ご相談者様データ
(お名前)佐藤 真美さん(仮名)40代
(職業)会社員
(家族構成)独身・子どもなし
母70代・地方で一人暮らし
相談しようと思ったきっかけ
最近、友人と集まると、親の介護について話すことが増えてきました。
「そろそろ親のことを考えないとね」「もし介護が必要になったら、仕事はどうする?」そんな話を聞いているうちに、私も母のことが心配になってきました。
母は70代で、地方で一人暮らしをしています。私が子どもの頃に両親は離婚し、母は女手ひとつで私を育ててくれました。今も元気で、一人で暮らすことを楽しんでいます。
母はもともと気性がはっきりしていて、かなり頑固なところがあります。
「老人ホームなんて、保育園みたいで嫌」と、以前から言っています。
一人暮らしが性に合っている人なので、介護が必要になったからといって、素直に誰かの世話になるとも思えません。
一方、私は東京で仕事をしています。これまで仕事を頑張ってきて、今は役職もつき、責任のある仕事を任せてもらっています。大変ではありますが、仕事には誇りを持っています。
母とは、正直なところ、あまり性格が合いません。
離れて暮らしていることもあり、母のことを少し苦手だと感じることもあります。
だからこそ、「もし母に介護が必要になったら、私はどうすればいいのだろう」「地方まで通って介護することになったら、仕事を辞めるしかないのでは?」「今の仕事を続けながら介護なんて、とてもできそうにない」と考えると、不安になります。
母のことを大切に思っていないわけではありません。
これまで女手ひとつで育ててくれた母ですから、できることはしてあげたいと思っています。
でも、自分の仕事も簡単に手放したくありません。親の介護が必要になったら、やはり仕事を辞めなければならないのでしょうか?
「親の介護=子どもが介護する」ではありません
まずお伝えしたいのは、親に介護が必要になったからといって、子どもが自分で介護を担わなければならないわけではない、ということです。
かつては家族が介護を担うことが当たり前と考えられていた時代もありました。
しかし現在は、介護保険制度をはじめとして、介護を社会全体で支える仕組みがあります。
いわば「介護の社会化」が進んでいるのです。
もちろん、家族だからこそできる支援もあります。
病院に付き添う、本人の希望を聞く、必要な手続きを一緒に考える、といったことは家族だからこそできるでしょう。
でも、それと「毎日の介護を家族だけで担う」ことは別の話です。
介護が必要になったときには、介護サービスを利用し、医療や福祉の専門職にも支えてもらいながら、本人と家族にとって無理のない生活を考えていくことが大切です。
まずは「地域包括支援センター」に相談してみましょう
今回のように、まだ介護が始まっていない段階でも、親御さんが住んでいる地域の「地域包括支援センター」が力になってくれます。
地域包括支援センターは、高齢者やその家族のための総合相談窓口で、保健師、社会福祉士、主任ケアマネジャーなどの専門職が相談に乗ってくれます。介護が必要になってからだけではなく、介護について不安がある段階でも相談できます。
そこで、
「母は一人暮らしです」「私は東京で仕事をしています」「母は施設に入りたくないと言っています」「私自身も仕事を続けたいと思っています」
と、今の状況をそのまま伝えてみたらいかがでしょうか?
