ご相談者様 DATA
【年齢】 40歳
【職業】 会社員
【性別】 男性
【家族構成】妻 38歳 他界(専業主婦) 子供 3人(6歳、8歳、10歳)
相談しようと思ったきっかけ(アンケート抜粋)
妻が突然亡くなり、何をどうして良いか分からないまま、とにかく子供たちとの日々を支えることに一生懸命でした。時間が経ち、寂しさには変わりませんが、妻のいない生活も少しずつ落ち着いてきました。
田中さんにはいつも私たちの保険や資産運用でもアドバイスをもらっていて信頼しています。
子どもたちもまだ小さいので、しっかりしなければと思い、これからの事を相談しようと田中さんに連絡しました。
ご相談内容
やらなければならないことはたくさんあるのに、心がなかなか前向きになりません。
まだ手続きは何も手つかずですが、少しずつ始めなければと思っています。
妻が加入していた保険の事、また他に相続で注意することなども含めてこれから何をすればいいのか、何の書類が必要かを詳しく教えてほしいと思っています。
ご相談でお話しした内容
最愛の奥様を亡くされて、本当に残念でなりません。
とても家族思いで素敵な方でした。
相談にお見えになった時も、最初は奥様の思い出を時には涙ながらにお話しされ、私も奥様の笑顔を思いうかべながらお話をお伺いしました。
そして生命保険金の請求や解約の手続きについて、また奥様名義で保有されていた投資信託の相続の手続きを説明し進めていくことになりました。
ここまでは、私の保険のプロ、資産運用のプロとしての領域です。
しかし、私たち国民には、任意で準備する保険や資産の他にも、国の保障があります。
残念ながら国の保障については、特に専門窓口があるわけではなく、一般の方にとって手続きの方法やそもそもの給付がどういうものがあるのか非常に分かりにくいのが現状です。
そのため、直接的な仕事の領域ではありませんが、国の保障についても合わせてご説明しました。
ご家族が亡くなると、要件を満たせば国から
遺族基礎年金を受給できます。
以前は夫の死亡時に子どもを持つ妻だけが対象でしたが2014年に妻の死亡時でも子どもを持つ夫も給付の対象になりました。
ご相談者様にはお子さんも3人いて、まだ一番下のお子さんは小学校に入ったばかりです。
遺族年金が下りたら金銭的に大きな支えになるな、とその時思いました。
受給のための基準を満たすかどうかは前年のご主人の年収がわかるものが必要なので、
まず前年度の所得証明を取ってもらうことにしました。
後日、所得証明で年収を確認すると
亡くなる2年前の年収は約800万円、前年は約900万円でした。
前年は会社の業績が好調で、本人もかなり頑張って今までで一番成績もよく賞与も上がったと説明してくれました。
私はご相談者様の話を聞いているとき複雑な気持ちでした。
実は国の遺族年金受給のためには、この年収が重要な要件だったからです。
結論から言うと、遺族基礎年金はでませんでした。
なぜでしょうか?今回該当しなかった理由をみていきます。
遺族基礎年金の受給要件
遺族基礎年金は死亡した方によって生計を維持されていた18歳未満の子のある配偶者または子が受給することができます。
この「生計を維持」とは、原則として「生計同一要件」と「収入要件」を満たす場合を言います。
【生計同一要件】
同居して生計が同一であることです(別居していても、仕送りしている、健康保険の扶養親族である等の事項があれば認められます。)
これに関しては問題ありませんでした。
今回遺族基礎年金が受け取れなかった理由は次の収入要件にありました。
【収入要件】
① 前年の収入が年額850万円未満であること。
② 前年の所得が年額655万5千円未満であること。
※①の要件または②の要件のいずれか片方を満たせば、収入要件を満たしたことなります。
③ 一時的な所得があるときは、一時的な所得を除いた後、前年の収入が年額850万円未満または前年の所得が年額655万5千円未満であること。
④ 3つの要件(①②③)を満たさないが、定年退職等の事情により、おおむね5年以内に収入が年額850万円未満または所得が年額655万5千円未満であることです。
いずれの要件も、前年の収入が確定していない場合は、前々年の収入で判断します。
ご相談者様は①の前年年収850万円未満であることという収入要件に該当しない(②も該当していない)ため、遺族年金が受給できないとの返事を役所から受けました。
しかし、ご相談者様のこれからの生活を考えると納得がいかず、④の条件に当てはまるのではないかと一緒に年金事務所に確認にいきました。
なぜかというと、この方の年収は確かに前年は900万円を超えましたが、これまでずっと850万円を超えることがなく、いわば前年年収はイレギュラー的な状況であったこと。
また子供の事を考えると、今後毎日残業はできないし転勤もできないことからおそらく収入は減少することが予想されると考えたので、④に該当し遺族年金受給が可能なのではと考えたのです。
結果は
『該当しない』でした。
定年退職などの理由であれば、将来にわたり850万以上の収入が得られないという理由になるから考慮できるが、今回の場合はそれにあたらない。
年収も前年のものがあれば、それしか考慮できないし2年や3年前のものは関係ないという見解でした。
もし遺族基礎年金をもらえるとしたらいくらもらえたのでしょうか?
