ご相談者様データ
(お名前)田中 美咲さん(仮名)40代
(職業)会社員
(家族構成)父70代・母70代・妹30代
相談しようと思ったきっかけ
父は昔から株が好きで、趣味のように株式投資を続けています。
私は株のことはよく分からないのですが、父によると、かなりの金額を投資しているようです。
「この会社はこれからも伸びるぞ」「この株は昔から持っているから、ずいぶん増えた」
そんな話を楽しそうにする父を見ていると、株式投資が本当に好きなのだということは伝わってきます。
最近では、父から「自分が持っている株は、全部お前たち姉妹に相続させるつもりだ」と言われました。
「良い会社の株だから、これは財産だぞ」と、少し自慢げに話す父。
父が家族のために財産を残そうとしてくれていることはありがたいと思います。
ただ、正直なところ、私も妹も株にはまったく興味がありません。
どんな会社の株を持っているのかもよく分かりませんし、株価が上がった、下がったと言われてもピンときません。
父が元気なうちは「そうなんだ」と聞いていればいいのですが、もし本当に父から株を相続することになったら、私たちはどうすればいいのでしょうか?
「良い株だから持っていなさい」と言われても、私たちにはその良さが分かりません。
父が亡くなった後、株をどうすればいいのか、今から考えておいた方がいいのでしょうか?
親の「想い」も受け止めたい
ご相談者の美咲様及び妹様は、株式はじめ投資には全く興味がないとのこと。
今の状態のまま、お父様から株式を相続しても、どうして良いのか分からない、できれば、株式なんて売ってしまって現金で残してもらった方がずっとありがたいのに、と思っていらっしゃるとのこと。
実はこういったご相談は少なくなく、投資にまつわる「温度差」は家族の大きな問題に発展してしまうこともあります。
しかしお父様は家族のためにと頑張って資産形成をされてきたのでしょう。
「株を相続させたい」と父娘でオープンに語ることができる環境にあることをメリットととらえ、今から出来ることを考えていきましょう。
株式も「相続財産」です
まず知っておきたいのは、上場株式なども預金や不動産と同じように相続財産になるということです。
株式を保有している人が亡くなった場合、まずは亡くなった方がどのような株式を、どの証券会社の口座で保有していたのかを確認する必要があります。
そのうえで、遺言書があればその内容を確認し、遺言がなければ相続人で話し合って、誰がどの財産を引き継ぐのかを決めます。
株式を相続する場合には、一般的には相続人(財産を受け継ぐ人)の証券口座へ株式を移管する手続きが必要になります。
つまり、「父が株を持っている」ということだけ分かっていても、実際に相続するときには、
・どの証券会社に口座があるのか
・どんな銘柄をどれくらい保有しているのか
・誰がその株式を相続するのか
といったことを確認しなければなりません。
現金のように「100万円ずつ分けましょう」というわけにはいかないところが、株式相続の難しいところです。
「株を2人で半分ずつ」が簡単とは限りません
今回のご相談では、お父さまは「持っている株を全部、娘2人に相続させる」と考えています。
一見すると、「姉妹で半分ずつ分ければいい」と思うかもしれません。
ところが、実際にはそう簡単ではありません。
例えば、お父さまがA社、B社、C社の株を持っていたとします。
A社の株は100万円、B社は300万円、C社は600万円だったとしたら、単純に銘柄ごとに分けると、姉妹で財産価値に大きな差が出てしまいます。
すべての株をいったん共有するという方法もありますが、株式は価格が変動します。
「この株は2人で半分ずつ持ちましょう」と決めても、その後に株価が大きく上がったり下がったりすれば、売却するタイミングや判断をめぐって姉妹の意見が分かれる可能性もあります。
さらに、そもそも今回のご相談者のように、相続人が「株を持ちたい」と思っていないのであれば、無理に株式のまま相続する必要があるのか、という問題もあります。
「売るつもり」なら、誰が相続するかを決めておく方法も
もし姉妹ともに「株式を保有するつもりはなく、相続したら売却したい」と考えているのであれば、あらかじめお父さまと話し合っておくことも大切です。
例えば、株式を姉が相続し、その代わりに妹には預金など別の財産を渡す「代償分割」という方法があります。株式を姉が相続した後に売却し、その売却代金の一部を妹に渡すという方法です。
こうした方法を整えておくことで、姉妹がそれぞれ大量の株式を保有し、売却のタイミングを相談し続ける必要はなくなります。
もちろん、実際にどのような分け方が適切なのかは、株式以外の財産や相続人の状況、相続税なども含めて考える必要があります。
また、遺言書を作成するのであれば、具体的な財産の内容を確認したうえで、誰に何を相続させるのかを明確にしておくことも大切です。
