ご相談者様データ
(お名前)鈴木智子(仮名)59歳
(職業)専業主婦
(家族構成)夫 会社員
子ども2人はすでに成人
相談しようと思ったきっかけ
父が3年前に亡くなり、現在母は1人で暮らしています。住まいは、私の生まれ故郷の東北の町にあります。
昨年までは、弟夫婦が地元に住んでいたので、折に触れ母の様子を見にいってくれたりしていたのですが義妹の両親の具合があまりよくないとのことで、引っ越していきました。
これまで、母は近くに住む弟が見てくれるから大丈夫、と思っていたので、いざ1人になった母をこれからどうしたら良いのかと不安に感じています。
施設入居の方が安心かと思うのですが、何をどうしたらよいのか分からずアドバイスをいただけたら幸いです。
母は現在87歳、今のところ介護にはお世話になることなく暮らしているようです。
施設入居=安心とは限らない
智子さん、ご相談ありがとうございます。お話を伺うと、これまで智子さんはお母様とこれからのことをじっくりお話をしたことはあまりなかったかも知れませんね。
これは弟さんにしても、なかなかそこまで踏み込んだお話はできていなかったかも知れません。もちろん、日々の生活の中で、買い物に連れて行く、お墓参りに一緒に行くなど弟さん夫婦がしてきてくれたことは大変ありがたことですが、親子って意外に「本当に話し合うべきこと」については、話題を切り出すこと自体が難しいものです。
お母様のご意向は?
お母様は現在87歳、介護も受けずにお元気のこと。ご立派ですね。
でも戸建てでお一人暮らし、さすがに年齢を考えるとなにかしら「困ったこと」があるのではないでしょうか?
以前は弟さんが車を出し、買い物に連れて行ったりしていたようですが、今はどうですか?普段のお食事については、近所のスーパーで十分かも知れませんが、時には少しかさばるものも必要になることがあります。「お買い物大丈夫?足りないものとかない?」と定期的に声がけしてみるのも良いですね。最近はネットで注文し、指定の場所に配達してもらうなんてことも簡単にできますから、お母様が受取やすい方法を確認しながら手配するのも良いかも知れませんね。
暮らしの環境はどうでしょうか?今はほとんど2階には上がらずに生活しているとのことですが、「本当は使いたいけど2階にあるので取りに行けていない」なんてものはないでしょうか?あるいは1階の暮らしの導線は十分安全が確保できているでしょうか?
玄関の段差は?
お風呂に手すりは?
トイレの気温差は?
台所の火の始末は?
お布団の上げ下ろしは?
洗濯物はどこに干してる?
改めて周りを見回すと、87歳の女性の1人暮らしには、結構「困りごと」あるのではないでしょうか?大きなリフォームも必要かも知れませんが、それこそ軽くて使いやすい調理器具に買い換えるだけでも、日常が便利に楽になることもあります。
まずはお母様との何気ない会話を増やしてみませんか?お子さんも大きくなられたのですから、少し自分1人の時間はとりやすくなったかと思います。思い切ってしばらくお母様と一緒に過ごしてみることから始められたらいかがでしょうか?
いきなり、「施設に入るか否か」と聞かれても、お母様も戸惑うだけでしょう。
小さな「お母様の困りごと」を見つけ、それをどうやって解決するのかを一緒に考えることからされると、だんだんにより深い話もしやすくなると思います。
お母さんのやりたいことを応援する
智子さん、実家に行かれていたんですね。ついでに一泊二日の温泉旅行にも!素晴らしいです。
良い時間を過ごされましたね。
お母様と一緒に時間を過ごされて、なにか気づいたことはありましたか?
お母様、手芸が趣味なんですね。手先を使うことが得意とは、お元気な証拠です。
手芸教室に通っていらっしゃるんですね。バスを利用しているので、雨が降ったり、雪が降ったりすると出かけられずに残念だとおっしゃっているんですね。
例えばタクシー利用はどうですか?個人タクシーでも安心できる方に送迎をお願いしても良いのではないでしょうか?なじみの運転手さんがいれば、不安なく外出出来るのではないでしょうか?
