こんにちは(^^)
経営者のキャッシュを増やし、資産を増やす仕組みを創る資産形成のプロ、ファイナンシャルプランナーの小川です。
法人の顧問や経営者さんの相談を受けてますと、あまりに残念な生命保険の契約、提案の場面によく遭遇します。
残念な保険屋さんから提案されたパターンも多いのですが、顧問の税理士さんから提案された生命保険を契約されているケースでも時々目にするものです。
以前生命保険の募集人をしていた私にも経験がありますが、生命保険の販売をされている方にとっては「社長に納得してもらったはずの提案を税理士に邪魔された」という経験をお持ちの方も多いことでしょう。
本当に顧客のための提案ができているのならば良いのですが、残念ながらそうではないケースも多いものです。今回はそんな税理士さんによる残念な生命保険提案の事例をお伝えしていきます。
そして、もしそんな提案をされているようなことがあれば、顧問税理士さんを変更することも視野に考えてみる必要もあるかも・・・。
あなたの会社の顧問士さん、大丈夫ですか??
1.「お金が減る退職金」提案
生命保険を活用し、社長の退職金や、緊急時の簿外資産を積み立てすることを目的として生命保険を提案されるケースがあり、以前は「法人保険」と言えばこういったプランが主流でした。
しかし、本当に適切なプランだったのかは疑問が残るケースも多いものです。
今回お伝えするのはそんなプランを顧問税理士さんから提案された事例をお伝えします。
事例:株式会社赤木輪業(仮名)の例
バイク、自転車の整備、販売業
社長:赤木武さん(43歳) 社員:5名
売上高1億円 直近3年間の経常利益2~300万円
純資産高:1,000万円 自己資本比率:20%
(貸借役員借入分は純資産として考えている)
役員報酬額:年間480万円
赤木さんは父が創業したバイク、自転車販売、整備業を継いだ二代目経営者です。45歳の頃に父から事業を引き継ぐと同時に法人化し、父親と二人でやっていた事業を人を雇い、少しずつ自分がいなくても会社が機能するように仕組みを構築しているところでした。
バイクが好き、自転車が好きな顧客層に向けて、ツーリングイベントを企画したりコミュニティを形成するなどして顧客を囲い込み、独自の手法で顧客を増やし、オリジナルパーツの販売や整備で売り上げを伸ばしていったのでした。
そんなある日、父親の代から付き合いのある地元の会計事務所に資料を届けに行ったとき、顧問税理士から生命保険の提案を受けたのでした。
「赤木さん、そろそろ退職金の準備しておいたら?利益も出てるし、こんな保険いいと思うよ?」
渡されたのがこのような提案書でした
生命保険には解約した際に戻ってくる「解約返戻金」が発生する場合があり、このケースでは仮に20年後に退職を考える場合には、20年間で2,272万円の保険料を負担することになります。その際に解約した場合に1,926万円が戻ってくるというものでした。
実際に支払った保険料に対しての解約返戻金は84.4%程度、346万円がマイナスになるという契約です。(配当込みの場合には94.4%、2,145万円になることもある)
しかし、支払う保険料年間113万円のうち、45万円程度が損金となるためその分利益を圧縮することができ、税金を減らすことができるという提案です。
そして、解約時には解約返戻金と資産計上された金額との差額が利益にカウントされるのですが、赤字が出たタイミングや、退職金を支払うタイミングなどで解約することで利益が相殺されるため、解約返戻金に課税されずそのまま受け取ることができるというものです。
その後に、決算期前に「今のうちならまだ今期の損金算入間に合いますよ?」と、再度案内を受けた際に契約を決めたのでした。
2.「節税保険」のウソ
今回、この税理士さんが提案した保険の「ウソ」について見ていきましょう。ここで注目していただきたいのが、「節税効果」というものは存在せず、あくまで「課税の繰り延べ」であるという点です。
「退職金を払うタイミングや赤字のタイミングで解約すれば税金が掛からない」と言われることがあるのですが、退職金を支払ってもその年の損益が赤字にならなければ支払う税金は変わりませんし、たしかに赤字のときに解約すれば税金は掛かりません。
しかし、法人で青色申告をしている場合(通常は青色申告)には、赤字は翌年以降に繰越され、翌年以降の利益と相殺することが可能なのです。このことを「欠損金の繰越控除」と言います。
ですので、赤字のときに生命保険の解約返戻金を受け取り、税金が掛からずに受け取ることができたとしても、その後に繰越することができる欠損金を減らすことになり、節税効果は期待できないものになります。
