退職金2,000万円が10年で約440万円目減りする?――60歳夫婦がインフレ時代に”お金の置き場所”を変えるまで

この記事を書いた人
青山 創星

会社と個人ダブル節税効果の国の制度確定拠出年金導入を銀行での運用経験をもとにフルサポート!!!

ご相談者様 DATA

【年齢】夫60歳・妻58歳

【職業】夫:電力会社を60歳で定年退職後、嘱託勤務(年収320万円)/妻:市役所嘱託職員(年収250万円)

【性別】男性(相談者本人)・女性(配偶者)

【家族構成】夫婦2人暮らし(子ども2人は独立済み)

相談しようと思ったきっかけ(アンケート抜粋)

退職金として2,000万円をもらい、すぐに定期預金に入れました。「これで老後は安心だ」と思っていたのですが、最近妻と一緒にスーパーに行く機会も増えるより、卵も野菜もお肉も、何もかも値段が上がっているのが気になるようになりました。


ふと「この調子で値段が上がり続けたら、預金の価値って減っているのでは?」と不安になりました。でも、60歳から投資を始めるなんて怖いです。実は2008年のリーマンショックの時に、投資信託で200万円ほど損をした経験があります。あの時のことを妻はよく覚えていて、「絶対に投資はダメ」と言うんです。


でも、このまま預金だけで本当に大丈夫なのでしょうか。何もしないことが一番のリスクなのかもしれない、と思い始めています。どうしたらいいのか、プロの方に相談してみたいと思いました。

ご相談内容

【ご相談でお話しした内容】

目次

スーパーの卵が教えてくれたインフレの恐怖

総務省が発表している消費者物価指数(CPI)を見ると、2025年の生鮮食品を除く総合指数(コアCPI)は前年比で年平均3.1%上昇しています(2026年1月23日公表)。日本銀行は2%の物価安定目標を掲げていますが、現実にはそれを大きく上回るペースで物価が上がり続けている状況です。

一方、金利環境は大きく変化しています。日本銀行は2025年12月の金融政策決定会合で政策金利を0.75%へ引き上げ(1995年以来約30年ぶりの高水準)、これを受けて銀行の預金金利も上昇しました。**2026年4月現在、メガバンク(三菱UFJ・三井住友・みずほ等)の1年もの定期預金金利は年0.40%**となっています。
金利が上昇したとはいえ、インフレ率との乖離は依然として深刻です。仮に定期預金金利0.40%、インフレ率3.1%とすると、**実質金利はマイナス2.7%**となります。これを退職金2,000万円に当てはめてみましょう。

経過年数名目残高(税引前)実質購買力(インフレ率2.5%想定)
0年目2,000万円2,000万円
5年目約2,040万円約1,751万円
10年目約2,082万円約1,534万円

名目上の残高は増えていますが、「その2,000万円で買えるモノの量」は10年後には約1,534万円相当まで目減りしてしまいます。つまり、約466万円分の購買力が失われる計算です(旧記事より目減り幅がさらに大きくなっています)。

なお、ネット銀行を活用すれば、SBJ銀行(1年もの1.35%)やauじぶん銀行(1.20~1.25%)など、メガバンクより高い金利も選択肢に入ります。それでも実質金利はマイナスであることに変わりはありません。

「投資で損した」トラウマと向き合う

「妻は2008年のリーマンショックの時のことを今でも覚えていて、『投資は絶対にダメ』と言うんです」
奥様が「200万円損をした」とおっしゃるのは、暴落の恐怖から売却してしまったからではないでしょうか。

しかし、もしあの時、売らずに持ち続けていたらどうなっていたか。リーマンショック直後の2008年10月、日経平均株価は一時6,994円という底値まで急落しました。それが今や——2026年2月には史上最高値(終値ベース5万8,850円超)を更新し、2026年4月現在も5万3,000円~5万6,000円台で推移しています。
底値の約6,995円から現在の約5万4,000~5万6,000円台は、実に8倍近い水準です。投資額は大きく増えていた計算になります。

「損」は売却した時点で確定します。あのとき損切りのタイミングが悪かっただけであり、投資そのものが間違いだったわけではありません。

ただし、奥様の恐怖を否定するのではなく、恐怖を前提とした上で「ではどうすれば安心できるか」を一緒に考えることが大切だとお伝えしました。ご相談者様は深くうなずいて、「妻の気持ちを否定せずに、でも何か方法があるなら知りたい」とおっしゃいました。