特に、複数の銘柄を保有している場合は、「株は娘2人に」というだけでは、実際の分け方で迷う可能性があります。
「自分が亡くなった後も、子どもたちが困らないように」と思っているのであれば、財産を残すだけではなく、残された家族が扱いやすい形にしておくことも、親にできる準備の一つなのではないでしょうか。
でも、お父さまの「株を残したい」という気持ちも大切にしたい
ここまでお話しすると、「株なんていらないのだから、今のうちに全部売ってもらえばいい」と思うかもしれません。「現金の方が、よっぽど分かりやすいしありがたい」と思う方は少なくありません。
でも、お父さまは、ただ趣味で株を集めているだけではないのかもしれません。
長い時間をかけて企業を選び、株価の動きを見ながら、少しずつ資産を築いてきた。そして、その財産を「自分がいなくなった後は、娘たちに残したい」と考えている。そこには、お父さまなりの家族への思いがあるのではないでしょうか。
「良い株だから持っていなさい」という言葉の裏側には、「自分が築いてきたものを、子どもたちに渡したい」という気持ちがあるのかもしれません。
そう考えると、娘さん側も「株なんて分からないから困る」とだけ考えるのではなく、一度お父さまがどんな思いで資産を築いてきたのかを聞いてみるのもよいと思います。
「株をもらう」ことをきっかけに、資産形成を学んでみる
美咲様は「私は株には興味がありません」とおっしゃいますが、これから先、自分自身の人生を考えていくうえで、資産形成について知っておくことは決して無駄ではありません。
もちろん、無理に株式投資を始める必要はありません。
ただ、お父さまが株式投資をしてきたように、人生の中では「働いて収入を得る」だけではなく、「持っているお金をどう管理するか」ということも大切になります。
せっかくお父様が自分が株式投資で築いた財産を相続させたいとおっしゃっているのですから、
「そもそも株ってどういうものなの?」「なぜお父さんはこの会社を選んだの?」「株を持ち続けるというのは、どういうことなの?」
などと、お父さまに聞いてみるのも良いのではないでしょうか?できれば妹さんも一緒にお話されるとお父様も喜んでお話して下さるのではないでしょうか?
もしかすると、今まで知らなかったお父さまの一面を知ることができるかもしれません。
そして、なによりも、「生きたレッスン」を学ぶことで美咲さんご自身の資産形成について考えるきっかけにもなります。
親が残したいものと、自分が必要とするものは違っていい
親が「これは大切な財産だから」と思っているものが、子どもにとっても同じように大切とは限りません。
不動産を残したい親と、管理できないから困る子ども。
事業を継いでほしい親と、別の仕事をしたい子ども。
そして今回のように、株を残したい親と、株には興味がない子ども。
親子だからといって、価値観まで同じである必要はありません。
大切なのは、親の思いを尊重しながら、残された人が困らない方法を一緒に考えておくことではないでしょうか。
「お父さんが大切にしてきた株だから、どうしたらいいのか分からない」と思ったら、まずは「全部売って」と結論を出すのではなく、どんな株を持っているのか、なぜその株を選んだのかを聞いてみる。
そのうえで、自分たちはどうしたいのかを考えてみる。
それでも難しい場合には、税理士や司法書士、証券会社など、必要な専門家に相談する方法もあります。
親が元気な今だからこそ、できることがあります。
「財産を残してくれること」だけではなく、「その財産をどう引き継いだら家族が困らないか」まで、一緒に考えておく。
それは、親から子どもへの大切な贈り物を、最後まで大切に受け取るための準備なのかもしれません。
親のお金と暮らしを考えるFP研究会より
今回のご相談では、「株をどうすればいいか」ということだけではなく、お父さまがなぜ株式投資を続けてきたのか、そしてなぜ娘さんたちに残したいと思っているのかを知ることから始めてみてはどうでしょうか、とお伝えしました。
資産形成は、何歳からでも学ぶことができます。
今まで株に興味がなかったとしても、親が築いてきた資産をきっかけに、自分自身のお金について考えてみる。
「株をもらうか、売るか」という二択ではなく、親の思いを受け止めながら、自分にとってのお金との付き合い方を考えてみる。
それもまた、相続を考える大切な意味なのではないでしょうか。
そして、お父さまには「良い株を残してくれてありがとう」と言えるように、まずは少しだけ、株や資産形成について学んでみてもよいのかもしれません。
親が築いてきた資産を受け継ぐことは、単に財産を受け取ることではなく、親がどのようにお金と向き合ってきたのかを知り、自分のお金との向き合い方を考える機会にもなるのです。
執筆:親のお金と暮らしを考えるFP研究会 代表 山中伸枝
事例提供:FP相談ねっと 山中伸枝FP

