小川 洋平

「なんとなく経理」が会社を潰す?!社長が知らないと危ないお金の話

多くの個人事業主や中小企業経営者が、帳簿をつけたり税理士にデータを渡したりしながら、「うちはしっかり経理している」と思っているかもしれません。しかし実際には、基本的な会計処理を誤ってしまっているケースが少なくありません。

特に「売上は入金されたとき」「仕入は払ったときに経費」といった考え方で経理処理していると、思わぬ落とし穴に陥ります。

今回はそんなよくあるミスをもとに、何が間違っていて、どんな問題を引き起こすのか、そしてどうすれば改善できるのかを解説していきます。

1. 売上は「入金されたとき」ではない?

最もよく見かける誤りの一つが、「売上=入金されたとき」という認識です。たしかに、現金商売のように即金でお金が入る業種であれば大きな問題はありません。

しかし、BtoBで請求書を出して後日入金される形のビジネスモデルの場合、「売上」はあくまで「サービスや商品を納品して請求書を発行したタイミング」で計上するのが原則です(発生主義)。

たとえば、4月に100万円の業務を完了して請求書を出し、5月に入金された場合、売上は4月に計上しなければいけません。

これを5月の入金時に売上としてしまうと、次のような問題が起きます。

  • 4月の売上が本来よりも少なく見える
  • 5月の売上が実態より大きく見える
  • 月次決算や年度決算で業績の把握が狂ってしまう
  • 銀行や外部に出す試算表の信頼性が下がる

特に融資を受けようとしている経営者にとっては、売上の計上タイミングを間違えることで「信用」が損なわれてしまう可能性すらあります。

2. 原材料費は「払ったとき」ではない?

同様に多いのが、「仕入れた原材料を支払ったときに経費にしている」というケースです。例えば、4月に原材料を仕入れて支払ったが、実際に使用して製品化して販売したのは6月。にもかかわらず、4月にすべてを経費計上してしまうと、4月の利益が少なく見えてしまい、6月の利益が過大に見えることになります。

正しくは、「期首在庫+当期仕入-期末在庫=売上原価」という形で、月や年ごとの原材料費を計算します。これは棚卸計算と呼ばれる重要な処理です。

在庫が増えているのに経費としてすべてを落とすと、

  • 利益が少なく見えてしまい、税額が少なくなる
  • 税務署から「棚卸していない=不適切処理」と見なされる
  • 追徴課税や税務調査のリスクが高まる

というリスクにつながります。

ですので、毎月末にはしっかり在庫をチェックすることが大事です。

3. 売上や原価がずれることで何が起きるのか?

正しく経理ができていないと、単に税金の問題だけでは済まなくなります。

① 粗利益率・原価率が正しく算出できない

売上と原価のズレは、会社の「儲けの構造」が見えなくなることにつながります。

たとえば、原価率が50%と想定していたのに、実際は仕入の時期や在庫処理ミスにより70%だった……となれば、思った以上に収益性が低く、利益が出ない体質に気づかないまま経営を続けることになってしまいます。

② 銀行からの評価が下がる

金融機関は決算書をもとにその会社の「返済能力」や「信用力」を判断します。にもかかわらず、月次決算で売上や原価、利益の数字がバラバラで信憑性が低ければ、当然「この会社は数字が読めない」と評価されます。

また、経営をしていく中で、自己資本比率や経常利益率などの指標を用いて経営の健全性を判断することがあります。正しい売上や利益が計上されていなければ結果として財務が不安定に見えてしまうのです。

見た目上の数値で判断される金融機関からの評価が低くなるのは、まさにこうした「経理のミス」の積み重ねが原因です。

4. 正しい経理処理のためにやるべきこと

では、どうすれば正しく経理処理を行い、リスクを防げるのでしょうか?

① 売上は「発生主義」で計上する

納品・役務提供・請求書発行のタイミングで売上を計上するようにしましょう。

② 棚卸を行い、原価を計算する

毎月または毎年、在庫の棚卸を行い、売上原価を「期首+仕入-期末」で計算するようにしましょう。面倒に感じるかもしれませんが、コレがしっかりできていないと経営状態を正確に把握できませんのでめんどくさがらずに必ず行っていきましょう。

③ 月次決算を行う

月単位で収益・費用を整理することで、リアルタイムな経営判断が可能になります。チェックが遅くなれば数字を見ながらの経営判断が遅くなり、狙った利益を得ることができないだけでなく赤字のまま気が付かずに経営を続けてしまうことにもなります。

5. まとめ:「正しい経理」は経営の命綱

「お金の出入り=経理」ではありません。入金のタイミングや、仕入の支払い時点だけで会計処理をしていると、税務リスクはもちろんのこと、自社の経営状態を誤って判断してしまうことにもなりかねません。

中小企業や個人事業主にとって、会計の基礎は会社の健康診断のようなものです。売上と原価のズレを放置すれば、見えない病気が進行していきます。

しっかりと会計ルールを理解し、正しい処理を行い、そして月次で数字を確認していくこと。これが、追徴課税や信用失墜から自分のビジネスを守る最初の一歩です。