夫が遺した3,000万円の保険金と、月14万円の遺族年金――53歳で人生を再設計する女性が”お金の不安”を手放すまで

この記事を書いた人
青山 創星

会社と個人ダブル節税効果の国の制度確定拠出年金導入を銀行での運用経験をもとにフルサポート!!!

ご相談者様 DATA

【年齢】53歳

【職業】パート勤務(スーパーのレジ担当・年収100万円)※以前は専業主婦

【性別】女性

【家族構成】長女20歳(大学3年)、長男17歳(高校2年)。夫は1年前に病気で他界(享年55歳)

相談しようと思ったきっかけ(アンケート抜粋)

夫が亡くなって1年が経ち、ようやく気持ちが少しずつ落ち着いてきました。
夫が遺してくれた保険金3,000万円は、今も口座にそのまま入っています。正直なところ、怖くて一切手をつけられないでいました。毎月、遺族年金として約14万円が振り込まれますが、来年には長男が大学受験を控えています。進学費用のこと、自分自身の老後のこと……考え始めるとキリがなくて、夜も眠れない日がありました。
一度、銀行の窓口で相談したところ、投資信託を勧められました。でも、今の自分に正しい判断ができるとは思えなくて、その場では何も決められませんでした。
「何もしない」ことが正解なのか、それとも何か動き出すべきなのか。誰かに背中を押してほしくて、FPの方に相談することにしました。

ご相談内容

【ご相談でお話しした内容】

目次

ご相談者様は、最愛のご主人を亡くされてから1年、大きな不安を抱えながら過ごされてきました。3,000万円という多額の保険金を前に、「どうすればいいのか分からない」という状態は、決して珍しいことではありません。
今回は、現状の整理から将来のシミュレーションまで、一つひとつ紐解いていきました。

「何もしなかった1年間」は正しい判断でした

ご相談者様は開口一番、「この1年間、保険金に手をつけられなかったのは、やっぱりダメだったのでしょうか」とおっしゃいました。
結論から申し上げます。ご相談者様のその判断は、ある意味では正しかったといえます。


配偶者を亡くされた直後は、悲しみや不安、時には怒りや自責の念など、さまざまな感情が入り混じります。そのような状態で何千万円もの資産運用を決断することは、冷静な判断を妨げるリスクがあります。

銀行で投資信託を勧められたとき、「今の自分に判断力があるとは思えない」と感じられたのは、ご自身の心の状態を正しく認識されていた証拠です。その直感を信じて、一歩踏みとどまったことは、むしろ賢明な選択でした。

そして今、1年が経ち、「そろそろ何か始めたほうがいいのではないか」と思えるようになった。それは、ご相談者様の心が少しずつ回復し、前を向く準備ができてきたサインです。
今日からは、焦らず、一歩ずつ、これからの人生を一緒に設計していきましょう。

遺族年金の仕組みと「18歳の崖」を知っておく

現在、ご相談者様には毎月約14万円の遺族年金が支給されています。この金額の内訳と、将来の変化について整理させていただきました。

遺族年金の構成

ご主人様は会社員でいらっしゃったため、ご相談者様が受給されているのは「遺族厚生年金」と「遺族基礎年金」の2種類です。

  • 遺族厚生年金:亡くなった方の厚生年金の報酬比例部分の4分の3が支給されます
  • 遺族基礎年金:18歳年度末までの子がいる配偶者に支給されます(子の加算を含む)

現在、長男様が17歳(高校2年)ということは、18歳になる年度末(高校卒業の3月末)までは、遺族基礎年金を受け取ることができます。

「18歳の崖」にご注意ください

ここで重要なのが、長男様が18歳年度末を迎えると、遺族基礎年金の受給資格がなくなるということです。これは「18歳の崖」と呼んだりされています。
具体的には、長男様が高校を卒業される来年の3月以降、遺族基礎年金の支給が終了します。

ただし、ここで大切なポイントがあります。
ご相談者様は現在53歳で、40歳以上65歳未満に該当されます。遺族基礎年金を受給できなくなった後は、遺族厚生年金に「中高齢寡婦加算」が上乗せされます(ご主人様の厚生年金被保険者期間が20年以上であることが条件です)。

中高齢寡婦加算は年額60万円程度(令和8年度現在635,500円)で、ご相談者様が65歳になるまで支給されます。
したがって、遺族基礎年金終了後の遺族年金は、遺族厚生年金(月約10万円程度)+中高齢寡婦加算(月約5万3,000円)=月約15万3,000円程度となる可能性があります。

月14万円から月約15万円程度にむしろ微増する可能性がありますので、「18歳の崖」による生活への影響は、当初心配されていたほど大きくないかもしれません。ただし65歳以降は中高齢寡婦加算が終了し、ご自身の老齢基礎年金と遺族厚生年金の組み合わせに切り替わりますので、その時点での変化には備えが必要です。

なお、遺族年金は非課税です。所得税・住民税の対象外ですので、まるまる手取り収入として受け取れます。

3,000万円の保険金を「3つの財布」に分ける

ご相談者様が最も気にされていた「3,000万円をどうすればいいのか」という点。
私からご提案したのは、3,000万円を目的別に「3つの財布」に分けるという考え方です。お金に役割を与えることで、「使っていいお金」と「守るべきお金」の境界線がはっきりし、心理的な安心感が生まれます。

