ご相談者様データ
(お名前)加藤 憲二さん (仮名)50代
(職業)会社員
(家族構成)妻と子ども
両親80代、地方で夫婦2人暮らし
相談しようと思ったきっかけ
「最近、台風や大雨、地震のニュースを見るたびに、離れて暮らす両親のことが心配になります。実家は地方にあり、父も母も80代です。今のところ二人とも自分のことは自分でできていますが、もし大きな災害が起きたら、二人だけで避難できるのでしょうか。
父は足腰が弱くなってきていますし、母も以前のように素早く動けるわけではありません。災害が起きてから自分が駆けつけようとしても、すぐには行けないでしょう。近所の人との付き合いはあるようですが、どこまで頼れるのかも分かりません。
それに、もし家が被害を受けたら、その後の生活費や住まいはどうなるのでしょうか。実家は住宅ローンをずいぶん前に払い終えています。火災保険には入っていたと思いますが、今もきちんと契約が続いているのか、地震や水害への備えが十分なのかまでは確認していません。
親にはいつまでも元気でいてほしいですが、自然災害はいつ起こるか分かりません。今のうちに何を確認しておけばよいのでしょうか」
まずは、実家の周辺にどのような災害リスクがあるかを知る
離れて暮らす親のことが心配でも、災害が起きたときにすぐ駆けつけられるとは限りません。まずは、親が住んでいる地域にどのような災害リスクがあるのかを確認しておきましょう。
市区町村が公表しているハザードマップでは、洪水による浸水想定区域や土砂災害の危険がある区域などを確認できます。国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」からも、住所周辺の災害リスクを調べることができます。
「うちは高台だから水害は大丈夫」「昔から住んでいるけれど、これまで大きな被害はなかった」と考えている親もいるかもしれません。しかし、過去に被害がなかったからといって、今後も安全とは限りません。地震や火災も含め、どのような危険が考えられるかを親子で確認することが大切です。
そのうえで、避難場所と避難経路も確認します。避難先まで歩いて行けるのか、坂道や階段はないか、夜間や大雨のときにも安全に移動できるのか。高齢の親の体力や歩行状態を考慮して、実際に避難できる経路を考えておきましょう。
高齢の親が避難するための支援を確認する
災害時には、早めの避難が命を守ることにつながります。しかし、高齢になると、避難情報を受け取ってから自分で判断し、荷物をまとめて避難することが難しくなる場合もあります。夫婦二人暮らしであっても、どちらかが体調を崩したり、二人とも動けなくなったりする可能性があります。
こうした状況を想定し、市区町村の防災担当窓口や福祉担当窓口に相談してみましょう。自治体では、災害時に自力で避難することが難しい高齢者などを「避難行動要支援者」として把握し、避難を支援するための名簿や、本人ごとの避難方法をまとめた「個別避難計画」の作成に取り組んでいます。
ただし、支援の対象や具体的な取り組みは自治体によって異なります。高齢であれば誰でも自動的に支援を受けられるというわけではないため、親の身体状況や住んでいる地域の危険性を伝え、どのような支援が利用できるかを確認しておくとよいでしょう。
また、近所の人とのつながりも大切です。災害時に声をかけてもらえる人がいるか、避難が必要になったときに手助けをお願いできる人がいるか。日頃から近所の人や自治会などとつながりを持っておくことが、いざというときの安心につながります。
もちろん、近隣の人だけに頼るのではなく、避難情報を受け取る方法や、親子間の連絡手段も決めておきましょう。携帯電話が使えない場合に備えて、連絡先や集合場所を紙に書いておくことも役立ちます。
災害後の暮らしを支える公的支援を知っておく
どれだけ備えていても、自然災害による被害を完全に防ぐことはできません。家が被災した場合、避難できるかどうかだけでなく、その後どこで暮らすのか、生活費をどう確保するのかも考えておく必要があります。
災害によって住宅が大きな被害を受けた場合には、一定の要件を満たすことで「被災者生活再建支援制度」による支援金を受け取れることがあります。また、災害の種類や被害の状況によっては、応急的な住まいの確保や生活再建に関する支援制度を利用できる場合もあります。
