ご相談者様データ
(お名前)高橋 恵子さん(仮名)50歳
(職業)会社員
(家族構成)夫 会社員
高校生の息子
相談しようと思ったきっかけ
79歳の母について相談させてください。父はすでに亡くなり、現在母は一人暮らしです
もともとしっかりものの母なのですが、やはり年齢なのか最近は同じ話をくり返すことが増え、物忘れも目立つようになりました。私との会話も、時々驚くほどかみ合わないのです。
母は、いわゆる認知症なのだろうか?と心配しています。
最近では外出もめっきり減り、ちょっとした銀行などへの用事も渋るようになりました。
現金が足りなくなると、お金を下ろしてきて欲しいと言われることもあり、母に代って私が銀行に行くこともあります。今はキャッシュカードを預かり用を済ませていますが、ふと「母が認知症になったことを銀行に伝えるべきなのだろうか?暗証番号を聞いて私が手続きをすること自体問題ないのだろうか?」と不安に思うことがあります。
母のお金の管理の適切な方法を教えてください。
高齢期のお金の管理方法
認知症になると、口座が凍結されるので大変だ!
そう心配される方も増えてきました。確かに金融機関では、ご本人の判断能力が低下した際には、資産の保護と詐欺被害防止のために口座を凍結します。また凍結後は、法定後見人を立てるなどしないと、たとえ家族でもその口座からお金を引き出したりすることができず、大変困る事態に直面してしまいます。
ただし、「認知症になったら必ず銀行に届け出をださなければならない」という決まりがあるわけではありません。そのため、「認知症かも?」と心配される今の段階で、急いで金融機関に届ける必要は全くありません。
一方で、本人の判断能力や体力が低下した後、家族が本人に代って自由に預金を引き出したり、定期預金を解約できるわけでもありません。これは例え本人から暗証番号を知らされ、手続きをするようにと頼まれていても同様です。
従って、今すべきことは、銀行への届け出をどうすのかを心配することではなく、これからのお母様の暮らしを助けるために、お金の管理方法を整理し調整することが大切です。
判断能力の低下とは
高齢になれば、
- 人の名前がすぐ出てこない
- 何を取りに来たのか忘れる
- 同じ話を何度もする
- 通帳をどこに置いたか分からなくなる
といったことは珍しくありません。
でも、物忘れがあること=直ちに銀行取引ができない、ではありません。
例えば、
・銀行に行ったはいいけど、何の手続きをするべきだったのか分からない
・いくらお金を引き出して、それを何に使うのか分からない
・その手続きを自分の意思でおこなっているのか、分からない
など、本人の理解と意思表示があいまいな時に、金融機関ではご本人の財産を守るために口座の凍結などの手段をとると言われています。そのため、単に物忘れが増えたというだけで、家族が銀行に「認知症です」と届け出るという話にはなりません。
とはいえ、高橋様が今回ご相談にお見えになったタイミングは、「遅からず、早からず」ベストだったと思います。
なぜなら、お母様の預金からお母様の生活費や介護にかかる費用を、家族だからという理由だけで、本人に代って自由に動かせるわけではないという点に自然に気づき、正しい手続きを行おうと思ったこと自体が最も重要なことだと考えるからです。
今行いたい具体的な対策
お母様は、金融機関の口座が複数あるとのことですので、まずはそれぞれの金融機関で「代理人制度」について問い合わせてみましょう。代理人制度とは、預金者本人が元気なうちに、将来の判断能力低下や身体的理由で銀行に行けなくなる場合に備え、代わりの代理人を事前に登録しておく仕組みです。ただし金融機関によっては、その手続きおよび仕組みが異なるので、まずはお取引がある金融機関に問い合わせをしてみましょう。
参考記事 三原由紀執筆 親が施設に入ったら銀行口座はどう管理する? 金融機関で異なる「代理人」の仕組み
代理人制度は金融機関により取り扱い方法が異なりますので、ご自身にとって最も使いやすい金融機関を優先し、そこにすべての金融取引を集中させるということも検討しましょう。
注意事項としては、代理人制度は基本的に日々の生活で必要な資金を動かすことを目的としており、施設入居などに必要な大きな資金の引き出しまではできないことが多いです。そのため、今後の生活設計によっては、任意後見や家族信託なども考えておく必要があります。
忘れがちなこととしては、通帳や印鑑の置き場所の把握を、高橋様のお兄様にも共有しておくことです。親のお金のことは、誰か1人が管理するのではなく、他の家族の方も同様に把握できるすることが重要です。
他にも保険証券なども含め財産の詳細を一覧にしておいて分かるようにしておくなど、この機会が整理されると良いでしょう。
大切なのは、「本人の財産を本人がどうしたいか」
繰り返しになりますが、手続きを進めるにあたり、まずはお母様との対話を大切にしてください。
今実際に行っているお金の出し入れですが、入出金の確認は少し過去にも遡りどういうお金の流れになっているのかは見ておきましょう。
また預金口座の断捨離も進めましょう。高齢期には、すべての入出金をひとつの口座にまとめるくらいの気持ちで整理した方が無難です。お金の動きが少ない口座については、思い切って解約を進めしょう。そこで利用している自動振替などについては、この機会に支払の必要性の吟味、および口座の変更手続きも進めましょう。細かい支払であっても、積もれば結構な金額になります。お母様に確認しながら、不要なものは整理していきましょう。
これからお母様がどういう風にお金を使っていきたいのかも聞いておきましょう。
行きたい場所
やりたいこと
健康状態がおもわしくなくなった時、どうしたいのか
なかなか聞きづらいこともあるかも知れませんが、まずは「楽しい話題」から少しずつ「深い話題」に進めると良いかも知れません。
そして、お母様の今後のお金の使い方については、高橋様と同じく相続人であるお兄様ともしっかり共有しておきましょう。お母様の今後のケアをお金の使い方含めだれがどのように対応していくのか、話し合いを持つことも重要です。
今後家族で情報共有、時間共有を行い大切な人との時間を丁寧に過ごされることをお考え下さい。
親のお金と暮らしを考えるFP研究会より
親に代って子どもが親のお金を引き出したり、支払を行う。
高齢の親を支えるのであれば、あたり前に子どもがそれを行えると思いがちですが、実際には、親の財産をたとえ子どもでも自由に扱うことはできず、事前に適切な手続きを取らなければ親の財産に触れることさえもできなくなります。
暗証番号を聞いておけば良いだろう
今までできていたから、問題ないだろう
そんな風に簡単に考えていると、大変な問題に直面する可能性が高くなります。
最も重要なことは、親が元気なうちに、子どもが親の財産手続きを代ってできるように手続きを行うことです。「認知症になってから」でも「入院してから」でもなく、「元気なうちに」がポイントです。
今回はご相談をいただいたタイミングが本当に良かったと思います。
特に、必要な手続きを進めるに当たり、今後のお金の使い路についてお母様のお考えをきちんと聞く時間が持てたのがとても良かったです。お母様のお金は、お母様が使う、子どもはその手助けをするという状況を親子で確認したプロセスはこれからの時間をとても有意義なものにするでしょう。
執筆:親のお金と暮らしを考えるFP研究会 代表 山中伸枝
事例提供:FP相談ねっと 三原由紀FP

