小川 洋平

個人事業主の「法人成り」とは?

こんにちは(^^)

経営と家計を120%豊かにするお金の専門家、ファイナンシャルプランナーの小川です。

日々の相談業務や、異業種交流会で知り合う個人事業主、フリーランスの方とお話していると

「法人成りした方が良いのではないかなぁ?」

と思うケースがよくあります。

ただ、その場で少しお話しただけではそのメリットは少しわかっても、デメリットは何か、そもそも法人とはどういうものなのかなかなか伝わりませんし、行動を起こすまでには至りませんね。

「良いのかなぁ~」と思っても、顧問の税理士さんに相談したら「止めた方が良い」などと言われたり。

そこで、今回は個人事業主の法人成りについてまとめてみました。

よく言われる法人成りのメリットは節税についてですが、それだけでなく社会保障の拡充、社会保険料の節約等、節税だけではない大きなメリットを受けることができる場合もありますので検討してみましょう。

法人成りとは?

「法人成り」とは、これまで個人事業で行っていた事業を、法人を設立して事業を法人に移すことを言います。

「法人」とは、法的には一人の人というように扱われ、事業主とは別人格となります。

つまり、事業主とは別人で、事業を営む一人の人を誕生させるというようなイメージで、今まで事業主が個人で営んできた事業を、新たに誕生した法人という別人に事業を譲渡するということです。

とは言っても、事業主はその法人のオーナーであることがほとんどですので、事実上は事業主が引き続き事業を動かしていくことになります。

なぜ「法人成り」するのか?

個人事業主が法人成りする理由としてはこのような理由があります。

①社会的信用のアップ

②事業の拡大のため

③節税

④事業主の社会保障の拡充と社会保険料の節約

などこのような目的があります。

①社会的信用のアップ

法人は法務局にその事業の内容について定款を作成し提出し、法人の概要について登記されて閲覧することができるようになります。

また、個人事業主だと利益から事業主の生活費等を払うので、決算書を見てもいくら会社にお金を残せたかがわかりにくい点がありますが、法人成りすると役員報酬が明確に決められ、いくら会社にお金を残せたかがわかりやすくなります。

そういった点から法人の方が信用が高いと言うことができます。

②事業を拡大しやすい

法人を設立、主に株式会社を設立することで、株式を発行して出資者を募ることで事業の資金を集めやすくなります。

事業の拡大のためには資金は必要不可欠です。

事業資金の調達の方法には金融機関等から事業資金を借りることも勿論ですが、金融機関から借りた資金は返済する必要があります。

それに対し株式を発行し集めたお金は株主もその会社のオーナーになるということですのでお金は会社の資本となり、返済する必要は当然なく会社のお金になります。

銀行から借りる資金には限度がありますが、株式会社であればそれは無限です。

なので、事業を大きくしやすいというメリットがあります。

③節税

個人事業主が法人なりするメリットの中には節税があります。

個人事業主の税金は下記のように計算されます。

①売上 ー ②経費 = ③所得(事業の利益)

③所得が個人事業における利益となります。

③所得 ー ④所得控除 = ⑤課税される所得

⑤課税される所得 × ⑥所得税率 = ⑦所得税額

⑤課税される所得(住民税の所得控除は所得税と若干異なる) × ⑧10.315%(住民税率)=⑨住民税額

⑦+⑧=納税額

というように計算されます。

そして、所得税率はこのようになっています。

このように、所得が上がれば上がるほど税金の支払いが増えることになります。

しかし、ここで法人を設立することで、所得を個人と法人で分散することができます。

つまり、どういうことかと言いますと、法人の代表取締役として役員報酬を受け取ると、役員報酬は法人の損金にすることができます。

その結果、所得を分散することができ節税に繋がるということです。

例えば、個人事業で1000万円の所得だったとします。

そして、社会保険料や生命保険料等の控除が合計で150万円あったとすると、課税される所得は

1000万円 ー 150万円 = 850万円

となり、23%の税率が課せられます。

しかし、法人で同じ利益だった場合、利益の中から更に役員報酬も経費として計算することができるた、役員報酬が600万円だったとすると・・・

1000万円 ー 600万円(役員報酬) = 400万円(会社の利益)

