ご相談者様データ
(お名前)佐藤 貴子さん(仮名)60代
(職業)パート
(家族構成)母(90代)と同居 父親とは早くに離婚 兄弟姉妹もない
相談しようと思ったきっかけ
「私はこのまま、誰にも知られずに一人で死んでいくのでしょうか」
90代の母親を自宅で介護している60代の独身女性です。母のことを相談するつもりだったのですが、自分のことも心配で・・・相談させてもらえませんでしょうか?
母親は若い頃から自由奔放で、自分の好きなように生きてきた人。一方、私はおとなしい性格で、母親の言うことに逆らえず、いつも母親の意向に合わせてきました。
気がつけば、自分の人生を自分のために生きてきたという実感がありません。現在も母親と同居し、介護を続けていますが、ふと母親の介護が終わった後の自分を想像することがあります。
今住んでいるのは古びた賃貸住宅。結婚もせず、子どももいません。この先、自分が年を取って動けなくなったとき、誰が気にかけてくれるのでしょうか。もし自宅で一人で亡くなっても、誰にも気づかれないのではないか。
そんなことを考えると、急に不安になり、いてもたってもいられない気持ちになり、どこかに消えたいとまで思うことがあります。
ご自身の人生を「褒めて」良いんです
90代のお母さんを介護しながら、自分の将来についても考えるようになったご相談者。これまでの生活を振り返ると、母親のために自分の時間や気持ちを後回しにしてきたことも多かったのではないでしょうか。
お母さんとの関係には、さまざまな思いがあると思います。親だからといって、いつも感謝や愛情だけで向き合えるわけではありません。自分の人生を思うように生きられなかったという悔しさや、これから先への不安があっても不思議ではありません。
まずは、これまで一人で頑張ってきた自分をねぎらってほしいと思います。
頑張ってきた
優しくしてきた
と、ご自身がこれまでやってきたことを褒めてあげましょう。なかなかできることではありません。
佐藤様は立派にやって来られました。
そして、今感じている不安を一人で抱え込まないでください。介護について相談できる人はいますか。地域包括支援センターなど、専門家に話を聞いてもらうこともできます。介護サービスを利用して自分の時間を確保することも考えてほしいと思います。
例えば介護者の休養を目的に、お母さんにデイサービスに泊まりで行って貰う「レスパイト」の利用もできるかも知れません。
お母さんの介護を大切にすることと、自分の人生を大切にすることは両立してよいのです。
一人で亡くなったら、その後はどうなる?
相談者が心配しているのは、自分が一人で亡くなったときのことです。
身寄りがなく、亡くなった後に遺体を引き取る人がいない場合、どうなるのでしょうか。
実は、引き取り手がいない、または埋葬や火葬を行う人がいない場合には、墓地、埋葬等に関する法律に基づき、死亡地の市区町村長が火葬などを行う仕組みがあります。つまり、身寄りがないからといって、亡くなった後に何も対応されないわけではありません。
ただし、行政が対応してくれるのは、法律などに基づく必要な事務です。葬儀の内容や納骨先を本人の希望どおりに整えてくれるわけではありません。また、賃貸住宅の退去、家財の整理、各種契約の解約など、すべてを行政が引き受けてくれるわけでもありません。
自分が望む形で最期を迎え、その後のこともきちんと整えておきたいのであれば、生前から準備しておくことが大切です。
身元保証や死後の手続きを頼めるサービスもある
近年、頼れる家族や親族がいない高齢者を支援する「高齢者等終身サポート事業」があります。
事業者によってサービス内容は異なりますが、例えば次のような支援があります。
- 入院や施設入所時の身元保証
- 日常生活の支援や見守り
- 入院・入所時の手続きのサポート
- 葬儀や納骨の手配
- 死後の行政手続きや家財整理など
こうしたサービスを利用すれば、身寄りがない人でも、将来必要になる支援を準備することができます。
ただし、契約すれば安心というわけではありません。サービスの範囲、料金、追加費用、解約条件、預けたお金の管理方法などを確認する必要があります。事業者の経営状況や、万が一事業者が事業を継続できなくなった場合の対応も確認しておきたいところです。
