ご相談者様データ
(お名前)鈴木 健一さん(仮名)50代
(職業)会社員
(家族構成)妻と子ども
父親(80代)、母親(80代) 両親とは別居、車で1時間くらいのところに住む
相談しようと思ったきっかけ
父は80代になった今も、元気に車を運転しています。買い物に出かけるのはもちろん、友人とゴルフに行ったり、母と一緒に山へキノコ狩りに出かけたりと、毎日をアクティブに過ごしています。
元気なのはうれしいことですし、本人にとっても車は生活に欠かせないものだと思います。実家は車がないと不便な地域なので、簡単に運転をやめられない事情もわかります。
私も実家からそれほど遠くないところに住んでいて、車で1時間ほどの距離です。帰省したときには父の身体の様子にも気を配っていますが、年齢を考えると、やはり運転が心配です。
そこで、そろそろ免許を返納してはどうかと話しているのですが、父はなかなか応じてくれません。本人はまだ運転できると思っているようです。
もし事故を起こしたら、父自身だけでなく、相手の方にも大きな迷惑をかけてしまいます。かといって、無理に運転をやめさせることも難しく、どうしたらよいのか悩んでいます。
親が元気だからこそ、運転のリスクについて考えておきたい
お父さまは80代になっても、買い物やゴルフ、キノコ狩りなど、活動的な生活を送っていらっしゃいます。自分で行きたいところへ出かけられることは、日々の暮らしの楽しみであり、自立した生活を支える大切な要素でもあります。
一方で、年齢を重ねると、視力や聴力、反射神経、判断力などが変化していくことがあります。本人は元気で、これまでと同じように運転できているつもりでも、以前とは違う変化が生じている可能性はあります。
ご家族としては、万一の事故を考えると心配になるのも当然でしょう。
ただ、運転をやめるということは、単に車のキーを手放すだけではありません。これまで自由に出かけていた生活が変わり、友人との交流や趣味を楽しむ機会が減ってしまうことにもつながります。
特に、公共交通機関が十分でない地域では、車を手放すことによって日常生活そのものが不便になることもあります。
そのため、免許返納を勧めるときには、事故の危険性だけを伝えるのではなく、本人が運転を続けたいと思う理由にも耳を傾けることが大切です。
まずは、本人の気持ちを聞いてみる
「もう年なのだから運転をやめてほしい」と伝えても、本人が納得できなければ、話し合いは平行線になってしまいます。
まずは、なぜ運転を続けたいのか、車がなくなると何に困るのかを聞いてみてはいかがでしょうか。
買い物に行けなくなることが不安なのかもしれません。友人とのゴルフや、夫婦で出かけるキノコ狩りを楽しみにしているのかもしれません。あるいは、自分の運転能力が衰えたとは認めたくないという気持ちもあるでしょう。
そうした思いを聞いたうえで、どのような方法なら生活の楽しみを維持できるのか、一緒に考えてみることが大切です。
たとえば、買い物には宅配サービスを利用する、ゴルフには友人と乗り合わせて出かける、家族が送迎できる日を決めるなど、車に頼らない方法を少しずつ増やしていくことも考えられます。
ただし、家族がすべての送迎を引き受ける必要はありません。息子さん自身の仕事や生活もありますから、無理なく続けられる方法を探していきましょう。
運転を続けるなら、万一の事故に備える方法を考える
免許返納について話し合っても、すぐに結論が出ないことはあります。だからといって、心配を抱えたまま何も対策をしないのではなく、運転を続ける間の安全対策を考えておくことも大切です。
今回、私が提案したいのは、自動車保険に付帯する通信型ドライブレコーダーの活用と、自動車保険の契約内容の見直しです。
通信型ドライブレコーダーで、事故の際の連絡や救助に備える
ドライブレコーダーというと、事故の映像を記録する機器を思い浮かべる方が多いでしょう。しかし、自動車保険に付帯する通信型ドライブレコーダーには、映像を記録するだけでなく、事故の際の通報や運転者へのサポートを行う機能を備えたものがあります。
商品によって異なりますが、たとえば次のような機能が考えられます。
- 衝撃を検知して自動通報する機能:一定以上の衝撃を検知すると、位置情報などを保険会社の窓口に送信する
- オペレーターによる安否確認:ドライブレコーダーを通じて運転者に呼びかけ、けがの有無や必要な支援を確認する
- 緊急時の連絡機能:運転者が自分で操作して、保険会社の窓口に連絡できる
- 安全運転を支援する機能:商品によっては、運転中の危険につながる状況を知らせたり、安全運転のアドバイスをしたりする
たとえば、事故の衝撃でお父さまが動けなくなってしまった場合、自分でスマートフォンを操作して連絡することが難しいかもしれません。自動通報や安否確認の機能があれば、事故の発生を周囲に知らせ、必要な対応につなげられる可能性があります。
山道など、家族がすぐには駆けつけられない場所へ出かけることもあるお父さまにとって、こうした機能は安心材料の一つになるでしょう。
もちろん、衝撃の大きさや通信状況などによっては、自動通報されない場合もあります。また、通報機能があれば必ず救助が間に合うというものでもありません。それでも、万一のときに助けを求める手段を増やしておくことには意味があります。