ただし、こうした公的支援は、被害のすべてを補償するものではありません。支援金の対象や金額には条件があり、住宅の再建費用や修繕費用をすべて賄えるとは限りません。
年金を主な収入として暮らす高齢者にとって、まとまった修繕費や転居費用を急に用意することは大きな負担です。だからこそ、公的支援だけに頼るのではなく、家庭でできる経済的な備えも確認しておくことが大切です。ありません。目的は、家族も契約内容を把握し、必要な備えを一緒に考えられる体制を整えることです。
住宅ローンを完済していても、火災保険の確認を忘れずに
そこで確認したいのが、実家の火災保険です。
以前は、住宅ローンを借りる際に長期契約の火災保険に加入し、保険料を一括で支払うケースが多くありました。住宅ローンの返済中は金融機関との関係もあり、火災保険を意識していた人でも、完済後は保険の管理が後回しになってしまうことがあります。
火災保険は、住宅ローンを完済したからといって自動的に終了するものではありません。しかし、契約期間が満了した後に更新していなければ、補償は受けられません。まずは保険証券や契約内容のお知らせを探し、現在も契約が続いているかを確認しましょう。
契約が続いている場合も、加入しているというだけで安心せず、補償内容を見直してみることが大切です。
例えば、火災保険に地震保険が付いているでしょうか。地震による火災や建物の倒壊などは、通常の火災保険では補償されず、地震保険による備えが必要です。地震保険は火災保険に付帯して契約する仕組みで、建物だけでなく家財を対象にすることもできます。
また、保険金額が現在の建物を再建するために必要な金額に見合っているかも確認したい点です。契約によっては、建物の再調達価額(同等の建物を建て直すために必要な金額)ではなく、経年による価値の減少を考慮した時価額を基準としている場合があります。建築費が上昇している今、古い契約の保険金額で十分なのか、保険会社に確認してみましょう。
水災補償についても同様です。高台にあるからといって、水害の心配がまったくないとは限りません。大雨による浸水や土砂災害など、地域の状況に応じて必要な補償を検討することが重要です。水災補償の対象となる被害や支払い条件は契約によって異なるため、ハザードマップと照らし合わせながら確認しましょう。
保険料を抑えるために補償を減らすことも一つの選択肢ですが、万一のときに貯蓄だけで生活を立て直せるのかという視点も欠かせません。親の年齢や資産、年金収入、住み替えの可能性なども踏まえて、無理のない備えを考えていきましょう。
親のお金と暮らしを考えるFP研究会より
離れて暮らす親の災害への備えは、心配しているだけではなかなか進みません。まずはハザードマップを一緒に確認する、避難場所までの道を確かめる、自治体の相談窓口に問い合わせる。そして、近所に頼れる人がいるかを確認し、親子で連絡方法を決めておく。こうした小さな行動から始めてみましょう。
さらに、避難の備えとあわせて、災害後の生活を支えるお金の備えも大切です。火災保険の契約が続いているか、地震保険や水災補償が必要な地域ではないか、万一のときに十分な補償を受けられるか。親が自分で確認することが難しければ、本人の意向を聞きながら一緒に保険証券を確認してみてはいかがでしょうか。
親が長年暮らしてきた家には、思い出も愛着もあります。災害への備えを話題にすると、親が不安になったり、「今まで大丈夫だったから」と話を聞いてくれなかったりすることもあるでしょう。そんなときは、危険性を一方的に伝えるのではなく、「何かあったときに、これからも安心して暮らしてほしいから」と、親を思う気持ちを伝えることが大切です。
自然災害を完全に避けることはできません。それでも、事前に情報を集め、周囲とのつながりをつくり、お金の備えを確認しておくことで、被害を減らしたり、その後の生活を立て直しやすくしたりすることはできます。
親が安心して暮らし続けるために、今できることを親子で一つずつ考えてみましょう。
執筆:親のお金と暮らしを考えるFP研究会 代表 山中伸枝
事例提供:FP相談ねっと 寺田紀代子

