ご相談者様データ
(お名前)田中 美穂様 (仮名)40代
(職業)会社員
(家族構成)独身 一人暮らし
父親(80代) 母はすでに他界、父と母は再婚で、相談者様との血のつながりはない
相談しようと思ったきっかけ
「義父には感謝しているんです。でも、もうどう接したらいいのかわからなくなってしまいました」
相談者は、小学生の頃に母親が再婚しました。義父のおかげで大学にも進学でき、母子家庭だった頃には得られなかった経済的な安心も得られました。育ててもらったことへの感謝は、今も忘れていません。
ただ、義父は何かにつけてお金の話を持ち出す人でした。「誰のおかげでここまで大きくなれたと思っているんだ」「俺の金は全部おまえのものになるんだから、面倒を見るのは当たり前だろう」。そんな言葉を繰り返し聞かされてきました。
5年前に母親が亡くなってからも、義父の態度は変わりませんでした。むしろ、私が義父の身の回りの世話をしようとすると、今度は「どうせ金目当てだろう」と言われてしまいます。
感謝しているからこそ、できることはしてあげたい。しかし、何をしても責められるようでは、気持ちがすり減ってしまいます。
そんな義父も80代後半になりました。脳梗塞を患い、下半身に麻痺が残ったため、現在は杖を使って歩いています。本人は自宅で暮らし続けたいと強く希望していますが、性格はますます頑固になり、訪問介護のヘルパーにも文句を言って困らせているようです。
義父とは相容れない部分が多く、これ以上振り回されたくないという気持ちがあります。それでも、高齢で身体が不自由になった人を放っておくこともできません。
この先、どう向き合っていけばよいのでしょうか。
家族だからといって、すべてを背負う必要はない 出来ることを考えて
今回の相談でまず考えたいのは、義父に対する感謝の気持ちと、介護をどこまで引き受けるかという問題を、いったん切り離してみることです。
育ててもらったことへの感謝は、無理をして介護を引き受けることでしか表せないものではありません。反対に、これ以上は自分で支えきれないと感じることも、決して恩知らずなことではないのです。
長年の関係の中で傷ついた気持ちがあるなら、それを無理に押し殺して、今までどおり接しようとする必要もありません。
大切なのは、義父の生活を支えることと、相談者自身が直接介護を担うことは別だと考えることです。
たとえば、日々の身の回りの世話は介護サービスに任せ、相談者は必要な手続きやサービスの調整に関わる。あるいは、定期的に様子を確認することはしても、日常的な訪問や身体介護は引き受けない。このように、自分ができることと、できないことを分けて考えてもよいのです。
家族ができることをすべて家族で担わなければならないわけではありません。本人の生活を支えるために、社会の仕組みを活用することも、大切な支援の一つです。
自宅で暮らしたいという本人の希望を、どう支えるか
義父は自宅での生活を望んでいます。高齢になり、身体が不自由になっても、住み慣れた家で暮らしたいと思う気持ちは尊重したいものです。
ただし、自宅で暮らし続けるためには、本人の希望だけでなく、安全に生活できる環境と支援体制が必要です。
脳梗塞の後遺症があり、杖を使って歩いているのであれば、転倒の危険性や、入浴、排せつ、食事の準備などにどの程度の支援が必要なのかを確認することも大切です。
すでにヘルパーが入っているとのことですが、本人が不満を口にしているからといって、すぐにサービスをやめたり、家族が代わりに引き受けたりする必要はありません。
まずはケアマネジャーに、義父の普段の様子やヘルパーとの関係について相談してみましょう。本人が何に不満を感じているのか、サービスの内容や接し方を工夫することで改善できるのかを、一緒に考えてもらいます。
介護サービスは、本人の希望を尊重しながら、生活上の困りごとや危険を減らすために利用するものです。必要に応じて訪問看護や福祉用具の活用、住宅改修、通所介護なども検討できます。