節税になるケースとしては、800万円以上の利益が出ている場合や、退職してそのまま会社を閉鎖登記する場合です。中小企業に掛かる税金は、その年の利益によって概算でこのような税率が掛かります。
400万円以下の部分 21.5%
400万円~800万円 24.5%
800万円以上 33.5%
参考
法人税の実効税率とは?表面税率との違いや計算方法も解説 – 起業・開業お役立ち情報 – 弥生株式会社【公式】
仮に1,000万円の利益が出ていた場合、800万円を超える分が200万円ありますね。そうすると、200万円に対して33.5%の税率で課税されますので、800万円超の部分に掛かる税金は67万円となります。仮に200万円を全額損金にできる方法で損金参入することができれば67万円の税金を圧縮することができるということになります。
そして、仮にその翌年に利益が200万円程度のときに解約し、200万円全額が返ってきて雑収入として計上した場合には、解約で得られた200万円分の利益に対しては43万円の税金が掛かることになり、節税効果はあると言えますね。
また、退職と同時に法人を解散する場合には欠損金を繰越すことはできませんから、その時に退職金を支払い赤字になるようでしたら解約返戻金を全て非課税で受け取ることが可能です。
反対に、節税どころか増税になる場合もあり、年間800万円以下の利益しか出ていないときに保険料を支払いその一部を損金にし、数年後に利益が800万円を超えているようなときに資金が必要になり解約するようなケースです。そうなると、税率が低いときに損金にして、わざわざ税率が高いときに解約することで税負担が増えてしまうことになります。
かつてのように解約返戻率が高く、数年間保険料を支払えば支払った保険料がほぼ100%返ってくるような契約でしたら課税を繰り延べすることでキャッシュアウトを遅らせ、いざというときの資金の余力を増やすことができるため有効活用すれば良いでしょうが、今回のように支払った保険料に対し解約返戻金が85%程度にまで減ってきてしまうような保険ではむしろ手元のお金を減らしてしまう結果になってしまいます。
そもそも、生命保険会社さんの資料にはこういった注意喚起もされています。
法人の節税目的での保険契約は効果は無いばかりでなく、わざわざ将来の退職金を減らしてしまうことにもなってしまいます。
3.法人の「おサイフ事情」に合った保険を契約する
また、そもそも今回のようなケースでは、保険料が損金になるという点がメリットになるのでしょうか?
赤木さんの会社は年間の利益が200万円~300万円程度のごく小さな企業です。そもそも企業は利益を出してナンボです。赤字だったり利益が小さい会社ですと、銀行からの借り入れを返済する原資が無いため、銀行の格付けも下がり融資を受けにくい、有利な条件で受けられないといった弊害が起きてしまいます。節税のつもりで保険料を損金にするとわざわざ利益を減らしてしまい、「儲かってない会社」をわざわざ自分で演出してしまい、融資を受けにくい状況にしてしまいます。
また、企業にとって現預金はとても大切です。経営をしていると危機は必ずと言って良いほど訪れるものです。そんなときに手元の現預金に余裕を持てることはとても大きな安心材料ですし、金融機関の安全性の評価の項目には「流動比率(流動資産÷流動負債)」があり、現預金を多く残すことで銀行の評価は高まるものです。
ですので、保険に限らず課税の繰り延べを考える場合にはしっかり会社の利益が出ていることが条件ですし(借り入れをしていない場合を除き)、現預金に余裕を持てていることが必要です。そして、死亡保障の確保が主な目的で、解約返戻金もあるということでしたらキャッシュフローに余裕を持てている状況でしたら考えても良いでしょうが、そうでないケースではキャッシュフローを悪くし、将来の資産をも減らしてしまうことになってしまうのです。
そもそも、退職金は別に生命保険から払う必要もありません。資金繰りに安心していられるような現預金で残しておいて、現預金から払っても良いですし、現預金に余裕を持てている状況でしたらしっかり資産形成を目的とした生命保険や、保障が不要でしたら投資信託等を用いて積立をしても良いでしょう。
また、iDeCoプラスや企業型DCといった方法もあり、こちらは受取時に法人で受け取らず個人に直接支払いが可能な、本当に節税になる手段もあります。
赤木さんの会社の状況ですと保険料が高い解約返戻金を目的としたような契約ではなく、保険料が安くキャッシュアウトが小さく済むような収入保障保険や逓減定期保険を借入に合わせて設定するなど、できるだけ負担が少なく必要な保障を確保できるような保険を設定することが望ましいと言えます。
4.なぜ税理士はそんな提案をしたのか?