タクシー代って確かに気になるところではありますが、月2回の手芸教室、タクシーで往復して予算はいくらでしょう?往復3000円x月2回x12ヶ月=7万2,000円。お母様がご自身の楽しみに使う予算として、多すぎるということでもないかも知れません。
今回お母様と並んで歩いてみて、お母様の足腰がだいぶ弱っていることに気づいたんですね。智子さんご自身、お母様のそういう姿をみてショックだったかも知れませんが、気づいて良かったです。
こどもにとって、親はいつまでたっても親ですが、やはり老いはやってくるものです。親の様子を客観的に判断することも大切です。
今まで介護は受けたことがないとのことですが、年齢を考えると要支援くらいには該当するかも知れません。ぜひ次回は「地域包括支援センター」に行って、介護認定が受けられるように相談してみて下さい。
認定には、係の方が来られて、身体の様子、生活の様子、記憶の様子などから総合的に判定がおります。要支援あるいは要介護となると等級が振られその等級に合わせて必要な介護サービスを使うことができるようになります。
要支援だとしても、地域の専門家と繋がることは、今後のお母様の暮らしを守る上で大きな安心につながりますから、後回しにせず実行して下さい。
介護サービスを利用できるのであれば、ヘルパーさんに来ていただいたり、デイサービスに出かけていって身体を動かしたりできます。
通っている病院はありますか?まだ主治医の先生にはお会いしたことがないのですね。ではぜひ次回は予約をとって先生のお話も聞いてみると良いですよ。連絡先として智子さんご自身が先生との関係性を強めておくことは、今後とても重要になってくるでしょう。
お薬はどうでしょう?いくつも種類があって忘れることもあるようであれば、薬局のかたに時々家に来てもらってお薬管理をしてもらうなんてこともお願いできます。ここでもやはり専門家が定期的にお母様と接点を持つことにより、見守りにもつながります。
電気調理器も買われたんですね。それは良かったです。ガスコンロを利用するより安心ですね。お一人であれば、電気調理器でも日々の暮らしは十分賄えるかも知れませんね。
ブレンダーも!お野菜ジュースを習慣にされているんですね。それは素晴らしいです。今回の滞在で、智子さんもお母様の「助っ人」として、ずいぶん頑張りましたね。お母様も喜んでいらっしゃるでしょう。
次は家の片付けに着手されるんですね。無理をせずゆっくり進めてください。きっと想い出話から、これからのことまでたくさんお話もできるでしょう。
弟さんも交え、今後のシミュレーションをする
お母様のご自宅を何度か行き来してみて、お母様がご自宅での生活に愛着をもっていらっしゃること、ご近所づきあいもあり楽しんでいらっしゃることがよく分かった智子様。あらためてお母様の今後のことについて相談にきてくださいました。
智子さんは、高齢者の一人暮らしはとにかく不安、だれにも気づかれずに孤独死なんてイメージがあり、とにかくイヤと思っていらしたようです。
でも、お母様のようにご近所に信頼できるお仲間がいるのであれば、孤独ではありません。これからは智子さんもご近所の方にご挨拶に行かれて連絡先も交換してみましょう。できればご実家に戻られる際には、声をかけ日々の様子を聞いてみると良いですね。
ヘルパーさんも良い方のようですね。週に2回来て貰うとお母様も安心です。
デイサービスの楽しまれているようで、良かったですね。こういう介護の専門家と早めに繋がるそして、これからの経緯を専門家の目で見てもらえるというのは高齢者を支える際の重要な支援の形になります。
実際、人生の最期を施設ではなく自宅で迎えられる方もいらっしゃいます。ご本人がそれを望めば、専門家がチームを組み、その方の希望を最大限に汲みながら自宅での一人暮らしを継続される方も少なくありません。
しかし不測の事態に備え、ショートステイも少しずつ体験しておくと良いでしょう。医療的ケアや自宅では行うことが難しい介護が必要な場合でも、スムーズに対応ができるような「道筋」を今のうちから探っておくということです。
お母様にとっても、なにかあった時に頼れる場所が複数あること、そこに行けば信頼できる人達がいて安心できるのだということを知っていただけることは大切です。
これからは、ぜひ弟さんも交えお母様と過ごす時間を作っていただき、今後のことをシミュレーションしてみて下さい。万が一倒れたら、連絡をどのようにするのか、万が一意思の疎通が難しくなったらどのように手続きを進めるのか、万が一の時、医療はどの程度受けるのかなど。時にはお母様ご自身も考えたことがないようなケースも想定して動きをシミュレーションしておくことも必要になってきます。
だからこそ、少しずつ時間をかけてお母様のご意向を大切に、想いを引き出せるように心がけてください。
親のお金と暮らしを考えるFP研究会より
親に「これからの不安事」をどう切り出すのか、今回のご相談にキモはそこでした。
しかし、ここになにか特別な技があるわけではなく、基本は「素直に伝える」が一番だと思います。
お母さんのことを心配しているよ
そういう気持ちを時間をかけ、伝え続けることが重要ではないでしょうか?
今回は、「母娘旅行」が良いきっかけとなりました。お母様がお元気だからこそできたことかも知れません。
でも智子さんの言葉かけがなければ、お母様へのこれからの支援方法を絞り混むきっかけにもならなかったでしょう。これはとても大切な機会でした。
なによりも、素敵な想い出になりましたよね。残念ながら親と過ごせる時間は、それほど長くはありません。
だからこそ、親御さんのお考え、お気持ちをしっかり受け止めるよう、心がけていきましょう。
また専門家には「困ってからつながる」ではなく「困る前からつながっておく」をぜひ覚えておいてください。
お母様のこれからの人生を一人で支えていくのではなく、社会全体で支えていく。支援者をたくさん巻き込んで、お母様が幸せに過ごせる環境作りを一緒に頑張っていきましょう。
執筆:親のお金と暮らしを考えるFP研究会 代表 山中伸枝
事例提供:FP相談ねっと 山中伸枝FP