と、このように所得を分散することで税率が引き下がったり、支払う税金の金額が安くなるというメリットがあるのです。

その他、個人事業主では経費にならなかった代表者の生命保険も損金にすることができたり、税制上で様々な有利な仕組みを作ることができるのが税制のメリットです。

なので、一般的には売り上げが多いことが法人成りのメリットと呼ばれているのです。

しかし、それだけではなく税金面ではほとんどメリットが無い、まだまだ売上の少ない個人事業主やフリーランスであっても大きなメリットを得られる場合があります。

それが社会保障の拡充と保険料についてです。

④事業主の社会保障の拡充と社会保険料の節約

個人事業主で国民年金、国民健康保険に加入している人は、会社員時代と比べ社会保障は手薄になっています。

会社員の頃にはケガや病気で仕事を休んだら、「傷病手当金」といって休業中の収入の補填を健康保険の傷病手当金という制度によって受けることができますが、個人事業主には原則ありません。

また、老後に受け取れる公的年金も、個人事業主の場合には厚生年金は過去に加入していた期間のみ受け取ることができますが、その後は国民年金部分のみとなります。

万が一この世を去ってしまったときには遺族年金がありますが、国民年金に加入する個人事業主と厚生年金加入の法人経営者では大きな差があり、ケガや病気が原因で障害を負ってしまった場合にも大きな差があります。

と、このように会社員から独立して個人事業を始めると社会保障の面では大きく劣っていることになります。

しかし、個人事業主も法人を設立し、法人の代表者になることで厚生年金、健康保険に加入することができます。

そして、まだ売り上げ安定せず、利益もあまり期待できない人であっても法人成りによって下記のようなメリットがあります。

・30歳男性 

・家族は妻(夫の事業を手伝う)、1歳の子が一人

・年間所得 300万円(内生活費、社会保険料、税金の支払いのため240万円を事業主が使用)

・過去の厚生年金加入歴は無しとする

・国民年金の未納、納付猶予期間は無しとする

・法人設立後、役員報酬は月額20万円

個人事業主法人役員
老後の年金(年額)約78万円約117.5万円※
傷病で休業した際の補償月額約13万円
死亡時の遺族保障(年額)約100.5万円約125万円
障害年金2級に該当した場合約100.5万円約147.5万円
※60歳まで役員報酬が同額だった場合で試算

いかがでしょうか?

このような社会保障の給付の差が出ます。

得に老後の年金に関しては年間39.5万円の差が出るため、仮に65歳から90歳まで25年間受給した場合には約987.5万円と、公的年金の受給額に1000万円近くもの差が出ることになります。

これは30歳から60歳まで積立をして準備しようとしたら2.5万円程度の積み立てが必要ということになります。

他に、社会保障の拡充ができているためその恩恵は公的年金だけに留まりません。

そして、更に社会保険料はこのようになります。

尚、法人の厚生年金保険料、健康保険料は法人と個人で折半する仕組みになっています。下記表は会社負担分と個人負担分の折半前の合計額で計算しています。

個人事業主法人役員
年金保険料(年額)約40万円(夫、妻二人分)約44万円(折半前)
医療保険料(年額)約30.5万円(1世帯分)※約11.5万円(折半前)
合計約70.5万円約55.5万円(折半前)
※国民健康保険料は新潟県長岡市の計算式を利用。市町村によって異なる。

このように、社会保障は手厚くなっているのに、社会保険料の低減に繋がる場合もあるのです。

特に、夫婦で個人事業をされている場合は国民年金保険料は2名分を負担し、医療保険も妻の分の収入が世帯の所得にカウントされて計算され、妻と子の人数分保険料も増える仕組みになっているので、厚生年金、健康保険の扶養に追加することができるようになるため、保険料の低減に繋がります。

では、独身だった場合で比較してみるといかがでしょうか?

個人事業主法人役員
年金保険料約20万円約44万円(折半前)
医療保険料約24.5万円※約11.5万円(折半前)
合計約44.5万円約55.5万(折半前)
※上記と同じく、新潟県長岡市の例で試算

と、このように年間の保険料負担は約11万円増えることになりましたが、同時に将来受け取ることができる厚生年金の金額と、ケガや病気で働けなくなってしまった場合や、重い障害を負ってしまい働けなくなってしまった場合の保障も追加されるわけですから、毎月約9,000円の保険料を支払うだけで将来受け取ることができる公的年金額が大幅に増えて、民間の保険に入らずとも保障を拡充することができるのです。