よく「税理士=財務のプロ」と誤認されている経営者さんも多いのですが、それは違います。決算書を読む力はあるでしょうし、中小企業のCFO(最高財務責任者)のような存在としてサポートしてくれる方もいらっしゃいます。しかし、基本的には税理士さんは「税務の専門家」であって、適切な経理処理、税務申告をすることが仕事です。財務のプロ、経営のプロではないのです。
決算書の読み方がわかるだけに経営者にアドバイスも可能でしょうが、読み方がわかることと数字を見て現状を適切に把握し適切な経営判断を下せることは全くの別物ですし、そもそも財務戦略を考えてくれてアドバイスをするような契約はしていないでしょうから、適切なアドバイスをしなければならないという責任もありません。そして、当然保険のプロでもありません。
しかし、会社のおサイフ事情を握り、「先生」と誤解されてしまうことも多く、「税理士さんが進めるもの=自社に良いもの」と社長が勘違いしてしまいがちなのです。そして、多くの税理士事務所、会計事務所が生命保険の販売代理店になっていて、保険商品を販売すれば手数料を受け取ることができます。一件販売すれば数十万円~数百万円にもなりますから、そこそこ美味しいキャッシュポイントなのです。
その結果、本当の保険のプロであるはずの保険屋さんが勧めた提案に対し税理士さんがNGを出し、自分の事務所で扱う保険も勧めることも多いものです。
それを「税理士のいうことだから」と、税理士のポジションを誤認してしまい鵜呑みにしてしまった結果、会社にとってマイナスな提案になってしまっているということです。
勿論、しっかりした知識を持って生命保険を販売されている事務所もありますし、優秀な生命保険の募集人と提携して提案し、保険提案はしっかり保険のプロに任せているようなケースもありますが、残念ながらこういったケースも散見されます。
5.利益を残すことは社長のお金の悩みを解消し社長の資産を増やすこと
利益を出すことで税金をたくさん払わなければならないと考えられてしまいますが、税金を払っても利益剰余金をたくさん残し、資産を積み上げていくことで金融機関からより大きな融資を受けることができるようになったり、M&Aで売却した場合には高値で売れるようになります。
税金を払いたくないからと節税のために利益を減らそうとすれば「儲かってない会社」になってしまいますし、「資産が少ない脆弱な経営体質の会社」、「資本を有効活用できていない会社」など、銀行からの評価ではこういった評価を受け易くなってしまいます。
しっかり利益を出して税金を払い、利益剰余金を積み上げることで純資産高が増え、強い経営基盤を創っていくことで融資を有利に受けることができます。そして、それにより資金繰りの悩みを解消するだけでなく売上を大きくすることもでき、将来M&Aした場合には何倍も高値で売れるようにすることも可能なのです。
そうやってしっかり安定した経営ができる基盤を作った上で自分の退職金の資産形成を考えれば良いでしょう。
仮に毎年500万円でも利益を出すことができれば、20年で利益剰余金は累積で1億円になりますよね?(税金のことは考えずに計算すると)しっかり利益を出せる会社の仕組を構築していればその何倍もの価格で売却も可能ですので、中小企業の経営者さんでも個人資産1億円、それ以上の資産を創ることはさほど難しい話ではないのです。
生命保険はそういった成長していく会社の経営者さんに万が一があったとき、取引先や社員、家族に迷惑を掛けないように対策するための手段の一つです。ですので、自社にはどのような保障がどの程度必要かはしっかり考えて備える必要があります。それを薄っぺらな節税のために使ってしまうと、経営の安定と会社の成長のための資産を失ってしまうことになります。
そういった税理士さんに経営や財務についてのアドバイスを求めても会社のために寄与してくれることは難しいものです。「税理士は税務の専門家」としてしっかりポジションを再度認識し、財務のことはしっかり自分で学び考える必要があるのです。「財務の専門家」「経営のアドバイザー」という立ち位置を望むのでしたら早々に見切りをつけ、しっかり経営指導も受けている違う税理士さんに切り替えた方がよいでしょう。
そして、「餅は餅屋」という言葉の通り、生命保険の提案はしっかりとした知識と信念を持って仕事をされている保険のプロに提案してもらうことが大切です。改めてその人の業務を再認識して、「餅は餅屋」ということを認識し、然るべき人にお願いするようにしましょう。
最後までご覧いただきありがとうございました。