小川 洋平

【実例】家族経営は法人成りした方が良い?

こんにちは!

小規模事業者のお金のサポーター、ファイナンシャルプランナーの小川です。

私は元保険営業マン、知識ゼロで初見の人と話すのが苦手で、特に商談なんてガチガチに緊張してた私、「絶対保険の営業なんて向いてないだろお前!よく転職したな」って、今になって思うのですが、2年目には成績低迷に悩んでいた時期がありました(^^;)

その頃にちょうど自分が苦手としていた金融の知識の壁にぶつかって、売り上げが低迷していたのもありもう仕事辞めてしまおうかとも思ったことがあるんですが、そんなときに色々とお世話になった会社さんがあり、お客様を紹介してもらったりで何とかやっていくことができたのでした。

それから6年が経ち、ファイナンシャルプランナーとして知識を得てその会社さんに法人成りの提案を持ちかけました。

いつものように近くに寄ったついでに社長とお茶飲みながら話してたとき

「おらちこって忙しいがんになんでこっげ金残らねーんだろっかなぁ」

・・・と、意味がわからないという方も多いと思いますので標準語に翻訳してみます(笑)

標準語訳「うちの会社結構忙しいのに何でこんなにお金が残らないんだろうか?」

というお悩みというかぼやきの声をいただいたので、良い機会でしたので確定申告書を見せていただいたのでした。

そして、一晩考えて思いついた方法が法人成りという方法でした。

なぜ法人成りしたか、その理由は先回までお伝えしてきた社会保険、そして税金面にあります。

家族経営の個人事業主の法人成り

当時60歳の社長さんが代表を務める工場で、35歳の息子さんがほとんど現場仕事をやっていて、息子さんの奥様が事務、接客をされている会社です。

息子さんへの給与(青色専従者)で毎月25万円、息子さんの奥様に同じく青色専従者で毎月10万円、青色申告の控除後の所得は年間で平均すると400万円くらいになります。

社長さんはそろそろ息子さんに任せたいとお考えでした。

法人成りによってどの程度のメリットがあるのかを紹介していきます。

現状の社会保険と税金は?

この会社さんの税金、社会保険について、まず現状を整理してみます。

所得400万円、所得控除額合計120万円で計算

所得税:約28万円

住民税:約28万円

個人事業税 約5.5万円

国民健康保険料:約90万円(社長、社長の奥様、息子さん、息子さんの奥様、お孫さんの5名分)

国民年金保険料:約40万円(2名分)

合計: 約191.5万円

全部書き出してみると結構な負担になっていることがよくわかりますね。

尚、全員同居して一緒に生活していて、息子さんには専従者給与で300万円、奥様には120万円が支払われています。

法人成りの給与等設定等

代表取締役 息子さん  役員報酬月額20万円

取締役(会長) お父さん(元社長) 役員報酬月額9万円

取締役(非常勤) 息子さんの奥様  月額9万円

・代表取締役の息子さん厚生年金、健康保険に加入

・会長、現社長である息子さんの奥様は扶養に入ったため厚生年金保険料、健康保険料不要

と、一晩「あれをこーするとこっちがあーなって・・・」と、紙に書き出したりエクセルで試算してみて最適解と思われる方法を考え、社会保険と税の一体改革(どこかで聞いたような・・・)を提案してみました。

その結果は・・・

国民年金、国民健康保険料のコスト削減

今回、この会社で発生する社会保険料はこちらです。

会社、個人負担分の厚生年金、健康保険合計 : 各28,000円/月額

会社負担と個人負担合計し、月額で5万6,000円になります。

内訳:厚生年金 : 約37,000円

   健康保険料: 約19,000円 

合計:年間67万2,000円 + 健康保険料= 約68.5万円

これまで国民健康保険料と国民年金保険料を合計で130万円払っていたのが、なんと半分近くに・・・

国民健康保険料は所得と世帯の人数によって保険料が異なります。

個人事業をされていると会社に残るお金、生活費等のプライベートのお金を合わせてどうしても所得が高くなりますので国保が高くなってしまうんですよね。

そして、家族を扶養に追加するということはできません。

対して、健康保険料は役員報酬の月額(標準報酬月額)によって決まり、家族の保険料は扶養に追加することで支払いは要りません。

新社長の役員報酬を20万円とすると、支払う保険料は法人と個人合計で月額19,000円=

年額22.8万円で、ご家族を全員新社長の扶養に追加することで大きくコスト削減を可能にしました。

また、新社長の奥様の分の国民年金保険料も、これまで約1万6,500円支払っていましたが、それも扶養に追加することでカット。

厚生年金保険料は増えましたが、国民年金保険料の支払いが不要になりましたので実質的な負担としてはほとんど変わらずに厚生年金に加入することができたのです。

税金面での効果

一方で税金面はどうでしょうか?

大まかに、会長のこれまでの税負担と法人の税負担のみを比較してみます。

青色申告の65万円の控除が無かった場合の所得を465万円として、会長の給与分と社会保険料、その他を経費を併せて税引き前の利益で約230万円と予測され、実効税率を大体21.5%として計算してみると49.5万円

年間で大体12万円程度の節税効果を見込める結果になり社会保険の効果と合わせて年間で50万程度多くお金を残すことができるという結果になりました。

と、法人成りによってこのような効果が期待できてしまいます。

そして、法人成りのメリットの神髄は社会保険の充実にあります。

公的年金額の増加

厚生年金に加入することにより、仮に今のままの報酬で60歳まで年金保険料を払ったとしたら老齢厚生年金で年間約33万円増加することになります。

85歳まで生きれば20年間で660万円です。

奥様を扶養にしたため、これまでと同じ保険料負担でこれだけ老後の年金を増やすことができるのですよね。

厚生年金の制度を上手く使うと、先回のコラムでお伝えした通り負担を増やさずに将来の年金を増やすなんてことも可能なのです。

保障の拡充

厚生年金に加入するということは、遺族厚生年金、障害厚生年金を受け取ることができ、また健康保険に加入することにより傷病手当金も受け取ることができます。

これまで個人事業主の立場ではせっかく高い保険料を納めていたのにケガや病気で仕事を休まなければならないときには収入の補填はありませんでした。

しかし、今度は傷病手当金を受け取ることができ、役員報酬の2/3を受け取ることができます。

税金、社会保険料を大きく削減したにも関わらず保障もこれだけ拡充することができます。

経費にできなかった生命保険料も・・・

個人事業主が契約した生命保険料は、生命保険料控除の対象にはなっても経費にはなりません。

当然に生命保険料控除の上限を超えた金額については税金の控除対象にはなりません。

なので、事業の借入金の返済目的で契約している生命保険料も経費にはできなかったのです。

しかし、法人で支払えば掛け捨ての保険は全額を借入金の返済目的と、経営者の死亡退職金のための保険として損金算入することが加入です。

個人で契約しておいた方が良いと思われる契約は個人のままで残し、法人にした方が良いものだけを法人の契約に変更することが可能です。

と、このようなことを実現することができたのでした。

仕組みを知って使えるかどうか

と、このように税と社会保険の一体改革によってこんな大きな効果を得ることができました。

ちなみに、その後奥様から「保育料が安くなったんだけど!」という私にとっても想定外の驚きと喜びの声もいただくことになりました。

仕組みを知って良いところを活用した、ただこれだけのことでその差は大きなものになります。

先回と同じ結論になりますが、まずは制度を知って、自分にはどんな使い方が良いのかを考えることが大切ですね。

その一つとして、今回は特に効果が大きく、初めて私が法人成りを提案んさせていただいた家族経営の企業さんのケースをご紹介しました。