そして、勿論税金の面でも個人事業主のときよりも支払う税金が少なくなりやすいため、どちらの方がメリットが大きいかは容易に判断することができるのではないでしょうか。

「法人成りは利益が〇〇〇万円以上になってから」といった話をよく聞くことがありますが、社会保障の拡充という点を評価するとそれ以上のメリットがあると言うことができますね。

役員報酬に含まずに法人から経営者個人にお金を渡す方法

社会保険料は一般的に4~6月の「平均標準報酬月額」によって決定されます。

保険料の一覧表は下記URLからご覧いただくことができます。

www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat330/sb3150/

ですので、役員報酬を調整することで社会保険料を調整することができるものです。

役員報酬が上がることで標準報酬月額が上がることで社会保険料も増えることになるため、社会保険料を抑えるためには役員報酬を抑えることが必要です。

役員報酬を抑える代わりに、下記のような方法で経営者に対し会社から役員報酬以外にお金を払うこともできます。

・自宅を事務所や事業用のスペースとして利用している場合

自宅を事務所にして事業を営んでいる方も多くいらっしゃいます。その場合、法人が自宅の一部を事業用のスペースとして使わせてもらっているわけですから、相応の家賃を支払うことができます。

周辺の家賃の相場から適切な範囲であれば家賃として認められる可能性が高いため、役員報酬を増やさずとも家賃という形で支払うこともできます。

また、事務所を他に借りていて、アパートの一室に住んでいる場合などにも自室でパソコンを使って作業をすることがあればその分のスペースも家賃という形で適切な金額の範囲でしたら会社から経営者に支払うことができます。

・個人所有の車を事業に使用する場合、賃料として会社から個人に支払うことが可能

個人所有の車を事業用に使うことがある場合、その場合も車の使用頻度等によって賃料として支払うことができます。

・生命保険料を会社契約に

また、個人事業主だった頃には生命保険料は個人の生命保険料控除の対象で、経費にすることはできませんでしたが法人に名義変更することで損金にすることができます。

ただし、契約者、受取人をいずれも法人に変更する必要があり、万が一の場合には会社が受取人になります。

しかし、死亡退職金規定を作ることで死亡保険金をご家族に渡すことも可能です。

・老後の資金も会社からの損金でつくる

通常、老後の資金を貯蓄しようと思ったら個人名義で貯蓄商品等を契約し積立を始めることになります。

しかし、会社から損金としてiDeCoプラス、企業型確定拠出年金等の制度を利用し損金で老後の資金を積み立てることができます。

また、損金にならなくても会社で積立商品を契約して運用し、退職時に退職金として渡すこともできます。

このように、法人と個人のサイフを使い分けることで役員報酬を調整し社会保険料を適正化することができます。

法人成りで掛かるコスト、デメリット等

さて、ここまで法人成りのメリットをお伝えしてきましたが、法人成りすることで掛かるコストやデメリットもありますので、それらもお伝えしておきます。

・設立費用

法人を設立するにはコストが掛かります。

株式会社であれば登録免許税150,000円 + 定款認証費用約51,000円 で最低でも20万円程度が必要になります。

合同会社、合資会社等であれば最低登録免許税6万円程度が必要になります。

株式会社の方がコストは掛かりますが、いずれにしてもそこまで大きなコストが必要になるわけではなく、自分で手続きすることもできますので初期コストを抑えることもできます。

その後に得られる社会保障のメリットを考えるとさほど大きな負担ではないと言えるでしょう。

・赤字でも年間7万円の住民税が発生する

法人は赤字であっても最低7万円の住民税(均等割り分)が発生します。

とはいえ、法人と個人に所得を分散し、役員報酬は給与所得控除という税金の控除を受けることもできるため、7万円を払ったとしても税負担が軽くなるのが一般的です。

・各種税金の手続きが増え、申告が少し難しくなる

法人から支払った税理士報酬や社会保険労務士、弁護士などへの報酬や、講師の謝礼等は源泉徴収し法人が納税する義務があります。

また、決算期を終えて申告する際にも申告の仕方が個人の頃とは違います。

税理士を入れないと税務申告や処理が難しい場面も発生するこおともありますが、元々税理士に申告を依頼しているような場合ですと税理士の顧問報酬が若干上がる程度で、法人を設立したからといって大きく変わらない場合がほとんどです。

