ご覧の皆様、こんにちは。
特定社会保険労務士・CFP®認定者・1級DCプランナーの五十嵐です。
年金制度改正法について、本日6月13日に参議院で法案が可決し、成立しました。
改正の概要につきましては厚生労働省のホームページの記載のとおりとなります。
www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00017.html
適用拡大、在職老齢年金制度の基準額の変更、子どもがいない場合の遺族厚生年金の有期化、配偶者加給年金の縮小、子の加算額の充実化、私的年金など様々な内容が含まれています。
改正法が成立した本日、その改正点の中でいくつか内容をピックアップして取り上げたいと思います。
在職老齢年金制度の基準額の変更について
2026年度より、在職老齢年金制度の支給停止となる基準額(支給停止調整額)が51万円(2025年度)から62万円に改正がされることになります。
在職老齢年金制度については「基本月額+総報酬月額相当額>支給停止調整額」である場合に、「(基本月額+総報酬月額相当額-支給停止調整額)×1/2」の年金が支給停止されることになり、残りの額が支給されることになります。
ここでいう、基本月額は老齢厚生年金の報酬比例部分を指し、支給停止となるのも報酬比例部分を指します(※)。
※上記計算式で報酬比例部分が全額支給停止となる場合は加給年金も支給停止となります。
この基準額が改正されることで年金の停止がかかりにくくなります。
ただし、この改正後の62万円というのは法定額を指しており、毎年度の基準額については、62万円に名目賃金変動率の累積率を掛けて算出します。
改正前は法定額は48万円です。今年度の基準額が51万円となっているのは、平成17年度(2005年度)以降の各年度の名目賃金変動率の累積率を掛けて算出した数字に1万円未満を四捨五入した結果となります。
今回の改正で、62万円に掛ける名目賃金変動率の累積率は令和7年度(2025年度)以降のものとなります。
制度改正は2026年4月からとなりますが、2025年度の名目賃金変動率は1.023ですので、仮に改正前の2025年度に適用すると、62万円×1.023=634,260円となり、1万円未満を四捨五入して63万円になります。
実際に施行される2026年度の実際の計算についてまた変わることになり、正確な基準額は未定ですが、62万円より高い数字になることも予想されます。
いずれにしても、改正前は支給停止になっていても改正後は支給されるというケースも出てくるでしょう。
ただし、今回の改正で標準報酬月額の上限額も段階的に引上げが行われますので、停止基準額だけでなく、変更後の標準報酬月額も用いて在老の停止額が決まります。
現在の標準報酬月額の上限額は65万円(32等級)ですが、今後、①33等級・68万円(2027年9月)、②34等級・71万円(2028年9月)、③35等級・75万円(2029年9月)へと引き上げが行われますので、現在の標準報酬月額が65万円に当てはまる方は改正後の標準報酬月額の確認も必要です。
子の加算制度の充実化
18歳到達年度末までの子あるいは障害等級1級・2級の20歳未満の子(いずれも現に婚姻していない子)がいる場合の加算制度について、改正前は障害基礎年金と遺族基礎年金のみにありました。
改正により、2028年4月以降、子の加算の対象となる年金が拡大され、加算額も増額することになります。
改正後は老齢基礎年金・老齢厚生年金・障害厚生年金(1級・2級)・遺族厚生年金にも加算制度が設けられます。
改正前は子の3人目以降の1人あたり加算は1人目、2人目の場合より少ない額となっていましたが、改正後は3人枚以降も1人目、2人目と同じで、その人数分が加算されることになります。
そして改正後の加算額は、改正前の1人目・2人目の額の1.2倍の額で計算されることになります。
改正前の1人目・2人目の1人あたりの額については「224,700円×当該年度の改定率」(100円未満四捨五入)でもってその年度の加算額が決まり、厚生労働省の法改正の資料にあります2024年度の額ですと1人目・2人目は234,800円(224,700円×1.045)、2025年度ですと239,300円(224,700円×1.065)となっていました。
改正後は1人あたり「269,600円×当該年度の改定率」(100円未満四捨五入)で毎年度の額が計算されます。
改正施行は2028年4月ですので、まだ先ですが、厚生労働省の資料にあります2024年度の額で計算すると281,700円(269,600円×1.045)、2025年度の額ですと287,100円(269,600円×1.065)になります。