介護が必要になったとき、どのようなサービスが利用できるのか。
一人暮らしを続けるためには、どのような支援が考えられるのか。
家族が遠距離に住んでいる場合、どこまで支援をお願いできるのか。
こうしたことを、地域の専門家と一緒に考えていきます。
最初から「私が何とかしなくては」と考える必要はありません。
介護が始まる前から、専門家とチームをつくっておく。それだけでも、不安はずいぶん変わってくるのではないでしょうか。
「介護休業」と「介護休暇」も知っておきましょう
仕事を続けながら介護をするためには、勤務先の制度についても早めに確認しておきたいところです。
育児・介護休業法には、介護のための「介護休業」や「介護休暇」、短時間勤務やフレックスタイム、残業の制限など、仕事と介護を両立するための制度があります。
介護休業は、対象家族1人につき通算93日、最大3回まで分割して取得できます。
ここで大切なのは、介護休業を「自分が介護をするために仕事を休む期間」と考えないことです。
厚生労働省も、介護休業について、介護サービスの手配や家族の役割分担など、仕事と介護を両立できる体制を整えるための準備期間として活用することを示しています。
また、通院の付き添いやケアマネジャーとの打ち合わせなど、スポットで休みが必要な場合には「介護休暇」という制度もあります。
介護休暇は、対象家族が1人の場合、1年度につき5日まで、時間単位でも取得できます。
もちろん、具体的な利用条件や会社独自の制度もありますので、勤務先の担当部署などに確認しておくと安心です。
「介護が始まったら仕事を辞める」と決めてしまう前に、「仕事を続けるために使える制度は何があるのか」を確認しておきましょう。
適度な距離を保つことも、親子の関係には大切です
今回のご相談で、私はもう一つ大切なことがあると感じました。
それは、佐藤様とお母さまの距離感です。
「親なのだから、もっと親孝行しなければ」「母は私を育ててくれたのだから、介護するのは当然」そう考えてしまうと、佐藤様ご自身が苦しくなってしまいます。
親子だからといって、何でも分かり合えるとは限りません。
性格が合わないこともありますし、長い間一緒に暮らしていなければ、それぞれの生活や価値観が変わっていることもあります。
だからこそ、適度な距離を保ちながら親を支えることは、決して冷たいことではありません。
むしろ、無理をして一人で抱え込んでしまえば、介護する側もされる側も苦しくなってしまいます。
「お母さんのことは心配だけれど、私は東京で仕事を続けたい」「できることはする。でも、できないことは専門家やサービスにお願いする」そんな線引きをしてもよいのです。
親の介護と向き合うことは、自分の人生を考えることでもあります
佐藤様は40代です。まだ母親の介護が始まっていない今だからこそ、できることがあります。
一度、母親の暮らしている地域の地域包括支援センターを調べてみる。
母親が利用している医療機関や、近所で親しくしている人を知っておく。
母親が「どんな暮らしを続けたいのか」を聞いておく。
そして、自分の勤務先の介護両立支援制度について確認しておく。
こうした準備は、いざというときのためだけではありません。
母親のことを知るきっかけにもなります。
「お母さんは、本当に施設が嫌なの?」「一人暮らしを続けるためなら、どんな支援なら受け入れられそう?」
そんな話をすることで、これまで少し距離のあった親子関係が、少しずつ変わっていく可能性もあります。
親の介護について考えることは、必ずしも「親のためだけ」のものではありません。
親の老後を考えることは、自分自身がこれからどのように年齢を重ねていきたいのかを考えることでもあります。
佐藤様は独身でお子さんもいらっしゃいません。
だからこそ、お母さまの老後を考えることは、将来の自分自身のモデルを考えることにもつながります。
「自分だったら、年を重ねても一人で暮らしたいのか」「どんなところなら人の手を借りてもいいと思えるのか」「病気になったとき、誰に何を頼みたいのか」「仕事を続けながら、どんな暮らしをしたいのか」
こうしたことも、少しずつ考えてみてほしいと思います。
親のお金と暮らしを考えるFP研究会より
今回のご相談者には、まず「仕事を辞める」という結論を出さないでください、とお伝えしました。
介護が必要になったときには、介護保険サービスや地域の支援、職場の両立支援制度など、利用できるものを組み合わせていきましょう。
そして、一人で抱え込まないこと。
地域包括支援センター、ケアマネジャー、医療機関、勤務先など、必要な人とつながりながらチームで支えていくことが大切です。
同時に、自分の周りの人にも相談してみてください。
同じように親の介護を経験した友人や、職場の先輩から話を聞くことで、「自分だけが大変なのではない」と気づくこともあります。
そして、今回の経験は、もしかすると相談者自身の後輩たちにとっても意味のあるものになるかもしれません。
仕事を大切にしながら親の介護とも向き合う姿を見せることは、
「親の介護があっても、仕事を辞めなくていい」
「困ったときには制度を使っていい」
「一人で抱え込まなくていい」
という、これからの働き方のひとつの道筋を示すことにもなるからです。
親の老後を考えることは、親の人生を背負うことではありません。
親がその人らしく暮らすために何ができるのかを一緒に考えながら、同時に、自分自身の人生も大切にする。
その両方があってよいのです。
そして、親の老後を考えながら、自分自身の老後についても少しずつ準備していく。
それが、親子それぞれの人生を大切にすることにつながるのではないでしょうか。
執筆:親のお金と暮らしを考えるFP研究会 代表 山中伸枝
事例提供:FP相談ねっと 山中伸枝FP