消費者庁などが公表している「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」や契約時のチェックリストも参考になります。不安があれば、消費生活センターや地域包括支援センターに相談しましょう。
また、民間事業者だけでなく、専門職に必要な契約を依頼する方法もあります。
例えば、将来、判断能力が低下したときに備える任意後見契約、日常的な財産管理を依頼する財産管理委任契約、定期的に安否を確認してもらう見守り契約、亡くなった後の葬儀や行政手続きなどを依頼する死後事務委任契約などです。
こうした契約を必要に応じて組み合わせることで、自分の希望に沿った備えを考えることができます。
現在専門職後見人と言われるのは、弁護士、司法書士、社会福祉士ですが、ご自身が信頼できる方にお願いするのが良いでしょう。
ただし、契約を結んだだけですべてが解決するわけではありません。任意後見契約も、実際に後見人としての活動が始まるには、本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所による任意後見監督人の選任が必要です。契約の内容や開始時期についても理解しておきましょう。
契約だけでは埋められない、人とのつながり
ここまで紹介したように、身元保証や財産管理、死後の手続きなどは、契約によって備えることができます。しかし、もう一つ大切なことがあります。
それは、日々の暮らしの中で人とつながっていることです。
体調が悪いときに気にかけてくれる人、ちょっとした悩みを話せる人、一緒に食事をしたり出かけたりできる人。そうした関係は、契約書だけでは作れません。
相談者には、お友達はいませんか。昔の知人に連絡を取ってみるのもよいでしょう。地域のサークルや趣味の集まりに参加してみるのも一つです。最初から親しい友人を作ろうと頑張らなくても、挨拶を交わす人や、顔を覚えてくれる人が地域にいるだけでも、暮らしの安心感は違ってきます。
また、地域包括支援センターや社会福祉協議会などに相談すると、地域の活動や交流の場を紹介してもらえることもあります。
一人で生きていくための準備は、法律やお金の対策だけではありません。人とのつながりを少しずつ育てていくことも、大切な備えなのです。
親のお金と暮らしを考えるFP研究会より
今回の相談者は、90代のお母さんの介護を通じて、自分の将来に不安を感じるようになりました。
けれども、私は今、自分の将来について考え始めたこと自体が、とても大切な一歩だと思います。
これまでお母さんの人生に合わせてきたとしても、これから先まで同じである必要はありません。お母さんの人生と自分の人生は別のものです。これからは、自分がどう暮らしたいのか、どんな人とつながっていたいのか、何を楽しみに生きていきたいのかを考えてほしいと思います。
こうした、これからの人生を自分らしく生きるために、暮らし方、人とのつながり、お金の使い方、医療や介護、人生の最終段階について考えることを、アドバンス・ライフ・プランニング(ALP)といいます。
人生の最終段階に備えるだけでなく、これからの時間をどう充実させるかを考えることもALPの大切な要素です。
配偶者がいても、子どもがいても、いつか一人になる可能性は誰にでもあります。だからこそ、家族がいるかどうかだけで将来の安心を考えるのではなく、自分自身の人生を主体的に考えていくことが大切です。
今回の相談者には、まず、これまで頑張ってきた自分を認めてあげてほしいと思います。そして、今からでも遅くありません。自分のために時間を使い、人と出会い、行ってみたかった場所に出かけてみる。そんな小さな行動から始めてみてはいかがでしょうか。
親の老後を考えることは、自分の老後を考えることでもあります。
親の介護や将来の心配をきっかけに、自分はどんな人生を送りたいのかを考える。それは決して後ろ向きなことではありません。これからの人生を自分らしく生きるための、新しいスタートなのだと思います。
執筆:親のお金と暮らしを考えるFP研究会 代表 山中伸枝
事例提供:FP相談ねっと 山中伸枝FP