① 長男様の大学進学資金:500万円(普通預金)

長男様が来年大学受験を控えていらっしゃいます。国公立大学であれば4年間で約243万円、私立大学(理系)で約540万円が平均的な目安です。
入学金や初年度の授業料は入学前に支払う必要があるため、すぐに引き出せる普通預金に500万円を確保しておきます。長女様はすでに大学3年生とのことですので、あと2年分の学費も含めて、この財布から支出します。

② 生活防衛資金:500万円(個人向け国債 変動10年)

「何かあったとき」のための備えとして、生活費の1〜2年分を安全な場所に置いておきます。
この500万円は、個人向け国債の「変動10年」または預金などに預けるとよいでしょう。

個人向け国債は日本政府が発行する債券で、元本保証があります。「変動10年」は金利が半年ごとに見直されるため、将来金利が上昇した場合にも対応できます。銀行預金より少しだけ有利で、かつ安全性が高い。「守りのお金」の置き場所として最適です。

③ 長期運用資金:2,000万円(NISAで段階的に投資)

残りの2,000万円は、ご相談者様の老後資金として、長期的な視点で運用していきます。
「投資は怖い」というお気持ちに配慮し、一度に全額を投資するのではなく、時間を分散して少しずつ投資する「ドルコスト平均法」をご提案しました。

具体的には、毎月30万円ずつNISA(少額投資非課税制度)の口座に入金していきます。NISAでは運用で得た利益に税金がかかりません。
相場が下がったときには安く買え、上がったときには高く買う。長い目で見ると購入単価を平準化でき、「一度に大金を投じた直後に暴落したら……」という不安を軽減できます。

53歳からのキャリアとiDeCoの可能性

ご相談者様は現在パート勤務で年収は約100万円です。「このまま続けていいのか」という迷いに対し、社会保険加入のメリットをお伝えしました。

「106万円の壁」などを超えて社会保険に加入すると、手取りは一時的に減りますが、厚生年金に加入することで将来受け取る老齢年金が増えるという大きなメリットがあります。

また、53歳からでもiDeCo(個人型確定拠出年金)を始めることができます。
現在は所得税がかかっていないため拠出時の節税メリットは限定的ですが、運用益が非課税になるメリットは享受できます。仮に月23,000円を12年間、年利3%で運用できた場合、約15万円の節税効果が見込めます。「今すぐ」と焦る必要はありませんが、将来の安心への選択肢として有効です。

「お金の不安」の正体を数字で可視化する

お金の不安の大部分は、「いくら足りないのか、いくら余るのか、わからない」ことに起因しています。そこで、ご相談者様と一緒にキャッシュフロー表を作成しました。

年齢主な収入主な支出保険金残高(運用後)
53歳遺族年金168万円+パート96万円生活費240万円+教育費200万円2,824万円
55歳遺族年金約184万円+パート96万円生活費240万円2,700万円
65歳老齢年金96万円生活費200万円2,150万円
75歳老齢年金96万円生活費180万円1,450万円
85歳老齢年金96万円生活費160万円880万円

「最悪のケース」でも生活は成り立つことが数字で示されました。85歳時点で約880万円の資産が残る計算です。90歳まで生きたとしても、年金と資産の取り崩しで生活費をまかなえる見通しが立ちました。

夫が遺してくれたのは「お金」だけではありません

最後に、大切なお話をさせていただきました。3,000万円の保険金は、ご主人様がご家族のために、何年も保険料を払い続けて準備してくださった愛情の形です。

「使ってしまったら、夫とのつながりが消えてしまう気がする」というお気持ちは痛いほど分かります。でも、そのお金で長男様を大学へ送り、ご自身の老後の安心をつくることこそ、ご主人様が最も望んでいたことではないでしょうか。

「家族を守りたい」という想いを引き継いで、これからの人生を歩んでいくこと。それがご主人様への最大の敬意だと、私は思います。

ご相談を終えて

ご相談者様からの感想

「相談する前は、『何か始めなきゃ』という焦りと、罪悪感でいっぱいでした。でも、『1年間何もしなかったのは正しかった』と言っていただき、本当に救われました。
3つの財布に分ける考え方で、『使っていいお金』がはっきりして気持ちがスッキリしました。キャッシュフロー表で『85歳でもお金が残る』とわかったときは、本当に安心しました。夫が遺してくれたお金を、夫が望んでいたことに使おうと思います。少し前向きになれました。」

FPからのコメント

大切なのは、「正解」を急いで求めないことです。心が回復するには時間がかかります。少しずつ前を向けるようになったら、一つずつ設計を進めていけばよいのです。
お金の不安は、『わからない』ことから生まれます。可視化することで、対策を立て、安心をつくることができます。ご主人様の想いとともに、これからの人生が穏やかなものになるよう願っています。

この記事を書いた人
青山 創星

会社と個人ダブル節税効果の国の制度確定拠出年金導入を銀行での運用経験をもとにフルサポート!!!

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