改正前と比べ、子の加算が充実することになります。
もっとも、加算を受けるためには、原則日本国内に居住している子であることが条件となります。
また、基礎年金と厚生年金の両方で加算対象になっても両方からは加算は受け取れず、厚生年金の子の加算が優先となりますので、その点も押さえておきたいところでしょう。
遺族厚生年金受給権者も老齢年金の繰下げ受給可能に
遺族厚生年金の受給権者も65歳になると老齢基礎年金や老齢厚生年金を受給できるようになります。
しかし、改正前の制度では、65歳時点で遺族厚生年金受給権者となっている人はこれら老齢年金の繰下げ受給はできません。
今回の改正で、子がいない場合の遺族厚生年金については有期年金化もされる中、遺族厚生年金受給権者の老齢年金の繰下げ受給が可能となります。
この点については、私自身がかつて日本年金学会誌(2020)「老齢年金の繰下げ受給の在り方-遺族厚生年金の受給権がある場合-」にて、提言してきました内容となります(※当時、井内義典名義で執筆しております)。
65歳以降も働く方が増え、繰下げ受給を希望する方が増える中、遺族年金の受給権があると、たとえそれが全額支給停止されていたとしても繰下げできないのが改正前の制度となります。
遺族年金のある方の繰下げの希望を満たせるようになれればという思いから提言させていただきました。
65歳以降の老齢厚生年金と遺族厚生年金は調整制度が存在しその点を検討しなくてはならなかったため、論文では繰下げは老齢基礎年金について可能とするところで終わりましたが、今回の改正によってまず老齢基礎年金の繰下げは可能となりました。
そして、老齢厚生年金についても遺族厚生年金の請求をしていないことを条件に繰下げが可能となりました。
老齢厚生年金は老齢基礎年金と異なり、遺族厚生年金との併給調整があることから、遺族厚生年金を請求していないことを条件としたものと考えられます。
遺族年金の受給権があっても長生きリスクに備えることも可能になり、65歳受給開始か、繰下げ受給かを選択できることによって、その受給の選択肢も増えたことになるでしょう。
以上、改正法成立で今回まず現時点でお伝えできる限りとして上記のテーマについて取り上げてみました。
今回取り上げられなかった改正のポイントや改正に関する続報については、今後こちらのFP相談ねっとのコラムや、外部のWEB媒体の記事にてご紹介していきたいと思います。
※2025年6月14日に一部加筆修正しました。
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【FP相談ねっと・五十嵐義典 これまでの実績】
●FP個別相談、金融機関の相談会等含め年金相談は合計6000件以上経験。
●教育研修は地方自治体職員向け、年金事務担当者向け、企業年金基金担当者向け、社会保険労務士向け、FP向け、社会人1年生向け、大学生向けなど。㈱服部年金企画講師。
●執筆は通算550本以上!『週刊社会保障』(「スキルアップ年金相談」「年金相談のトビラ」、法研様)、月刊『企業年金』(「知って得!公的年金&マネープラン」、企業年金連合会様)、「東洋経済オンライン」(東洋経済新報社様)、「MONEY PLUS」(マネーフォワード様)、「Finasee(フィナシー)」(想研様)、「現代ビジネス」(講談社様)、「THE GOLD ONLINE」「THE GOLD 60」(幻冬舎ゴールドオンライン様)、「あなたのお金と暮らしのそばに。ハマシェルジュ」(横浜銀行様)、「よるかぶラボ」(ジャパンネクスト証券様)、「ファイナンシャルフィールド」(ブレイクメディア様)、「セゾンのくらし大研究」(セゾンファンデックス様)。その他監修本・著書として、FUSOSHA MOOK『定年前後に得するお金の手続き』(扶桑社様・共同監修)、『50代からの戻るお金・もらえるお金』(ワン・パブリッシング様・共同監修)、『DCプランナー1級合格対策問題集』『DCプランナー2級合格対策問題集』(経営企画出版・共著)。
●取材協力先は『日本経済新聞』『日経ヴェリタス』(日本経済新聞社様)、『読売新聞』(読売新聞東京本社様)、『プレジデント』(プレジデント社様)、『女性自身』(光文社様)、『SPA!』(扶桑社様)。その他「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日様)放送用資料提供、「公的年金制度入門」(アフラック様)動画出演。
●調査研究活動は研究論文「老齢年金の繰下げ受給の在り方-遺族厚生年金の受給権がある場合-」(日本年金学会編『日本年金学会誌第39号』)など。日本年金学会会員。
※2024年7月までは井内 義典(いのうち よしのり)名義。