・従業員に社会保険の義務が発生する

ある一定の規模以下の特定の業種だと、個人事業の事業所では従業員の厚生年金、健康保険加入が義務づけられていない場合があります。

そういった場合には法人を設立することによって従業員は社会保険加入が義務になります。

基本的に、従業員の老後やケガや病気で休んだ場合を考えると社会保険に加入することは最低限必要なこととも言えます。

ただし、あまり経営にゆとりが無い場合には法人成りによって社会保険料負担が大きく増え、経営を圧迫することにもなりますので従業員さんがいらっしゃる個人事業主の方はその点は注意が必要です。

以上、このようなコストが発生したり、留意点があります。

法人成りした方が良い事業主、しない方が良い事業主

ここまで、一般的に言われている法人成りとは違った視点からもそのメリットと、デメリットや留意点等についてお伝えしてきました。

では、具体的にどんな人が法人成りした方が良く、どんな人がしない方が良いのでしょうか。

■法人成りした方が良い事業主

副業ではなく、メインの仕事として事業を営んでいる場合。会社員として勤務していると、会社で社会保険に加入しているため法人成りをしたからといって社会保険料の適正化といったメリットがありませんし、厚生年金加入によるメリットも薄くなります。

しかし、そうではなくこれから個人事業をしっかり自分の事業としてやっていきたい方はまだ売り上げが安定せず少ない状態であっても社会保険料が減るメリットもあり、事業が成長して利益を得られるようになれば税金のメリットが大きくなってきますので、早い段階で法人成りを目指した方が良いと言えます。

・配偶者が個人事業主や専業主婦、パートの場合

配偶者が個人事業主だったり専業主婦、パートの場合、厚生年金と健康保険の扶養に追加することで社会保険料の節約に繋がります。

ただし、個人事業主の場合は年間の所得が一定額を超えることで扶養に追加できない場合もあるため注意が必要です。

■法人成りしない方が良い場合

・副業の場合

上記で記載した通り、個人事業は副業で会社員として勤務している場合は法人成りのメリットが薄くなります。

・経営にあまりゆとりが無く、従業員がまだ社会保険加入していない場合

原則として従業員さんには社会保険を掛けた方が良いのですが、現時点で経営にあまりゆとりが無く、社会保険料が負担になってしまうため法人成りはしない方が良いでしょう。

ただし、一人社長であれば逆に社会保険料を抑えることもできるため経営にあまりゆとりが無い状態でも法人成りした方が良い場合も多くあります。

他にも、法人成りした方が良い場合、しない方が良い場合はあります。

疑問に思われた方は個別にご相談ください。

まとめ

法人成りについての内容、いかがでしたでしょうか?

よく言われている法人成りのメリットの他に、多くの人が見落としているのがこの社会保障のメリットと社会保険料のメリットです。

税金はたくさんはらっても何のリターンもありませんが、社会保険料は会社が儲かって役員報酬を増やした場合には将来受け取ることができる厚生年金、休業時の収入の補償や障害年金、遺族年金といった公的保障の拡充にも繋がります。

更に、女性経営者さんにとっては出産時の休業補償となる産休手当を受けることができ、産前42日間、産後56日間、合計98日間の役員報酬の2/3を受け取ることもできます。

勿論、税金のメリットはまだ売上が安定しない状態でも享受することはできます。

また、まだ独身の経営者であれば役員報酬を必要最低限に抑えることで、社会保険料を年間何十万円も大幅に削減しながら、尚且つ厚生年金に加入し将来受け取る年金や遺族年金、障害年金などを拡大することもできるのです。

また、会社から個人に家賃や車の賃料などを支払うなど、役員報酬を抑え社会保険料を適正化することも可能です。

こういった仕組みを用いることでまだ経営が安定しないうちは社会保険料というコストを上手く抑えながら、事業が成長すれば税金を抑え社会保障のメリットが拡充することが可能です。

これらのメリットと、法人成りすることで発生するコストや手間などと鑑みて検討してみましょう。

尚、私は6万円の設立費用で合同会社を設立し、厚生年金、健康保険に加入することにより個人事業でやっていくよりも年間30万円ほど税金と社会保険料の負担を抑えることができています(^^)

※個別の税金の計算や、法人成りした際の各費用の損金算入については最寄りの税務署、もしくは顧問税理士にお問合せ下さい。