置を変えたり、必要な物を使いやすい場所に移したりしているうちに、自然と整理できる物も出てくるのではないでしょうか。
大切なのは、娘さんが一方的に片付けを進めるのではなく、お父様自身が「こうした方が暮らしやすい」と感じられるようにすることです。
家事を頑張りすぎなくてもよい方法を考える
お父様は、もともと家事が得意ではなかったとのこと。
お母様が担っていた家事を一人でこなすことは、想像以上に大変なのかもしれません。
それならば、家事をすべてお父様自身で頑張ってもらうのではなく、負担を減らす方法を考えてみてはいかがでしょうか。
例えば、食事の準備です。
最近は、電子レンジで温めるだけで食べられる冷凍のおかずや、栄養バランスに配慮した冷凍宅配食など、さまざまなサービスがあります。
お父様の好みや食事の量、費用などを考えながら、いくつか候補を調べてみましょう。
いきなり定期利用を勧めるのではなく、まずはお試しセットなどを利用して、お父様が気に入るかどうか確かめてみるのもよいと思います。
食事の準備が少し楽になれば、家事にかかる負担も軽くなります。
また、庭の手入れについても、すべてをお父様自身で行う必要はありません。
地域のシルバー人材センターなどに相談すれば、草刈りや庭木の手入れなどを依頼できる場合があります。地域の造園業者や家事支援サービスなども選択肢になるでしょう。
家の中の掃除や整理整頓についても、必要に応じて外部のサービスを利用する方法があります。
「自分でできないことは、人に頼ってもいい」と考えられるようになると、お父様の暮らしにも余裕が生まれるのではないでしょうか。
もしかしたら、介護保険も使えるかも知れません。一度「地域包括支援センター」に相談に行かれるのも良いでしょう。ヘルパーさんにも助けてもらえるかも知れません。
定期的に会いに行くことを習慣にする
もう一つ、恵さんにおすすめしたいのは、お父様のところへ定期的に足を運ぶことです。
恵さんは1時間ほどで行ける距離に住んでいるとのこと。仕事やご自身の生活もあるので、頻繁に訪問するのは難しいかもしれません。
それでも、例えば「2か月に1回は実家に行く」とあらかじめ予定を決めておくのはいかがでしょうか。
訪問する日が決まっていれば、恵さんも予定を立てやすくなりますし、お父様にとっても、娘が来ることが楽しみになるかもしれません。
最初から「次に行ったときは片付けをする」と決めてしまう必要はありません。
一緒に食事をしたり、近況を聞いたり、買い物に出かけたりする。そんな時間を重ねながら、少しずつ家のことについても話せるようになればよいのではないでしょうか。
例えば、ある日は台所の使い勝手を見直す。別の日には、庭の手入れを業者に頼むために相談する。そんな小さなことから始めてみるのです。
定期的に顔を合わせるようになれば、お父様の方から「今度来たときに、ここを何とかしたい」「庭のことを相談したい」と話してくれるようになるかもしれません。
一度の訪問ですべてを解決しようとせず、時間をかけて一緒に考えていくことが大切なのだと思います。
整理整頓は、これからの人生を考える入り口にもなる
家の中を整理することは、単に物を減らすことではありません。
自分にとって何が必要なのか、何を大切にしていきたいのかを考える機会にもなります。
これから年齢を重ねていくと、住まいのことだけでなく、健康や介護、財産の管理など、さまざまなことを考える場面が出てくるでしょう。
例えば、今の家に住み続けるためには、どのような手入れが必要なのか。家事が難しくなったときには、誰に頼ればよいのか。将来、家で暮らすことが難しくなった場合には、どのような選択肢があるのか。
こうしたことを、いきなり話し合おうとしても、なかなか難しいものです。
だからこそ、まずは日々の暮らしを少し快適にすることから始めてみるのです。
「ここを片付けてほしい」という話ではなく、「これからもこの家で気持ちよく暮らすために、何ができるだろう?」と、一緒に考えてみる。
その積み重ねが、将来の暮らしや、さまざまな決断について話し合うための土台になっていくのではないでしょうか。
親のお金と暮らしを考えるFP研究会より
今回のご相談では、お父様に断捨離をしてもらうことよりも、これからの暮らしを快適にするために、何ができるかを一緒に考えてみてはどうでしょうか、とお伝えしました。
親のことが心配になると、つい「今のうちにやっておいてほしい」「後で困らないようにしてほしい」と思うものです。
でも、親には親の生活があり、長年暮らしてきた家や、そこで使ってきた物への思いもあります。
子どもがよかれと思って提案したことでも、親にとっては、自分の生活や価値観を否定されたように感じられることがあるのかもしれません。
だからこそ、まずは親が今どのように暮らしていて、何に困っているのかを知ることから始めてみてはいかがでしょうか。
家事の負担を減らす工夫をしたり、庭の手入れを外部に頼んだり、家の中を使いやすく整えたりする。そうしたことを通じて、少しずつ暮らしを見直していくことができます。
そして、定期的に会いに行き、何気ない会話を重ねることも大切です。
親の暮らしを整えることは、単に家をきれいにすることではありません。これから先、どのように暮らしていきたいのかを考えることにもつながります。
親のために何かをしてあげることだけでなく、親と一緒に考えていくこと。
その姿勢が、これからの親子関係を支え、将来のさまざまな課題に向き合うためのきっかけになるのではないでしょうか。
執筆:親のお金と暮らしを考えるFP研究会 代表 山中伸枝
事例提供:FP相談ねっと 山中伸枝FP

