2020/3/9更新
ご相談者様 DATA
【年齢】 40代前半
【職業】 公務員
【性別】 男性
【家族構成】 配偶者、子供1名
相談しようと思ったきっかけ
老後はまだまだ先のことだと思っていましたが、先日届いた「ねんきん定期便」を開いて、とても今の生活をするのは明らかに不安だと感じました。そもそも「ねんきん定期便」の読み方もイマイチよく分からないということもあり、以前は参加したセミナーの講師が、同じく公務員だったというFP社労士の竹内さんで、有料で個別相談を行っていると聞いていたので、相談をお願いしました。
ご相談内容
公的年金や預貯金だけでは、将来の資産形成がままならないというのは何となく理解しています。そのため、今年から公務員もiDeCoに加入できるようになったので検討していますが、他の職種に比べて掛金が少なく、老後資金として必要な金額を本当に準備できるか不安に感じています。公務員がiDeCoに加入した場合のデメリットが他にもあれば教えてください。
ご相談でお話しした内容
公務員も自助努力の時代へ!
2017年1月から従来は加入できなかった公務員の個人型確定拠出年金への加入が解禁されました。比較的安泰といわれた公務員の年金制度(共済年金)はサラリーマンが加入している厚生年金よりも掛金や老後の受取金額などが優遇されていました。
ところが、2015年10月に実施された「共済年金と厚生年金の一元化」によって、恩恵や優遇と言われていた部分が縮小され、被用者の年金制度が厚生年金に統一されました。
被用者年金が一元化されたのです。
もうこれまでのように公務員だけ別の扱いという訳にはいきません。
今や誰もが公的年金だけでは老後は不安だと分かっています。
それならば、どの職種の人も公平に自助努力で老後に備えることができる制度・受け皿を用意しなくてはなりません。
そこで、2016年12月までは自営業者(第1号被保険者)や企業年金の無いサラリーマンしか加入することができなかったiDeCo(個人型確定拠出年金)が、2017年1月より対象が大幅に拡大され、ほぼすべての人が加入できるようになります。
もちろん、公務員の皆さんも例外ではなく。
ただいくら解禁になったとはいえ公務員の方は、職場で用意された制度以外に何か加入したことのない方がほとんどだと思います。
今回のご相談者も、これまで共済年金で安泰だと思っていたため、それ以外の貯蓄方法などには加入したことがないとのことでした。しかし、以前同じ部署だった同僚がiDeCoに加入し、強く勧められ、これまでこうした年金制度にあまり関心がなく身近に感じていなかったため、何かしなくてはいけないとは分かってはいてもよく分からないという敷居の高さと不安の方が強かったが、そうも言っていられないと意を決してのご相談とのことです。
では、まず公務員の方がiDeCoに加入するメリットとデメリット(理解・注意したい点)についてお伝えしましょう。
公務員が確定拠出年金に加入するメリット
以下iDeCoに加入するメリットです。
①毎月の掛け金は『全額所得控除』
②運用益は非課税
③退職所得控除・公的年金等控除
よく言われるのはこの3点でしょう。
個人型確定拠出年金(iDeCo)に公務員が加入するメリットは年金の掛け金が全額所得控除、さらに運用益等も非課税になるなど税効果は高いです。
公務員という安定した身分を考えると(今後も引き続き公務員でいらっしゃればですが)、月々の家計収支のコントロールさえできれば上手に活用できる制度のため、公務員の方も積極的に加入するべきと考えます。
では、続いてどのようなデメリットがあるのかを見ていきましょう。
公務員が確定拠出年金に加入するデメリット
私が考える公務員の方にとってのデメリット(正しくは制度としてよくよく理解する必要のある注意点)は
①掛金限度額が他の職種に比べて低い
②退職所得控除を十分に活かすには注意が必要
③情報
の3点です。
では、一つひとつ確認していきましょう。
掛金限度額が低いため、固定手数料が相対的に高くつく
公務員の方にとって他の職種の方々との一番の違いは、掛金限度額の低さです。
公務員の方は月額12,000円までしか掛金を拠出できません。年間で144,000円です。
ここが目標額が達成できるのかという点で一番不安視されるところになります。
他の職種の方々との制度の公平性という点で理解する他ないでしょう。
掛金が少ないときの注意点としては残高がなかなか増えません。残高が低いと問題になるのが手数料の存在です。
個人型確定拠出年金は利用に以下の3つの手数料がかかります
①国民基金連合会への手数料:103円
②事務委託先金融機関(信託銀行手数料):64円
③運営管理機関(証券会社等):0円~475円
合計:167円~642円(年間と2,004円~7,704円)
この手数料が「定額」で発生します。定額の手数料は預けている残高が大きくなれば相対的に小さくなりますが、預けている残高が低いうちは相対的に大きくなります。
当然ですが、手数料は安いほうがいいに決まっています。
ましてや、掛金限度額が低い公務員の方こそ、毎月の積立可能額が小さいため、定額手数料の影響を大きく受けます。そのため、手数料にはこだわって商品を選んでいただくことをお勧めします。
なお、手数料を下げる方法は金融機関によって手数料に差がある「運営管理機関手数料」を下げることです。
2017年10年現在では、SBI証券と楽天証券、マネックス証券、大和証券、イオン銀行の5つの会社がこの手数料を無料にしています。(2020年現在では、さらに手数料無料の金融機関が増えています。詳しくはお問合せ下さい)
続いて、②点目の
退職所得控除が十分に活かすために注意すること!
