ご相談者様データ
(お名前)加藤 進さん(仮名)62歳
(職業)会社員
(家族構成)妻 専業主婦
子ども2人(長男は社会人、長女は大学生)
相談しようと思ったきっかけ
90代の母が一人暮らしをしています。父はすでに他界しており、母は要介護1。これまではヘルパーさんに来てもらいながら、住み慣れた自宅で生活していました。
ところが先日、自宅内で転倒して骨折。幸い治療を終えることはできましたが、それ以来、母自身が一人暮らしに不安を感じるようになりました。
母から「そろそろ施設に入った方が安心かもしれない」と言われ、私たち家族も施設を探し始めようと考えています。
できれば私たち家族が会いに行きやすい場所で、大人数の施設よりも、母の性格を考えると、スタッフの目が届きやすい少人数でアットホームなところがよいのではないかと思っています。
ただ、「高齢者施設」といってもいろいろな種類があり、何が違うのかよく分かりません。
施設を選ぶときには、どんなことを確認すればよいのでしょうか。
高齢者施設選びのポイント
高齢期の一人暮らしは、ご本人も、またその方を支えるご家族にとっても心配なことが多いものです。
消費者庁によると、高齢者の転倒事故の約半数は、住み慣れた自宅で発生しています。また、自宅で転倒した事故では8割以上が通院や入院を必要とするけがとなっており、骨折した場合には76%が入院に至っています。
長年暮らしてきた自宅だから安心、とは限りません。年齢を重ねるにつれて、これまで何でもなかった小さな段差や敷居などが転倒の原因になることもあります。転倒・骨折をきっかけに、それまでの暮らし方を見直すケースも少なくありません。
「どの施設がいいか」より「どんな暮らしをしたいか」
お母さまご自身が施設への入所を希望されているのであれば、まず大切にしたいのは、「施設に入ってから、どんな暮らしをしたいのか」をお母さまと話してみることです。
「大人数より少人数の方が落ち着く」「食事を楽しみにしたい」「できれば外出もしたい」「家族には頻繁に会いたい」など、人によって大切にしたいことは違います。
施設を探し始めると、どうしても建物の新しさや設備、費用などに目が向きがちですが、そこで毎日暮らすのはお母さまです。
まずは「どんな暮らしなら安心して過ごせそう?」と本人に聞いてみましょう。
家族にとっての「安心」と、本人にとっての「心地よさ」は、必ずしも同じではありません。
高齢者施設にはどんな種類がある?
「老人ホーム」「高齢者施設」とひとくくりにされることが多いのですが、実際にはさまざまな種類があります。
代表的なものを見てみましょう。
特別養護老人ホーム(特養)
常時介護を必要とする方のための公的な施設です。原則として要介護3以上の方が対象となるため、現在要介護1のお母さまの場合、通常は入所対象にはなりません。
費用は民間の有料老人ホームと比較すると抑えられる傾向がありますが、地域や施設によっては入所を待つこともあります。
介護付き有料老人ホーム
食事や生活支援に加え、施設のスタッフから介護サービスを受けられる有料老人ホームです。
介護が必要になった場合も同じ施設で暮らし続けやすいのが特徴ですが、施設によって人員配置や医療機関との連携、費用、サービス内容などにかなり違いがあります。
住宅型有料老人ホーム
生活の場となる住居や食事、生活支援などが提供され、介護が必要な場合には、訪問介護など外部の介護サービスを利用するのが一般的です。
必要なサービスを組み合わせられる一方、介護量が増えると介護サービスの利用料も増える可能性があります。
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
高齢者向けの賃貸住宅で、安否確認や生活相談などのサービスが提供されます。
比較的自立度の高い方に向くものから、介護サービスが充実しているものまでさまざまで、「サ高住だからこのようなサービス」と一律には考えられません。
このほか、認知症の方を対象としたグループホームなどもあります。
大切なのは、名称だけで判断しないことです。同じ種類の施設でも、実際のサービスや雰囲気、費用にはかなり違いがあります。
気になる施設が見つかったら、できるだけ見学を
パンフレットやホームページを見ただけでは、施設の雰囲気までは分かりません。
可能であれば、実際に見学してみることをおすすめします。
