ジャパネットの傘下入りに反対?!㈱ツインバードが決断した理由とは・・・

ものづくりの町 新潟県燕市に本社を置く家電メーカー、株式会社ツインバード(証券コード 6897)。

新潟県民であれば、一度は名前を聞いたことがある会社ではないでしょうか。

そのツインバードは、2026年6月にジャパネットホールディングスから子会社化を目的としたTOB(株式公開買付け)の発表があり、つい昨日8月31日に反対を表明したことがニュースになりました。

TOBというと難しく聞こえますが、ものすごく簡単に言ってしまえば、

「ツインバードの株を持っている株主の皆さん、売ってくれるなら市場価格より高く買いますよ」

という公開買い付けをジャパネット側が行い、ツインバードを傘下に入れようとしたということです。

引用:Trading VIew jp.tradingview.com/symbols/TSE-6897/?timeframe=6M

当時400円を下回っていた株式に対して提示されたTOB価格は800円。

株主にとっては当時の株価の倍の値段で買ってくれるというのですから、まぁ美味しい条件ですよね。

株価もご覧の通り跳ね上がっています。

さらに、テレビ通販やECなど圧倒的な販売力を持つジャパネットが、商品企画・開発力を持つツインバードの商品を販売する・・・。

一見するととても相性の良さそうな組み合わせですが、それでもツインバードはこの提案に反対しました。

今回はなぜなのかを、ツインバードの決算短信や経営計画等のIR情報を元に解説していきます。

1.ツインバード「売っても売っても儲からない」状態だった?

株式会社ツインバードは冷蔵庫や洗濯機、掃除機などを販売する家電メーカーです。

HP:株式会社ツインバード

そして、ツインバードの強みである技術があり、それが「FPSC(フリー・ピストン・スターリング・クーラー)」と呼ばれる冷却技術です。

燕三条の職人技のネットワークにより世界で初めて量産化に成功させたというスターリング冷凍機が同社の強みとしてあります。(さすがはものづくりの町ですね)

小型・軽量で持ち運びが可能、約ー100℃まで精密な温度制御ができ、コロナ禍ではワクチンを低温で輸送・保管するための冷凍庫として注目されました。

当時はワクチン関連需要への期待から株価も大きく上昇しましたが、その後はワクチン特需が一巡した2024年度、2025年度と営業赤字にとなっていました。

特に問題だったのが「量販チャネル」で、2025年度には売上高の内訳約1/3を量販チャネルが占めるものの、損失の要因も「量販チャネル」だったのです。

8月31日公表 中期経営計画書より引用

こちらの図の2025年度実績をご覧いただくと、売上高に占める赤色のグラフは1/3を占め、主力商品のように思われがちですが、同時に下の営業利益(損失)においては営業赤字の大部分が量販であることがわかりますね。

つまり、たくさん商品を売って売上高を作っても、利益が残らないどころか赤字という状態だったわけです。

2.ジャパネットHDからの提案

そんなツインバードに目を付けたのがジャパネットでした。

ジャパネットHDより、株式を公開買い付けしてツインバードを傘下にし、ジャパネットの販売力と、ツインバードの商品、企画力のシナジー効果を創出したいという提案がありました。

これは確かに相性が良さそうです。

ツインバードには「ものづくり」の力がある一方で、家電においては競合他社とこれといった優位性を打ち出すことができていなかったのが実情です。

一方、ジャパネットには圧倒的な販売力があり、ツインバード単独では競合他社との競争で苦戦しても、ジャパネットなら商品の魅力をテレビやECで分かりやすく伝え、大量に販売できます。

ジャパネット側からは、PB(プライベートブランド)商品について、1商品あたり年間30万~50万台を販売する構想なども示されました。

普通に考えれば、

「そんなに売ってくれるなら最高じゃないか」

と思いますよね。

ところが、ツインバードがこれから目指そうとしている方向とは、違っていたというのが今回のジャパネット側の提案に反対した主な理由の一つです。

3.ツインバードの事業転換

ツインバードはTOBへの反対を表明すると同時に、中期経営計画を公表していました。

03_sin_tyukei_260831.pdf

直近の中期経営計画で掲げたのは、

「売上偏重ではなく、高収益事業への転換による利益の最大化」

です。

採算の改善が見込めない家庭用冷蔵庫・洗濯機などを縮小し、FPSCやBtoBのソリューション事業、自社が持っている強みを高付加価値のD2Cなどへ経営資源を振り向けていく。