についてです。
例えば公務員や大手企業にお勤めの方は、それ相応の退職金制度が用意されています。
退職金は通常の給与よりも税金が優遇されているため、iDeCoを受け取る際に同じ年に退職金があると合算され、退職所得控除が十分活かせない可能性があります。
退職金は長くお勤めするとその分退職所得控除(税金がかからない部分)が大きくなる仕組みです。
20年勤務の方は退職控除800万円(40万円×勤続年数)、35年勤続の方は退職控除1850万円(70万円×(35年-20年)+800万円)となります。
退職金は受け取り金額から、退職所得控除額を差し引いた金額を2分の1にして給与とは切り離して課税されます。35年勤続で退職金が2000万円であれば、1,850万円の退職所得控除を差し引きさらに残金150万円の半分75万円のみに税金がかかるので、退職所得控除の効果は大きいですよね。
iDeCoで作った資産も一時金で受け取ると退職金扱いになります。ここで注意しなくてはいけないのは、同じ年にiDeCoと退職金を受け取るとき、両方の金額が合算されますが、退職所得控除は、退職金の勤続期間とiDeCoの加入年数を合算出来るのではなく、どちらか長い方の期間で計算する形になります。期間が長ければその分退職所得控除が多くなり有利です。
また特殊なルールとして、iDeCoを一時金で貰う前年以前14年以内に他の退職金の支払いがあった場合にはiDeCoの加入期間と退職金の勤続期間の重複する期間は退職所得控除の計算に使えない期間となります。
さらに、iDeCoの一時金を受け取った後に退職一時金等を4年以内に受け取ると重複する期間は退職所得控除の計算に使えない期間となります。
このようにiDeCoと退職一時金を受け取る時期を分けて、退職所得控除を2回利用する場合は、iDeCoと退職一時金のどちらを先に受け取るか、1回目と2回目の退職所得控除を利用する期間が何年間空いているかによっては、重複する期間が使えず退職所得控除を十分に活かせないので、その点を理解しておくことが必要です。
やはり税金の負担は少しでも少なく抑えたいものです。
では、退職一時金とiDeCoの合計額が退職所得控除を上回る場合はどうすればいいでしょうか?
iDeCoは、一時金としてだけでなく、年金として、または一部年金・一部一時金で年金と一時金を併用して受け取ることもできます。
つまり、iDeCoの一時金のうち、退職所得控除を上回る分を分割して、それを年金として受け取ると、公的年金等控除を受けることができ、非課税で受け取れるようになるという訳です。その時には雑所得とみなされ、公的年金とiDeCoを分割した年金額との合算額で計算されます。そのためにも、ねんきん定期便などから将来貰える年金額を把握しておくことも大切です。
このようにiDeCoは受け取り方次第で課税額が変わるため十分な注意が必要ですが、逆を言えば、制度の内容やルールをしっかりと理解した活用をすれば、十分にiDeCoのメリットを享受できると言えます。
続いて、③点目の
情報!
です。
情報とは、どういうことでしょうか?
これはどの職種の皆さんもそうかもしれませんが、特に公務員の皆さんは余計に必要な情報は自分で取りに行かなくてはならないということです。
私自身約20年国家公務員として在職していましたが、こうした職員の福利厚生や処遇・待遇に関わる情報は、以前のように労働組合の活動が盛んだった時世はまだ全体または個別に周知・報告がされていたと思いますが、今は多くの場合、イントラネットメール送信またはチラシの配布で済まされることがほとんどでしょう。相当重要なことで幹部職会議の報告として報告されるところでしょうか。
また、こうした職員に関すること担当部署である総務課または庶務課の担当の方も、基本的にメールや配布書類に乗っている情報しか知りません。
ということは、職場からはiDeCoや資産形成に必要な情報を得ることはできません。ましてや、ねんきん定期便について解説してくれるということはまずないでしょう。
ではどうしなくてはいけないのか。
そうです、自分に必要な情報を自分で取りに行かなくてはいけません。
インターネットや本、セミナー等に参加して勉強したり調べたりする。
または、「FP相談ねっと」に所属する私たちファイナンシャルプランナーにご相談いただき、一緒に考え、ライフプランを立てていく。
ということが必要になってくると考えます。
私が公務員だったときは、まだ関わる情報は周知・報告されていましたが長い間、将来に向けて準備できるのは財形貯蓄か労金ぐらいしか、職場の中から得られる情報はありませんでした。
今は以前に比べて、公務員の皆さんも、公務員でさえいれば生涯安泰・安心だという意識は薄れてきているとは思いますが、もっともっと外に向けて、自ら積極的に情報を取りに行くという姿勢が必要だと考えます。
まずは今すぐ行動しましょう!
以上のように、iDeCoにはメリットとデメリットと言うより注意することが必要なことが幾つかあります。
もちろん、この他にも60歳まで引き落としできないと言うこともありますが、いずれにしても制度の趣旨・内容を理解すれば、それは決してデメリットにはならないでしょう。
その上で、最後に意識しなくてはいけないことが2つあります。
1つは、掛金限度額が低い、やはりこれに尽きます。
要するに、iDeCoだけやればそれでいいのかと言うの、決してそうではないということです。
当然、目標額達成に至らないということも十分にありでしょう。
そのためにも、来年(2018年)から始まる「つみたてNISA」を始め、iDeCoだけでなく、広く視野をもって、これからできることで、老後・将来に向けて備えていただきたいと考えます。
まとめ
以上のことをお話しさせていただいたところ、ご相談者は「さっそく数社の金融機関から資料を取り寄せて、手数料の金額を確認してみます。」と言われ、その上で「次回また申し込み方法や運用商品の選択についてご相談させてください。今日はありがとうございました。」とおっしゃっていただきました。改めて、ねんきん定期便と取り寄せた資料をご持参いただき、お話ししていく予定です。
公務員は今これまでとは違った生き方を求められています。元公務員として今後は、このように多くの公務員の方にも考える・はじめるきっかけとなるお話を続けていきたいと思います。