その際、建物のきれいさだけではなく、「そこで暮らしている人の様子」にも目を向けてみましょう。
例えば、次のようなところを確認してみます。
・入居者に対して、介護スタッフがどの程度配置されているか
・スタッフが入居者にどのように声をかけているか
・夜間はどのような体制になっているか
・病気になったとき、どの医療機関とどのように連携するのか
・入院した場合、施設との契約や居室の費用はどうなるのか
・介護度が重くなったり、認知症が進んだりしても住み続けられるのか
・看取りには対応しているのか
・食事はどのような内容で、本人の好みや体調にどこまで対応してもらえるのか
・外出や家族との面会にはどのようなルールがあるのか
「介護職員が何人いるか」も確認しておきたいポイントです。
介護付き有料老人ホームでは、人員配置の基準がありますが、基準を上回って職員を配置している施設もあります。ただし、単純に人数だけで判断するのではなく、夜間の配置や看護職員の体制なども含めて確認するとよいでしょう。
そして意外に大切なのが、施設全体の「空気」です。
スタッフが忙しそうに走り回っていないか、入居者の表情はどうか、食堂や共有スペースではどのように過ごしているか。
数字には表れない部分も、実際に暮らす場所を選ぶうえでは重要です。
できれば体験入居もしてみる
見学して「ここならよさそう」と思っても、実際に生活してみると印象が違うことがあります。
体験入居や短期間の利用ができる施設であれば、利用を検討してみてもよいでしょう。
食事の味や量、夜の静かさ、スタッフとの相性、他の入居者との距離感などは、数時間の見学だけではなかなか分かりません。
特に今回のお母さまのように、ご自身で希望を伝えられる場合には、実際に泊まった後に、
「食事はどうだった?」
「夜は眠れた?」
「スタッフの人と話しやすかった?」
「ここで暮らしてみたいと思った?」
など、本人の感想を聞いてみましょう。
「入居するときのお金」だけでなく「暮らし続けるお金」を考える
施設選びでは、費用も大切です。
有料老人ホームでは、入居時にまとまった一時金を支払うタイプと、一時金を抑えて月々の費用を多く支払うタイプなどがあります。
月額利用料として表示されている金額だけでなく、介護保険サービスの自己負担分、医療費、薬代、日用品、理美容、オムツ代、レクリエーション費など、別途必要になる費用も確認しておきましょう。
さらに、今は要介護1でも、将来介護度が上がる可能性があります。
「現在の費用を払えるか」だけではなく、介護度が上がった場合に月々いくらくらいになるのかまで確認しておくことが大切です。
また、一時金を支払う場合には、償却の仕組みや、短期間で退去した場合の返還金についても契約前に確認しましょう。
できれば、お母さまの年金収入、預貯金などの資産、今後見込まれる生活期間を踏まえ、「何歳まで暮らすとしたら、どの程度の費用なら無理なく払い続けられるか」を考えておくことをおすすめします。
「終のすみか」と決めつけなくてもいい
施設を選ぶとなると、「ここを最後の住まいにしなければ」と考えてしまう方も少なくありません。
もちろん、気に入った場所で最期まで安心して暮らせれば理想的です。
しかし、実際には入居後に本人の状態が変わることもありますし、「思っていた暮らしとは違った」と感じることもあるでしょう。
ですから最初から「一度入ったら絶対にここ」と考えすぎなくてもよいと思います。
そのためにも、入居時の一時金や退去時の返還条件、契約を終了する場合のルールなどを確認し、必要になれば住み替えるという選択肢を残しておくことも大切です。
親のお金と暮らしを考えるFP研究会より
今回、お母さまが施設への入所を考えるきっかけになったのは、自宅での転倒と骨折でした。
けれども施設への入所は、「一人では暮らせなくなったから仕方なく入る場所」を探すことだけではありません。
これからの時間を、どこで、どんな人たちと、どんなふうに過ごしたいのか。
それを本人と家族で話し合う機会でもあります。
「家族が安心できる施設」という視点だけではなく、ぜひ「お母さまがここで暮らしたいと思えるか」という視点を大切にしてください。
施設を決めることがゴールではありません。
新しい場所で、その人らしい暮らしを続けられること。それが施設選びの一番大切な目的なのだと思います。
執筆:親のお金と暮らしを考えるFP研究会 代表 山中伸枝
事例提供:FP相談ねっと 三原由紀FP

