五十嵐 義典

【年金制度改正】年収850万円以上でも遺族厚生年金が受けられるようになる場合とその影響

ご覧の皆様、こんにちは。

特定社会保険労務士、CFP®認定者の五十嵐です。

遺族年金については大きな改正が行われます。主な改正は2028年4月施行で、遺族基礎年金のない遺族厚生年金は5年有期化されるなどが盛り込まれています。

5年有期化になるにあたっての措置として、死亡した人が死亡した当時、60歳未満(※)の配偶者については遺族厚生年金は収入要件がなくなります。

※妻については2028年度(改正年度)において40歳未満(平成元年4月2日以降生まれ)の人。その後20年で段階的に40歳未満から60歳未満へ引き上げ。

生計を維持されていた配偶者だったのが、生計同一だった配偶者になります。

生計維持とは、①生計同一であること(同居している等)、②遺族自身の年収が850万円未満等であること、いずれも満たすこととなりますが、そのうちの収入要件がなく、①の生計同一要件のみとなります。

つまり、年収850万円以上であっても、対象になるということになります。

もちろん、これは60歳未満の配偶者の遺族厚生年金を対象とした規定ですので、遺族基礎年金60歳以上の配偶者や配偶者以外の遺族厚生年金は、引き続き年収850万円未満の要件を含んだ生計維持要件となりますので注意が必要です。

ここで、例えば夫死亡当時妻は38歳、子は10歳とした場合で、妻は生計同一で年収850万円以上(生計維持なし)、子は生計維持のありの場合、以下の図のようなことが起こります。

この場合、夫死亡により遺族となるのは妻と子(子の父)です。

妻は年収850万円以上であることから、遺族基礎年金の受給権はありませんが、生計同一が要件であることから遺族厚生年金の受給権は発生します。

一方、子は収入もなく、生計を維持されていることから遺族基礎年金と遺族厚生年金、両方の受給権が発生します。

妻には遺族基礎年金がありませんので、子のみ遺族基礎年金の受給権があります。

子の遺族基礎年金は生計同一の父または母があるときは支給停止となるのが現行制度ですが、2028年4月改正により、子の遺族基礎年金は父又は母と生計が同じでも支給停止にならず、支給されるようになります。

そうなると、改正後は子は妻(子にとっての母)と生計が同じでも、子に遺族基礎年金が支給されるようになります。

一方、遺族厚生年金については妻と子に受給権がありますが、妻と子両方には支給されません。片方は支給停止となって支給されないことになります。

ここで、遺族厚生年金については、「子」が「遺族基礎年金のない配偶者」に優先するという規定があります。

そのため、遺族厚生年金は子に支給されるようになり、妻の遺族厚生年金は支給停止になります。

つまり妻には遺族厚生年金の受給権そのものはあっても、支給はされないことになります。

結果、遺族基礎年金と遺族厚生年金、両方が子に支給されることになります。

しかし、このまま子が18歳年度末を迎えると、子は遺族基礎年金も遺族厚生年金も受給できなくなります(受給消滅権)。

子の遺族基礎年金と遺族厚生年金がなくなると、遺族厚生年金を受給できる受給権者は妻のみとなり、ここから妻の遺族厚生年金は支給されるようになります。

そして、ここから支給されるようになる妻の遺族厚生年金が原則5年の有期となり、有期給付加算(報酬比例部分の1/4相当額。改正で新設)も加算された遺族厚生年金となります。

図の「基準日」というのが5年経過日のことを指します。5年経過日の翌月分以降の年金は所得要件次第で継続して支給されるか、支給停止となるかどうかが決まることになります。

以上のように5年有期化、配偶者の年収要件の廃止という遺族厚生年金の改正が、生計同一の父母がいても子に支給されるようになる遺族基礎年金の改正と密接に関連していることになります。

今回のケース以外にも、1つだけでなく複数の改正項目によって、改正後の受給者や受給額に大きく影響することも予想されるでしょう。

改正点について、今後も何か明らかになりましたら、またお伝えできればと思います。

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【FP相談ねっと・五十嵐義典 これまでの実績】

●FP個別相談、金融機関の相談会等含め年金相談は合計6000件以上経験。

●教育研修は地方自治体職員向け、年金事務担当者向け、企業年金基金担当者向け、社会保険労務士向け、FP向け、社会人1年生向け、大学生向けなど。㈱服部年金企画講師。

●執筆は通算550本以上!『週刊社会保障』(「スキルアップ年金相談」「年金相談のトビラ」、法研様)、月刊『企業年金』(「知って得!公的年金&マネープラン」、企業年金連合会様)、「東洋経済オンライン」(東洋経済新報社様)、「MONEY PLUS」(マネーフォワード様)、「Finasee(フィナシー)」(想研様)、「現代ビジネス」(講談社様)、「THE GOLD ONLINE」「THE GOLD 60」(幻冬舎ゴールドオンライン様)、「あなたのお金と暮らしのそばに。ハマシェルジュ」(横浜銀行様)、「よるかぶラボ」(ジャパンネクスト証券様)、「ファイナンシャルフィールド」(ブレイクメディア様)、「セゾンのくらし大研究」(セゾンファンデックス様)。その他監修本・著書として、FUSOSHA MOOK『定年前後に得するお金の手続き』(扶桑社様・共同監修)、『50代からの戻るお金・もらえるお金』(ワン・パブリッシング様・共同監修)、『DCプランナー1級合格対策問題集』『DCプランナー2級合格対策問題集』(経営企画出版・共著)。

●取材協力先は『日本経済新聞』『日経ヴェリタス』(日本経済新聞社様)、『読売新聞』(読売新聞東京本社様)、『プレジデント』(プレジデント社様)、『女性自身』(光文社様)、『SPA!』(扶桑社様)。その他「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日様)放送用資料提供、「公的年金制度入門」(アフラック様)動画出演。

●調査研究活動は研究論文「老齢年金の繰下げ受給の在り方-遺族厚生年金の受給権がある場合-」(日本年金学会編『日本年金学会誌第39号』)など。日本年金学会会員。

※2024年7月までは井内 義典(いのうち よしのり)名義。

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