一方で、本人が自宅での生活にこだわっていても、必要な支援を受け入れず、安全な生活を維持することが難しくなる場合もあります。そのときは、施設への入居も含めて、今後の暮らし方を考え直す必要が出てくるかもしれません。
大切なのは、本人の希望を否定することでも、家族が無理をして希望をかなえることでもありません。どのような支援があれば自宅で暮らせるのか、難しい場合にはどのような選択肢があるのかを、専門職と一緒に考えていくことです。
家族だけで抱え込まず、第三者に入ってもらう
今回のように、家族との関係が長年うまくいっていない場合、家族だけで介護の話を進めようとすると、感情的な対立になりやすいものです。
相談者が何かを提案しても、義父から「金目当てだ」と疑われてしまえば、話し合いそのものが難しくなってしまいます。
そのようなときこそ、第三者の力を借りることを考えたいものです。
最初の相談先としては、義父が住んでいる地域の地域包括支援センターが挙げられます。介護に関する総合相談窓口であり、保健師や社会福祉士、主任ケアマネジャーなどが連携して、高齢者本人だけでなく、家族の相談にも応じています。
すでにケアマネジャーがいる場合は、ケアマネジャーに相談することから始めてもよいでしょう。本人との関係が難しいことや、家族としてどこまで関わるべきか悩んでいることも、率直に伝えてみてください。
相談する際は、「義父が頑固で困っている」という話だけでなく、これまでの経緯や、相談者自身が精神的に疲弊していることも伝えることが大切です。
本人の生活をどう支えるかという問題と、家族が無理なく関わり続けられる方法を、併せて考えてもらいましょう。
また、脳梗塞の後から性格や言動が変化したように感じる場合には、もともとの性格だけで判断せず、主治医にも相談してみるとよいでしょう。病気の影響や心身の変化が関係していないか、専門的な視点で確認することも大切です。
同じ悩みを抱える人と話してみる
専門家に相談することに加えて、ぜひ考えてみたいのが、家族の介護に悩む人たちとの交流です。
介護者の会や家族介護者の交流会、地域の介護者カフェなどでは、同じように家族の介護に向き合っている人たちと話す機会があります。地域包括支援センターや自治体の高齢者福祉担当窓口などで、地域の活動について尋ねてみるとよいでしょう。
家族の介護に悩む人の中には、身近な人にはなかなか本音を話せないという人も少なくありません。「親なのだから面倒を見るのが当然」「家族なのだから我慢すべき」といった周囲の言葉に傷つき、自分のつらさを誰にも打ち明けられないこともあります。
まして、今回の相談者のように、育ててもらった恩がある一方で、長年の言動に傷ついてきたという場合、気持ちはさらに複雑です。
義父に感謝している気持ちもある。けれど、もう限界だと感じることもある。そんな相反する気持ちを抱えている自分を、責めてしまうこともあるかもしれません。
同じ立場の人と話すことで、すぐに具体的な解決策が見つからなくても、「自分だけではない」と感じられることがあります。また、ほかの人がどのように介護サービスを利用しているのか、家族との距離をどのように保っているのかなど、実際の経験から参考になることもあるでしょう。
介護者の会は、介護の方法を学ぶだけの場ではありません。介護する側も一人の生活者であり、自分の人生や気持ちを大切にしてよいのだと確認できる場でもあります。
義父のお金と、これからの暮らしについても確認しておく
義父は「自分のお金は全部おまえのものになる」と話しているそうですが、今後の介護を考えるうえでは、お金についても冷静に整理しておきたいところです。
義父の預貯金や年金などの収入、住まいの維持費、介護サービスの自己負担額などを確認し、これからの生活にどの程度のお金が必要になるのかを把握しておくことは、本人にとっても相談者にとっても大切です。義父方の家族関係について、全く情報がないという点も気になります。昔話の流れでお話を聞き出すのも難しいでしょうか?