つまり、

「たくさん売って売上増やそう!」

ではなく、

「いくら利益が残るのか」

を重視して経営資源を配分する方向に舵を切るという方針を示したのでした。

新中期経営計画では2030年度に売上高117億円、営業利益14億円、営業利益率12%、ROE13%以上を目標にしています。

その内訳として、下記のように高付加価値なチャネルにシフトし、量販を縮小するという方針を示しているのです。

そして、2026年度の第一四半期においては黒字転換し、特に病院用小型冷蔵庫や半導体製造装置用部品の受注、海外の既存取引先の燃油計測器に搭載されるスターリング冷凍機の追加受注が堅調に推移したことが挙げています。

4.ジャパネット側の提案と「資本効率」

ここで、ジャパネットから提示されていた、傘下になった場合の見込みです。

先ほど年間30万台から50万台規模で販売ということをお伝えしましたが、単価は1つ2万円程度のものを想定しています。

ここが今回のニュースで私が最も面白いと感じたところで、ジャパネットならたしかに商品を大量に販売できるでしょう。

売上高も増えるでしょうし、利益額そのものも増える可能性があります。

しかし、年間30万台、50万台という商品を供給するためには、それ相応の生産能力が必要になります。

仮に60億円(2万円×30万台)売上高が増え、利益が増えたとしても、大量生産に対応するためには設備投資が必要になりますし、そこには人も必要になり固定費も掛かり運転資金も必要です。

そして、それに対応するためには自社の強みである高付加価値なBtoB事業が停滞することになるという懸念を示しています。

ジャパネットのPBブランドの利益率がどの程度になるのかというシミュレーションを見つけることができなかったのですが、おそらくツインバードの強みを生かしたtoBの事業に対し、toC事業の利益率は低くなるのではないかと予想されます。(できれば反対意見書で傘下に入った場合の利益のシミュレーションが欲しかった)

そこで重要になるのが「ROE(自己資本利益率)」や「ROIC(投下資本利益率)」といった、投資家目線での利益率です。

簡単にいえば、

「事業に投入したお金(借入等も含め)から、どれだけ利益を生み出せたのか」

「資本からどの程度利益を産んでいるのか」

を見る指標です。

売上高が大きい会社が、必ずしも優れた会社ではありませんし、利益の額が大きければ、それだけで優れているわけでもありません。

できるだけ少ない資本で、大きな利益を生み出せる会社の方が資本効率という点では優秀です。

その点で興味深いのが、ツインバードが成長分野としているFPSC事業です。

会社側の計画では、FPSC事業について計画期間を通して60%前後という高い粗利率を見込んでいます。

さらに、FPSCの売上構成比を2026年2月期の5%から2031年2月期には12%まで引き上げ、BtoBや自社のECサイトを通じた顧客への販売等を強化し、「売上高」ではなく利益率が高く自社の強みを活かせる分野を伸ばそうとしています。

小型・軽量で持ち運びが可能、精密な温度制御ができ、医薬品やバイオ、研究用途などへの展開が期待されていて、世界で初めて量産化に成功したという功績があります。

大型の冷凍設備を大量生産するのではなく、

「小型・軽量で超低温」

というニッチなニーズを狙うというものです。

地場の産業の強みを生かし、高付加価値な市場で価値を狙いに行くことで、資本効率も高める経営を目指すという方針を反対する理由として示しています。

これは投資家目線では非常に重要な視点です。

できれば提案を受け入れ場合の売上高だけでなく利益や利益率、ROEやROICというシミュレーションが欲しかったのですが、売上規模ではなく高付加価値・高収益事業へ経営資源を集中させようとしている方向性には私個人的には合理性があると感じています。

5.投資家目線から、ちょっと残念な点と改善点

ツインバードがTOBに反対した理由はまだいくつもあり、そもそもジャパネット側の意向に具体性がなかったこともあります。

そんな今回発表した理由の中でちょっと残念な点として、まず下記が反対意見の資料の一枚になりますが、赤字、太字で書かれている部分をご覧いただければと思います。

最初にTOBに反対する表明をしたという地元の記事にはこの赤字、太字のところのみが記載されていて、地場の取引慣習が失われてしまうというようなことが記事で書かれていて、初めてニュースを読んだときは「ん?」と思ってしまいました。