市販のドライブレコーダーを取り付けるだけでなく、自動車保険の見直しとあわせて、通信機能や緊急時のサポートがある商品を検討してみてはいかがでしょうか。
なお、利用料金や機器の貸与条件、利用できる機能は保険会社や商品によって異なります。契約前に内容を確認することが大切です。
自動車保険の契約者を息子に変更することも検討する
もう一つ考えたいのが、自動車保険の契約者についてです。
現在、お父さまが自動車保険の契約者になっているのであれば、契約者を息子さんに変更できないか、保険会社や代理店に相談してみるのも一つの方法です。
車の所有者と自動車保険の契約者は、必ずしも同じ人でなければならないわけではありません。ただし、契約できる人の条件や必要な手続きは保険会社によって異なります。
契約者を息子さんに変更することができれば、更新時の手続きや補償内容の確認を息子さんが担いやすくなります。通信型ドライブレコーダーなど、新しいサービスの導入を検討する際にも、家族が契約内容を把握しておくことは役立つでしょう。
また、自動車保険の契約者と、事故の際に保険金を受け取る人は、必ずしも同じとは限りません。保険金の請求ができる人や必要な手続きは、保険の種類や契約内容によって異なります。
そのため、契約者を変更すれば、あらゆる保険金の請求を息子さんが自由にできるというわけではありません。誰が契約者となり、誰が補償の対象となるのか、保険金請求の際に誰が手続きを行うのかを、あらかじめ保険会社に確認しておきましょう。
なお、契約者を変更すること自体が運転の安全性を高めるわけではありません。目的は、家族も契約内容を把握し、必要な備えを一緒に考えられる体制を整えることです。
免許返納を先送りにせず、これからの運転について話し合う
通信型ドライブレコーダーや自動車保険の見直しは、万一の事故に備えるための対策です。しかし、それによって運転そのものの危険性がなくなるわけではありません。
大切なのは、こうした対策を講じることと並行して、お父さまがいつまで、どのような条件で運転を続けるのかを話し合っておくことです。
たとえば、夜間や雨の日の運転は控える、慣れない道や長距離の運転は避ける、体調がすぐれない日は運転しないなど、本人が受け入れやすいルールから始める方法もあります。
ただし、こうした工夫だけでは安全を確保できない場合もあります。運転中のヒヤリとする出来事が増えた、車をこすることが多くなった、道に迷うようになったなど、気になる変化があれば、運転を続けてよいか改めて考える必要があります。
運転に不安がある場合は、警察の安全運転相談窓口に相談する方法もあります。全国共通の相談ダイヤル「♯8080」では、高齢ドライバー本人だけでなく、家族からの相談にも対応しています。
また、本人が免許返納に抵抗を感じている場合には、安全運転サポート車に限定して運転を続ける「サポートカー限定免許」という選択肢もあります。利用できる車両や免許の条件には決まりがあるため、本人の状況に合うか確認してみるとよいでしょう。
親の自立を尊重しながら、家族も安心できる備えを
親が高齢になってくると、これまで当たり前にできていたことが、少しずつ難しくなる場面が出てきます。子どもとしては心配だからこそ、先回りして対策を講じたくなるものです。
しかし、親にも自分の生活があり、大切にしてきた楽しみや人間関係があります。安全のためだからといって、一方的にそれらを取り上げようとすれば、親子の関係がぎくしゃくしてしまうこともあるでしょう。
一方で、本人の希望を尊重することと、危険があっても何も言わずに見守ることは違います。
まずは、親が運転を続けたい理由を理解する。そのうえで、保険やドライブレコーダーなどの備えを見直し、家族で安全について話し合う。そして、運転を続けることが難しくなったときに備えて、車がなくても生活できる方法を少しずつ考えておく。
こうした取り組みを重ねることで、親の自立をできるだけ長く支えながら、家族の不安も軽減していけるのではないでしょうか。
親の老後を考えるときには、何かが起きてから対応するのではなく、元気なうちから少しずつ準備しておくことが大切です。今回のように、親が元気に活動している時期だからこそ、これからの暮らし方について話し合う機会を持ってみてはいかがでしょうか。
親のお金と暮らしを考えるFP研究会より
高齢の親の運転については、事故への心配と、親の自由な暮らしを尊重したいという思いの間で、悩むご家族も多いのではないでしょうか。
免許返納を勧めても、すぐに本人が納得するとは限りません。だからこそ、運転を続けるための安全対策と、将来運転をやめるときの準備を、両方進めておくことが大切です。
自動車保険や通信型ドライブレコーダーを見直すことは、万一への備えになります。ただし、それだけで運転のリスクをなくすことはできません。本人の身体や認知機能の変化にも目を向けながら、必要に応じて専門家に相談し、家族で考えていきましょう。
親が元気なうちから、これからの暮らしについて話し合っておくこと。それも、親の生活と安全を守るために、家族ができる大切な準備の一つです。
今回の事例は、保険代理店を営む寺田FPより提供を受けました。保険のプロならではの視点で高齢者の暮らしを守ることもできるという好例かと考えます。
執筆:親のお金と暮らしを考えるFP研究会 代表 山中伸枝
事例提供:FP相談ねっと 寺田紀代子

