ご覧の皆さま、こんにちは。
活動拠点は横浜。公的年金、若年層の金銭教育を得意分野とする、ハマのCFP®・社労士・1級DCプランナーの井内(いのうち)です。
ニュース等で話題になっていますが、国民年金への加入義務は20歳から60歳までの40年であるところ、65歳まで45年に延長されることについて政府で議論されることになりました。
詳細についてはまだ何も決まっていませんが、もしこれが施行されると、改正後に起こりそうなこと、制度改正にあたって考える必要のあることなどについてまとめてみました。
※まだ何も決まっておりませんので、今後必ずそうなるというわけではないことをご了承ください。
①定額で支給される年金は増えるか?
現在、老齢基礎年金は40年(20歳から60歳まで)の保険料納付済期間があれば、現在年間78万円程度(2022年度:777,800円)となります。
これが65歳までの45年となりますと老齢基礎年金の満額が増えることになり。年間87~88万円程度になります。
そうなると満額の老齢基礎年金と同じ額が支給されている障害基礎年金2級や遺族基礎年金の基本額も同様に約87万円となり、2級の1.25倍である1級の障害基礎年金も新しい2級の額(約87万円)の1.25倍になるのかどうか、となります。
障害・遺族の基礎年金も増やして整合性をとることが考えられるでしょう。
もしそうでない場合は障害基礎年金受給権者の65歳時点での年金の選択替えに注意を要します。
現在は、障害年金が非課税であること、障害年金生活者支援給付金が老齢年金生活者支援給付金より所得基準が緩く支給されやすいこともあって、65歳から老齢基礎年金ではなく2級の障害基礎年金を選択受給することが多いです。
しかし、満額の老齢基礎年金より2級の障害基礎年金が少ないと選択方法も変わるでしょう。
障害基礎年金や遺族基礎年金を受給する場合は、その影響には注目しておきたいところです。
当然、満額の老齢基礎年金が変わると、老齢基礎年金生活者支援給付金の支給対象となる所得基準額(満額の老齢基礎年金とほぼ同じ額)も変わることに繋がります。
また、中高齢寡婦加算、障害厚生年金3級の最低保証額も変わるかどうかという点もポイントになります。
それぞれ現行制度では、先ほどの78万円の4分の3の58万円ですが、87万円の4分の3(65~66万円)になるのかというところです。
②繰上げ受給後の国民年金保険料はどのように受給額に反映?
65歳からの老齢基礎年金は60歳から繰上げ受給することができます。
60歳以降国民年金が任意加入となっている現行制度上、繰上げ請求をすると任意加入ができません。
しかし、60歳以降65歳まで加入義務ありへと変わると保険料を納めなければなりません。
「繰上げ後の65歳まで強制加入となった期間の国民年金保険料はどのように老齢基礎年金の受給額に反映されるのか?」
という問題です。
老齢厚生年金の退職時改定のように一定のタイミングで改定するのか?
現在の繰上げ受給の老齢厚生年金同様、繰上げ後に掛けた分は繰上げ減額率(1か月0.4%)の適用はないことになるか?
ということが論点になりうるでしょう。
また、強制加入期間となると、当然、収入が少なく納められない場合に免除申請の対象にもなるでしょう。その場合、一部(国庫負担分)は年金額に反映されることに繋がるかと考えられます。
この60歳以降に免除を受けた場合、今の65歳前(老齢基礎年金受給権発生前)までの追納期限では、追納可能期間が短くなります。
例えば65歳になる月の前月分の保険料について、その月に免除申請しても、その翌月に65歳になることから追納期限が1ヶ月しかないことにもなります。
65歳で受給権が発生してから、それ以降も追納できるようにすると、やはり後で老齢基礎年金の額がどのように改定されることになるか、というところです。
➂経過的加算額は65歳以降の厚年加入で増え、その上限も540月に変わるのか?
20歳前や60歳以降に厚生年金被保険者となった場合、老齢基礎年金の額の計算には含まれませんが、代わりに老齢厚生年金の経過的加算額の計算の対象となります。
老齢基礎年金に相当する部分と言えます。
この経過的加算額は現在厚生年金加入が480月に達するまで増えることになりますが、老齢基礎年金が20歳から65歳までが計算対象となると、経過的加算額も65歳以降の厚生年金加入で増え、厚年加入月数の上限も540月に変わるのではないかと考えられます。
④学生時代の足りない分は納められる?
20歳から学校を卒業するまで国民年金に未加入(1991年3月以前は任意加入)だったり、学生納付特例を申請して追納していなかったりすることもあるでしょう。
その学生時代の足りない分の年金について、現在は60歳以降任意加入・納付することによって補うことができます。
しかし、65歳までが強制加入になると、60歳から65歳までの保険料をまず納付義務があり、65歳以降になってから任意加入ができないと、学生時代の足りない分は納められないことになります。
もし65歳以降任意加入で納付できるとなると、これもまた老齢基礎年金が改定されることになるかと考えられます。
あるいは国民年金の加入は65歳までのままで、特例で学生時代の何十年も前の分の納付が可能になるのかどうか、というところです。
⑤65歳までiDeCoに入りやすくなる
現行制度上、60歳から65歳までについては、国民年金の被保険者でないとiDeDoに加入できません。
60歳以降第2号被保険者でない人は任意加入しないとiDeCo加入できません。
40年の満額に達すると以降65歳まで任意加入できませんので、iDeCoにも加入できません。
しかし、強制加入になると65歳まで国民年金の被保険者になりますので、iDeCoにも加入でき、現行の問題は解消できそうです。
iDeCoの加入を65歳以降も対象とするという案もありますので、この点と含めて議論される可能性があります。
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45年への拡大によって、以上のようなことが考えられます。他にもあるでしょう。
国民年金保険料の負担が5年で100万円(2022年度:16,590円×60月)増えることがしばしば強調されていますが、これから改正が実現すると給付面についても影響が起こることでしょう。
改正情報については目が離せません。
その動向に注目し、改正後自身に影響がある部分を把握のうえ、将来の年金について備えたいところでしょう。
【これまでの実績】——————-●個別相談、金融機関の相談会等含め年金相談は合計4500件以上経験、●教育研修は地方自治体職員向け、年金事務担当者向け、社会保険労務士向け、FP向け、社会人1年生向けなど。㈱服部年金企画講師。●執筆は通算350本以上!『週刊社会保障』の「スキルアップ年金相談」(法研様)、「東洋経済オンライン」(東洋経済新報社様)、「MONEY PLUS」(マネーフォワード様)、「Finasee(フィナシー)」(想研様)、「現代ビジネス」(講談社様)、「ファイナンシャルフィールド」(ブレイクメディア様)、月刊『企業年金』の「知って得!公的年金&マネープラン」(企業年金連合会様)。その他、FUSOSHA MOOK「定年前後に得するお金の手続き」(扶桑社様)共同監修。●調査研究活動は研究論文「老齢年金の繰下げ受給の在り方-遺族厚生年金の受給権がある場合-」(日本年金学会編『日本年金学会誌第39号』)など。●取材協力先として扶桑社様、光文社様、プレジデント社様、日本経済新聞社様。●その他、動画「人生とお金の悩みを解決!たった5分のお金の学校」、Clubhouseルーム「【FP井内】FPのための公的年金部屋」に出演。
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