「3つの財布」で恐怖を分解する

奥様の不安を解消するため、退職金を「全額投資するのではなく」、「3つの財布」に分けて管理する方法をご提案しました。

① 短期資金(今後5年で使うお金):700万円

絶対に減らしてはいけないお金として、例えば以下のように元本保証のある商品に置きます。
普通預金:300万円(生活防衛資金)
個人向け国債(変動10年):400万円(元本保証、金利は市場に連動)

② 中期資金(5〜15年で使うお金):800万円

多少の価格変動は許容しつつ、大きなリスクは取りたくない部分です。
バランスファンド(債券比率60%程度):800万円

③ 長期資金(15年以上使わないお金):500万円

時間を味方につけて、インフレに負けない運用を目指します。
株式インデックスファンド:500万円(NISA口座で運用)

この説明に、ご相談者様は「全額を投資に回すわけじゃないんですね」と安堵されました。今お示ししたのはほんの一例ですが、ご夫婦のr救に対する考え方によって調整していきます。インフレ負けするとはいえ、「700万円は絶対に減らない」と言えれば、奥様も少しは安心するはずです。

インフレに強い資産クラスを比較する

インフレに対抗できる資産は、主に4つあります。それぞれの特徴を整理してお伝えしました。

資産クラスインフレへの強さリスク配当・利子
株式あり
REIT中〜高あり
債券ファンドあり
金(ゴールド)なし

60歳のご夫婦の「安全第一」という方針を踏まえると、債券比率の高いバランスファンドが現実的です。「株式だけに集中しなくても、インフレに備える方法はある」と納得されました。

実質金利マイナスを「見える化」する

毎月の家計簿に「インフレ調整後の預金残高」という欄を追加することをご提案しました。計算式は「実質残高 = 名目残高 ÷(1+インフレ率)^経過年数」です。

名目残高実質残高(2025年基準)
2025年2,000万円2,000万円
2026年2,000万円1,951万円
2027年2,000万円1,903万円
2028年2,000万円1,856万円

「何もしていないのに、資産が減っている」という事実を数字で見ることが、何かを始めるきっかけになります。「これは妻にも見せたい。何もしないことのリスクがわかってもらえるかもしれない」とおっしゃいました。

年金+嘱託収入でNISAに月5万円を回す設計

もう一つの提案は、退職金には一切手をつけず、「毎月の収入(フロー)から投資に回す」という方法です。ご夫婦の合計年収は570万円、生活費は月35〜40万円程度。毎月8〜13万円の余剰が生まれています。

「毎月5万円をNISA口座で積み立てる」設計なら、退職金という「ストック」は守られます。投資先は「全世界株式インデックスファンド」などを検討します。

経過年数累計積立額運用資産(年利5%想定)
5年目300万円約340万円
10年目600万円約775万円
15年目900万円約1,330万円

「退職金に手をつけず、毎月の収入から投資する。これなら妻も許してくれるかもしれません」と、ご相談者様の表情が明るくなりました。

「守る」と「増やす」の間にある”保つ”という選択

「退職金を『増やす』必要はありません。インフレに負けない程度に『保つ』だけで十分なのです」

60代の投資は、資産形成ではなく「資産保全」が目的です。すでにある資産の購買力を維持し、老後の生活を守ることが主眼です。インフレ率と同程度(年2〜3%程度)のリターンがあれば、2,000万円分の価値を維持できます。

「守る」と「増やす」の間に、「保つ」という選択肢があることをお伝えしたことで、ご相談者様も「肩の荷が下りた気がします」とおっしゃいました。

ご相談を終えて

ご相談者様からの感想

「正直に言うと、相談する前は『60歳から投資なんて遅すぎる』と思っていました。でも、インフレで預金の価値が減っているという事実を数字で見せていただいて、考えが変わりました。
何より嬉しかったのは、妻の気持ちを否定しなかったことです。『3つの財布』の考え方はとてもわかりやすかったです。まずは妻と一緒に、毎月5万円の積立から始めてみようと思います。本当にありがとうございました」

FPからのコメント

今回のご相談で最も大切だったのは、「ご夫婦の合意形成をサポートする」というプロセスでした。数字の上で最適な選択が、ご家庭の中で最適な選択とは限りません。奥様の恐怖に敬意を払い、その上で「何もしないこと」のリスクを「見える化」することが重要でした。
退職金の運用は、リスクを抑えながら「保つ」ことを目的とする。それが60代の資産保全の基本です。

この記事を書いた人
青山 創星

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