ここ、会社としては強調したいポイントだったかもしれませんが、投資家目線では「?」なんですよね。

中身をちゃんと読み込めば、ものづくりの町である地元の企業とのサプライチェーンが壊れてしまう可能性がり、それはツインバードの技術、企業価値を支える上で重要なものであり、ツインバードの企業価値自体を毀損することになると、言いたいことはよくわかります。

投資家目線で重要なのは、このネットワークがどれだけツインバードの「競争優位」「ブランド」「稼ぐ力」につながっているかという点ですが、これが感情的な部分が強調されていることが私としては残念なところです。

投資家にとって重要なのは「利益」であり、その利益を産み出す元になるのがものづくりの町のサプライチェーンであり、それを失ってしまうことで投資家の長期的な利益が毀損されるのだという伝え方の方が良いのかなと。

もう一つがFPSCですが、世界で初めて量産化に成功したという点はHPを見ればわかるのですが、同業他社と比較して、何がどう有利で、どういった場面のどういう部分で、なぜ自社の技術が選ばれるのかという点が中期経営計画書からはちょっと伝わり難かったかなと思う点で、「どうやってFPSCの受注を増やすの?」という点で株主の目線ではもう少し欲しい情報でした。

ジャパネットの傘下に入った場合の、ROEやROICといった財務指標を用いたシミュレーションの比較があると、より投資家に対して今回の判断が合理的だったのだということも伝わるでしょうね。

6.「売上高」より「何にお金を使って、いくら儲けたか」

さて、今回のツインバードのニュースは、中小企業経営にも非常に重要なことを教えてくれます。

経営者さんと話をしていると、

「売上○億円はいきたいです」

「3年後には売上5億円にしたいです」

という目標をよく聞きますし、私も同様に「売上高1億」とか意味もなく掲げていた時期もあります(笑)

もちろん売上高は重要ですが、売上高は「利益」や「企業価値」のための一つの要素なんですよね。

3億円売って1,000万円の利益が残る会社と、1億円しか売らなくても1,000万円残る会社、どちらが優秀でしょう。

さらに前者が5,000万円の設備を必要とし、後者が500万円の設備で事業をできるとしたら、どちらが効率の良い経営と言えるでしょうか。

重要なことは「売上がいくらか?」ではなく、固定費や原価をいかに上手に抑えながら、少ない売上、少ない初期投資でも利益を得ることができ、競合他社との価格競争が起きにくい独自性や参入障壁、再現性の高い「構造」を創ることです。

その点、今回のツインバードの決断は、大きな売上と利益UPに繋がる可能性があったが、自社の強みに集中し資本効率、利益率を重視した決断は良い判断だったのではと私は思います(個人的な意見です)

売上高を伸ばすために人を増やし、設備を増やし、在庫を増やし、借入金まで増やした結果、

「売上は倍になったのに、全然お金が残らない」

という会社は決して珍しくありません。

逆に、自社が本当に強い分野へ経営資源を集中し、固定費を抑えながら高い利益率を確保できれば、会社の規模はそれほど大きくなくても強い経営ができます。

今回のツインバードが選んだ道が正しかったのか、今後5年間の数字を見て答え合わせをしていきたいと思います。

「会社を大きくすること」と「会社を強くすること」は同じではない。

地元新潟の企業を題材に、改めてそんなことを考えさせられるニュースでした。

そして、意外なことはTOBに対して反対を表明した後も株価にはあまり影響がでていないことです。

昨日は「きっと大きく下落するだろうから下落したら買おう・・・」

なんて思ってたんですが、見事に予想が外れました(^^;)

なぜなのかはまた改めて検証したいところですが、これまでの経営方針を一新し、高付加価値な自社の強みを活かすことに舵を切った地元の会社ですから、1単元(100株)買ってもお手頃ですし、せっかくの機会に株を買って株主総会にも参加させていただき、質問させていただいたり今後の動向を見ていきたいと思います。

と、せっかくですので今回みたいなコラムをシリーズ化して気まぐれで地元の上場企業や、気になった会社の分析をしてみたいと思いますでまたお楽しみに。

最後までご覧いただきありがとうございました。

セミナー情報等

中小企業向け財務研修 『社長と社員で学ぶ 利益を産み出す組織をつくる 会社のお金講座』

drive.google.com/file/d/1RPx5_d4ViBVGSeIbDvEK0gXo4EvuWzPW/view?usp=sharing

現在、ゲームを取り入れて経営を体験できるコンテンツ開発中ですのでお楽しみに☆

アーカイブ

サイト内検索