計算式はこうです。毎年少し変更がありますので概算で表示します。
約78万円+子の加算 子の加算 第1子・第2子 各 約22万円 第3子以降 各 約7万円 |
最初に受け取れるのは
78万円+22万円+22万円+7万円=約129万円 です。
最初の8年間は3人の加算があります。
→129万円×8年=1032万円
一番上のお子様が18歳に達した最初の3月31日を過ぎると、2人分の加算になります。
→107万円×2年=214万円
二番目のお子様が18歳に達した最初の3月31日を過ぎると、1人分の加算になります。
→85万円×2年=170万円
三番目のお子様が18歳に達した最初の3月31日を過ぎると、終わります。
合計は約1416万円になります。
これだけの金額をサポートしてもらえたら金銭的に助かるのは言うまでもありません。
なぜ年収850万で境界線があるの?
厚生労働省の資料より抜粋したものです。
≪生計維持要件の基準≫ 社会通念上著しく高額の収入があるもの、すなわち、通常の所得分類の最高位に該当する者ということで被用者年金の上限10%に当たる年収を基準として採用した。平成6年改正において、厚生年金の報酬月額の上位約10%に当たる者の変動に合わせて収入額を600万円から850万円に改定した。 |
この850万円の納得できない点はいくつかあります。
- 例年年収850万円を超えているが前年だけ下回っている場合
→ 遺族基礎年金を受給できます。
- 遺族基礎年金を受給しているが、その後常時年収850万円を超えている場合
→ 受給後に年収がいくら増えても受給している年金はストップしません。
今回のように判断する年だけの年収が超えていたら、受け取れないのです。
ましてや、いつ亡くなるかもわからないのに収入の調整なんてできるはずもありません。
また、上位約10%が850万円で、そこで線を引くというのも疑問を感じます。
“850万円稼いでいれば遺族年金が無くても子供を育てられますよね”ということなのでしょうか。
お金の面だけを考えれば、確かになんとか育てられると思います。
だけど父子家庭になれば大変です。
今まで家事全般、子供の学校行事、習い事への送迎など平日はほぼ奥様がされていた事をこれから一人でこなすとなるとかなりの労力がかかりますし、仕事を制限しなければならないことも多くなるでしょう。収入が減ることも大いに考えられます。
収入が少ない方には遺族年金は多く、収入が多い方には遺族年金が少なくするという段階的な受給はできないものでしょうか。
1416万円か0円かの違いは大きすぎます。
※年収要件は、遺族厚生年金も同じです。今回のケースは専業主婦の奥様が亡くなったので対象となる遺族年金は遺族基礎年金のみでしたが、厚生年金に加入していた方が亡くなった場合、遺族が要件を満たさなければ遺族厚生年金は支給されません。
これから
今回初めて遺族年金の“境界線”に直面し、この制度の疑問点を大いに考えさせられました。
今でも納得がいきません。
とはいえ
相談者には私が遺族基礎年金のお話をしたためにかえって期待をもたせることになってしまい、
申し訳ない思いであることを伝えました。
すると
このようなことをおっしゃいました。
「ありがとうございました。いろいろ私の為にアドバイスをいただき感謝しています。
結果は残念でしたが、国の制度なので仕方のないことです。気にされないでください。
むしろ、田中さんの本来のお仕事でもないのに、親身にそして忙しいなか時間もとっていただいて本当にありがとうございました。
それより、家族が前に進むためにはまず自分が上を向いて前を向いて頑張っていきます。
その背中を子供たちに見せないといけないと思っています。
子供たちも必死に悲しみをこらえて進んでいます。
これからも私たち家族のサポートを宜しくお願いします。」
この言葉を聞いた時はとても胸が熱くなりました。
そうです、この家族は今を精一杯生きているのです。
前だけ見て全力で毎日を頑張っています。
これからもしっかりサポートしていこうと心に誓いました。
また、お子様の成長も楽しみに見守っていきます。
何かあったら、いつでん連絡ばしなっせよ。力になるけん。ずっと応援しとっばい!