先の話ではありますが、義父が亡くなれば相続が発生します。他に相続人がいないのか知りたいところでもあります。
なぜかと言うと、戸籍をたどってみなければ、義父のお金が将来相談者のものになるかどうか分からないのです。相続できるかどうかは、法律上の親子関係や遺言の有無などによって異なります。できれば義父がご存命のうちに明らかにしておきたいところですし、単純に会いたい人がいるのであれば、会わせてあげるというのも良いかと考えます。
もちろん、義父の財産を将来受け取ることを前提に、今の介護負担を引き受ける必要はありません。むしろ、義父自身の財産を、本人が安心して暮らすためにどう使うかを考えることが先決です。
もし、財産管理や契約の手続きが難しくなってきた場合には、地域包括支援センターや自治体の相談窓口などに相談し、必要に応じて権利擁護の制度や専門家の支援につないでもらうことも検討できます。
お金の問題を家族の情や恩義だけで解決しようとせず、本人の生活を支えるための具体的な課題として整理しておくことが大切です。
お互いが自立した大人として向き合う
もう一つ、考えてみたいことがあります。それは、義父の言動の背景にある気持ちです。
もちろん、どのような事情があっても、相手を傷つける言葉を繰り返してよいわけではありません。ただ、義父も80代後半になり、身体の自由が利かなくなったことで、これまでのように自分の力で生活できなくなる不安を感じているのかもしれません。
「自分が育ててやったのだから、面倒を見るのは当然だ」という言葉の裏には、感謝されたいという気持ちや、老後に一人取り残されることへの恐れが隠れている可能性もあります。あるいは、相談者の将来を心配しているのに、素直に気持ちを伝えられず、お金の話や厳しい言葉になってしまうのかもしれません。
もちろん、本当のところは義父本人にしかわかりませんし、相談者がその気持ちをくみ取るために、これ以上無理をする必要もありません。ただ、義父の言動をすべて額面どおりに受け止めるのではなく、その背景にあるかもしれない不安にも目を向けてみると、少し違った接し方が見えてくることもあります。
そのうえで、相談者自身の暮らしについても、堂々と伝えてみてはどうでしょうか。
義父の老後の生活は、基本的には義父自身の年金や預貯金などで成り立たせていく。一方、相談者には相談者自身の収入や暮らしがあり、自分のお金で生活を支え、自分の人生を選んでいくことができます。
仕事を続けること、やりたいことに挑戦すること、自分の家族や友人との時間を大切にすること。そうした日々の暮らしについて、折に触れて義父に話してみるのも一つの方法です。
「私は自分の生活を自分で支えられているから、心配しないでね」「これからも仕事を続けて、自分のやりたいことを大切にしていきたいと思っているの」といった言葉で、自分の現在や将来について伝えてみるのです。
それは、義父に自分の生き方を認めてもらうためではありません。義父の人生と自分の人生は別々のものであり、お互いに自分の暮らしを大切にしながら関わっていけることを伝えるためです。
これまで義父との間では、「育ててもらったのだから、恩を返さなければならない」という関係が強かったのかもしれません。しかし、相談者はもう、自分の人生を自分で選び、歩んでいく大人です。義父もまた、自分の財産を使って自分の暮らしを整えていく一人の大人です。
介護をする側とされる側という関係だけでなく、お互いの生き方を尊重する一人の人間同士として向き合うことができれば、関係性が少しずつ変わっていく可能性もあります。
もちろん、話をしても義父の反応が変わらないことはあるでしょう。その場合は、無理に理解してもらおうとせず、適切な距離を保ちながら、必要な支援につなぐことを優先してよいのです。
相手の問題まで、自分の責任にしていないか
家族との関係が難しいとき、少し立ち止まって考えてみたいことがあります。それは、相手の言動に傷つきながらも、「自分が何とかしなければ」「自分が我慢すればうまくいく」と、必要以上に責任を背負っていないかということです。
支配的な関係では、相手の要求に応え続けるうちに、いつの間にか自分の気持ちや生活よりも、相手の機嫌や希望を優先するようになってしまうことがあります。こうした関係が長く続くと、互いの役割が固定化し、離れたいと思っても離れられない、断りたいのに断れないという状態に陥ることもあります。場合によっては、共依存的な関係と重なる部分もあるでしょう。
大切なのは、相手を変えようとすることだけに力を注ぐのではなく、自分がどこまで関わるのかを見直すことです。相手の不安や不満をすべて解消することはできませんし、相手の人生に起きる問題をすべて自分の責任として引き受ける必要もありません。
自分の暮らしや仕事、これからやりたいことを大切にしながら、できることとできないことを伝えていく。それは相手を見捨てることではなく、お互いが自分の人生を生きるための境界線をつくることでもあります。
親のお金と暮らしを考えるFP研究会より
家族だからこそ、感情が絡み合い、簡単には割り切れないことがあります。育ててもらった恩を感じることと、これ以上は無理だと感じることは、決して矛盾しません。
また、介護をする側とされる側という関係だけでなく、お互いが自分の人生を歩む一人の大人として向き合うことも大切です。義父の暮らしは義父のお金で、相談者の暮らしは相談者自身のお金で成り立たせていく。そのうえで、できる範囲で支え合う関係を目指してもよいのではないでしょうか。
義父の老後を支えることと、相談者自身の人生を大切にすること。その両方をあきらめずに済む方法を、専門家や同じ悩みを抱える人たちの力も借りながら、少しずつ探していけるとよいと思います。
執筆:親のお金と暮らしを考えるFP研究会 代表 山中伸枝
事例提供:FP相談ねっと 山中伸枝FP

